[Interview]問いを立てることから始めるワンダーウォールのデザイン理念 - TECTURE MAG(テクチャーマガジン) | 空間デザイン・建築メディア
[Interview]問いを立てることから始めるワンダーウォールのデザイン理念

[Interview]問いを立てることから始めるワンダーウォールのデザイン理念

BUSINESS

UNIQLO、NOT A HOTEL、HUMAN MADEなど、国内外でブランドの顔となる空間を生み出し続けるワンダーウォール(以下、Wonderwall®︎)。デザインの上流から空間を思考する独自のアプローチ、ベテランと若手が交わるプロセス、事務所の未来像について深く掘り下げます。

Wonderwall

片山正通|Principal / Founder

片山正通氏(以下、片山):Wonderwall®は2000年、31歳のときに設立して四半世紀を超えました。設立当初から、あえてスタイルに個性や自分の色を出さず、常に「このプロジェクトは何が正解なのか」ということを考えてやってきました。プロジェクトが始まると、まず「何をすべきか」を考え、クライアントと対話を重ね、リサーチをしてデザインの原形をつくるのですが、コンセプトを立てる、デザインの原形を考える、コンセプトを見直す、これを繰り返してやっと輪郭を見出すことができます。

その姿勢は今もつながっていて「このプロジェクトの正しい在り方はなんだろう」ということに対して常に問いを立て、価値を生み出していくということをずっとやっている事務所です。

—– 「問いを立てる」とは、具体的にどのようなことをされるのでしょうか? 

片山:僕たちは企業から空間デザインの依頼を受けるデザイナーなので、最終的なアウトプットはインテリアデザインの形なのですが、コンセプトや在り方を問うことから始まります。そして、自分自身100%のうち49%は消費者、残りの51%をデザイナーという立場で思考します。「そこへ行きたい、関わりたい」と思える部分を自分も享受したいし、それを提供もしたい。そのバランスを大事にしています。

つまり、「問いを立てる」というのは自らに対してです。自分の身体というフィルターを通して、世の中の流れやその時代の考え方に順応するだけでなく、ときには「これは正しいのか」「この与件は変えるか、もしかしたらやらないほうがいいんじゃないか」といったことも含め、自分がどう感じてどう出すか。問い自体はわりとシンプルでベーシックなことかもしれません。

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片山:僕たちが大事にしていることを言葉にまとめたものがあり、そのなかで自分たちを「インディペンデントな存在」と定義しています。

これはまさに問いに現れるもので、クライアントに不都合なことでも、僕たちが思ったことを誠意をもって伝える。もしもそのプロジェクトが、ここにつくるべきではないと思えば、「ここはやめたほうがいい」とはっきり伝えます。それで先方の社長から「あなたたちとは組まない」と言われたらそれでも構いません。思ったことを本音で伝えることは最も重要なことであり、これも僕たちにとってインテリアデザインなのです。

Wonderwall®︎ 5 「ワンダーウォール 5つの考え方」

1  ワンダーウォールは、インディペンデントな存在です。
2  ワンダーウォールは、よく聴き、よく疑います。
3  ワンダーウォールは、変幻自在です。
4  ワンダーウォールは、新鮮さを大事にしています。
5  ワンダーウォールのゴールは、スタートです。

上流から関わり、遠慮なく意見や提案をして納得してもらい、実際に契約済みだった敷地が変更になったプロジェクトもあります。このまま続けてもよくないと感じるものは、どうがんばってデザインしてもいい結果にはなりません。クライアントにとって煙たがられるような面倒なこともどんどん言います。そういう意見を求めて相談してくれるクライアントも多く、ありがたいことだと感じています。

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坂巻陽平氏(以下、坂巻):私たちはインテリアデザインで何をしているかというと、シーンをつくる、時間をつくる、体験をつくるということを大事にしています。そこでクライアントに逆オファー、提案をさせていただくことが大前提で「成功するゴール、未来が見えるようだったら一緒にやりましょう」と。全容を整え、ちゃんと我々がパフォーマンスを発揮でき、ゴールが見えなければ、妥協して受けても結局うまくいきません。

プロジェクトが始まってしまえば合意を覆すことは難しいですし、信頼が崩れます。インディペンデントであり続け、率直に意見することが何よりの誠実さだと思います。お互いに楽しいことをいかに増やしていけるかということを考え、お互い自信が持てる状態になったらお受けしています。

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坂巻陽平|Design Director

—– UNIQLOやHUMAN MADEのように国内外に広く知られたブランドの店舗を手掛けられるときは、どのように向き合っていますか?

