群馬県前橋市に2020年12月にオープンした〈白井屋ホテル〉に、現代美術作家の杉本博司と建築家の榊田倫之による新素材研究所が設計した「真茶亭」が先ごろ完成、内外観の画像が公開されました(白井屋ホテル2021年1月15日 プレスリリース)
江戸時代の創業の歴史ある宿の再生プロジェクトである〈白井屋ホテル〉は、建築家の藤本壮介氏が既存建物のリノベーションと新築を手がけたことでも話題を集めています。プロダクトデザイナーのジャスパー・モリソン氏、作家のレアンドロ・エルリッヒ氏といった国内外のクリエイターも参加しており、杉本博司氏もその1人。ホテルを訪れた人を迎えるフロントの後ろの壁には、杉本氏のライフワークである写真作品のシリーズ「海景」が展示されています。
特別個室がしつらえられたのは、新築されたグリーンタワーの1階部分。素材や職人技にこだわりぬいた新たな空間「真茶亭」は、同ホテルの特別個室として、プライベートの会食や催事などに使われます。
アートデスティネーションである白井屋ホテルに、空間そのものが作品のような場がまた1つ増え、訪れた人に格別なひとときを提供します。
「真茶亭」概要
名称:真茶亭(まっちゃてい)
所在地:群馬県前橋市本町2-2-15 白井屋ホテル内(グリーンタワー 1階)
用途:特別個室(完全予約制)※2021年11月5日より「白井屋ザ・バー 真茶亭」営業を開始(2021年10月11日 プレスリリース)
設計:新素材研究所: 杉本博司 榊田倫之 山村和巳
照明計画:エフ・ディー・エス
施工:イシマル
延床面積:25.9m²
竣工:2020年12月
新素材研究所 / 杉本博司+榊田倫之
新素材研究所は、現代美術作家の杉本博司と建築家の榊田倫之が2008年に設立した建築設計事務所です。その名称に反して、古代や中世、近世に用いられた素材や技法を研究し、それらの現代における再解釈と再興を活動の中核に据えています。すべてが規格化され表層的になってしまった現代の建築資材に異を唱え、敢えて扱いが難しい伝統的素材の建築的な可能性を追求する。それは近代化のなかで忘れられつつある高度な職人の技術を伝承し、さらにその技術に磨きをかけることでもあります。時代の潮流を避けながら旧素材を扱った建築を造ることこそが、今もっとも新しい試みであると確信し、設計に取り組んでいます。
(榊田の榊の漢字は、木ネ申)
「真茶亭」由来
室内の扁額にも揮毫されているこの名称は、本施設の奥に佇む茶室[※]の壁の緑色、ホテルの周囲に溢れる自然の緑色に調和しながら、真の抹茶色を体現した土壁の色に由来する。扁額は、杉本博司によって揮毫された。
空間について
柔らかく光を透過する積層ガラスのファサードによって、内部空間は昼間と夜間で違う表情を見せる。この割肌が特徴的な積層ガラスは、厚さ19mmのフロートガラスを硝子職人の手で一枚一枚小口を割って表情をつけている。さらに、割肌の表情を読みながら、100枚以上のガラスを手作業で丁寧に重ね、壁として仕上げた。室内中央を占める無垢の杉材を使用したカウンターは、そのうつくしい杢目を、ボトルクーラーとして据えた石製立ち手水からこぼれる水の波紋の広がりと、波打っていく様に見立てている。澄んだ水の流れを喚起する杢目を選び、手水から自然に連なるよう工夫した。正面に扁額を飾る土壁は、見切り材の枠を極力細くし、壁の色と馴染むよう神代杉を用いた刃掛け納まりとした。真の抹茶色とは何かを体現し、繊細な配合で顔料を混ぜ合わせた左官仕上げが施されている。
※茶室について
「真茶亭」の奥には、白井屋ホテルの前身・旧白井屋の最後の女将である関根春江さんが愛用した緑色の壁の茶室「春月(しゅんげつ)」を移築した空間もあり、地元の茶会やコミュニティーの集まり、ワークショップなどの場として貸し出す予定です。
Web Site Top Page Photo: ©️Hiroshi Sugimoto / Courtesy of New Material Research Laboratory
白井屋ホテル公式ウェブサイト
https://www.shiroiya.com/