海と山に囲まれた小豆島は、瀬戸内の温暖な気候や地形、豊かな自然環境を生かし、オリーブやみかん、醤油、そうめんなど、多彩な食文化が発展してきました。そうした生業の場を支える生産のための建築が、島の風景をかたちづくっています。
また、2010年から3年に一度開催されている瀬戸内国際芸術祭は、瀬戸内の島々を舞台にした現代アートの祭典です。今年(2025年)は、春会期(4月18日〜5月25日)、夏会期(8月1日〜8月31日)、秋会期(10月3日〜11月9日)の3会期で開催され、各地でアーティストたちが新たな作品を生み出しています。
小豆島では、芸術祭を契機に、「馬木キャンプ」や「小豆島アートプロジェクト」など、建築を通じて島民と建築家がともに島のこれからを考える取り組みが行われてきました。さらに、「石の島の石」や「小豆島 The GATE LOUNGE」など、地産の素材を生かしたプロジェクトも数多く生まれています。
本記事では、小豆島の建築12作品をエリア別・マップ付きで紹介します。
風土とともに息づく建築を、島を巡りながら体験してみてください。
INDEX
草壁・馬木エリア
・馬木キャンプ|dot architects
・石の島の石|中山英之
・おおきな曲面のある小屋|タトアーキテクツ
・小豆島アートプロジェクト|dot architects
坂手エリア
・美井戸神社|dot architects
・はまひるがお坂手・遊児老館|o+h
福田エリア
・葺田パヴィリオン|西沢立衛
・瀬戸内アジアギャラリー|西沢立衛
土庄エリア
・島湯|スキーマ建築計画
・小豆島 The GATE LOUNGE|VUILD
草壁・馬木エリア
馬木キャンプ
設計:dot architects
竣工:2013年
所在地:香川県小豆郡小豆島町馬木甲967
〈馬木キャンプ〉は、2013年に「観光から関係へ」をテーマに掲げ、アーティストやクリエイター、来訪者が継続的に小豆島との関わりを持ち続けるような関係性をつくることを目指した「醤の郷+坂手港プロジェクト」のひとつです。1995年の阪神淡路大震災をきっかけに、自分たちの手で建築できる仕組みが生み出せないかと考えたことから始まり、構造家の満田衛資氏と共同で、誰でもセルフビルドすることができる建て方を考案し、地域住民の人たちと協働で施工されました。

photo by Yoshiro Masuda
石の島の石
設計:中山英之
竣工:2016年
所在地:香川県小豆郡小豆島町草壁本町615-37
瀬戸内国際芸術祭の事業の一環として建てられたパブリックトイレ。小豆島の花崗岩を粗骨材として用い、小叩きした曲面の屋根と壁の仕上げは、小豆島の採石場に見られる岩肌に由来しています。

photo by soi
おおきな曲面のある小屋
設計:タトアーキテクツ
竣工:2013年
所在地:香川県小豆郡小豆島町馬木甲882-7
登録有形文化財にも登録されている、醤油蔵建築が集まる「醤の郷」と呼ばれる地域に、瀬戸内国際芸術祭の事業の一環として建てられたパブリックトイレ。1枚の鉄板による白い曲面壁と、醤油蔵建築に特徴的な瓦屋根が架かった和小屋の軸組が、それぞれ独立して建てられています。

