トーマス・ヘザーウィック(Thomas Heatherwick)が1994年に設立した、ロンドンを拠点に活動するヘザウィック・スタジオ(Heatherwick Studio)は、アメリカやイギリス、中国、シンガポールなど世界各地でプロジェクトを手掛ける建築スタジオです。
「物理的な世界を、すべての人にとってより良いものにする」という思いをもつ200人以上の問題解決者たちからなるチームであり、既存の建物や敷地のもつ歴史や背景を注視し、抱える課題を解決する「ソリューションとしての建築」を数多く手掛けています。
ここでは、ヘザウィック・スタジオによる海外の建築8選と、虎ノ門と麻布台、六本木にまたがる敷地にて建設され、11月24日にオープンした〈麻布台ヒルズ〉を紹介します。
ニューヨーカーのための 都市から離れる”水上の”憩いの場
【リトルアイランド】
〈リトルアイランド(Little Island)〉は、ニューヨーク・ハドソン川の水上に浮かぶ公園です。川底の岩盤に突き刺さる杭であり、そのままデッキとなりプランターにもなる「ポッド」が公園の地面を形成し、高さの異なるポッドが集まることにより独自の地形をつくり出しています。
ニューヨーカーや観光客が都市から離れ、川を渡って木の下に寝転び、パフォーマンスを鑑賞し、夕日を眺め、水や自然界とのつながりを感じられる場所となっています。
都市から離れて自然とつながる水上公園、ヘザウィック・スタジオがハドソン川の水上に設計したパフォーマンス会場を備えた公共公園〈リトルアイランド〉アメリカ
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廃墟と化したインフラ施設を人々に開放するリノベーション
【コール・ドロップス・ヤード】
イギリスのキングス・クロスに建つ〈コール・ドロップス・ヤード(Coal Drops Yard)〉は、ヴィクトリア朝時代に石炭輸送のために建てられ、石炭生産の終焉とともに色あせ、1990年代には一部廃墟と化していたインフラ施設を、公共空間と商業施設へとリノベーションした建築です。
既存の切妻屋根と素材を踏襲しつつ、部分的に浮かせて内側に伸ばすことで2棟をつなげた特徴的な屋根など、歴史的な要素を最大限に残しつつダイナミックに取り入れた新たな要素により、新旧交わる新たな空間を生み出しています。
既存の屋根がうねりつながる新旧交わる空間、ヘザウィック・スタジオによる歴史あるインフラ施設のリノベーション〈コール・ドロップス・ヤード〉イギリス
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ジンの製造から出る廃熱を活用する流線形のガラス温室
【ボンベイ・サファイア蒸留所】
イギリス・ハンプシャー州ラバーストーク市に建つ〈ボンベイ・サファイア蒸留所(Bombay Sapphire Distillery)〉は、ジンメーカーであるボンベイ・サファイアにとって初となる自社生産施設であり、一般の人々も見学可能な施設です。
かつて工場として使用されていた歴史的価値をもつ建物群を再生・修復して生産施設として活用しています。また、特徴的な流線形のガラス温室ではジンの製造に使用される植物が栽培されており、接続しているスチルハウスにおける廃熱を活用し温暖な気候を維持するなど、サステナビリティにも取り組んでいるプロジェクトです。
歴史的な建物群に連なる流線形のガラス温室、ヘザウィック・スタジオが歴史的価値をもつ建造物を再生したジンの生産施設〈ボンベイ・サファイア蒸留所〉イギリス
用途に合わせ眺望を変化させる可動式ファサード
©︎ LAURIAN GHINITOIU
【外灘金融センター】
〈外灘金融センター(The Bund Finance Center)〉は、フォスター アンド パートナーズとヘザウィック・スタジオが共同で設計を行った、上海のウォーターフロント近くに建つ大規模な複合施設です。8棟の建築からなるプロジェクトであり、その中心的な存在が”可動式のベール”に包まれた、フレキシビリティを備えた芸術・文化センターです。
芸術・文化センターは、国際的な芸術・文化交流のプラットフォームや、ブランドイベントや製品発表といった企業活動の場など、幅広い用途での活用を想定しています。そういった用途の変化に対応するため、建物を包む”可動式のベール”が動き、バルコニーに設けられたステージや開放的な浦東方面の景色を見せる、といったように眺望を変化させることが可能となっています。
