合理的な木架構でつくる環境建築
郊外の起伏のある敷地に沿って建つ、リズミカルな木架構が特徴の〈KEEP GREEN HOUSE〉。
SOLSOなどグリーンにまつわる事業を幅広く手がけるDAISHIZENの新たなオフィス棟だ。
この建築をつくった狙い、また空間構成の特徴について、齊藤太一と林 貴則、またSUEP.の末光弘和・末光陽子の各氏に解説いただき、動画でまとめた。
Interview & text by Jun Kato
Movie & photographs: toha(本記事での人物写真は動画キャプチャによる)
〈KEEP GREEN HOUSE〉
所在地:神奈川県川崎市宮前区
用途:事務所兼社宅
クライアント:DAISHIZEN https://daishizen.co.jp
竣工:2022年
企画・プロデュース:齊藤太一+八島智史+林 貴則 / RGB https://www.redgreenblue.jp
設計監理:末光弘和+末光陽子+永瀬智基 / SUEP. http://www.suep.jp
ランドスケープ:SOLSO https://solso.jp/
構造設計:yAt 構造設計事務所 https://yat-str.jp/
設備設計:DE.lab
施工:青木工務店
工事種別:新築
構造:木造
規模:地上2階
敷地面積:1,468.63m²
建築面積:312.21m²
延床面積:330.36m²
設計期間:2021.06-2021.12
施工期間:2022.01-2022.08
「百姓の家」がコンセプトに
齊藤太一
この場所で20年ほど、造園を主体に活動しています。SOLSOチームの職人とデザイナーが集まり、生産者とつながって設計と施工、メンテナンスまですべて一貫して行っているのが特徴です。
いろんな産業の中でも1から10まで擁する産業はなかなかないのですが、僕たちのチームは楽しみながらやっています。1から10まで全部やるのは、百姓みたいなものだと思っているんです。昔の百姓の家には納屋があり母屋がありましたが、この場所にも倉庫があり、工場があり、働く場があり、キッチンもあります。ここをつくるときに立てたコンセプトは「百姓の家」でした。
せっかくここで「新・農家の家」を建てるのであれば、環境に配慮したかたちでつくりたいと思ったのです。この場づくり自体の概念や成り立ちを世の中にプレゼンテーションしたいと考え、以前からずっと環境に配慮して建築をつくられているSUEP.を身近に感じ、設計をお願いしました。
末光弘和
この建物のコンセプトの1つは「大地」です。敷地には高低差があり、斜面になっています。通常であれば斜面に建物を建てるとき、土地をフラットにします。でもよく考えると、大地を削ったり掘ったりしてコンクリートで固めている。そこにものすごいお金をかけているのですが、そこまでしなくてもいいんじゃないかと。なるべく建築側の与件を下げていくことを話し合っていたので、地形はそのまま活かし、そこに最も安定した構造体をつくろうと考えました。
末光陽子
この建物の形状は、宮崎県で見られる大根櫓(だいこんやぐら)をモチーフにしています。大根を干すため、簡単で効率的に、かつ安価につくられる構築物です。風を通して光を当てることで大根が乾く形状を、建物で取り入れました。今回の建物では、太陽光パネルで囲んで光を浴びせ、下のほうではルーバーで覆って風が抜けるようにしています。
末光弘和
建物全体は、在来木造工法で用いられる1.8mのモジュールで、どこで切っても成り立つようなつくり方をしています。ソーラーパネルはこのモジュールに合わせたものですし、サッシも実は標準型の住宅用の既製品を使っています。「環境に配慮した建築」というと、あれもこれもやって、こんな特殊なことをやって、特別な機械を入れて…とハイスペックになりがちですが、今回のチームでは「誰でもマネできるような環境配慮型の建築」にしたかったので、モジュールを活かしてつくりました。
森のような内部空間
末光陽子
内部では、一方が吹き抜けのある天井が高いスペースです。2階がある反対側には少しプライベートな場所をつくって、使う人が好きな場所を選べるようになっています。1人当たりの気積がとても大きく、森の中で働くような空間をつくりました。
末光弘和
室内にある斜面部分は土のままで、歩くところだけ少し舗装しています。そして、木は地植えです。植物は装飾的なものではなく、むしろ緑のための空間のようになっていて、そこに人が働くための場所が共存している状態です。
サーキュレーションデベロップメントをディスカッション
齊藤太一
建築とランドスケープという視点だけでは、どうしてもハードをつくる方向性だけになってしまうので、RGBというチームに参画してもらいました。RGBは、サーキュレーションデベロップメントを軸として、循環社会に対しての企画やブランディング、またビジネスプランニングなどを手がけています。この場の根本的なあり方や価値などを含めて、SOLSO(DAISHIZEN)とSUEP.そしてRBGの3社でディスカッションして、この場が生まれています。
林 貴則
企画や事業方針とか、コミュニケーションなどで参画して、ハードが立ち上がる前後の文脈を整えていったり、整えることによってどうやってたくさんの人にそれを体感してもらえるかとか、実際に生活に取り入れてもらえるかというところを並走しながら考えていく役割でプロジェクトに参加しています。
齊藤太一
クライアントからの要望は、どんどん地球対応型に変わっています。昔のように「余ったところに何か緑を植えてくれ」という時代では完全になくなっているのです。クライアントと話していくと、未来に自然を残していける豊かなプロジェクトにしたい、という要望が多くあがってきます。ただ、やり方がわからないし、どういうコンセプトでやるべきかもわからない。何をつくるべきか、誰がそれを維持するのかもわからない。
トータルなグリーンのあり方が求められている中で、前後のデザインがあっての場づくりが必要だと感じています。地球ありき、これからの未来のありきで、何をどのようなかたちにするのか、建築にはどういう機能を持たせるのかということについて、いい意味で削ぎ落としながら考え、バランスが取れるような時代になってきたと思います。[了]