2023年、TECTURE MAGでは計190件の海外プロジェクトを取り上げてきました。
本記事では、その中でもPV(ページビュー)の多かったプロジェクトTOP10と、X(旧Twitter)にて最も「いいね」の多かったプロジェクトTOP3を紹介します!
PVで見る注目海外プロジェクトTOP10
1. BIGによる100棟の3Dプリント住宅群が実現中!
2021年末の計画発表の際に取り上げた、世界的な設計事務所であるBIG(ビャルケ・インゲルス・グループ)と、アメリカの大手住宅ディベロッパー Lennar、建築向け大規模3Dプリントのパイオニアである建築テクノロジー企業 ICONによる、100棟の3Dプリント住宅コミュニティの建設が進んでいます。
パンデミックや職人の不足、資材の高騰などを要因にアメリカにて深刻化する住宅不足に対し、より高品質な住宅をより早く、より手頃な価格で提供することを目的とした開発であり、3Dプリントによる住宅開発としては世界最大規模のプロジェクトです。
BIGによる100棟の3Dプリント住宅群が実現中!世界最大の3Dプリント住宅開発が オンライン見学も可能なモデルハウスを公開 | アメリカ、ICON、Lennar
2. 立体的な庭園で包まれた〈麻布台ヒルズ〉低層部
〈麻布台ヒルズ〉ガーデンプラザ(C街区低層部) / ヘザウィック・スタジオ
2023年11月24日に、森ビルが虎ノ門・麻布台で手がける新しい街〈麻布台ヒルズ(Azabudai Hills)〉がオープンしました。その内のガーデンプラザ(C街区低層部)を、リード・アーキテクトとしてトーマス・ヘザーウィック(Thomas Heatherwick)率いるヘザウィック・スタジオ(Heatherwick Studio)が設計しています。
複合施設と立体的なランドスケープを組み合わせることで、観光客や地域住民が散策しながら互いにつながり、緑あふれるオープンな公共空間を楽しめる場所をつくり出しています。
3. 金具も工具も使わない アルミに包まれた木造住宅
デジタルハウス / ユリアン・クリューガー+ベンジャミン・ケンパー
ドイツのヴィスマールに建てられた〈デジタルハウス(Digital house)〉は、各接合部を取り外し可能なものとする「プラグイン工法」による、工具や金具を一切使わずに組み立ても解体も可能な木造建築です。
CNC加工した24mmの合板や、パラメトリック・デザインが施されたリサイクルアルミシートなどで構成されており、2人でも素早く組み立てることが可能となっています。ミュンヘン応用科学大学のユリアン・クリューガー(Julian Krüger)とヴィスマール応用科学大学のベンジャミン・ケンパー(Benjamin Kemper)が設計しました。
金具も工具も使わない、アルミに包まれた解体も可能な木造住宅〈デジタルハウス〉ユリアン・クリューガー、ベンジャミン・ケンパー、ドイツ
4. 多様な景観を眺める 産業遺産を活かした”壁建築”
リバーサイド・パッセージ / アトリエ・デスハウス
〈リバーサイド・パッセージ(Riverside Passage)〉は、上海の石炭埠頭に残されたコンクリート壁とそこに芽生えた木々を活用することで、開発されゆくウォーターフロントにかつての産業活動の歴史を残す、開放的な回廊を備えた建築です
「瓦礫と木々による発展の歴史を表す風景」と、「黄浦江(こうほこう)沿いの開発された風景」という異なる性格の景観を壁の内外で見せ、片流れ屋根や回廊の高さの違いがそれぞれの風景との距離やスケールの違いを暗示しています。上海を拠点に活動するアトリエ・デスハウス(Atelier Deshaus)が設計しました。
5. カラフルな箱が一新するダイナミックな賃貸住戸
ダイ・アン・アパートメント / H.2
〈ダイ・アン・アパートメント(Dai An Apartment)〉は、ベトナムに建つ広い屋根裏を有する3階建ての建物を賃貸住宅へと改修したプロジェクトです。
挿入されたカラフルなボックスが建物と低層階の住空間に躍動感を与えつつ、屋上階には伝統的な屋根を活かし、古民家のような素朴な空間が用意されています。ベトナムの設計事務所 H.2が設計しました。
カラフルな箱が一新するダイナミックな賃貸住戸 | 古さも残しつつ新たな要素が躍動感をプラスするリノベーション〈ダイ・アン・アパートメント〉H.2、ベトナム
6. 親しみやすい空間を生み出すテント形状の屋根のコーヒー・ショップ
Ká coffee / グエン・カック・フォック・アーキテクツ
〈Ká coffee〉は、テントのようなシルエットが特徴的なベトナム・ヴィン市郊外に位置するコーヒーショップです。低い位置から高い位置まで伸びる曲線的な屋根が、視覚的なアトラクションとして空間体験の魅力と刺激を高めています。
5年間の借地期間という条件から、主な材料は借地期間終了後の再利用を基準に、鉄骨や鋼製波板、リサイクル合板といった材料が選定されています。グエン・カック・フォック・アーキテクツ(Nguyen Khac Phuoc Architects)が設計しました。
親しみやすい空間を生み出すテントのような屋根のローカル・コーヒー・ショップ〈Ká coffee〉グエン・カック・フォック・アーキテクツ、ベトナム
7. 築120年の教会内部に広がる幻想的な庭
MADE LIM / NONESPACE
〈MADE LIM〉は、韓国に建つ120年の歴史を誇る教会を、既存の構造やレンガ、ステンドグラスはそのままに、自然あふれる体験型の展示スペースやベーカリーを含む文化複合施設へとリノベーションした建築です。
