東京・青山にある竹尾のショールーム・青山見本帖にて、紙で仏壇をつくるプロジェクトの成果を披露する展覧会「AOYAMA PRODUCT STOCK vol.01 かみと祈り -Paper Altar-『紙の仏壇』designed by Haruka Misawa / Koichiro Oniki」が10月27日まで開催されています。
洋紙専門店として1899年(明治32)創業、紙の専門商社として知られる竹尾では、これまでに自社で培ってきた紙の加工技術とノウハウ、展開する「紙」の多彩さ・多様さなどをさらに活かすため、外部のさまざまな企業とタッグを組み、一般販売を目的とした新たな商品を開発するプロジェクト「AOYAMA PRODUCT STOCK」を立ち上げました。
プロジェクトの第一弾となる今回、竹尾は、仏壇・仏具製造の京都の老舗企業の1つ、若林佛具製作所とタッグを組みました。さらにデザイナーとして、鬼木孝一郎氏と三澤 遥氏が参画。4者が取り組んだのは、紙素材を用いて仏壇をつくること。約1年の開発期間を経て、誕生したのが〈Paper Altar〉です。商品として来春に予定している発売を前に、4つのプロトタイプが本展にて披露されています。
AOYAMA PRODUCT STOCK 第一弾「-Paper Altar- 紙の仏壇」プロジェクト チーム
企画・製作:竹尾、若林佛具製作所
デザイナー:鬼木孝一郎(鬼木デザインスタジオ代表)、三澤 遥(日本デザインセンター三澤デザイン研究室主宰)
プロデュース:蒔田勇輔(コンストラクト)
青山見本帖では、9月26日にメディア向けに説明会を開催、『TECTURE MAG』ではこれを取材しました。プロジェクトのメンバーによるレクチャーのほか、個別に話を聞いています。
参画した2人のデザイナーのうち、鬼木氏は、商業店舗など空間設計・デザインの仕事が多く、プロダクトのデザインは今回が初となります。しかも、「紙」は可燃素材であり、強度も高くないため、とりわけ防炎の規制がある商業店舗では用いてこなかったとのこと。素材としても今回初めて向かい合うことになりました。
「紙とは何か、自分なりに勉強し、解釈する中で、紙を用いた仏壇としてこのようなかたちがあり得るのではないかと、2つのデザインを提案しています。」(鬼木氏談)
デザインコンセプト
家庭の仏壇の由来は寺院の内陣を縮小したものとされている。そのため、下地の素材として木や金属を使用し、様々な工芸技術によって丁寧に装飾されたものが多く作られてきた。住環境や生活様式の変化により従来の仏壇の姿は消えつつある中、このプロジェクトの目的は、素材を身近にある「紙」とすることにより、宗教的な形式や慣習から離れ、現代のライフスタイルに即した祈りのカタチを探すことにあると考えた。
紙だからこそできる形状や質感を探求する中でその軽さと柔らかさに魅力を感じ、手で触れることが祈りに繋がるようなものができないかと模索した。日常の中でオブジェのように身近にその存在を感じながら、触れることで故人を思い出し時間を共有する、触れる動作がスイッチとなる祈りのカタチを目指した。(鬼木孝一郎)
「紙は、時として軽く見えたり、肌触りが良かったり、つい手にとって触ってみたくなるような魅力をもった素材だと思います。人が触れることで祈りというものが始まる、どちらのプロダクトもそのような考えをもとにデザインしました。」と鬼木氏は説明します。
「正五角形による正十二面体の塊(KAI)は、一見すると重量がありそうですが、手にもつと、紙ならではの軽さがあり、中を開いてみると、外側のイメージとは全く異なるイメージが現れます。白いほうの作品〈TOH〉は、ダンボールでつくった正六角形を積み重ねてできており、透過の構造を生かした仕掛けを施してあります。ぜひ、窓際のサンプル展示コーナーで手に取ってみてください」(鬼木氏談)
〈KAI〉のデザインについて
一見すると中まで詰まった重い塊に見える正十二面体は、開くことで中に空間が現れる仕掛けとなっている。正十二面体は5種類しかない正多面体の1つで、その高い対称性をもった形状は普遍的な美しさを感じるものである。閉じた時は安定したオブジェとして生活の中に存在し、開いた時は祈りの空間へと展開する。大切な人との思い出を入れる場所として、開閉によってその佇まいが大きく変化する切り替えのある祈りのカタチとなった。(鬼木孝一郎)用紙
GAファイル ブラック 四六判 Y目 450・900kg
NT ラシャ グレー70 四六判 Y目 210kg
ハイビカE2F ゴールド 四六判 Y目 120kg
製作協力:サルトル、ニューウェル合紙
〈TOH〉のデザインについて
軽さと強度のバランスの優位性から、段ボールは古くより木材に代わる資材として梱包用に使用されてきた。その構造を支える波形状の美しさと断面方向から見た際に現れる”透け感”に着目し、正確にカットした60枚の段ボールを積み上げた六角柱を制作した。