片山:私たちの考え方のなかに、「よく聴き、よく疑う」ということを書いているのですが、仕事において大切なことはクライアントと対話し、共有すべきヴィジョンを見つけ出すことです。成功されているブランドや企業は強みもあり、社会に存在、貢献しているわけですが、それを気づいていなかったり当たり前だと思っていたりすることが多くあります。世間にちゃんと「見える化」してあげようと思いますし、デザインは未来に向かっての仕事なので、プロジェクトを成功させるために頼まれる事務所でありたいと思っています。

各地の店舗で統一感を出すことはある程度必要ですが、国や都市によって環境も考え方も違いますし、そんなに慎重にならなくともブランドそれぞれが強いのでそこはかとなく出てきます。僕たちは幸運なことに力強いブランドから依頼を受けているので、むしろ揺らぎを提供することを考えます。「この辺まで振ってもこのブランドの強度は保たれる」というところまで振りたい。ブランドの変わらない強さを利用させてもらっています。

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〈HUMAN MADE KOBE〉Photo: KOZO TAKAYAMA

片山:HUMAN MADEには、彼らのブランドのアイデンティティに”THE FUTURE IS IN THE PAST”、未来は過去にあるというキーワードがあります。それを空間で体現したいなとすごく思いました。立地や状況によってその考え方の方程式は変えるのですが、土地のコンテクストを読み解きながら架空の歴史をつくったり、HUMAN MADEというブランドが老舗ブランドのような錯覚を自分たちでわざと起こしながら、そんな時代をつくってきたと考え、提言をしていく流れでした。

平田円理氏:HUMAN MADEの店舗は基本的に若手が1店舗ずつプロジェクトを担当して、私は神戸店をメインで担当しました。HUMAN MADEは歴史的建築に店舗を構えられることが多く、神戸も1920年くらいに活躍したアメリカ人建築家が設計した銀行建築に入られています。そこにどうつくるかということで、まずその建築自体や街の成り立ち、アメリカ人建築家の経歴や同時代のほかの銀行建築までリサーチしました。

そのアメリカ人建築家が残した居留地のほかの建築物や、横浜にもある作品に実際に足を運んで空気感を感じ、細かくディテール写真を撮って、スケッチしてイメージするところから始めました。

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平田円理|Designer

坂巻:「NIGO®さんがつくりたいPastとFutureをつないだ店舗」とは何か、ということをしっかり定義しないとデザインがブレてシンプルに語れません。そのためにしっかりリサーチして、その感動を正しく再現することが大事だと思います。

店舗デザインという我々の仕事は土地に根差してそこに存在するものになるので、映画や音楽コンテンツのように世界中どこへでも飛んでいくことができません。やっぱりその空間に来てくれた人たちに、しっかり感動を与えたいということは常に考えています。その場所にしかないところへわざわざ来てくれた結果が「写真で見た通りだ」ではなく、「わぁ、こんなふうになってるんだ」という、訪れた人だけの感動があるべきだと思っています。

—– NOT A HOTELで手掛けられた〈MASU〉は、いわゆるクライアントがいない特殊な案件だったと思います。どのようなプロジェクトでしたか?

〈NOT A HOTEL KITAKARUIZAWA MASU〉

片山:実際にはクライアントはNOT A HOTELになるのですが、自分がどういうところに住みたいかと考えたとき、1953年成城に建てられた丹下健三の自邸がすごく好きで、リスペクトを込めて「あんな家に住みたい」ということから考え始めました。

島津真介氏:「服を買うように家を買える」というコンセプトがあったので、「S、M、Lと家にもサイズがあって、希望に合わせて家が買えたら面白いし、それを好きなところに建てられたらいいね」と、いろいろなリサーチをしながら片山と対話を重ねていくなかで、木造建築にあるグリッド感で、増やせばSがM、Lと変化していく別荘を想定しました。自宅のようにずっと住まうわけではない別荘として、季節ごとに行ったときに体験が変わる、面白い体験ができるように考えました。

日本建築をレファレンスにしたような建築、たとえばケーススタディハウスのような、世界中に散らばっているものをWonderwall®︎の目で再編集して落とし込むことが、このプロジェクトの流れだったと思います。

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島津真介|Chief Designer

—– プロジェクトごとにチームで担当されていますが、チームビルディングについて教えてください

片山:現在4つのチームがあり、4人のチーフがそれぞれ付いています。そのチーフの下にリーダー的なスタッフ、サポートスタッフがいます。このほかに模型専用スタッフが2名、その下でインターンやアルバイトが模型をつくり、CGは外部のスタッフと連動してチームアップしています。

そしてスケジュールや予算、要望や条件を整えたり、工事業者を決定したり、プロフェッショナルな視点で切り盛りしてくれるプロジェクトマネージャーが2名います。敷地や周辺のリサーチはチームメンバーがその都度行っていますが、もっと深く、チームを横断してプロジェクトのリサーチをメインにしているスタッフもいます。

