180の島々が集まり、4つの有人島からなる島根県隠岐諸島。このうちの1つ、人口約2300人の海士町(あまちょう)に、既存の隠岐ジオパークの新たなビジネスセンターと、ホテルから成る施設〈Entô(エントウ)〉が2021年7月に開業します(Entô 2020年12月15日プレスリリース / 2021年6月21日プレスリリースにて開業日を7月1日と発表)。
隠岐ジオパークとは、カルデラ(島前カルデラ)という特異な地形をエリアに有し、世界44カ国161の地域から成るユネスコ世界ジオパークにも参加している隠岐諸島が、その大地の成り立ちや独自の生態系、人の営みなども含めて雄大な自然を有する諸島の魅力を世界中へ発信するための施設で、2012年に公式ウェブサイトをオープンしています。
来夏にオープンする〈Entô〉では、ビジネスセンターの機能を引き継ぐと同時に、島を訪れる観光客と島民の交流施設としての役割も担います。
建設・開業の経緯は、同町には現在、ホテルが1軒しかないこと。その開業も1971年に誕生した県営の国民宿舎「緑水園」まで遡ります。
その後、観光を基軸に地域振興、雇用の場の確保をはかるため、1994年に島根県より緑水園が買い取られ、現在の本館を増築して〈マリンポートホテル海士〉と改名し、本館+別館(緑水園)の宿泊施設として現在に至ります。この1ホテルだけで、これまで数多くの観光客を受け入れてきました。
海士町では、2017年に「海士町観光基本計画」を制定。日帰りが難しい離島観光の最重要施策は宿泊施設の充実にあるとして、インバウンドを含めた今後の需要に対応できるよう、48年間にわたり使用されてきた別館を解体し、本館と一体となった新たな施設の建築を企図する「ホテル魅力化プロジェクト」が立ち上がりました。
2021年7月より「マリンポートホテル海士本館」から〈Entô〉と名称も変更する新施設は、付加価値を足していくようないわゆる都市型のラグジュアリーではなく、都市から遠く離れた離党という条件を生かし、隠岐の大自然を最高級の価値として、「なにもない」という新しい旅の贅沢を提案、この群島ならではの豊かさを提供するというコンセプトを掲げます。。
「ないものはない」とは、小さな離島である海士町のキャッチコピーでもあり、「なくてもよい、大事なことはすべてここにある」という2つの意味を有しています。同町ではこれまでこの「ないものはない」を掲げた逆転の発想で、挑戦を繰り返してきました。2021年夏にオープンする〈Entô〉も、まさしく価値の転換に挑戦するプロジェクトとなります。
施設の設計は、MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO(マウント フジ アーキテクツ スタジオ / 原田真宏+原田麻魚)、ビジュアルアイデンティティ・ネーミング開発を原 研哉氏が率いる日本デザインセンターの三澤 遥氏が担当します。施設は、Seamless(隔たりや境目のないこと)、Honest(正直さ、素直さ)を設計コンセプトとし、目の前に広がるジオパークの風景そのものを全身で感じられる空間で計画されています。
構造は、離島建築の特殊性を勘案し、CLT(Cross Laminated Timber / クロス・ラミネイティド・ティンバー)工法で施工。隣接する港と同様に、木の温かみを全面に表現し、島前カルデラが眼前に広がる設計となっています。
ホテルとしての規模は、現在ある宿泊施設に加え、客室(全36室、最大定員90名)・ラウンジ・テラス・研修室・収蔵庫・レストラン・大浴場を持つ複合施設となります。
〈Entô〉は、海士町政史上、最大規模の予算での投資が行われます。ホテルの存在意義、島における観光業の意義について、住民らとの対話を続け、海士町が取り組んできた「人づくり」と「仕事づくり」をつなげる舞台となることを目指します。
〈Entô〉公式ウェブサイト(旧称マリンポートホテル海士)
https://www.oki-ama.com/