アートとサウナの展覧会???
2021年4月1日初掲 / 7月30日会期変更あり[*]
アート集団・チームラボ(代表 猪子寿之)による、アートとサウナの体験を掛け合わせた全く新しい形の展覧会「チームラボ & TikTok, チームラボリコネクト:アートとサウナ 六本木」(以下「TikTok チームラボリコネクト」)が、3月22日(月)から東京・六本木でスタートしています。
なお、当初のスケジュールでは、会期は約半年間でしたが、コロナ禍による臨時休館期間や開館時間の短縮などがあったことから、11月23日(火・祝)まで延長されることが7月30日にプレスリリースなどで発表されました[*]。
※COVID-19(新型コロナウイルス感染症)拡大防止のため、今後のスケジュールが変更される場合あり。最新の開催状況は、会場ウェブサイト・SNSなどで確認してください
アートとサウナ、全く関係のないワードのようにも思えるこの2つがどう結びつくのか、【TECTURE MAG】では、オープンに先駆けて開催されたプレス内覧会を取材。チームラボが掲げる展覧会のコンセプトや体験型アートについてお伝えします。
Photographs: toha(入館時のガイダンスに関する写真3点と、作品および外観の公式画像を除く)
「TikTok チームラボリコネクト」の立地は、六本木の交差点から芋洗坂を下り、さくら坂と交差するあたり。ここに、仮設とは思えない規模と設備で用意されています。
利用は予約制。入館料には、館内で着用が求めらている水着をはじめ(水着は持参しても良い)、水着の上から着ることもできる館内着の上下、バスタオルなどのレンタル料が含まれているため、手ぶらでも利用が可能です。温水シャワーブースやドライヤーも完備。女性の脱衣所には、クレンジングや基礎化粧品も用意されています。
鑑賞者自身が最高級な状態になってアートを体験する
サウナおよびアート鑑賞の前に、簡単なガイダンスを受けます。このとき、サウナで「ととのい」、心身が最高の状態でアートを体験するという、本展の狙いが説明されます。
権威ある美術館や宮殿といった「高級な場所」でアートを鑑賞するのではなく、鑑賞者自身が最高級な状態になってアートを体験する、これが「TikTok チームラボリコネクト」の他に類を見ないコンセプトです。
会場では、高温多湿のサウナと、そのあとの冷水浴を繰り返し、その間の休憩時間にチームラボのアート作品を鑑賞します。
超温冷交代浴により、頭の中がスッキリとし、美しいものはよりいっそう美しく感じることができる「最高の状態」に至ります。感覚が研ぎ澄まされるこの心身の状態は、脳科学的にも非常に特殊な状態であり、普段の感覚では気がつかない体験を得ることができるという、アート鑑賞にとって最適な環境を提供できるとチームラボでは考えています[*1]。
*1.30人のサウナ利用者を対象に、超高精度な脳波測定器(Magnetoencephalography: Meg)を使い、サウナの前後での脳の機能的変化を測定、解析した結果による
さらにこの状態に人が至ったときに、どこまでも拡がっていくような身体感覚で、鑑賞者がアートと一体となる。心と身体と環境が、自分という存在の全体性であることに気づき、世界と時間に再び「つながる」ことが可能に。この「世界とつながる」という考え方も、チームラボがこれまでの活動においても一貫してきたコンセプトです。
#自然界の法則に逆らう新作も披露
「TikTok チームラボリコネクト」では、チームラボの新たなアートプロジェクト「Supernature Phenomenon」をテーマにした、本展のメインビジュアルでも使われている新作「空中浮揚」をはじめ、新たな作品群が披露されます。
「Supernature Phenomenon」とは、自然界の法則を超えた現象を意味する「超自然現象」と、それによる認知そのものの変化をテーマにしたプロジェクト。万有引力に逆らうなどの超自然現象をただ見る過程で、人々の認知そのものが変化し、その認知の変化が人々を「日常とは違った状態」へと導くとチームラボでは考えています。