用途に合わせ眺望を変化させる可動式ファサード、フォスター アンド パートナーズとヘザウィック・スタジオが設計した〈外灘金融センター〉中国
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高層ビルの間に現れる森に覆われた複合施設
【1000 Trees】
〈1000 Trees〉はヘザウィック・スタジオが上海に設計した、森に覆われた山ようなデザインの複合施設であり、現在は第1期工事が完了しています。15エーカー(≒60,700m²)の敷地は、蘇州江の湾曲部に位置する元工業用地であった土地であり、北は川、南は「M50」アート地区、東は小さな森のような公園に囲まれています。
1,000以上の樹木と25万以上の植物を配置するという植栽計画により、大規模な建築でありながら敷地内の生物多様性が大幅に向上し、周辺に対し涼しい環境を提供します。
「龍の鱗」を備えたサステナブルなGoogle新社屋
【Google Bay View】
アメリカ合衆国のシリコンバレーに建つ〈Google Bay View〉は、BIGとヘザウィック・スタジオが共同で設計を行った、2030年までにカーボンフリーエネルギーで稼働することをミッションに掲げたGoogleの新社屋です。
軽量なキャノピー屋根を構成する鋼管によるネット状の構造は、最高の音響制御を実現し、熱上昇を最小限に抑え、全体のエネルギー負荷を低減します。さらに屋上には、3棟の建物合わせて5万枚以上のソーラーパネルを備えた世界初の「ドラゴンスケイル」ソーラースキン屋根を採用し、合計7メガワット近いエネルギーを生み出します。
「龍の鱗」を備えたサステナブルなGoogle新社屋、BIGとヘザウィック・スタジオが設計した、建設とワークプレイスの未来をつくる〈Google Bay View〉アメリカ
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病院の臨床的な環境から解放される 緑地を空間化した建築
【マギーズ・ヨークシャー】
〈マギーズ・ヨークシャー(Maggie’s Yorkshire)〉は、がんに苦しむ人々を支援する慈善団体マギーズ(Maggie’s)が、イギリスのセントジェームズ大学病院の敷地内に開設した、病院という臨床的な環境から解放されくつろぐことができる、緑に囲まれた建築です。内部には図書館やカウンセリングルームなど、くつろぐことができる空間が用意されています。
医療施設に囲まれたこの敷地は元々、キャンパス内に残された数少ない緑地の1つであったため、緑地を持ち上げて庭そのものを建築とするというコンセプトのもと設計されています。
ヘザウィックによる緑地と一体化した建築、病院の臨床的な環境から解放されるがん患者のための空間〈マギーズ・ヨークシャー〉イギリス
シンガポールの自然を纏う104.5mの超高層集合住宅
EDEN Drone Film from Heatherwick Studio on Vimeo.
【EDEN】
シンガポールの歴史ある地区ニュートンに建つ〈EDEN〉は、シンガポールの初代首相リー・クアンユーが描いた「庭園の中の都市」のビジョンと緑豊かな環境から着想した、シンガポールの自然を纏う104.5mの超高層集合住宅です。プライバシーを確保しつつ眺望や自然光を楽しむ集合住宅と、並木道とのつながりを感じられる庭園に囲まれた住宅の双方のメリットを併せ持つよう設計されています。
従来のタワーマンションのサービス機能を分解した四角いブロックを外周に移すことで、各住戸の中央には大きなリビングスペースが広がり、その周りには小さな個室と、植栽を施した貝のような形状の広いバルコニーがブロックの隙間に配されています。
2023年にオープンした日本でのプロジェクト
【麻布台ヒルズ】
2023年11月24日にオープンした〈麻布台ヒルズ〉は、森ビルが虎ノ門・麻布台で手がける新しい街です。その内のガーデンプラザ(C街区低層部)を、リード・アーキテクトとしてヘザウィック・スタジオが設計しています。複合施設と立体的なランドスケープを組み合わせることで、観光客や地域住民が散策しながら互いにつながり、緑あふれるオープンな公共空間を楽しめる場所をつくり出しています。
ラグジュアリーホテルなどが入る高層部のデザインをアメリカの設計事務所ペリ・クラーク・ペリ・アーキテクツ(PCPA)、商業エリアを藤本壮介がそれぞれ担当しました。