瀬戸内国際芸術祭は、瀬戸内の島々を舞台に3年に1度開催される現代アートの祭典です。第6回目となる2025年は、春会期(4月18日〜5月25日)、夏会期(8月1日〜8月31日)、秋会期(10月3日〜11月9日)と3つの会期に分かれて開催されています。開催地の中でも直島は、1992年の〈ベネッセハウス〉のオープンに始まり、2025年5月には安藤忠雄氏設計による〈直島新美術館〉が新たにオープンするなど、30年以上にわたりアートの島としての文化を築いています。ほかにも直島には、SANNAや、藤本壮介氏、三分一博志氏など、世界で活躍する建築家のプロジェクトが一堂に会しており、建築旅で訪れたい場所のひとつです。
本記事では、直島の建築24作品をエリア別・マップ付きで紹介します。自然の中で芸術と建築を存分に吸収する旅に出てみてはいかがでしょうか。
INDEX
美術館エリア
・地中美術館|安藤忠雄
・ベネッセハウス ミュージアム|安藤忠雄
・ヴァレーギャラリー|安藤忠雄
・杉本博司ギャラリー 時の回廊|杉本博司
・李禹煥美術館|安藤忠雄
宮ノ浦エリア
・海の駅「なおしま」|SANAA
・直島パヴィリオン|藤本壮介
・瀬戸内「 」資料館/宮浦ギャラリー六区|西沢大良
本村(ほんむら)エリア
・直島港ターミナル|SANAA
・ANDO MUSEUM|安藤忠雄
・直島新美術館|安藤忠雄
・The Naoshima Plan「水」|三分一博志
・またべえ|三分一博志
・直島ホール|三分一博志
・家プロジェクト
・直島町役場|石井和紘
・直島小学校|石井和紘
美術館エリア
地中美術館
設計:安藤忠雄
竣工:2004年
所在地:香川県香川郡直島町3449-1
〈地中美術館〉は、瀬戸内海の景観保全を目的に、主要な展示室は地中に埋設された美術館。外部からは入口や一部の開口部のみが見え、周辺環境との調和が図られています。クロード・モネ、ジェームズ・タレル、ウォルター・デ・マリアの作品が常設展示され、自然光を効果的に取り入れる構造により、作品は時間や天候に応じて異なる見え方をします。

地中美術館|写真:藤塚光政
ベネッセハウス ミュージアム
設計:安藤忠雄
竣工:1992年
所在地:香川県香川郡直島町琴弾地
1992年に美術館とホテルが一体となった施設として開館した〈ベネッセハウス ミュージアム〉は、現在「ミュージアム」「オーバル」「パーク」「ビーチ」の4棟で構成されています。ミュージアムは、斜面地という敷地の特性を活かし、建築を半分地中に埋めるように建てることで周辺環境に最大限配慮しながら、建物内からは海への景色を楽しめるように配置されています。
敷地内には、安藤忠雄氏が手がけた〈ヴァレーギャラリー〉や〈シーサイドギャラリー〉、杉本博司氏による〈杉本博司ギャラリー 時の回廊〉もあり、全体を通してアートと建築、自然の一体感を味わうことができます。

ベネッセハウス ミュージアム
ヴァレーギャラリー
設計:安藤忠雄
竣工:2022年
所在地:香川県香川郡直島町京ノ山
〈ヴァレーギャラリー〉は、祠をイメージして山間に建てられた半屋外のギャラリーで、屋根の切れ目からは光が差し込み、空が垣間見える。草間彌生氏による「ナルシスの庭」や小沢剛氏の「スラグブッダ88」が、建築と一体で整備されたランドスケープまで展開され、自然の中で建築とアートを体験することができます。

ヴァレーギャラリー|写真:冨岡 誠
杉本博司ギャラリー 時の回廊
設計:杉本博司
竣工:2022年
所在地:香川県香川郡直島町琴弾地
〈ベネッセハウス パーク〉内にあった現代美術作家・杉本博司氏の展示空間を拡張したギャラリーで、初期から最新まで、彼の作品群を一挙に鑑賞することができます。屋外には、これまでにヴェルサイユ宮殿や京都市京セラ美術館でも展示された硝子の茶室「聞鳥庵」が佇んでいます。また、ギャラリーのオープンに合わせて、ラウンジも新素材研究所によって改修されました。

