TECTURE AWARD 大賞〈エバーフィールド木材加工場〉 受賞者インタビュー1/2 - TECTURE MAG(テクチャーマガジン) | 空間デザイン・建築メディア
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TECTURE AWARD Grand Prize Winner Interview(1/2)
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TECTURE AWARD 大賞〈エバーフィールド木材加工場〉 受賞者インタビュー

大賞受賞作にみる、社会と共鳴する建築とは(前編)

インタビュー 2/2

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TECTURE AWARD 大賞〈エバーフィールド木材加工場〉 受賞者インタビュー

大賞受賞作にみる、社会と共鳴する建築とは(後編)

第1回「TECTURE AWARD」(特設サイト:https://award.tecture.jp/)で大賞に輝いたのは〈エバーフィールド木材加工場〉。設計を手がけたのは、小川次郎氏(アトリエ・シムサ)、小林 靖氏(kittan studio)、池田聖太氏(3916)らからなる共同チームです。今回はチームの代表として小川氏に、受賞の感想とともに、〈エバーフィールド木材加工場〉での思考と試み、そして本作が生まれるまでのプロセスについて話していただきました。

Photo (page top): 藤塚光政

小川次郎氏。インタビューを行った日本工業大学小川研究室の棚に、TECTURE AWARD大賞のトロフィーと盾を飾っていただいた。Photo: TECTURE MAG編集部(以下、特記なき撮影含む)

小川次郎 | Jiro Ogawa
1966年 東京都生まれ。1990年 東京工業大学工学部建築学科卒業。1996年 東京工業大学大学院理工学研究科 博士後期課程満期退学。2004年 アトリエ・シムサ一級建築士事務所設立。2009年 日本工業大学工学部建築学科教授。

開かれたアワードであることに振り切った建築賞

── 受賞おめでとうございます。TECTURE AWARDグランプリを受けて、率直な感想をお聞かせください。

小川次郎 氏(以下、小川):正直、信じられない気持ちです。応募総数が多く力作が集まる中で、最後まで残れるとはまったく思っていませんでした。

── 勝ち残っていくために、何か戦略のようなものはあったのでしょうか?

小川 特別なことはしていませんが、数ある作品の中で埋もれないように目を引きながら、ひと目で概要が分かるような写真を冒頭に配置することは、チーム内で相談して決めました。ただ、これだけオープンな建築賞は僕の経験上初めてで、評価基準が多様になると分かっていただけに、明確な戦略を立てるのは難しかったと思います。

TECTURE〈エバーフィールド木材加工場〉:https://www.tecture.jp/projects/5094

── 応募された作品すべてに誰でも投票ができた本アワードでは、応募して終わりではなく、その後のプロモーションも重要な要素だったと思います。

小川:そうなんですけど、 僕やチームメンバーはSNSをほとんど活用していなくて。設計者側からの情報拡散は限られた範囲にとどまっていました。僕自身は研究室の卒業生や知人といった個人的な繋がりの中で、メールやSM(ショートメッセージ)を通じて知らせていました。素朴な方法だし、不特定多数に届くSNSとは違いますが、個々のコミュニティの中でこちらの意思がちゃんと共有できているという実感はありました。

正直なところ、今回のように開かれた建築賞には若干疑問もありました。投票型の賞では、投票前に何かしらのフィルターを通して作品数が絞られるのが一般的ですよね。そうしたフィルターを通さずに評価されることで、設計側の意図とは異なるかたちで建築が受け取られかねないことも不安でした。また分かりやすい作品だけが残り、ややもすればポピュリズムに傾倒した建築賞になってしまうのではないか…そんな懸念もありました。

レシプロカル構造により、木造らしからぬ約4mに及ぶ軒の出を実現。Photo: YASHIRO PHOTO OFFICE

約20x30mの無柱空間。雁行した桁行壁と隅切りされた妻壁による不定形な平面形状。Photo: YASHIRO PHOTO OFFICE

ハイサイドライトやシャッターの大開口から安定した採光が得られる。Photo: YASHIRO PHOTO OFFICE

建築と社会の接点を問う場として

── TECTURE AWARDについて、ほかの建築賞と比べてどのような印象をお持ちですか?

小川:社会に対してオープンであることに、思い切り振り切った賞ですよね。建築の世界に身を置く者としては、建築は非常に専門性の高い分野だと感じています。ただ、外の世界から見られたときに、日常から切り離された特殊なものとして捉えられてしまってはまずいと思います。当然、建築と社会は密接に繋がっています。ところが、「建築を評価する」という枠組みに入った途端、それがまるで別世界の話のように見えてしまうことがあるのです。

社会と距離を置くことで、専門性を磨き、分野全体の質を保つという側面もあるでしょう。さらに、建築に限らず、表現行為とはつくり手の自己実現でもあり、作家性のないものからは面白いものは生まれないとも考えています。ただし、そのやり方だけでは限界もある。社会に対してどこまで踏み込み、どこで一線を引くか。それは、ものをつくる人間にとって常に悩ましい問題ですし、TECTURE AWARDを通して改めて考えたことでもあります。