内部の一部をくり抜くことで透ける度合いを調整し、光にかざすと人のシルエットが薄らと浮かび上がる仕掛けを施した。光に向かって持ち上げる動作が故人への祈りのきっかけとなり、前向きな気持ちへと導くカタチを目指した。(鬼木孝一郎)
「ダンボールは生まれてから約120年の間、ほぼ形状が変わっていない、軽さと強度のバランスがとれた素晴らしい素材。その強度を保っているのがフルートと呼ばれる”波”の部分。僕はこの”波波(なみなみ)”の形状に美しさを感じていて、なにか表現として使えないかと考えました。」(鬼木氏談)
〈TOH〉は、紙に耐水性と適度な強度を与える超越コーティングを厚さ約3mmの白い紙に施し、紙じたいに強度をもたせているとのこと。これにより、正六角形にカットしても端部が潰れることなく波形状を保っている。かつ、”波の形状”が最もきれいに出る面でカットした正六角形を60枚積み上げ、正六角柱をつくりあげています。
「横から見ると光を透過するダンボールの特徴を、なにか祈りのきっかけとなるようなかたちにできないかと考え、見る角度によって内部に人のシルエットがうっすらと浮かびあがるカットを内部に施しています。」(鬼木氏談)
もうひとりのデザイナー三澤 遥氏は、竹尾が主催する「TAKEO PAPER SHOW」にも出品したことがあるものの、商品化を前提にした今回の依頼に対して、当初は「紙」という素材と「仏壇」という伝統あるかたちとの間が繋がりにくかったといいます。
「仏具とは、祈りのかたちとはどういうものなのか、ギリギリまで若林佛具製作所さんに質問をしていろいろと教えてもらい、『毎日手をあわせて拝みたくなるようなかたちを純粋に考えてくれれば』という言葉から考え始めました。そして、紙というものを使って可能性をどこまで膨らませられるか、紙という私の大好きな素材でどういったことができるかを考えました。」(三澤氏談)
〈積み具〉のデザインについて
積む、組む、拝む。日々、手で触れることで少しずつ変化していく祈りのかたちです。積み上げては消え、消えてはまた別の形状として積み上がる。それは供えた花を取り替えたり、線香を焚いたりする行為に近いかもしれません。暮らしの中に置く仏壇だからこそ、さまざまな空間に自然と溶け込む佇まいを探りました。
また、ブロックの裏側にある小さな凹みには、故人の思い出をそっと忍ばせることができます。外箱はそのまま仏壇の台座になり、持ち運びもしやすいサイズです。紙という身近な素材だから実現できる、人と祈りの親しい距離感や関係性をデザインしたいと考えました。(三澤 遥)用紙
GAファイル ブラウン 四六判 Y目 900kg
GAファイル ブラック 四六判 Y目 900kg
製作協力:小林断截、東北紙業、ニューウェル合紙
「なにかこの紙の仏具と毎日コンタクトをとらなければいけないような行為を入れたかった」と三澤氏。コミュニケーションをとる媒体として紙があり、紙でできた塊を動かしてお線香をあげる。「そういった日々の行為が、故人との会話にもつながって、大事な人を亡くした家族の方がなにか手を合わせられる時間がそこに生まれたらいいなと思いました。」(三澤氏談)
〈積み具〉のデザインでは、三澤氏は「純粋に、彫刻を削り出したようなかたちにしたかった」と言います。厚さ3mmのブラウンとブラックの2色の紙だけでできている〈積み具〉は、実は0.1mm以下の精度でつくられており、湿気などで”暴れて”しまう紙でこのようなカチッとした塊をつくることは、本来はとても難しいとのこと。「職人さんたちの高い技術によって、商品化できるレベルで仕上げてくれました。」(三澤氏談)
〈white cube〉のデザインについて
光が差すと色が宿る。無数の穴の空いた手のひらサイズの紙の立方体。箱の中に箱があり、その箱の中にも指先にのるほどの小さな箱が入っています。箱の内側の面には、一見するだけではわからないくらいにほのかな色が刷られています。その色が反射光によって近くの面に映り込み、溶け合い、まるでシャボン玉の構造色のように時間とともに表情が変化していきます。繊細な紙の中で起きる動的な現象。小さな空間に広がる大きな世界。いつまでも変わり続ける無限で儚い存在感。はっきりとは見えないからこそ存在を感じる「なにか」と、祈りによって向き合う気持ちが静かに湧いてくるかたちです。(三澤 遥)用紙
OK ACカード 白 四六判 T目 132kg
製作協力:ロッカ、ショウエイ、有限会社美篶堂
この〈white cube〉は、文字通り一見すると「白い箱」ですが、光の加減と箱の向きで、淡い色が浮かび上がります。
「外側の面は白いのですが、その裏側、キューブを組み立てたときに内側となる面には、グラデーションで色をつけて刷っています。キューブにしたものに光があたると、内側の色が影響しあい、反射光が反対側の面に映り込みます。これによって色がついているように見えるのです。この淡い色は、時間帯によって、またどこから光が入ってくるかによっても反射光が変わり、どんどん変化していきます。印刷だけで動的な変化ができたらおもしろいとチャレンジしたプロダクトです。」(三澤氏談)
