2025年9月18日、12月10日会場写真追加
建築家・永山祐子の展覧会「永山祐子個展 確かにありそうなもの」が9月20日より東京・新宿にて開催されます。
会場となるAWASE galleryは、既存建物を改修して今年6月にオープンした、複合的に運営されているギャラリーです(施設概要は後述)。
本展は、永山氏の作品集『永山祐子作品集 建築から物語を紡ぐ』(グラフィック社、2025年5月)と新書『建築というきっかけ』(集英社、2025年8月)の刊行を記念して開催されるものです。永山氏の個展は、2013年に東京・表参道の[EYE of GYRE]にて開催された「建築からはじまる未来」展以来、12年ぶりとなります。
本展では、永山氏が関わった建築・デザインプロジェクトの模型やマテリアル(素材)、完成品であるプロダクトなどが展示されます。
2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)および2020年ドバイ国際博覧会におけるパビリオンに関する展示のほか、能作とのコラボレーションで誕生したジュエリーから、歌舞伎町の新たなランドマークとなった高層ビルまで、スケールや領域を横断して創作活動を続ける、近年の永山祐子氏の創作活動にスポットをあてて紹介します。

LOUIS VUITTON 大丸京都店 偏光板(光学フィルム)の筒

松坂屋名古屋店会員制ラウンジ 柱巻のオリジナルタイル

昭和女子大学正門 組子検証模型

豊島横尾館 赤ガラス

東急歌舞伎町タワー コンセプト模型

東急歌舞伎町タワー 青海波アルミキャスト

AOI CELESTIE COFFEE ROASTERY 大屋根オリジナルタイル

女神の森セントラルガーデン 森綾模様アルミキャスト(一部)
会場では、永山氏自身の音声による展示ガイドを無料で用意[*]。永山氏が手がけたジュエリーや家具、書籍(一部サイン本)の販売も行われます。
*.音声ガイドは音楽ストリーミング配信サービス・Spotify(スポティファイ)を使用
永山祐子氏コメント
今年、作品集と新書という2冊を刊行する節目に、AWASE galleryからお声がけをいただき、本展を開催することとなりました。
会場は2つの部屋で構成されています。
ひとつ目の部屋には、作品集の「レシピページ」を思わせる展示が広がります。発想の種や、思いがけないブレイクスルーをもたらしたモノが並び、私の頭の中をそのまま形にしたような空間となっています。
もうひとつの部屋では、作品集の第1章「動く建築」をテーマに、万博をはじめとするリユースのプロジェクトを実物のモックアップや映像を通して、かたちを変えながら未来へとつながっていく建築の姿として展示しています。
展示写真はタペストリーやTシャツとなっており、会期終了後も廃棄されることなく、誰かの手に渡り、新たに活かされることを願っています。
また、展示解説は音声でお聞きいただけますので[*]、会場で作品とあわせて、あるいは帰り道などに耳を傾け、展示の理解を深めていただければと思います。永山祐子氏 プロフィール:1975年東京生まれ。青木淳建築計画事務所を経て2002年永山祐子建築設計設立。これまでの主な仕事に、豊島横尾館、ドバイ国際博覧会日本館、東急歌舞伎町タワー、大阪・関西万博におけるウーマンズ パビリオンおよびパナソニックグループパビリオン「ノモの国」などがある。
主な受賞に、JIA新人賞(2014)、山梨県建築文化賞、東京建築賞優秀賞(2018)、照明デザイン賞最優秀賞(2021)、WAF Highly Commended(2022)、IFデザイン賞(2023)など。現在、東京駅日本橋口に建設中の〈Torch Tower〉など複数のプロジェクトが進行中 永山祐子建築設計 ウェブサイト:http://www.yukonagayama.co.jp/『永山祐子作品集 建築から物語を紡ぐ』(グラフィック社、2025年)書影と中面の一部(序文 / 日本語)
本展は、音声ガイドで永山氏が語っているように、建築模型や図面、プラス説明といった、従来の建築展の展示手法を回避しているのが特徴といえます。氏の著作『永山祐子作品集 建築から物語を紡ぐ』でも取り上げている、これまでに手がけてきたさなざまなプロジェクトの発想の源となったマテリアルや設計プロセスの過程(当時の貴重な写真を含む)などを、Recipe(レシピ)として会場内に散りばめています。
展示空間は大きく2つに分かれ、前半が「建築家の頭の中」と後半が「動く建築」というテーマがそれぞれ設定されています。
Photo: kenta seki(提供:永山祐子建築設計)
会期終了後に本稿に追加

最初の空間(部屋)は本展のレセプション的な位置付け。永山氏がデザインした家具〈P SOFA〉やペンダント照明〈FUWARI〉などが置かれ、試座もでき、寛げるリビングのよう

壁にかけられた青いタペストリーは〈東急歌舞伎町タワー〉のファサードをテキスタイルに出力したもの。「ほかのタペストリーもプロジェクトの写真を印刷したもので、すべてチャリティーオークションに出品しています。展覧会が終わったら廃棄するのではなく、部屋のカーテンや間仕切りなど、購入してくださった方に自由に使ってもらえたら」(永山氏談)

