#01 改善できるスペースを見出す コンテンツ
■“スペース”をキーワードにしたデザイン
■スケールを上げて視点を広げる
■団地全体を一緒に考えると
クリエイティブディレクター / アートディレクターとして活躍する佐藤可士和氏。
国立新美術館で開催されている「佐藤可士和展」にて(註:4月25日から館の臨時休館により中止)、佐藤氏が隈研吾氏とともに監修したUR都市機構(以下、UR)の〈洋光台団地〉に関連して「団地の未来」トークセッションが開催された。
同日、『TECTURE MAG』ではURの協力を得て、UR 中島正弘理事長と佐藤氏にインタビュー。
佐藤氏がデザインに取り組む際の視点から、団地再生にまつわるヒント、さらにはURの未来の姿や空間デザイン界へのメッセージにまでおよぶ、濃密な対談をお届けする。
Photographs: toha(特記をのぞく)
“スペース”をキーワードにしたデザイン
── 「佐藤可士和展」の冒頭の解説にありましたが、佐藤さんのお父様は建築家なのですね。
佐藤:そうです。美大に進むときに、建築かグラフィックか、どっちにしようかと迷ったので、親父に相談したら「建築はダメだ」と言われて。なんでと聞くと「建築家は家に2人はいらない」と(笑)。
「家で建築の話ばかりになって、食卓が豊かでなくなる」という、当時は分かるような、分からないような感じでしたが、そうかもなと納得して。
自分はもともと絵がすごく好きだったので、やはりグラフィックデザインがいいかなと思って、グラフィックに行ったんです。
もしそのときに建築に行っていたら、今ごろはグラフィックもやっていたかもしれないですね。入り口がどちらかということだけで、領域の壁を飛び越え、なるべく拡張しようと思っています。
── ものづくりということでは共通している、ということですね。展覧会のガイドで佐藤さんは「すべて絵を描くように取り組めばいいと気づいた」とも語られていました。
佐藤:よく「インテリアデザインをやっているんですか? 建築をやっているんですか?」と聞かれるのですが、領域としてインテリアとか建築とかランドスケープというふうには、あまり考えていないんです。
「空間」や「スペース」なんですよね。
展覧会のイントロの部分は「THE SPACE WITHIN(スペース・ウィズ・イン)」というタイトルにしました。英語のスペースには「改善可能な余地のある余白」という、ポジティブな意味合いがあります。そういう意味でのスペースというものが、僕の中ではキーワードになっていて。
僕が手掛けるブランディング自体、「脳の中にあるイメージのスペースを構築していくこと」なのだと思っています。そして実際の空間は、我々が住んでいる中で最も体験の場として価値が大きなメディアです。建築もインテリアも全てメディアと捉えていて、そのイメージスペースを構築していくのはすごく重要だと思うんです。
ブランディングを依頼されて、空間が関わらない案件はありません。何をやっても店舗があるとか、オフィスもあるし、あとは例えばミュージシャンであればコンサートをするステージもスペースだし。だから何か、建築やインテリアということではなく、空間のデザインという概念が非常に重要だなというのは最初から思っています。
そしてインターネットの普及で、サイバースペースのようなものが発達してきて。楽天は、仮想の側に世界を構築していてエコシステムをつくっています。今はほとんどのリテールで、バーチャルとリアルをどうつなぐかということが勝負のカギといわれています。そういう意味で、やはり「スペース」というキーワードはすごく大事なんだと思います。
スケールを上げて視点を広げる
── ファッションブランド「OZOC」(2002)のとき、広告に建築を垣根なく利用して、街にインパクトを与えていました。街との関わりや広がりは、以前から意識されているのでしょうか?
<外部リンク(SAMURAI):https://kashiwasato.com/project/9613>
佐藤:そうですね、単体ではなく、総体で考えていますからね。例えば「OZOC」で赤い建物を建てるときも、原宿という街にあれが出現するのが面白かった。そうして総体で考えて視点がどんどん広がっていくと、街がメディアのようになっていくのです。
「佐藤可士和展」の展示室。右手前に掲げられているのが「OZOC」のポスター
そのスケールをどれくらい上げることができるかというのを、やりたいなと思っていて。大きなスケールの視点でデザインしたいと思っていたら、だんだんそうなっていたんです。
この10年くらいは、「空中」をメディアとしてみています。〈日清食品関西工場〉とか、〈フラット八戸(FLAT HACHINOHE)〉というアリーナをつくったのも、最初からGoogleマップといったものをメディアとして捉え、戦略的に考えてのことです。世界中の人々が、空中からの視点を手に入れることができるようになったので。それが今後コミニケーションメディアの1つになると思うんです。
https://twitter.com/cupnoodle_jp/status/1369475597085343744?s=20
〈日清食品関西工場〉
■団地全体を一緒に考えると
── URの〈洋光台団地〉でも、大きなスケールで見て考えられた、ということですね?
佐藤:そうですね。〈洋光台団地〉も「団地」というイメージのスペースをつくっているともいえますし、団地全体を1つの空間として見ています。SAMURAIが洋光台団地で実際にデザインしたのは、公園と住棟の外壁、そしてパブリックファニチャーです。
〈洋光台団地〉の広場と住棟を望む Photo provided by UR
中島:我々URが体制を整えてプロジェクトをどう動かしていくかというとき、佐藤さんに全体のディレクションに入っていただいて課題を見出してもらいました。そうして領域を横断しながらデザインしていくことの重要性を、非常に感じましたね。
そもそも、デザインという言葉を、我々はあまり普段使わないのですよね。でも、10年がかりで関わってきた多くの職員などが、デザインの役割を肌で感じ取ったのではないかと思います。
── 建築のプロジェクトは、広告に比べると一般的に期間が長いという特徴がありますね。建築ならではという特性として、他に何があるとみていますか?
佐藤:URの〈団地の未来プロジェクト〉もそうですが、社会的なインパクトが大きいということですね。URの建物なんですけど、URのものではなくなってしまうというか、みんなのもの、社会のものになるということが建築の特徴ですよね。
ある目的で建てられた建物が、別の目的のための施設になったとしても、違う価値を生んだりします。広告の世界では、新聞広告は1日だけであったり、SMAPのビルボードで街をジャックしても1週間や2週間です。広告ではその一過性を、逆手にとるということなのですが。建築は、街の環境になっていくことが全然違いますよね。公共性や社会的な責任がすごくあるな、と思います。
中島:建物の中身が変わっても、形として残っていくことに価値がある。そうありたいですね。URも、過去の団地を老朽化ということで多く壊してきましたが、これからは違う時代に入るということで、〈団地の未来プロジェクト〉でトライしているわけです。
建物のコンクリートの一部を抜いて質を調べていくことは、けっこう地味で大変な作業なのですが、機能的に陳腐化させないことと合わせて、建物を長く使い続けるためにやっていきたいと思います。それが実は、URの使命であり生命線であると考えています。
どうやっていくかというプロセスでも、オープンな場を設けていろんな人に参加してもらい、知恵を活かして価値をつくっていくことを展開していきたいですね。
〈団地の未来プロジェクト〉で集まった専門家たち。「団地の未来プロジェクト」トークイベントにて
(#02 全体のイメージを大切にデザインする に続く)