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瀬尾美月|Researcher

瀬尾美月氏:リサーチの仕事は、プロジェクトを貫く哲学や文脈を探し出し、歴史、美術、音楽、映画など、ジャンルを問わずリサーチし、それを空間に翻訳するために言語化するような仕事です。先ほどあった〈NOT A HOTEL MASS〉のプロジェクトでは、数寄屋建築、丹下健三、ケーススタディハウスについて調べることが出発点でした。

何でも調べればすぐに出てくる時代ですが、その情報の背景にある営みや文脈を大切にすることを意識しながら、最後の制作物が厚みのあるものとなるようリサーチャーとして仕事をしています。

—– かなり組織立ててプロジェクトを進められているのですね

片山:Wonderwall®︎という原形はしっかり保ちながらも、時間や不得意を言い訳にせずクオリティを上げていくための分業制は必要だと思います。予算やスケジュール管理はプロマネに任せるほうが効率はいいし、外部と連携もします。

Wonderwall®︎を「片山正通インテリアデザイン事務所」という名前にしていないのも理由があります。僕はあくまで「Wonderwall®︎というレーベルにいる片山」のつもりでいます。僕のキャラクターやマンパワーだけではいずれ限界が見えてくると思っていますし、Wonderwall®︎にいろんな人に集まって活動してもらって、それぞれが高め合えるようでないと世界で戦っていけないのではないでしょうか。僕の才能、それぞれのスタッフにしかない才能、いろいろあったほうが面白いことができるに違いないですし、スタッフ同士の化学反応や他愛ない対話からデザインがどんどん生まれてくることが自然な組織体だと思います。

Wonderwall

坂巻:プロマネのスタッフが折衝や予算管理などを担うことで、僕たちはデザインに悩み、集中できます。以前、ルイ・ヴィトンのショーを担当したとき、片山がファレル・ウィリアムスと話す、私たちがそれをどんどん落とし込んでデザインする、冷静にプロマネが締めるといった感じでした。

主従関係や上下関係じゃなく、それぞれ得意なことをしっかり持ち寄って最高のものをつくる環境に経験年数や年齢は関係ありません。自分たちとクライアントは同等であると思って意見をしますが、社内のスタッフもそれぞれがプロとして自覚をもって仕事をしているので、ヒエラルキーはありません。HUMAN MADEをまとめている平田はまだ入社4年目の若手ですが、スタッフそれぞれがファッションや音楽など、強みや好きなものがあり、そこから生まれることがデザインが活かされてくると思います。

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—– Wonderwall®︎が目指すこれからのインテリアデザイン事務所について教えてください

片山:働き方でいうと僕自身、徹夜が嫌いなのですが、それが当たり前だった時代を経験してきています。実際に徹夜した翌日はボロボロでミーティングどころではなかったですし、そんなデザイナーはかっこ悪いじゃないですか。ちゃんと成果を上げてもらえば、プロセスは自由でいいというのが僕の考えです。ポテンシャルを高めて仕事をすることを考えて、休むときは休む、働くときは働くという体系にしていますし、給与もなるべく多く払いたいと思っています。

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片山:どんどんいろんな人が集まって、中から育っていくような楽しくハッピーな組織であり続けたいですね。このオフィスも僕が楽しいところにいたいという思いから設計しました。アートや書籍やCD、なんでもここにディスプレイしてWonderwall®︎の思想をクライアントに伝えられるツールにもなっています。スタッフがここで働いているというプライドをもってもらえていたら嬉しいです。

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片山:僕たちは常に「新鮮なもの」を大切にしています。新鮮とは、目先の新しいものやマーケティング的な話ではなくて、僕らの身体を通して自分たちがつくりたい、見たいと思えるものを新鮮なものだと定義しています。デザインは慣れてくると成功パターンが見えてくるというか、わりと簡単にできたり、うまくなったりします。早く安く仕上げられる点に関してAIは優れていますし、ただ正解を求めるならAIだっていいと思います。いかにいいバグを出せる組織かどうかが問われる時代に突入するのかなと思っています。何より僕はデザインという一番おいしいところをAIに任せたくないし、Wonderwall®︎として新鮮な驚きを提供していきたいです。

インテリアとしてアウトプットしたものは僕たちのゴールですが、クライアントにとってはスタートです。準備のお手伝いをしているということを忘れずに、そして僕らが「これつくりたいよね、行きたいよね」と思うものが、ちゃんとこれからの社会と順応できるような事務所でありたいと思っています。

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インタビュー:2026年7月1日 ワンダーウォール オフィスにて
Photograph:Kei Sasaki


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