サウナに始まり、アートに終わる
新作を早く見たい! と思うところですが、ガイダンスで説明を受けた通り、本展には鑑賞の作法=手順があります。先ずはサウナから。
これより先は、プレス内覧会開催時の案内に沿って、展示内容と体験レポートをお届けします。
脱衣所を出ると、チームラボのアート作品「呼応するランプのアレイとスパイラル – ワンストローク, Metropolis Tokyo」が出迎えてくれます。
場内は原則として照度が抑えめなので、男女の複数で訪れている場合は、この「ランプの下」で待ち合わせがおススメです
サウナエリアの展示作品
「呼応するランプのアレイとスパイラル – ワンストローク, Metropolis Tokyo / Array and Spiral of Resonating Lamps – One Stroke, Metropolis Tokyo〉
teamLab, 2021, Interactive Installation, Murano Glass, LED, Endless, Sound: Hideaki Takahashi
高密度に集合しているランプの塊の底にある、最も低いランプの下を人が通ると、そのランプの光が強くなり、音色を響かせるという作品です。
シェードはムラーノ・ガラス(ベネチアン・グラス)で制作されています。
アート浴エリア以外にも作品は大きく3つあり、冷水浴を行うシャワー室にも作品が展示されているのでお見逃しなく。
本展は脱衣所とサウナ室内は撮影禁止で、それ以外のエリアでは写真・動画共に撮影が可能です。各サウナ室前にミニロッカーと、首から下げるスマホ用のホルダーも用意されています(転倒による物損、湿気による故障、撮影時には他の利用者への配慮が必要です)。
7色のサウナ
サウナは、サウナ初心者からサウナ愛好家まで楽しめるよう、中温多湿から超高温ドライまで、計7室用意されています。女性専用サウナもあります。
7つのサウナ室は、レッド、シアン、マゼンダ、ブルー、グリーン、ピンク、イエローにカラーリングされています。本展では、サウナ+冷水浴+アート浴を3回体験することが推奨されているため、どのサウナを利用したのかなどの判断の目安にもなる色分けです。
また、各室の空き具合がわかるモニターでもこのカラーが使われています。
7つあるサウナ室のうち、マゼンダとイエローの2室はロウリュ(後述)なし・アロマもなしのドライサウナです。さらにイエローは環境音楽もなしの無音の1室です。
なお、これら7つのサウナ室に人が出入りした際にも、ドア付近のランプが、そのサウナ室の光の色に輝き、音色を響かせます。また、サウナ室では、部屋ごとに、焚き火・洞窟の川・水琴窟・森の風・炎・ピンクノイズといったさまざまな環境音や音楽が用意されています。
仮設でも本格的ロウリュを堪能できる!
ロウリュとは、熱したサウナストーンに水をかけ、発生した水蒸気を強く仰ぐなどして室内に送る、フィンランドなどサウナの本場では専門職もいるという、定番となっているサウナ浴です。サウナ室を巡回してくれるチームラボリコネクトのスタッフが、このロウリュを担当してくれます。
オープンに先立つ内覧会では、プレス関係者のほか、サウナ愛好家諸氏も招かれ、複数人から「仮設とは思えない本格設備!」というお墨付きをもらっているとのこと。
本展では、それぞれ、白樺・ジュニパー・松・シナモン&ジンジャーなどの天然アロマや、チームラボが厳選したほうじ茶の香りを用意しているのも特筆点です。
この特選ほうじ茶は、九州・嬉野のEN TEAがサウナ用に配合・焙煎したもの。EN TEAは、佐賀県・武雄温泉に昨年11月より常設されたアート展「チームラボ 廃墟と遺跡:淋汗茶の湯」に併設する、サウナシュラン2年連続1位に選ばれている宿泊施設・御船山楽園ホテルらかんの湯のサウナでも茶葉を提供しているブランドです。
なお、本展では、館内着を着用したまま全ての施設を利用できますが、経験からいうと、水着だけのほうが発汗効果が高いので、本展の狙いである「ととのう」状態により早く達することができるようにも感じられました。
冷水浴の推奨時間は2分!