杉本博司ギャラリー 時の回廊 ラウンジ風景|撮影:森山雅智
李禹煥美術館
設計:安藤忠雄
竣工:2010年
所在地:香川県香川郡直島町字倉浦1390
〈李禹煥美術館〉は、美術家・李禹煥の絵画と彫刻を常設展示する美術館で、入江から続く谷間につくられています。地下に配された3つの展示室は、それぞれ異なるスケール、素材感、光で構成され、各部屋の作品と一体的な空間を生み出しています。

李禹煥美術館|写真:山本糾
宮ノ浦エリア
海の駅「なおしま」
設計:SANAA
竣工:2006年
所在地:香川県香川郡直島町2249番地40
直島の宮浦港に建て替えられたフェリーターミナル〈海の駅「なおしま」〉は、高さ約5mの屋根を直径85mmの柱とステンレス鏡面仕上げの壁で支えた構造をしています。屋根下には、車の待機スペースや待合スペースだけでなく、イベントスペースや特産品販売所なども備えています。

直島パヴィリオン
設計:藤本壮介
竣工:2015年
所在地:香川県香川郡直島町
宮浦港のターミナルの近くに、町制施行60周年を記念して、27の島からなる直島町の「28番目の島」というコンセプトで制作されたパヴィリオン。それぞれ大きさの異なる約250枚のステンレスメッシュによって形成されています。

直島パヴィリオン 所有者:直島町/設計:藤本壮介建築設計事務所/撮影:福田ジン
瀬戸内「 」資料館/宮浦ギャラリー六区
設計:西沢大良
竣工:2013年
所在地:香川県香川郡直島町2310-77
かつてパチンコ店として使われていた建物を改修した展示室です。展示作品を引き立てるため、展示室内部はすべて黒で仕上げられ、天井ルーバーを介して柔らかな日差しが差し込みます。パチンコ店の既存ファサードを保存・復元し、当時の町への佇まいを残しています。
〈瀬戸内「 」資料館〉は2019年9月より、アーティスト・下道基行によって宮浦ギャラリー六区を拠点に始まったプロジェクトで、瀬戸内海地域の景観、風土、民俗、歴史などについて調査、収集、展示されています。〈宮浦ギャラリー六区〉は、調査結果を発表・展示し、収集した資料をアーカイブする「展示収蔵室」として使用されており、かつてパチンコ店に隣接していた焼肉屋を改装した〈へんこつ〉(設計:能作文徳、2022年)は、島民や島で働く人などが集い活動する「研究室」として活用されています。

宮浦ギャラリー六区 下道基行 《瀬戸内「 」資料館》|写真:山本糾
本村(ほんむら)エリア
直島港ターミナル
設計:SANAA
竣工:2016年
所在地:香川県香川郡直島町本村845-7
直島港につくられた旅客船のためのターミナル。木の架構の上に、直径4mの球体のFRPを積み上げた入道雲のような立体が特徴的です。内部には待合所と駐輪場が設けられ、港のシンボルとしても機能しています。
ANDO MUSEUM
設計:安藤忠雄
竣工:2013年
所在地:香川県香川郡直島町本村736-2
築100年の民家を改築してつくられた美術館で、安藤忠雄氏の直島での設計活動に関する資料が展示されています。空間体験そのものを主題として設計されており、外観は伝統的な町家の意匠をそのまま残しつつ、内部にコンクリートボックスを入れ子状に挿入し、限られた空間に最大限の奥行きをもつ空間をつくることが目指されました。