小豆島アートプロジェクト
設計:dot architects
所在地:香川県小豆郡小豆島町馬木甲881-9
〈小豆島アートプロジェクト〉は、アートを主軸に地域活性化や魅力発信を目指す取り組みです。本記事で紹介する3つの建物は、その一環として空き家や古い建物をアートスペースへと改修されたものです。
〈GEORGES gallery+KOHIRA cafe〉
竣工:2019年
今年の瀬戸内国際芸術祭作品である〈GEORGES gallery〉は、建主の祖父の住宅を、小豆島の民家のかたちを残しながらギャラリーに改修しています。そこに、廃墟や取り壊す予定の建物の空間にインスタレーションを設置し、写真作品として完成させるフランスのアーティスト、ジョルジュ・ルーシュの作品と、その制作現場のインスタレーションを展示することで、島の魅力を伝えることを目的としています。
〈醤の郷現代美術館〉
竣工:2021年
〈醤の郷現代美術館〉は、1928年に小豆島醤油製造同業組合の事務所として建てられた建物を改修し、主催者が所有するアート作品と小豆島にゆかりのある作家の作品をメインに展示する施設美術館としてつくられました。
〈MOCA HISHIO ANNEX〉
竣工:2021年
倉庫兼作業場として使われていた煉瓦造りの建物をギャラリーと収蔵庫に改修しています。また、その時々のコンセプトに合わせてパフォーマンスの舞台ともなるように考えられています。
坂手エリア
美井戸神社
設計:dot architects
竣工:2014年
所在地:香川県小豆郡小豆島町坂手765
小豆島の水害や渇水に苦しんできた歴史をもとに治水や雨乞いの神様として祀られた、ビートたけし氏とヤノベケンジ氏の彫刻作品「ANGER from the Bottom」。〈美井戸神社〉はその神様を風雨から守るための社としてつくられました。最長約6.5mに伸びる作品に合わせて柱も伸縮する仕組みになっています。

photo by Yoshiro Masuda
はまひるがお坂手・遊児老館
設計:o+h
竣工:2016年
所在地:香川県小豆郡小豆島町坂手甲798
「坂手の未来を考える」プロジェクトの一環として、小学校跡地に新築で建てられた小規模多機能施設〈はまひるがお坂手〉と、幼稚園として使われていた建物を改修した〈遊児老館〉。グラウンドを挟んで建つ2棟は、地元住民や観光客が集う地域の交流拠点として使われています。
福田エリア
葺田パヴィリオン
設計:西沢立衛
竣工:2013年
所在地:香川県小豆郡小豆島町福田葺田神社境内
今年の瀬戸内国際芸術祭作品である、葺田八幡神社境内の〈葺田パヴィリオン〉は、厚さ19mmと6mmの曲げ加工を施した鋼板2枚が重ね合わせられ、その端部が溶接されることでつくられています。鋼板の間に生まれた空間は、境内へと繋がる子どもの遊び場や参拝者が座って休める場所にもなっています。

西沢立衛「葺田パヴィリオン」|Photo: Kimito Takahashi
瀬戸内アジアギャラリー(旧:福武ハウス)
設計:西沢立衛
竣工:2013年
所在地:香川県小豆郡小豆島町福田甲718-1
2013年、小豆島・福田地区とアジア諸地域をアートでつなぐプラットフォームとして、旧・小豆島町立福田小学校の一部を改修した〈福武ハウス〉が始動。2025年には、新たな作品を設置して〈瀬戸内アジアギャラリー〉として再始動し、アジア各地のアーティストや文化関係者との連携のハブとなることが目指されています。
土庄エリア
島湯
設計:スキーマ建築計画
竣工:2024年
所在地:香川県小豆郡土庄町甲5165-216
土庄港からほど近い小豆島オーキドホテルの温泉浴場をリニューアルした〈島湯〉は、既存の仕上げを剥がしたスケルトンと新たに手を加えた浴場のタイル貼りが特徴的な温泉です。今後も、食堂の「島飯」と宿泊施設の「島泊」が段階的につくられる予定で、〈島湯〉とあわせた3つの施設によって、観光客と島民との交流の場を目指しています。
※現在、臨時休業中で2026年夏に再開予定です。

提供:両備ホールディングス
長坂常 / スキーマ建築計画が改修設計・監修した〈島湯〉が小豆島にオープン! フェリー港に面した老舗ホテルの温泉浴場、食堂〈島食〉と宿〈島泊〉も来年にかけて順次開業予定
小豆島 The GATE LOUNGE
設計:VUILD
竣工:2023年
所在地:香川県小豆郡土庄町甲2473
〈小豆島 The GATE LOUNGE〉は、オリーヴの栽培・研究開発・製造・販売を行う、店舗兼施設です。設計者とクライアントが自らつくる木造建築として、小豆島産材の700本におよぶヒノキ丸太の調達から加工、組み立てまで、デジタルファブリケーション技術を駆使してつくられています。

提供:VUILD