サウナを最長で10分ほど利用した後は、シャワー室へ。約16度に設定された冷水を頭から浴びます。ふだんサウナに慣れていないとなかなかに激烈な体感になりますが、熱い・冷たいの差があるほど、脳が最高の状態に達しやすいとのことなので、計3回のチャレンジが必要、ふんばりどころです。
冷水エリアでの作品展示
この冷水エリアにも、チームラボのアート作品が2つ用意されています。左右に分かれたシャワーブースの間に展示され、いずれも新作です。
テーマは「円相」。禅の世界観を表現した、ひと筆描きで円を描く書画からイメージされたもので、ミストに包まれながらあるポイントに立つと、視界に光の円相があらわれます。それは見る人の心のうちを描き出す円でもあり、解釈はその人次第、というコンセプトになります。
初心者には1分がいつ終わると知れない試練に感じられる冷水浴に耐えたあとは、ゆったりとアートを鑑賞。
アート浴の作品は3つ用意されています。心を無にして、鑑賞しましょう。
「降り注ぐ雨の中で増殖する無量の生命 - A Whole Year per Year / Proliferating Immense Life in the Rain - A Whole Year per Year」
展示室の左右に用意されたベンチに座ると、何もなかったスクリーン上に、1輪の花が咲き、徐々に増えていきます。花々は移り変わり、誕生と死を繰り返しながら増殖していきます。そして増えすぎると、一斉に枯れ、散って「無」へと戻ります。
コンピュータプログラムによって永遠に描かれ続けられるこれらの花々は、あらかじめ記録された映像を再生しているのではなく、鑑賞者の存在を感知してインタラクティブに反応します。二度と同じ映像はありません。
「生命は結晶化した儚い光 / Ephemeral Solidified Light」
teamLab, 2021, Interactive Installation, Sound: teamLab
さまざまな色で輝く光の粒が、雨のように降っているようでいて、眺めているうちに、光が下から上に逆流したり、時には止まって見えたりもします。
この作品は外から眺めるだけでなく、展示空間の中に入ることができるので、没入体験を味わえます。光の結晶が身体に触れると、壊れ、その光が空間全体に拡がっていきます。
〈空中浮揚 / Levitation〉
teamLab, 2021, Digital Installation, Sound: Hideaki Takahashi
本展のイメージビジュアルとなっている作品であり、新作のテーマである「Supernature Phenomenon」を最も分かりやすく具現化したアートです。
ポスターなどで露出しているその画の通り、赤い球体が暗い展示空間の中で浮かんでいます。
人が球体を叩くなどの衝撃があると、球体は地面に落ち、床の上を転がります。そのうちに、刺激のない状態が続くと、球体は自らを修復するかのように再びゆっくりと宙に浮かび上がります。
本展では、館内滞在時間は100分で設定されており、チームラボが推奨する時間配分は、サウナを5分から10分、冷水浴1から2分、アート鑑賞(アート浴)が10分で、これを3セット繰り返します[*2]。
*2.前註参照、Megでの解析に基づき、チームラボでは4セット以上を推奨していない
サウナとアート浴を繰り返すうち、あっという間に予定の100分が終了します。
いつでもどこでも「外気浴」
会場を出た後も、本展のコンセプトを成す、アートとサウナの体験の一環とも言える「外気浴」を行うことが可能となっています。
メインパートナーとしてクレジットされている、モバイル向けのショートムービープラットフォーム・TikTok(ティックトック)とチームラボが、ARを用いた新作《生命はどこであろうと強く咲く》を共同で制作。TikTok専用アプリをスマートフォンなどの端末にダウンロードして起動すれば、端末のカメラを向けた先々に、館内で見た〈降り注ぐ雨の中で増殖する無量の生命 – A Whole Year per Year〉のようにして花が咲き、画面越しにアートを体験することができます。