ANDO MUSEUM|写真:山本糾
直島新美術館
設計:安藤忠雄
竣工:2025年
所在地:香川県香川郡直島町3299-73
2025年5月31日にオープンした、ベネッセアートサイト直島における安藤忠雄設計の10番目のアート施設。丘の稜線をゆるやかにつなぐ屋根が特徴的で、地上から地下まで直線状に続く階段室にはトップライトから自然光が差し込みます。階段の両側に4つのギャラリーが配置され、⽇本を含めたアジア地域のアーティストの作品が展⽰されます。


直島新美術館|写真:GION
The Naoshima Plan「水」
設計:三分一博志
竣工:2019年
所在地:香川県香川郡直島町本村707
〈The Naoshima Plan〉は、建築や街区、水路などを通して島全体の風・水・太陽などの「動く素材」を浮き上がらせ、その美しさや大切さ、新たな価値を再認識する試みです。築200年の旧家を舞台にした〈The Naoshima Plan「水」〉では、建物下部の地下水脈に着目して、一部を改修。井戸から汲み上げて水庭として再生しています。

©︎Shinkenchiku-sha
またべえ
設計:三分一博志
竣工:2015年
所在地:香川県香川郡直島町本村地区
本村地区の集落の特徴である、南北に抜ける続き間と苔庭を踏襲して改修された〈またべえ〉の母屋。現在、この場所にあわせて構想・制作された作品「Ring of Fire – ヤンの太陽 & ウィーラセタクンの月」が展示されています。この作品は「昼」と「夜」で構成され、「昼」はヤン・ヘギュの作品、「夜」はそこにアピチャッポン・ウィーラセタクンの世界が加わることで、それぞれ異なる空間が広がっています。

Ring of Fire – ヤンの太陽 & ウィーラセタクンの月 Solar(昼)|写真:表 恒匡
直島ホール
設計:三分一博志
竣工:2015年
所在地:香川県香川郡直島町696-1
〈直島ホール〉は、多目的ホールや集会室、屋外広場などを備え、地域住民と来訪者の交流拠点として利用されている公共文化施設です。この地域の風向きを考慮し、ヒノキ葺きの入母屋の屋根に、南風が抜ける南北向きに風穴が空いているのが特徴的な、空気の循環が綿密に検討された建物です。

直島ホール 所有者:直島町/設計:三分一博志建築設計事務所/撮影:小川重雄
家プロジェクト
〈家プロジェクト〉とは、本村地区に建つ家屋や寺社の空き家を改修し、空間そのものを作品化することで、集落の文化的、歴史的な記憶を紐解き、新たな価値を見出すアートプロジェクトです。地区内に点在する7作品を巡ることで、現在もそこに暮らす人びとの営みや地域性を感じることができます。
〈角屋〉
設計:山本忠司
竣工:1998年
所在地:香川県香川郡直島町本村地区
家プロジェクトの第1弾として完成した〈角屋〉は、200年ほど前に建てられた家屋を改修しており、外壁は漆喰仕上げ、焼板、本瓦を使い、元の姿に修復しています。室内には、宮島達男氏の作品が展示されています。

家プロジェクト〈角屋〉|写真:表 恒匡
〈南寺〉
設計:安藤忠雄
竣工:1999年
所在地:香川県香川郡直島町本村地区
かつてこの敷地に実在し、地域の人びとの拠り所であった「南寺」の記憶を受け継いで建てられた木造平屋。二重垂木によってつくられた深い軒が印象的です。内部に展開するジェームズ・タレルの作品に合わせて設計されています。

家プロジェクト〈南寺〉安藤忠雄(設計)|写真:鈴木研一
〈きんざ〉
構想・基本設計:内藤礼
実施設計:木村優、永田直(アートステーション)
竣工:2001年
所在地:香川県香川郡直島町本村地区
内藤礼氏が、築約200年の小さな家屋をそのものを作品化した〈きんざ〉。屋根や柱などの基本構造は既存を活かし、日本の伝統的な建築技術を用いて修復されています。

