■未来の日本のデザインミュージアムが見えた!
惜しくも会期途中で閉幕した企画展「DESIGN MUSEUM BOX展 集めてつなごう 日本のデザイン」。
「DESIGN MUSEUM BOX展 集めてつなごう 日本のデザイン」は東京・銀座の〈Ginza Sony Park〉で開催された(4/10~5/9開催予定だったが、緊急事態宣言を受けて4/24にて閉幕)
展覧会の概要は開催時にすでにお伝えしていますが、TECTURE MAGではプレス内覧会時に、本展の企画者の1人である齋藤精一氏(パノラマティクス主宰)にインタビュー。
企画の背景や狙い、そして今後の展開まで語っていただきました。
これからの日本のデザインミュージアムの姿に期待が膨らむ内容を、ぜひご覧ください!
Movie & photographs: toha
齋藤精一氏(パノラマティクス主宰 / 旧ライゾマティクス・アーキテクチャー主宰)。一般社団法人Design-DESIGN MUSEUMの理事も務める
■分散型のデザインミュージアムを構想
「『Design-DESIGN MUSEUM』という一般社団法人を、NHKエデュケーショナルの倉森京子さんやその他のメンバーとやっていて、今回の展覧会はNHKが主催し、Design-DESIGN MUSEUMが協力しています。
僕は全体のプロデュース的な役割を担当しました。そもそもの発想は、今、日本には国立のデザインミュージアムがなく、ではどういうふうにデザインミュージアムが存在すべきだろうかという問いかけからです。
今回もそのことが体現されているのですが、例えば1カ所に箱をつくってその中に全部アーカイブも含めて入れるというよりは、すでに素晴らしいデザインをお持ちの工芸館や民芸館、もしくは企業が持っているコレクションや展示スペースなどをネットワークさせようとしています。
番組(NHK Eテレ「デザインミュージアムをデザインする」)を僕も視聴者として観ていると、例えば森永さんが奄美の、通常は旅行で訪れてもさほど惹かれないかもしれないところであっても、デザイナーの視点では発見することが多いなと気づかされます」(齋藤氏)
会場ではデザイナーが各地を訪れてリサーチする番組の様子も放映
「僕はデザインミュージアムの構想において、まず『分散』ということを話していたのですが、この展覧会をつくるプロセスでもたくさんの方々に関わっていただき、おかげでこの分散という考えは確実なものになりました。
日本全国に眠るものをデータベース化して、どこにどういう状況であるのか、それをお借りすることができるのか、もしくは企画展を開催するときにご協力をお願いできるのかといったことは、これからのデザインミュージアムの1つのかたちなのではないでしょうか」(齋藤氏)
会場最奥部の壁面に設けられた、日本地図
「ここでつくったのは『集めてつなごう! デザインの宝物』というものです。分散的にデザインが存在しているものをネットワーク化し、データベース化していくために、僕たちも気づけていないいろんな素晴らしいデザインが日本にはまだたくさんあると思うので、それらを今回訪れてくださったいろんな方に投稿していただこうというものです。
小さい旗がありますけれど、これをある場所に刺してもらって、この赤い糸を引っ張ってどこに何があるのかを書いていただく。そして、これを閲覧してくださっているデザインが好きな方々に投稿していただき、デジタルのデータベースにしていこうという試みで、こうした物理的な地図をつくりました」(齋藤氏)
小さな旗を立ててメモを残し、データベースとする試み「集めてつなごう! デザインの宝物」
■日本各地のすごいものをデザインの目で掘り起こす
プレス内覧会では、「デザインミュージアムをデザインする」の番組プロデューサー・倉森京子氏(NHKエデュケーショナル)が全体の趣旨を紹介。
NHKエデュケーショナル プロデューサーの倉森京子氏
「2020年4月から上映しているNHKの番組で、いろんなクリエーターの方々にデザインミュージアムを考えてきていただきました。
そのときに出た考え方で、1つの大きなミュージアムもいいけれど、日本には各地にすごいものがたくさんあるなと思っていて、それをクリエーターの方がデザインの目で探してもらったらどうだろう。その周辺の風景も含めて展示をしたらどうだろう、というのをやってみようと展示をつくりました」(倉森氏)
キューブ状のボックスを積み重ねたような台に各デザイナーが展示する形式。会場構成や展示台のデザインは、出展者の1人である田根 剛氏が担当
「普段は資料館などにあって見落としてしまうようなものも、本当に素敵な物語があって、誇らしいということを皆様に思っていただければ幸せです」(倉森氏)
続いて出展者の主要なデザイナーとして、ファッションデザイナーの森永邦彦氏も挨拶。
ANREALAGE(アンリアレイジ)森永邦彦氏
「私は日常 / 非日常をテーマに洋服づくりをしているのですが、今ここにあるものであったり・ないものであったり、目に見えるもの・目に見えないものであったり、その中でファッションデザインは目に見えてかたちがあるものだと思われがちなのですが、今回出会った奄美大島の『ハブラギン』という技法は、今いない存在や目に見えないものをどのように洋服の中に入れて、着る人を目には見えない力で守るということをデザインに落とし込んでいる。
洋服として、人に寄り添うすごくあるべき姿を追求したものだと思いました」(森永氏)
奄美で祭祀を司った「ノロ」が着用した”ハブラギン”という装束をリサーチした森永氏は、自身の原点でもあるパッチワークのジャケット、またハブラギンからインスパイアされたジャケットを展示
「その洋服に出会って、私たちもどのような洋服をこの先につくるべきか、ファッションデザインで何ができるのかということをすごく突きつけられるものでした。もともとの洋服と私たちがつくったものとを、ぜひ見ていただければと思います」(森永氏)
これからの時代にふさわしいデザインミュージアムの姿を、幅広く深いリサーチとプロトタイプで見せてくれた、「DESIGN MUSEUM BOX展 集めてつなごう 日本のデザイン」。
データベース「集めてつなごう! デザインの宝物」の拡充を含めた今後の展開、そしてより大きな規模で開催されることが楽しみになる展覧会でした。
(jk)