CULTURE

内覧会Report: 坂茂、片山正通らが公共トイレをデザインする「THE TOKYO TOILET」プロジェクト

CULTURE2020.08.07

2020年8月7日 初掲
8月8日 動画追加
よりよい社会の実現を目指し、貧困や難病に苦しむ子どもたちのサポート、障害者支援、災害復興支援などの活動を国の内外で行なっている公益財団法人日本財団では、誰もが快適に使用できる公共トイレを設置するプロジェクト「THE TOKYO TOILET」を立ち上げ、2021年の夏までに、東京都渋谷区内の公園などに17カ所の設置を進めています。

本プロジェクトは、多様性を受け入れる社会の実現を目的とし、17の公共トイレの設計・デザイナーとして、下記・名だたる建築家やクリエイターらが参画している注目のプロジェクトです。彼らの優れたデザイン・クリエイティブの力で、インクルーシブな社会のあり方を広く提案・発信することを目的としています。

「THE TOKYO TOILET」MAP(内覧会開催時のもの / 2020年9月より配布予定)


「THE TOKYO TOILET」(順番は日本財団が2020年7月31日に発表したプレス資料「トイレマップ」より)
1.笹塚緑道公衆トイレ**(笹塚1丁目地内):小林純子
2.幡ヶ谷公衆トイレ**(幡ヶ谷3-37-8):マイルス・ペニントン(東京大学DLXデザインラボ)
3.西原一丁目公園トイレ(西原1-29-1):坂倉竹之助
4.西参道公衆トイレ**(代々木3-27-1):藤本壮介
5.代々木八幡公衆トイレ**(代々木5-1-2):伊東豊雄
6.はるのおがわコミュニティパークトイレ(代々木5-68-1):坂 茂
7.代々木深町小公園トイレ(富ヶ谷1-54-1):坂 茂
8.裏参道公衆トイレ**(千駄ヶ谷4-28-1):マーク・ニューソン
9.神宮前公衆トイレ**(神宮前1-3-14):NIGO®️(ニゴー)
10.神宮通公園トイレ*(神宮前6-22-8):安藤忠雄
11.鍋島松濤公園トイレ**(松濤2-10-7):隈 研吾
12.並木橋公衆トイレ**(東1-27-22):佐藤カズー
13.東三丁目公衆トイレ(東3-27-1):田村奈穂
14.恵比寿公園トイレ(恵比寿西1-19-1):片山正通 / ワンダーウォール
15.恵比寿駅西口公衆トイレ**(恵比寿南1-5-8):佐藤可士和
16.恵比寿東公園トイレ(恵比寿1-2-16):槇 文彦
17.広尾東公園トイレ**(広尾4-2-27):後 智仁

無印は2020年8月-9月使用開始、*印は2020年オープン、**印は2021年オープン

恵比寿公園 東側入口からの公共トイレ全景(デザイン:片山正通)

このほど、恵比寿駅と代々木八幡駅・代々木公園駅が最寄りの3つの公園でトイレが完成。8月5日(水)正午から一般利用を開始する前の2時間に限り、報道各社に公開されました。

【TECTURE MAG】ではこのメディア向け内覧会を取材。内外観の写真を中心にお伝えします(特記なき写真以外は全てTEAM TECTURE MAG撮影、テキストは一部敬称略)

事業主:日本財団(完成した公共トイレは渋谷区に譲渡)
設計・施工:大和ハウス工業
トイレの現状調査・設置機器提案:TOTO
維持管理:日本財団・渋谷区・一般財団法人渋谷区観光協会

恵比寿公園(恵比寿西1-19-1)にオープンしたトイレをデザインしたのは、ワンダーウォールを率いるインテリアデザイナーの片山正通氏です。

向かって左から、男子トイレ、誰でもトイレ、女子トイレがレイアウトされている

トイレ空間は15枚の壁で構成され、3つのスペースを隔てている

コンセプト:
念頭に置いたのは、建築的なものから距離をもち、遊具やベンチや樹木のように何気なく公園に佇むオブジェクトとしての在り方。
日本におけるトイレの起源は川に直接用便する「川屋」(厠の語源)と呼ばれるもので、縄文時代早期に遡る。土で固められたもの、木材を結び付けて作ったものなど極めてプリミティブで質素であった。そんな佇まいをイメージしながらコンクリートでできた壁を15枚、いたずらに組み合わせ、トイレでありオブジェクトでもある“曖昧な領域ー現代の川屋(厠)”を構築。壁と壁の間を男性用・女性用・だれでもトイレという3つの空間への導入とするなど、人々が不思議な遊具と戯れるような、ユニークな関係性をデザインした。(片山正通)

3つのトイレの出入口に仕切りはなく、車椅子利用者がダイレクトに中に入れるようになっている

男子トイレ内観

男子トイレ ベビーチェア付き

男子トイレ奥から通路側の眺め。内部と通路の間に仕切りは設けていない

中央に配された「誰でもトイレ」のサイン:左から、障害がある人が使える設備、オストメイト用設備、ベビーケアルームであること図示

「誰でもトイレ」内観(電動開閉扉は施錠式)