ブランドの名前でもある〈MADE LIM〉は、文化の森を意味する「MADE 林」と、自然へと回帰しようとする人間のDNAに訴えかける休息を提供する「may-dream」というブランドの理念を反映したものとなっており、時間を宿した、新たな建物では作りえない独自のブランドストーリーを構築しています。韓国の設計事務所 NONESPACEが設計しました。
築120年の教会内部に広がる幻想的な庭、既存のレンガやステンドグラスを活かしつつ文化複合施設へと改修したアダプティブリユースプロジェクト〈MADE LIM〉NONESPACE、韓国
8. レンガタイルのヴォールト屋根に包まれた子ども図書館
マヤ・ソマイヤ・ライブラリー / サミープ・パドラ&アソシエイツ
インドの田舎に位置する学校内に建つ〈マヤ・ソマイヤ・ライブラリー(Maya Somaiya Library)〉は、レンガタイルによるヴォールト屋根を有する子どものための図書館です。既存の建物と敷地境界に挟まれた敷地は生徒の生活動線でもあるため、地面を持ち上げたようなフォルムとすることで、屋上の横断も可能にしています。
16世紀に開発されたカタルーニャ・ヴォールトなどを参照し、チューリッヒ工科大学が開発したソフトウェア・プラグインを活用した、ローカルでありながらグローバルでもある建築です。インドを拠点に活動するサミープ・パドラ&アソシエイツ(Sameep Padora & Associates)が設計しました。
レンガタイルのヴォールト屋根に包まれた”グローカル”な子ども図書館〈マヤ・ソマイヤ・ライブラリー〉サミープ・パドラ&アソシエイツ、インド
9. 大阪に現れるサウジアラビアの街を感じる空間
サウジアラビア王国パビリオン / フォスター アンド パートナーズ
2025年4月13日より大阪で開催される日本国際博覧会(2025年大阪・関西万博)における、サウジアラビア王国のパビリオンのデザインが公開されました。
サウジアラビアの町や都市を探索するような空間体験をつくり出しつつ、曲がりくねった路地はイベントの舞台にもなる中庭や没入型の体験スペースへと来場者を誘います。ノーマン・フォスター(Norman Foster)率いるイギリスの建築設計事務所フォスター アンド パートナーズ(Foster+Partners)が設計しました。
10. ランドスケープにもなる地下美術館
アモス・レックス / JKMMアーキテクツ
フィンランドのヘルシンキに建つ〈アモス・レックス(Amos Rex)〉は、既存の市民空間である広場を維持しつつ地下に設けられた美術館です。
カーブを描くルーフスケープと天窓が、地上に都市の公園としての場をつくり出すと同時に、地中のギャラリースペースと地上を視覚的につなげています。ヘルシンキを拠点に活動するJKMMアーキテクツ(JKMM Architects)が設計しました。
いいねで見る注目海外プロジェクトTOP10
1. 手動で回転! 跳ね上げ橋に代わる「ローリングブリッジ」
コディドック・ローリングブリッジ / トーマス・ランドール・ペイジ
〈コディドック・ローリングブリッジ(Cody Dock Rolling Bridge)〉は、イギリスのロンドン東部を流れるリー川のほとりに位置する、工業用のドックをアーティストのコミュニティとして活用されいるコディドックにつくられた橋です。
川とドックを行き来するボートの通行と、沿岸部の歩行者と自転車の通行を可能とするための橋であり、これまでにない動作で開閉することで、観る者の記憶に残る瞬間をつくり出すことを目指しています。ロンドンを拠点に活動する建築デザイナー トーマス・ランドール・ペイジ(Thomas Randall Page)が設計しました。
手動で回転! 跳ね上げ橋に代わる「ローリングブリッジ」、重心を保つことでスムーズに転がる トーマス・ランドール・ペイジによる〈コディドック・ローリングブリッジ〉イギリス
2. 利用者の動きに反応し波のようにうねるベンチ
SurfBench / KALD
The SurfBench by KALD from KALD on Vimeo.
〈SurfBench〉は利用者が座ったり動きを与えることで、木製のシートが波のようにうねるベンチです。この水の物理的挙動を模倣した穏やかな波のような動きは、モーターや電気を用いずに動作します。
その独特な動きから今年の2月にSNSにて話題となった同製品がより改良を重ね、11月初旬に正式に製品化されました。南ドイツを拠点に活動するデザインスタジオ KALDが設計しました。
3. 建築に巻きつく帯が生み出す無柱空間
(W)rapper / エリック・オーウェン・モス・アーキテクツ
カリフォルニア州に建つ〈(W)rapper〉は、帯状の構造体が巻きつく高層オフィスビルです。建物の外周に配された帯が建物を支えることにより、広々とした無柱空間を実現し、オフィスのフロアプランにおける柔軟性を提供しています。
〈(W)rapper〉が建つカリフォルニア州のカルバーシティとロサンゼルスにて、長年にわたりサステナブルな開発を手がけるエリック・オーウェン・モス・アーキテクツ(Eric Owen Moss Architects)が設計しました。
建築に巻きつく帯が生み出す無柱空間 オフィスプランの最大限の柔軟性を実現する エリック・オーウェン・モス・アーキテクツが設計した高層オフィスビル〈(W)rapper〉アメリカ
2024年の海外プロジェクト記事にもご期待ください!
2023年は最新テクノロジーを活用した建築からヴァナキュラーな建築手法を活用したものまで、幅広いプロジェクトに対し反響をいただくことができた1年となりました。
日本のプロジェクトとはまた違った刺激を得られる海外プロジェクトを2024年も取り上げていきますので、どうぞよろしくお願いします!