カリモク家具が東京・西麻布に構える拠点〈Karimoku Commons Tokyo〉1Fギャラリースペースにて、デザイナーの辰野しずかによる展覧会が12月17日より開催されています。
辰野の初めての書籍『a moment in time -ume-』が刊行されたことを記念した作品展で、会期は年末年始休業期間をはさみ、2023年2月5日まで。入場無料。
ものづくりの背景に見えるポジティブなエネルギーを見つけ、それらを膨らませて可視化してゆく、そんな視点から、家具、生活用品、ファッション小物などのプロダクトデザインを中心に活動する辰野しずか。書籍『a moment in time -ume-』は、樹齢60年ほどの梅の木からインスパイアされ、辰野自身が近年、興味をもっていた草木染めの技法で抽出された梅の木の色を、砂糖と水を煮詰めて閉じ込めた作品〈梅の飴〉が主題です。
素材に用いられた「飴」は、環境に左右されながら溶けたり結晶化したりと、同じ姿をとどめず、今日と明日と全く違う表情を見せ、予想がつかない、一期一会を楽しむようなアートとなりました。
さらに本展では、この〈梅の飴〉に加えて、カリモク家具とコラボレーションした新作も披露されています。
a moment in time -trees-
自然と向き合うものづくり2021年、数カ月後にお別れする運命である梅の木との出会いから、草木染めで染めた飴の作品が生まれました。
植物が刻一刻と異なる色に変化するように、飴も溶けたり結晶化したりと同じ姿をとどめることはありません。この飴の作品が持つ「コントロールすることができないうつろい」は、同じ事象にとどまり続けることのない私たちの日常と共通しており、どちらも今、「その瞬間」を感じられる体験だと考えられます。梅の飴作品の「その瞬間」を記録に残すため、『a moment in time –ume-』という本を作りました。
この度、本の出版を記念して、Karimoku Commons Tokyo 1Fギャラリースペースにて、個展開催のご縁をいただきました。
今年の夏にカリモク家具の工場を訪れ、木材を採取する森の話をうかがいました。ひとつひとつ違う表情をしている森の木々の、その自然と生まれてくる個性を尊重しながら家具をつくっていることを知り、カリモク家具の家具の中にも木々の「その瞬間」の記録への思いを感じました。
展示の作品づくりのために、カリモク家具の家具に使われている木の枝を分けていただき、色を抽出し飴にとじ込めて、それを同じ種類の木と継ぎました。使用が難しい端材や、小さな木材を継なぎ合わせて使用するというカリモク家具が行う取り組みの1つである「継ぐ」という技術は目立たないけど、森全体を生かし、木を活かすためにはとても大切な役割を担っているのだと改めて思います。
「a moment in time –trees-」展では、カリモク家具とのコラボレーションの作品と、本に掲載されている梅の飴の作品や新作を展示します。木も飴もいつかは、土に還る時がきます。そんな天然素材の共通点を感じながら、ものづくりについて改めて考えるきっかけとなりました。この展示が、誰かの記憶の片隅に少しでも残ることができたらと思っています。
作家プロフィール
辰野しずか / Shizuka Tatsuno
Shizuka Tatsuno Studio代表 クリエイティブディレクター/デザイナー
1983年生まれ。ロンドンのキングストン大学プロダクト&家具科を卒業。デザイン事務所勤務を経て、2011年に独立。2017年より株式会社ShizukaTatsuno Studioを設立。家具、生活用品、ファッション小物のプロダクトデザインを中心に、企画からディレクション、ブランディング、付随するグラフィックデザインなど様々な活動を国内外で行っている。2021年からは実験的なアート制作もスタートし活動の幅を広げている。公式ウェブサイト
shizukatatsuno.com
会期:2022年12月17日(土)〜2023年2月5日(日)
営業時間:12:00-18:00
定休日:日曜(但し、12月18日・25日、2023年2月5日を除く)、年末年始休業期間(12月27日〜1月8日)
会場:Karimoku Commons Tokyo
所在地:東京都港区西麻布2丁目22-5(Google Map)
入場料:無料
主催:Sizuka Tatsuno Studio
協賛:カリモク家具
協力:LUFTZUG、Hayashi Takuma Design Office、uraku、T THREE FARM、草木工房、山本真澄、にちようひん
※会期中、会場上階のショースペースでは、これまで辰野しずか氏が手掛けたガラスや陶器などのプロダクトが、カリモク家具のコレクションと共に展示される
Karimoku Commons ウェブサイト
https://commons.karimoku.com/
著者:辰野しずか
執筆:筏 久美子(TOTOギャラリー・間)、皆川 明(ミナ ペルホネン)、土田貴宏、辰野しずか
翻訳:野見山 桜(翻訳補佐:朴 加代子)
写真:Gottingham(ゴッティンガム)
判型:230x300mm
仕様:継背上製本(ハードカバー)
総頁数:112頁
定価:7,920円(税込)
ISBN:978-4-9912872-0-6 C0072
発行人:辰野しずか
発行所:Shizuka Tatsuno Studio
発行日:2022年12月16日
本書は、独立10年目にして初めて自身のオリジナル作品を制作し、東京・代々木上原に期間限定で設置されたオルタナティブスペース「などや」にて開催された展覧会をきっかけに編纂されました。
「などや」での展覧会開催を作家が打診されたのは、折しもパンデミックが世界中を襲い、これまでの常識について誰もが立ち止まり多くを考えていた時分。辰野自身も同様に、一人の人間として、またデザイナーとしてさまざまに思考を巡らせていました。その渦中に開催する展覧会の作品として制作されたのが、本書の主題である「梅の飴」です。
会場となった「などや」の庭に存在した樹齢60年ほどの梅の木からインスパイアされ、辰野自身が近年、興味をもっていた草木染めの技法で抽出された梅の木の色を、砂糖と水を煮詰めて閉じ込めた「梅の飴」は、辰野がこれまでのクライアントワークでしばしば扱ってきたガラスをはじめとする透明な素材のプロダクトさながら、そのものが生まれた自然背景を彷彿とさせ、凛とした佇まいを湛えるアートオブジェに仕上がりました。
しかしながら、この素材に用いられた「飴」はガラスや樹脂のような安定性は持たず、環境に左右されながら溶けて、結晶化し、かたちを変え、いずれ自然に土に還ります。「はかなくも作品が消えてしまった後にも、人の心に、記憶の片隅に残るもの。」
本書はそのテーマにより生み出された作品の、構想から制作に至るまでの記録です。
作品制作:辰野しずか
作品制作アシスタント:小松崎慎梧
作品染色監修・制作協力:石崎由子(uraku)
協力:などや、uraku、T THREE FARM、草木工房
クリエイティブディレクション:辰野しずか、林 琢真(Hayashi Takuma Design Office)
グラフィックデザイン:林 琢真(Hayashi Takuma Design Office)
編集:Shizuka Tatsuno Studio
校正:阿部田美樹、三條陽平(ORDINARY BOOKS Co.,Ltd)、石崎由子
印刷・製本:アイワード