義足という道具は、足を何らかの理由で切断した、あるいは先天的にない人の身体を支えるものです。日常生活用からスポーツ用、近年ではショーなどで見せるための義足までつくられています。
本展は、社会のダイバーシティを考えるという大きなテーマのもと、ひとりひとりが生き甲斐をもち、それぞれ輝ける社会を考える手がかりとして、義足とそのユーザー、つくり手の現在に着目します。
「障がい」というのは、身体的状況そのものより、社会の中で生まれる不自由や心理的な壁です。互いを理解し、支えあう共同体として社会を整備していくことは、これから超高齢化社会を迎える私たち全員と無関係ではありません。
義肢装具士の臼井二美男は、熟練した職人技と、1対1のコミュニケーションを通して、ユーザーひとりひとりの身体にフィットする義足づくりに取り組んでいます。義足を使いこなし、人同士の交流と活力を生む場として、義足で走る陸上クラブの活動にも長年にわたり携わってきました(本稿1枚目の画像:日常用義足とスポーツ用義足 撮影:越智貴雄 / カンパラプレス)。
一方で、2008年から「美しい義足」プロジェクトを継続して行ない、研究者・インダストリアルデザイナーとして『カーボン・アスリート 美しい義足に描く夢』(2012 白水社)などの著作もある、東京大学生産技術研究所の山中俊治教授の研究室では、マス・カスタマイゼーションという考え方のもと、義足用モデリングソフトウェアや3Dプリンタという最新の技術を用いて、ひとりひとりに適した美しい義足を、より多くの人に届けることを目指して、研究室の成果物の展示会を定期的に行うなどさまざまに活動してきました。
本展では、義足の歴史から、近未来の義足づくりまでを展望します。
展示概要
・義足とはどんなものか? 日常用義足とスポーツ用義足の実物などを展示
・義肢装具士・臼井二美男(鉄道弘済会義肢装具サポートセンター)の義足製作ドキュメンタリー映像を上映するほか、製作過程を写真でも紹介
・東京大学生産技術研究所 山中俊治研究室による3Dモデリングを用いた義足製作プロジェクトを実物と映像で紹介
・1877年の西南戦争から1964年のパラリンピックまで、日本における義足の歴史を紹介
大量生産・大量消費が普通になった現代社会で、人間ひとりひとりに寄り添うことのできるデザインとはどのようなものか、義足を通してさまざまな課題が浮かび上がってきます。
折しも、都内では、7月23日に東京オリンピック・パラリンピック(東京2020大会)が開幕しました。
使い手に寄り添い、その背中を強く押してきた義足。本展は、そこに関わる人や歴史に目を向け、壁のない未来の社会について、来場者が考えるきっかけとなるのではないでしょうか。
本展に関連して、白井氏や山中氏が出席し、無観客で収録されたトークショーの様子が、GalleryA4 公式YouTubeチャンネルにて公開中です。
都内で義足の技術やデザインなどを紹介する大規模展は、東京・六本木の21_21 DESIGN SIGHTで、山中俊治氏が展覧会ディレクターを務めて2009年に開催された「骨」展以来となります。(en)
#GalleryA4 YouTubeチャンネル「トークショー「義足をつくる―人のためのものづくりへ」(2021/07/13)
会期:2021年6月11日(金)〜8月5日(木)
開館時間:平日10:00-18:00(土曜・最終日は17:00まで)
会場:ギャラリー エー クワッド
所在地:東京都江東区新砂1-1-1 竹中工務店東京本店1F
観覧料:無料(事前予約制、場内人数制限あり / 1時間あたり15人)
主催:公益財団法人竹中育英会
企画・共催:公益財団法人ギャラリー エー クワッド
協力:公益財団法人鉄道弘済会、東京大学生産技術研究所山中俊治研究室、木下直之(静岡県立美術館館長、神奈川大学特任教授)、越智貴雄(写真家 / カンパラプレス代表)