インドの現代アーティスト、バッジュ・シャーム(Bhajju Shyam)氏の大規模展「Bhajju Shyam KYOTO(バッジュ・シャーム・キョウト)」が、京都を代表する仏閣の1つである真言宗総本山 東寺(正式名称 教王護国寺)の食堂(じきどう)にて8月11日より開催されています(本稿の会場写真撮影:helvetica)。
バッジュ・シャーム氏は、インド中部のパタンガル村の生まれ。”森の民”とも呼ばれる少数民族・ゴンド族の出身。同部族には古くから音楽とともに伝えられてきた物語と絵画表現があり、それを独自の視点と現代的な感覚、シンプルなストーリーテリングを交えて絵画に表現し、現代アートとして確率させたのが、バッジュ氏の叔⽗、ジャンガル・シン・シャーム(1962-2001)でした。師匠でもあった叔父の技法を継ぐバッジュ氏は、その表現を拡張し、国際的に活躍しています。
バッジュ・シャーム氏の主な作品としては、工芸品のようなハンドメイド絵本・アートブックで世界中から高い評価を受けている、南インド・チェンナイに拠点を構える出版社・タラブックスとの共同制作によるアートワークの数々が挙げられます。中でも、2008年の「ボローニャ・ブックフェア」で「ラガッツィ賞」を受賞した共著『The Night Life of Trees』(邦訳:『夜の木』)は、現在では日本を含めた世界8カ国語に翻訳されています。
本展の展示デザインは、京都の新進気鋭のデザインファーム・NEW DOMAINとVISIONSが担当。平安時代からの床も残る建造物(食堂)の中に、波板を用いて新たな展示空間を構築しています。
展示作品の額装は、岡山県内の里山に拠点を構え、古材などを用いたハンドメイド作品を制作しているkinowa(キノワ)が担当。約40点ひとつ1つで異なる額装、現代の汎用材(波板)を用いた展示空間とのコラボレーションも本展の大きな見どころとなっています。
作家プロフィール
バッジュ・シャーム氏
ゴンド・アートを今に伝える現代アーティスト。1998年パリでのグループ展参加を⽪切りに、ロンドン、ベルリン、ミラノ、オランダなど世界各国の美術館やギャラリーで個展を開催。2018年にはゴンド・アーティストとして初めてインドのパドマ・シュリー勲章を授与されている。
代表作に、タラブックスと制作した『The Night Life of Trees』(ドゥルガー・バーイー、ラーム・シン・ウルヴェーティとの共著。邦訳:『夜の⽊』⻘⽊恵都訳、タムラ堂、2012年)、『Creation』(邦訳:『世界のはじまり』ギーター・ヴォルフ文、⻘⽊恵都訳、タムラ堂、2015年)、『The London Jungle Book』(邦訳:『ロンドン・ジャングルブック』ギーター・ヴォルフ、シリシュ・ラオ文、スラニー京⼦訳、三輪舎、2019年)などがある。
作家コメント
「全体として、森羅万象や人、動物の日常を扱っています。その中でも会場正面に展示している〈Search(探索)〉という作品は、ゴンド族に伝わる創世物語を描いています。神の遣いとして、大きな鳥たちは水に覆われた地球上で陸を探すように命じられ、旋回しながら飛翔しています。また、キャンバスの全面を覆うように描かれた膨大な量のハチ達は、新たな陸へと蜜(新たな生命の種)を運んでいる様子を表しています。
これらは、私がテーマとしている自然や人、動物の日常の基礎となる不可欠な要素であり、世の中の最も本質的な部分を描いた作品です。
まずはこの作品を鑑賞した上で、展示室内の作品をご覧いただけると嬉しく思います。」
滋賀県立美術館(SMoA)ディレクター・館長 保坂健二朗氏コメント
「トライバル・アート」(部族のアート)などというと、「ほっこり系?」なんて思われそうですが、バッジュ・シャームの場合は”絵画”として見ても相当面白いんです。たとえばメインビジュアルともなっているライオンの絵。全体の形はほぼ左右対称です。普通それだと、静的な感じになります。でも、彼の場合は違う。背中の肩のあたりを見てください。肩の部分の模様はほぼ左右対称です。それに対して、肩甲骨のあたりは違う。非・対称になっていて、しかも、そこを満たしている模様がゆるやかなうねりを生みだしている。これだけでも結構すごいと思うのですが、それ以上に見逃してほしくないのが、背中を縦に貫く細長いパート。その内側の模様は黒の線で描かれています。それに対して、パート自体を象る線(上下方向の線)は赤なのです。とーーーーっても繊細な処理がなされていて、そんな細部に及ぶ配慮の結果に、ライオンのかわいさが生まれている。絵画って、そういうものなんです。他にも、髪の毛を媒介にして女性と動物とが自然に一体化している作品があったりと、とにかく巧みな絵画が連続するのが今回の展覧会。実物を見ないと気づけないところも多々あるので、この機会をどうぞお見逃しなく!
本展「Bhajju Shyam KYOTO」は、バッジュ・シャーム氏の日本における初個展となります。
このほど初めて来日を果たした作家は、会期中、市内の複合施設・河岸ホテル(KAGANHOTEL)にてアーティストインレジデンスによる作品制作にも取り組んでいるとのこと。同ホテル内では、東寺での会期にあわせて、バッジュ・シャーム作品の展示も特別に行われています(観覧可能時間:土日曜・祝日 12:00-17:00、入場無料)。
会期:2023年8月11日(金・祝)~8月29日(火)
会場:真言宗総本山 教王護国寺(通称:東寺)食堂(じきどう)
所在地:京都府京都市南区九条町1番地(Google Map)
開場時間:9:30-16:30
入場料:無料(東寺拝観料 不要)
主催:バッジュ・シャーム・キョウト実行委員会
企画:JAPANDIA, VISIONS
協賛:京都信用金庫、宗教法人 日本ヨーガ禅道院、THE SWEETS CARAMEL SAND COOKIES
特別協力:河岸ホテル、Indian Restaurant Thilaga.
協力:京都市動物園
後援:京都市、京都市教育委員会、エフエム京都、KBS京都、在大阪・神戸インド総領事館、NPO法人 日本インド文化経済センター(NICE)
展示デザイン:NEW DOMAIN、VISIONS
施工:NEW DOMAIN
額装:kinowa
関連特別展
会期:2023年8月11日(金・祝)~8月29日(火)
会場:河岸ホテル(KAGANHOTEL)
所在地:京都府京都市下京区朱雀宝蔵町99(Google Map)
https://kaganhotel.com/
展覧会公式サイト
www.bhajju-shyam.jp
Instagram:@Bhajjushyam_kyoto
https://www.instagram.com/Bhajjushyam_kyoto/