── 社会に対する自己発信の手段も多様になりましたからね。

小川:情報発信の主流が変わる中で、建築の見せ方も変化していると感じています。僕自身は今でも、本や雑誌といった紙媒体を通じて発信する際には、「部分と全体」の関係性を意識して建築を見せるように心掛けています。一方で、Webメディアなどでは、建築の「全体像」が見えなくても、断片的な情報だけで完結するような「部分」を、印象的に並べていく見せ方が主流になってきているようにも感じます。

── 今回の「エバーフィールド木材加工場」でも、そうした「部分」を並べていくような意図があったのでしょうか。

小川:応募時点では特に意識していたわけでありません。ただ、純粋に写真家の力量も大きかったと思います。今回撮影を担当してくださったのは藤塚光政さんと八代哲弥さんです。特に、現代建築史を長年見つめてこられた藤塚さんの写真が、今の時代を体現するようなWEBを舞台とした建築賞で強いインパクトをもって受けとめられたのは、さすがだなと思いつつも、どこか不思議な感覚もあります。

同一の構造システムでありながら、軸組の重なりや陰影が多様な見え方をもたらす。Photo: 藤塚光政

板厚30mmの杉板ささら子下見板張りによる、深い陰影を帯びた外壁。Photo: 藤塚光政

壁と屋根の取り合う部分は外に向かって傾斜しており、ハイサイドライトが設けられている。Photo: 藤塚光政

木架構の美しさを引き出すために

──木架構が印象的な建築ですが、そもそもどのような経緯で生まれた建築だったのでしょうか?

小川:本作は、「くまもとアートポリス※」による公募型プロポーザルによって選出されました。応募要項はかなりシンプルで、明確な条件といえるのは、施主である地域工務店が日常的に扱っている中小径材を活用すること。それ以外には、水回りや諸室も不要で、純粋に木造の器が求められていました。

参加を決めた大きな理由の1つが、応募要項に「構造自体が美しく、新しい木造空間」と記載されていたことです。近年、公募型に限らず、規模の大きなプロポーザルでは社会性が重視されるのが一般的で「社会に対して説明可能かどうか」が問われる中、「美しさ」という主観的な価値をどう評価するのか、とても興味を惹かれました。

※熊本県下において、環境デザインに対する関心を高め、都市文化並びに建築文化の向上を図るとともに、文化情報発信地としての熊本を目指して、後世に残る文化的資産を創造する事業

── 以前手掛けられた「熊本県総合防災航空センター」も「くまもとアートポリス」の一環でしたね。どちらも木架構が特徴的ですが、関連性はあるのでしょうか?

小川:どちらも県産の中小径材を使っている点は共通していますが、「熊本県総合防災航空センター」では、それは僕たちの側からの提案でした。今回は、その中小径材の使用があらかじめ設計条件として提示されていたので、むしろ前回とはまったく異なる架構に挑戦しようと考えました。

〈熊本県総合防災航空センター〉外観。Photo: Kohtaro Takakuwa

〈熊本県総合防災航空センター〉内観。Photo provided by: くまもとアートポリス事務局

小川:架構のアイデアのヒントになったのは、実は松ぼっくりなんです。大学にある立派な松の木から落ちてくるものを、以前からなんとなく格好いいなと思って拾っていたんですね。改めて観察してみると、全体ではまとまって見えるけれど、1つ1つの鱗片はそれぞれ異なるかたちをしています。

それまでは、なんとなくあらかじめ「木造の箱」を想定しておいて、それをいかに変形させるかという操作をイメージしていたのですが、この松ぼっくりのように、全体を統合する新しいシステムから考えれば自由な変形ができるし、これまでにない木架構の美しさに挑戦できることに、ある時点で気付きました。

小川研究室のいたるところに置かれた松ぼっくり。

── 特に苦労された点はどこでしたか?

小川:設計面ではやはり、構造家の山田憲明さんとともに新しい架構を生み出したことです。特に本作では意匠と構造が分かちがたい関係で、架構そのものが意匠としての成果にもなっています。僕たちが思い描いた空間と山田さんが挑戦したかった構造システムとが噛み合い、最終的には「木造レシプロカル構造」というかたちに結実しました。

施工面での最大の課題は、この架構を組み上げる過程にあったかと思います。木材はすべてプレカットで、熊本県産の小国杉を、3D設計データをもとに非常に高い精度で加工しています。あまりにも精度が高いために、湿度が上がると木が膨張して組めなくなることもあり、現場の大工さんがその都度調整してくださいました。架構を構成する木材の総数は約5,200本にも及び、正しい順序で正確に組み上げるために部材を見分けるのも一苦労だったと、大工さんからは伺っています。

工場でプレカットされた部材を現場で地組みする様子。Photo: エバーフィールド

壁は下から段々と立ち上げていった。Photo: エバーフィールド

屋根は地組みしたパーツを持ち上げ、繋ぎ合わせていった。Photo: エバーフィールド

(後編へ続く)

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