「この〈white cube〉では、紙でシャボン玉をつくることをテーマにしました。シャボン玉は丸くてすぐに消えてしまうものですが、紙もプロダクトとしての耐久性があり、経年で壊れてしまう、時間軸で考えればとてもはかないプロダクトですが、でも、だからこそ大事にしようと思ってくれるのではないか。」(三澤氏談)
今回誕生した4つのプロトタイプの中でも、鬼木氏がデザインした〈TOH〉と、三澤氏による〈white cube〉は、光の透過で見え方が変わってくるため、ぜひ会場で手に取ってご覧いただきたい。
10cmの正立方体〈white cube〉は、内部に3つの正立方体が内包されています。かつ、それら全ての面は小さな孔(あな)がパンチングされていて、光を通し、かつ、視認した際の第一印象を超える”軽さ”です。鬼木氏の〈KAI〉も同様で、持ち上げたときに思わず声を上げてしまいました。
展覧会は青山見本帖にて10月27日まで行われます。
蒔田勇輔氏(本プロジェクト プロデューサー)コメント
「竹尾にとって今回のプロジェクトは、資材としての紙が備えている可能性をさらに掘り進めるための取り組みだったと思います。同社ではこれまでに「竹尾ペーパーショウ(TAKEO PAPER SHOW)」[*1]などにおいて紙とデザインと加工技術を紹介するさまざまな展示会を行なってきましたが、展示作品の商品化には至りませんでした。「AOYAMA PRODUCT STOCK」プロジェクトは、そこにチャレンジしています。
第一弾となる今回は、若林佛具製作所と2組のデザイナーとともに、販売できる“紙の仏壇”というプロダクトの開発に取り組みました。
一部の展示品は、手にとって動かすことができます。実際に触ってみると、見た目とは重さが違っていることや、紙のいろいろな表情、質感というものを感じとることができるでしょう。10月27日までの展示期間に、ぜひ多くの方々に見ていただきたい展示会です。」
若林佛具製作所 コメント
「私たちはミッションとして『工芸の技術を育て、高め、次の世代へ継承する』と『手をあわせる心と文化を守る』の2つを掲げています。仏壇をつくる主材料として、木材以外の素材の可能性をかねてより探ってきました。今回、紙という新たな素材にシフトしてみて、改めて、紙はいろいろな可能性をもった素材であることを実感しました。
今回披露するプロトタイプは、一見すると、”仏壇”と称してよいもののだろうかと思うかもしれませんが、三澤さんと鬼木さんがデザインした4つの製品は、紙ならではの祈る場所をそれぞれに表現しています。。我々はこれからも、手をあわせる場所とは何かを追求し、ものづくりに取り組んでいきます。」
竹尾 青山見本帖 コメント
この青山見本帖は、クリエイターのみなさんにゆったりと私たちの商品を見ていただけるようにとオープンしました。ファインペーパーを7,000種類ほどご覧いただけます。元は青山246沿いにあり、南青山に移転して11年が経ちます。
これまで、竹尾の紙を用いたパッケージデザインやDMなどの展示をいくつも行ってきましたが、製造元として商品をつくっていくという新たな領域に踏み出したのが、「AOYAMA PRODUCT STOCK」というプロジェクトになります。ファインペーパーからファインマテリアル、さらに今回のファインプロダクトへ。まずは今回の第一弾を来春に商品として販売し、今後も新たな取り組みを推進していく計画です。
デザイナー:三澤 遥(日本デザインセンター)、鬼木孝一郎(鬼木デザインスタジオ)
会場:竹尾 青山見本帖
所在地:東京都渋谷区渋谷4-2-5 プレイス青山1F
会期:2023年9月26日(火)〜10月27日(金)
営業時間:10:00-18:00
休業日:土・日曜、祝日
入場料:無料
共催:竹尾 青山見本帖、若林佛具製作所
プロデュース:蒔田勇輔(コンストラクト)
アートディレクション:内田喜基、和田卓也(cosmos)
製作協力:エースパッケージ、小林断截、サルトル、ショウエイ、泰清紙器製作所、超越化研、東北紙業社、ニューウェル合紙、美篶堂、ロッカ
問合せ先:竹尾 青山見本帖(TEL: 03-3409-8931)
展覧会詳細
https://www.takeo.co.jp/news/detail/004125.html
[*1] 竹尾ペーパーショウ(TAKEO PAPER SHOW)
1965年以来、竹尾が開催している日本国内の紙関連業界において唯一かつ最大規模の展覧会。コロナ期を経て、今年10月13日から22日まで東京・神田にて5年振りに「TAKEO PAPER SHOW 2023」が開催された。
[*2] 2019年に蒔田氏がプロデューサーを務め、表参道で展示会を開催(会期:2019年10月18日〜27日、会場:GUM表参道)
若林佛具製作所「raison d’être」exhibition
https://www.wakabayashi.co.jp/project/raison-de-etre/
※特記なき本稿の画像(会場写真)撮影:TEAM TECTURE MAG