日本財団が中心となり、東京・渋谷区内で進められている「THE TOKYO TOILET」プロジェクトの最新となるトイレが、広尾東公園(広尾4丁目2-27)に先ごろ設置され、7月22日の正午より供用を開始しています。
これまで、『TECTURE MAG』のニュースでも取り上げてきましたが、「THE TOKYO TOILET」プロジェクトは、渋谷区内17カ所のトイレを、性別、年齢、障害を問わず、誰もが快適に利用できる公共トイレに生まれ変わらせるというもの。
渋谷区では、男女平等およびLGBTへの対応など、多様性を尊重する社会を推進するための取り組みを行なっており、本プロジェクトへの協力もその1つです。
2020年8月5日に供用を開始した3つのトイレに始まり、国内外で活躍する建築家・アートディレクターら諸氏が参画。これまでに完成したいずれのトイレも、バリアフリーや、ジェンダーフリーのデザイン・仕様となっており、オストメイト用設備も用意されています。
彼らの優れたデザイン・クリエイティブの力で、インクルーシブな社会のあり方を社会に提案・発信するとともに、従来の公衆トイレに人々が抱いているネガティブなイメージをも刷新したい考えです。
広尾東公園トイレの立地は、地下鉄広尾駅の北側、外苑西通りから西側に2本入った坂道の片側。坂道に沿って南北方向に伸びた公園に敷地内には高低差があり、園内の階段を上がったところに建っていた、赤茶色のタイル貼りだった公衆トイレが、同プロジェクトによりこのほど建て替えられました。
トイレのデザインは、クリエイティブカンパニーのWHITE DESIGNを率いる、後 智仁(うしろ ともひと)氏が担当しています。
後 智仁(うしろ ともひと)氏プロフィール
アートディレクター / クリエイティブディレクター
1971年東京生まれ。1991年武蔵野美術大学短期大学グラフィック科入学、同大学視覚伝達デザイン学科編入。1995年博報堂入社。2008年にWHITE DESIGN設立。
ユニクロ・サスティナビリティ部門担当クリエイティブディレクター、atama plus株式会社ブランド戦略顧問、大阪経済大学人間科学部客員教授。主な仕事に、ファーストリテイリング・サステネナビリティーレポート、ユニクロ「ドラえもん・サステナモード」、Tシャツ購入でドネーションができるユニクロのUTコレクション「THE PEACE FOR ALL」、マルシェのようにさまざまなクラフトビールを楽しめるキリンのプロジェクト「Tap Marché(タップ・マルシェ)」などがある。
WHITE DESIGN Website
http://whitedesign.jp/
公園のすぐ横を通っている道路は、坂を北へと上がっていくと、後氏の事務所がある南青山方面とつながっていることもあり、この場所に緑に囲まれた小さな公園があることは、以前から知っていたと後氏(供用開始前に行われたプレス内覧会にて、後氏談)。とはいえ、公衆トイレの設計をしないかと打診された当初は、これを辞退したそうです。
「候補者リストを見たら、錚々たるメンバーが名を連ねていて、僕の名前は、アイウエオ順だと、安藤忠雄さん、伊東豊雄さんの次にある。その下には隈さんの名前もあって、建築界の巨匠に挟まれるのは勘弁してくれと思いました(笑)。でも、引き受けてからはずっと、このトイレのことばかり考えていました。デザインも実は一度、大きく変更しています。」と、後氏は今回のプロジェクトを振り返ります。
「THE TOKYO TOILETプロジェクトは、話を聞いた時からおもしろそうだと、意義のある、今までにない建築プロジェクトになると思っていました。これだけのメンバーの中で、同じ目的、社会的意義をもって表現できたことは、本当に幸せなことです。」(後氏談)
後氏がデザインした公園トイレ〈Monumentum〉は、西・南・東側の3面はコンクリート打ち放し。南側の長編に2つのトイレの出入り口が設けられています。
「余裕ある空間にしたかったので、敷地めいっぱいを使って最大限の面積で建てています。イメージとしては、草っぱらにトイレをポンと置いたような感じです」(後氏談)。
このトイレのもう1つ、大きな特徴は、北側にぐるりと回り込んだ先で目にすることができます。
後氏がデザインした公園トイレ〈Monumentum〉は、北側の1面だけがガラス張りになっており、その向こうに横長のスクリーンが設けられています。
明るい日中だとわかりにくいのですが、スクリーン上には淡い光が現れては消え、蛍が舞うようなゆるやかさで点滅しています。このライティングパターンが、これまでの12のトイレにはない、視覚的な特色となっています。
ライティングパターンは、なんと79億通り。世界人口の数から取られています。「世界人口と同じ79億通りのライティングパターンが、昼は木漏れ日のように、夜は月明かりや漂う蛍のように変化し続け、二度と同じパターンを見ることはない」という光のデザインが、後氏によるコンセプトの主幹をなします。
「もとになっているのは、”人は、みんな違うという意味で、同じである。”という「THE TOKYO TOILET」プロジェクトにおける考え方で、これを表現したトイレをつくりたいと思いました。安全、安心、清潔はもちろん、全ての人に優しいトイレにしたい。多くの人の生活と多くの緑に囲まれた公園の中に建てられることも考慮して、パブリックアートのように、生活の中にありながら、常に人に何か問いかけてくるような存在にしたかった。このプロジェクトの意義を人々に問い続ける、モニュメント(Monumentum)のようなトイレになったらいいなぁと。
少しでも多くの人に、ストレスなく、このトイレを使ってもらえると嬉しい。僕は、つくるところまでしかできないので、この後は、使う皆さんによって育てられていくトイレであり、プロジェクトだと思っています。」(後氏談)
今回の計画地は、車両の交通量もある都心の坂道の脇にあるため、坂を降りてくるドライバーの視界に入るライティングパターンが運転の妨げにならないよう調整し、行政側(渋谷区)と折衝を重ねたうえ、認可されたトイレであるとのこと(日本財団 担当者談)。
これまで、企業ブランディング、コミュニケーション設計、広告の企画・デザインを中心に、インテリアデザインやアートワークも手がけるなど、活動領域を拡げている後氏ですが、建築を本格的に手がけるのはこれが初めて。
「もともと、建築には興味がありました。今回の公園トイレのデザインとは別に、建築のプロジェクトが進行中です。ご期待ください。」(後氏談)
所在地:東京都港区広尾4丁目2-27(Google Map)
デザイン:後 智仁 / WHITE DESIGN
ピクトサインデザイン:佐藤可士和(SAMURAI)
設計・施工:大和ハウス工業
レイアウト協力:TOTO
日本財団プレスリリース(2022年7月27日)
https://www.nippon-foundation.or.jp/who/news/information/2022/20220727-75254.html
日本財団「THE TOKYO TOILET」プロジェクト特設サイト
https://tokyotoilet.jp/