光学フィルムを用いた実験的マテリアル(左下)と、YAMAGIWAによる「TALIESIN®2プロジェクト」から誕生した〈タリアセン ライト 永山祐子モデル〉(右)、永山氏の活動初期の作品〈LOUIS VUITTON 大丸京都店〉における偏光板を用いたファサードデザインの関連写真(奥)

〈東急歌舞伎町タワー〉のファサードは、日本の吉祥紋様の1つ”青海波”をアルミキャストで組み合わせた、レースのような透け感が特徴


奥のタペストリーと一部の模型は、ドバイ万博(2021-2022年)日本館の資材をリユースした、今年の大阪・関西万博における〈ウーマンズ パビリオン〉のファサード(部分)
「移築・移設のプロジェクトで私が大事にしているのが、そのままもってくるのではなくて、なにか新しいことにチャレンジしながら建築を動かしていくということです。ドバイから大阪に移築した際には、新しい部材を一切使わず、既存の部材を加工するなりして可能な限り再利用していて、それを前提に、ジョイント部分なども含めて設計しています。奥に展示している〈うみのハンモック〉のプロジェクトにおいても、回を重ねるごとにアップデートして、日本各地を巡っています。」(永山祐子氏談)

手前:〈ドバイ万博 日本館〉およびその後の〈ウーマンズ パビリオン〉のファサード模型(部分)/ 奥:ボールジョイントのパーツ(実際に使用されたもの)

ドバイ万博開催時の日本館 模型(部分)


大阪・関西万博 パナソニックグループパビリオン「ノモの国」のファサードを構成する、三次元的に曲げたスチールパイプのバタフライモチーフ(単体)

バタフライモチーフは窓際に吊り下げられ、風が入り込むと、パイプに取り付けられたオーガンジーがふわりとゆらめいた

Tシャツにプリントされた「ノモの国」の外観写真の額装

「ノモの国」のファサードは、2027年に横浜で開催される「国際園芸博覧会(GREEN × EXPO 2027)」に出展する、東邦レオの展示エリアでリユースされることが決定している(詳細は東邦レオ 2025年7月29日プレスリリースを参照)

「2027年国際園芸博覧会」における東邦レオ展示施設 構造模型(部分)

壁の模型:2027年国際園芸博覧会における東邦レオ展示エリアでの展開イメージ

バタフライモチーフについて説明する永山祐子氏(2025年9月20日 メディア向けに実施されたギャラリーツアー風景)

バタフライモチーフ 制作風景写真

〈うみのハンモック〉では、廃棄予定の魚網をペレット状にした素材で糸を編んでロープをつくっている

〈うみのハンモック〉は東京ミッドタウン主催「DESIGN TOUCH 2022」で初披露されたあと、日比谷公園、大阪など各地を巡回して使用されている(今夏、グラングリーン大阪での様子はこちら)

永山祐子建築設計が過去に手がけた小さな住宅から大型のタワーまで、建築の大きさがわかる展示

AWASE gallery の”スキマ”のような空間では、過去のプロジェクトの建設中の映像が音付きで流れ、本展のBGMのよう
会期:2025年9月20日(土)〜10月12日(日)
開廊時間:12:00-19:00
休廊日:月・火曜
入場料:無料
会場:AWASE gallery
所在地:東京都新宿区新宿3丁目32-10 松井ビル8F(Google Map)
主催:AWASE gallery、永山祐子建築設計

新宿の築60年を超える老舗ビルの8階にオープンした、複数の現代アートギャラリーの1つ。改修設計を永山祐子建築設計に在籍する建築家の松井 陸氏が担当した。ギャラリーのディレクターを務めるアーティストの山田康平氏との共同主宰。
所在地:*上記・本展覧会開催概要を参照
設計:松井 陸、関 健太、中村幸介
施工:古崎、三井工務店
塗装:KSAG
竣工写真撮影:関 健太
オープン:2025年6月

Photo: kenta seki
設計コンセプト
ビルは5〜6年後の建て替えを目標としており、数年間かけてテナントを減らしている。そこでビルが新しく建て替わる際に引き継げる「場」を育てることを目標に、オルタナティブスペースを設けることとなった。
このスペースでは現代アートの展覧会を軸にしつつも、決してクローズな環境にはせず、地域や企業とも連携ができるスペースを設けることで、開かれた場をつくることが目標とされた。空間は2つのアートギャラリーとそれらに挟まれる共有スペースの3つの空間によって成り立っている。
3つの空間体験を一連に捉えられるように、同じロの字型の照明と床仕上げを設けている。一方で、空間の平面形状や天井高、景色の抜けは、各部屋毎に異なる要素がある。このような少量の”あべこべさ”は、統一された都市計画に合わせつつも部分的に個性が生まれていく街のようにも見え、潔癖になりがちなギャラリーの緊張空間に少しの緩和をもたらす。各ギャラリー同士は、一般的なギャラリー複合施設のように空間が完全に切り分けられておらず、美術館のように統一されたフォーマットで並べられる展示室でもない、共同体と単体が両立するような複合体である。
このような展示空間のシークエンスは、連関しつつも予定調和にならない新たな体験になると考えており、3つの空間の展覧会の内容が変わる度に、新たな発見が生まれることを期待している。(松井 陸)AWASE gallery Website
https://awase-gallery.com/