「生命はどこであろうと強く咲く」は、ユーザーが実際にいる空間のサイズに合わせて花々が成長し、周囲の光に影響を受けます。例えば、ユーザーが空の下の広い場所にいると、花は非常に大きくなり、実際の太陽や街灯に照らされると、花が輝きます。花々は誕生と死を繰り返しながら増殖していきます。
任意の場所がアート空間となり、世界と「つながる」という概念を拡張します。
チームラボが目指すもの
プレス内覧会では、チームラボのコミュニケーション ディレクターを務める工藤 岳氏に話をうかがうことができました。
背景に写っている作品は、宙に浮く〈空中浮揚 / Levitation〉です。
チームラボはもともと「世界とは何か?」を探求し、「人間は宇宙の小さな一部分で、はかない存在。それでも生きていく」というメッセージを発信してきました。お台場の「チームラボボーダレス」でも豊洲の「チームラボ プラネッツ」でも、デジタルやテクノロジーを使った表現を通して、作品の中にどうやって鑑賞者を没入させることができるかと模索してきたのです。今回は、人自体の状態を変化させて鑑賞してもらうという、壮大な実験と実証をしています。
自分はスウェーデンで暮らしたこともあってサウナがすごく好きなのですが、サウナがこの数年でカルチャーとして一般的に理解されてきました。「ととのった」状態を導くサウナも、鑑賞者を作品の中に没入させるための1つの手法となりうるのではないかと考えたのです。
佐賀にある武雄温泉の御船山楽園でチームラボが展覧会をしたときに、「らかんの湯」のサウナでととのった後に作品に触れると、すごくキラキラと輝いて見えたのですね。光や音が変わったのだろうかと理由を一所懸命に探したのですが、「いや違う、自分たちが変わったんだ!」と気づいて。その体験が、今回の展覧会のきっかけといえばきっかけです。
コロナ禍にあって、人はいろんな情報に一喜一憂し、恐怖心で分断されているのではないかと思います。でも、人類は共創することで、さまざまなことを乗り越えてきました。今回の「リコネクト」というコンセプトは、人が世界と再びつながるということ。東京のど真ん中にテントをつくって、「またチームラボが意味不明なことをして…」と思われているかもしれませんが、この機会に新たなアートの鑑賞方法を体験して、何か新しい発見をしてくれたら嬉しいです。
#teamLab YouTube 公式チャンネル「チームラボ & TikTok, チームラボリコネクト:アートとサウナ 六本木 / teamLab & TikTok, teamLab Reconnect : Art with Rinkan Sauna」(2021/03/13)
「チームラボ & TikTok, チームラボリコネクト:アートとサウナ 六本木」開催概要
会場所在地:東京都港区六本木5丁目10-25(Google Map)
会期:2021年3月22日(月)〜8月31日(火) 11月23日(火・祝)
営業時間:10:00-23:00(最終入館 21:30)
※但し、3月22日〜4月23日の平日は12:00-23:00(最終入館 21:30)
休館:不定休(公式ウェブサイトを参照)
臨時休館:4月25日(日)〜5月13日(木)
※COVID-19(新型コロナウイルス感染症)拡大防止のため、スケジュールが変更される場合あり。最新の開催状況は、会場ウェブサイト・SNSなどで確認してください
料金:平日 4,800円 / 土日祝・特定日 5,800円
主催:チームラボリコネクト実行委員会
協賛:TikTok
サウナ室監修:メトス
※安全管理上、0-11歳の利用は不可
※12歳-17歳のお客様は、20歳以上の保護者様の同伴が必要
※館内では、入館時に配布されるマスクの着用を可能な限り推奨しています
※そのほか、本展の入場規定や注意事項は、公式ウェブサイトを参照してください
展覧会公式ウェブサイト
https://reconnect.teamlab.art/jp