公共トイレは恵比寿公園内の東側・道路側に位置し、目の前が保育園。敷地の西側は小学校と接している

女子トイレ内観。「暗い」トイレを払拭する照明が日中から点灯している

女子トイレ ベビーシート(おむつ交換台)とベビーチェア付き

女子トイレ 奥から外の通路側の眺め。こちらも個室の扉以外は仕切りなし。

8月5日(水)10:00から開催されたプレス内覧会で挨拶、プロジェクトの概要を説明する笹川順平日本財団常務理事

「THE TOKYO TOILET」概要
トイレは日本が世界に誇る「おもてなし」文化の象徴。しかし、多くの公共トイレが暗い、汚い、臭い、怖いといった理由で利用者が限られている状態にあります。本プロジェクトでは、渋谷区の協力を得て区内17カ所に、性別、年齢、障害を問わず、誰もが快適に使用できる公共トイレを設置します。世界で活躍する16人のクリエイターに参画してもらい、優れたデザイン・クリエイティブの力で、新しい社会のあり方を広く提案・発信することを目的としています。また、従来に比べ清掃をはじめとしたトイレの維持管理を強化することで訪れた人々に気持ちよく利用してもらい、さらには利用者自身が次の人のためを思う「おもてなし」の心の醸成も目指していきます。

「THE TOKYO TOILET」では、トイレの維持管理にも重点を置いているのも特筆すべき点です。
プレス内覧会当日、自ら説明に立った日本財団の笹川順平常務理事が着ているネイビーカラーのツナギ服は、トイレの清掃員のユニフォームです。デザイン監修を、プロジェクト参画者の一人で、神宮前1丁目に2021年にオープンする公衆トイレを手がける、ファッションデザイナーNIGO®️(ニゴー)氏が手がけています。

報道陣のリクエストに応え、フォトセッションでポーズをとる笹川常務理事(右端)

「着てかっこいいと思えるユニフォームにしたかった」と笹川常務理事。仮に自宅であっても、トイレの清掃は気が進まないという人が多いはず。「THE TOKYO TOILET」プロジェクトでは、清掃する前から気分を盛り上げ、気持ちよく清掃に取り組み、その仕事に誇りがもてるようなユニフォームを目指しました。デザインの本質として極めて需要な役目を果たしていると言えます。

8月5日に完成した公共トイレは、上記の恵比寿公園のほか、代々木深町小公園(富ヶ谷1丁目)とはるのおがわコミュニティパーク(代々木5丁目)にもオープンしています。こちらのデザインは共に建築家の坂 茂氏が手がけています。オープン前からSNSでも話題になっている全面ガラス張りの「透け透け」の公共トイレです。

代々木深町小公園 公共トイレ(デザイン:坂 茂)遠景

コンセプト:
公共のトイレ、特に公園にあるトイレは、入るときに2つ心配なことがあります。1つは、中が綺麗(クリーン)かどうか。もうひとつは、中に誰も隠れていないかどうか。新しい技術でつくられた鍵を締めると、不透明になるガラスで外壁をつくることで、トイレに入る前に中が綺麗かどうか、誰もいないかを確認でき、その2つの心配をチェックすることができます。そして夜には、美しい行灯のように公園を照らします。(坂 茂)

画像提供:日本財団(撮影:永禮賢)

左からユニバーサルトイレ、女子トイレ、男子トイレ、3つとも施錠前の状態(内部が透けて見えている) 画像提供:日本財団(撮影:永禮賢)

坂氏がデザインした公共トイレは、後述するはるのおがわコミュニティパーク(代々木5丁目)のトイレのどちらも、全面ガラス張りで、空いている状態ではトイレの向こうの景色まで透けて見えるにも関わらず、使用時にはガラスが曇って内部が見えなくなるというもの。使用前のトイレを写真付きでツイートした情報がネット上でいわゆる「バズった」状態となり、それが大手メディアに取り上げられるなど話題となりました。

向かって右のトイレが施錠された状態(ガラスにスモークがかかって内部が見えない)

右端のトイレ 施錠前、中に人が居ることがわかる

男子トイレ内観

男子トイレ内部から、施錠前のガラスドア越しに外部の眺め(外の景色が透けて見える)

男子トイレ内部から、施錠後のスモークがかかったガラスドア(外の景色が透けて見えなくなった状態、ドアに近づいてノックしている人の拳が左端に写っている)


上記・代々木深町小公園(富ヶ谷1丁目)から、北に向かって歩いて3分ほどのところにある、はるのおがわコミュニティパーク(代々木5丁目)にも、坂 茂氏が手がけたもう1つの公共トイレが設置されています。コンセプトは同じ、ガラスの色が異なり、こちらは寒色系でカラーコーディネートされています。