家プロジェクト〈きんざ〉|写真:畠山直哉
〈護王神社〉
設計:杉本博司
設計協力:木村優、設楽敏生(アートステーション)
竣工:2002年
所在地:香川県香川郡直島町本村地区
家プロジェクトのひとつとして改築された〈護王神社〉は、江戸時代から祀られてきた神社です。本殿・拝殿・拝殿地下の石室は、杉本博司氏によって設計されました。石室と本殿は、工学ガラスを削り出してつくられた階段で結ばれており、その階段を通して差し込む光が、地上と地下とを繋いでいます。

家プロジェクト〈護王神社〉杉本博司 “Appropriate Proportion”|写真:杉本博司
〈石橋〉
空間デザイン:千住博、秋元雄史
修復監修:福武總一郎、本多忠勝
竣工:2006年
所在地:香川県香川郡直島町本村地区
日本画家・千住博氏が手がけた〈石橋〉は、明治時代に製塩業で栄えた石橋家の家屋を修復したものです。製塩業が直島の人々の暮らしを支えてきた歴史を継承する場として、家そのものの再建に重点が置かれました。母屋に描かれた襖絵「空の庭」では、背景にあえて銀泥が用いられており、時間の経過とともに銀が黒く変色することで、時の流れによる変化が表現されています。

家プロジェクト〈石橋〉|写真:鈴木研一
〈碁会所〉
空間デザイン:須田悦弘、秋元雄史
修復監修:本多忠勝
竣工:2006年
所在地:香川県香川郡直島町本村地区
須田悦弘が手がけた〈碁会所〉は、かつて島の人々が碁を打つ場として集っていたことに由来します。建物は、入口から延びる通路を挟んで二つの四畳半の空間が対になるように構成されています。室内の一方には速水御舟の「名樹散椿」から着想を得た作品「椿」が展示され、庭には本物の椿が植えられており、敷地全体が対比的な効果を生み出す作品空間となっています。

家プロジェクト〈碁会所〉|写真:渡邉修
〈はいしゃ〉
空間デザイン:大竹伸朗
修復監修:秋元雄史、本多忠勝
竣工:2006年
所在地:香川県香川郡直島町本村地区
大竹伸朗氏が、かつて歯科医院兼住居であった建物を、彫刻や絵画、スクラップなどさまざまな手法を用いて、家をまるごとひとつのコラージュとしたような作品です。2019年に建て直された塀は、一部が「歯茎色」に着色されたモルタルに陶器製の歯が埋め込まれています。

家プロジェクト〈はいしゃ〉大竹伸朗 “舌上夢/ボッコン覗”|写真:表 恒匡
〈本村ラウンジ&アーカイブ〉
設計:西沢立衛
竣工:2004年
所在地:香川県香川郡直島町850-2
〈本村ラウンジ&アーカイブ〉は、農協のスーパーマーケットとして使用されていた鉄骨造の建物を改修してつくられたオフィス兼ギャラリー。基本的な構造をほぼ残し、窓が少なかった既存建物の屋根や2階床に穴を開けることで全体に光が届くように改修されています。現在、家プロジェクトの鑑賞チケットと関連書籍やグッズ販売のほか、インフォメーションセンターとして利用されています。

本村ラウンジ&アーカイブ|写真:表 恒匡
直島町役場
設計:石井和紘
竣工:1983年
所在地:香川県香川郡直島町本村1122-1
本村地区の中心に建つ〈直島町役場〉は、和風建築としてデザインされたポストモダン建築。飛雲閣の屋根形状や舟入りのイメージが引用された外観をはじめとし、伊東忠太氏による「築地本願寺」の円柱や、「歌舞伎座」や「さざえ堂」の階段、京都民家の連子格子、辰野金吾氏による作品の数々の一部など、さまざまな建築の引用によってデザインされています。
直島小学校
設計:石井和紘
竣工:1970年
所在地:香川県香川郡直島町本村1600
〈直島小学校〉は、石井和紘氏による最初の作品です。高さ5mの基壇のうえに、背景にそびえる地蔵山の傾斜に相似する形態で建築されています。周辺の〈直島町民体育館・武道館〉(1976年)や〈直島中学校〉(1979年)、〈直島幼児学園〉(共同設計:難波和彦、1974年)も石井氏が手がけました。