FEATURE
Interview with Hisashi Hojin
Room tour〈terrace H〉
FEATURE2021.10.25

[Movie] Interview with Hisashi Hojin about terrace H

【ルームツアー動画】寳神尚史が語る自邸「モノとコトをコントロールした建築」

■ 街の一部として参加する複合施設

個性的でハイセンスな店舗が点在し、暮らしが息づく東京・代々木上原の街。
商店街の通りから少し入ったところに、寳神尚史氏(日吉坂事務所主宰)の自邸の入った複合施設がある。

TECTURE MAGではこの建物について、寶神氏に詳しく解説を聞きながら案内していただいた。

全体の構成から、建物の印象に影響する仕上げや納まりの考え方、また自らが事業主となりコントロールすることで達成されていることについて、話は及んだ。

Movie & photographs: toha

動画の内容
0:47 代々木上原という場所
1:51 terrace Hの区画
4:10 1Fアトリエ住戸
5:55 1F事務所スペース
7:53 軒というインフラ
9:48 素材と空間の関係性
11:35 2Fゲストルーム
13:43 場所の汎用性
14:38 素材で用途を仕切る
15:40 Rの役割
17:43 3F住宅スペース
18:02 素材と住空間
20:39 内と外の設計
23:00 自らコントロールすることで得られる自由度

■ 素材や仕上げの用い方で建物に表情を持たせる

「個人の店が立ち並んでいる、こじんまりとした暮らしやすい街」と代々木上原のことを紹介する、寳神氏。
「もともとこの建物は、個人の方が商いをしたり、仕事をしたりしながら暮らすことのできる場所として計画しています。
大きくは4つの区画があって、作家さんが住みながらものづくりをしていたり、ゲストルームのような部屋をつくったり、あとは今回は自分たちが住むところと職場も持っています」。

RC造で、ステンレスの建具を組み合わせた建物。床スラブの小口には、洗い出しとしている面が。
「表情を持たせることで、建物に対する愛着感や、素材に向かうまなざしを与えようと思いました」と寳神氏は説明する。

ステンレスの手すりや柱、大谷石の床面、レンガの床や壁などを用いたのも、素材感に目を向かわせるキャラクターづくりの一環だという。

1階には賃貸のアトリエ兼住居と事務所スペースを配し、2階には「ゲストルーム」と呼ぶ場所と住居の出入口。

1階から2階・3階へ上がるにつれて、コンクリートにだんだんと木や白い仕上げが多く現れてくる。
「2階や3階の住環境では、素材感を建物の内装自体に与えていって、内装とモノがなじみの良い状態をつくるようにしたいと思っていました」(寳神氏)。

また、コンクリートの柱や梁の角にアールが付けられているのも、意味があること。

「柔らかさを与えてくれると同時に、文脈を打つといいますか。建物はさまざまな部分の集積で全体ができていますが、経験的につながっていく印象はすごく大事だなと思っているんですね。

このRは実は各所に登場していて、見せたい方向に少しRを与えたりすることで、建物の印象をデザインしている感じです。

このあたりは、モノとしての建築を見て楽しむうえでの1つの操作、モノとしての存在感には寄与する重要なキャラクターです」(寳神氏)。

■ 外からと内からの設計、モノとコト両方の設計

3階は、寳神氏自身の住宅部分。さまざまな素材が現れると同時に、生活や趣味の所有物が置かれてくる。

「モノを建築が受け止めるような場所になってほしいと思って、さまざまな素材がたくさん出てきています。このように建築は、内側の使い方から物事が決まっているようで、外側から骨格を決めていく側面もあります。

今回の建物では、どこが外から決めていったのか、どこが内側から決めていったのかが分からなくなるような、どちらも大事にしているような姿勢というのは意識していますし、渾然一体となった感覚がここに現れているといいなと思っています」。

こうしたディテールや素材の細やかな選定までおよぶつくり込みは、この建物は寳神氏自身が事業者になっていることと密接な関係があるという。

「事業者となるということは、実は中でどういうふうに使うか、どのようにこの建物を事業として成り立たせていくかということもセットで考えていくことになります。

私たちの仕事は、ハードとしてモノを設計するだけではなくて、実はコトづくりも同時にやっていかなければなりません。
しかも、5年や10年というタイムスパンで丁寧に考えると同時に、20年や30年という長いスパンで、この建物はどうすればずっとあるかということも考えなければいけません。

そうすると、柱型1つにしても、20年後30年後に、どんな使い方にも対応できるような建築としての“寄り代(よりしろ)”をつくるという感覚が発生するのですね。
そうしたことが入り混じり、設計するときの骨格と内装のせめぎ合いみたいなところにも通じる。それをあえて、好んで設計として取り込んでいます」。

事業者として建物をつくることで、モノとコトの両方にイニシアチブを取りながら設計することができる、と寳神氏はいいます。

「コトとしてさまざまな側面を自在にコントロールできますし、モノとしても自分たちが自由に強弱をつけながらコントロールできるんですね。

設計者は本来、さまざまなことができる位置にあると思っています。クライアントからの与件があり、予算もある中で設計をする。それも仕事の重要な側面ですが、ときには事業性も自分の手中に入れて、コントロールして動かしていく。そうするときに手に入る、設計の自由度や可能性がすごくあるなと思っていて。それをここでは試しています」。

素材や仕上げ、ディテールなどの詳細な設計が、自らが事業主となって建物づくりに関わるという大枠の設定やコトづくりとつながった、今回の寳神氏の事例紹介。

繊細な表情と寄り代となる各部のディテールは、続く写真からも読み取っていただきたい。
(jk)

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