はるのおがわコミュニティパーク公共トイレ(デザイン:坂 茂)
配置:左から、ユニバーサルトイレ、女子トイレ、男子トイレ

トイレの脇には使用上の注意事項が書かれた案内板が設置されている

ユニバーサルトイレの内部から、施錠前のガラスドア越しに外部の眺め

ユニバーサルトイレの内部から、施錠と同時にガラスにスモークがかかった状態(外部の様子は全く見えなくなる)

左端のユニバーサルトイレが施錠されてスモークがかかった状態

3つ全てのトイレのスモークが解除された(施錠されていない)状態

左端のユニバーサルトイレが施錠されてスモークがかかった状態

男子トイレ内観

女子トイレ内観

3つ全てのトイレのドアの上に庇が設けられ、雨水を地上で受ける”犬走り”の外構もあり

こんなかっこいいトイレが公園にあるなんて羨ましい! と思う人が多いのでは? しかしながら、ここまでの道のりは容易なものではありませんでした。渋谷区のホームページによれば、区立公園の総数は130カ所。今回のプロジェクトで公園と名のつく敷地に設置されるトイレは8カ所、緑道などを合わせても1割強という計算になります。内覧会時の笹川常務理事の説明によれば、設置を検討するにあたり、候補地の周辺住民との話し合いを丁寧に重ねてきたとのこと。候補地によっては、閑静な住宅街の中にある公園もあり、デザイン・機能共に性に優れた公共トイレであっても、それまでに存在しなかった”個性的なハコ”が挿入されることへの違和感、反対もあったそうです。

その一方で、例えば恵比寿公園に完成したトイレは、まるで迷路のようなつくりもあって、使用解禁になる前から、隣接する保育園などの子どもたちに大人気。「トイレは汚いから行くのがヤダ、ではなく、喜んで、進んで、わざわざ外のトイレに行こう!というワクワク感を、従来とは全く逆のイメージを子どもたちに持ってもらえた。これが何よりも嬉しい。まさに私たちが目指していたこと」と弾むように語った財団常務理事の言葉が印象的です。

恵比寿公園内 右側が片山氏がデザインした公共トイレ

17の公共トイレが設置される渋谷区は、2015年(平成27)4月に「渋谷区男女平等及び多様性を尊重する社会を推進する条例」を施行、同年11月に、同性カップルに対するパートナー証明書の発行を(世田谷区とともに)開始した区として知られています。行政として「男女平等・ダイバーシティ」を掲げ、LGBT(レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダーの頭文字をとった略語)に取り組んでおり、全ての人が使える多目的トイレを必ず設けることにしている今回の「THE TOKYO TOILET」プロジェクトは、区の方針と合致するものです。

8月5日にオープンしたこれら3カ所の公共トイレに加え、8月7日には、恵比寿東公園トイレ(デザイン:槇 文彦)、東三丁目公衆トイレ(デザイン:田村奈穂)が、8月31日には西原一丁目公園トイレ(デザイン:坂倉竹之助)、9月7日には神宮通公園(デザイン:安藤忠雄)が竣工します。渋谷区内17カ所全てのトイレの設置が完了するのは、2021年夏頃になる見込みです。


#日本財団公式YouTubeチャンネル:【日本財団】渋谷区内17の公共トイレが生まれ変わる「THE TOKYO TOILET」プロジェクト公開(2020/8/5)

「THE TOKYO TOILET」プロジェクトの詳しい経緯については、日本財団公式ウェブサイト内の「日本財団ジャーナル」に、8月5日付けで掲載された『隈研吾、安藤忠雄…16人の世界的クリエイターが参画する「公共トイレ」プロジェクト。その狙いとは』と題した、笹川常務理事へのインタビューにて、国土交通省が発表した公共トイレに関する調査結果のグラフを添えて、プロジェクトを立ち上げた経緯、今後の展望などが語られています。
さらには、8月10日にプロジェクトの公式ウェブサイトを開設、最新情報を発信していく予定です。

日本財団ジャーナル:『隈研吾、安藤忠雄…16人の世界的クリエイターが参画する「公共トイレ」プロジェクト。その狙いとは』(2020/8/5)
https://www.nippon-foundation.or.jp/journal/2020/47104

THE TOKYO TOILET 公式ウェブサイト
http://tokyotoilet.jp/


【TECTURE MAG】2020/08/07掲載
内覧会Report: 渋谷区×日本財団「THE TOKYO TOILET」プロジェクト 坂倉竹之助デザインによる西原1丁目公園の公共トイレ〈ANDON〉
https://mag.tecture.jp/culture/20200906-12891/

【TECTURE MAG】2020/09/08掲載
内覧会Report: 安藤忠雄デザインによる神宮通公園のトイレ〈あまやどり〉渋谷区×日本財団「THE TOKYO TOILET」プロジェクト
https://mag.tecture.jp/culture/20200908-13142/

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