「THE TOKYO TOILET」プロジェクトによる8つめの公共トイレ
東京・渋谷区神宮前1丁目に、公益財団法人日本財団が中心となって進められているプロジェクト「THE TOKYO TOILET」の8つめの公共トイレが5月31日にオープン、同日12時より供用を開始しています。
プロジェクトの概要
「THE TOKYO TOILET」とは、よりよい社会の実現を目指してさまざまな活動を国の内外で行なっている日本財団と、自治体として男女平等と多様性を尊重する社会を推進する取り組みを行っている渋谷区が、性別、年齢、障害を問わず、誰もが快適に使用できる公共トイレを、渋谷区内17カ所に設置するというプロジェクトです。
「THE TOKYO TOILET」では、17のトイレのデザインを、国内外で活躍しているデザイナーや建築家、16組のクリエイターがそれぞれ担当しているのが大きな特徴です。
2022年春までに17のトイレが誕生
2020年8月5日に、インテリアデザイナーの片山正通氏(Wandaewall®︎ / ワンダーウォール代表)と、建築家の坂 茂氏がデザインしたトイレが合わせて3つ、区内の公園にて供用を開始したのを皮切りに、槇 文彦、田村奈穂、坂倉竹之助、安藤忠雄の各氏がデザインした公共トイレも建てられ、この神宮前公衆トイレで8つめとなります。なお、本件に続く2021年6月24日には、建築家の隈研吾氏がデザインしたトイレが、松濤2丁目・鍋島松濤公園内にオープンしています。17のトイレ全てが完成するのは、2022年春頃の予定です。
若者の街・原宿にふさわしいトイレ
NIGO®️氏による神宮前公衆トイレ〈THE HOUSE〉はプロジェクト8つめ。立地は、明治通り沿い、東郷神社や原宿警察署にも近い神宮前1丁目交差点のそば。北西側の変形地の一角になります(Google Map)。
クリエイターはファッションデザイナーのNIGO®️氏
神宮前公衆トイレ〈THE HOUSE〉をデザインしたのは、ファッションデザイナーのNIGO®️(ニゴー)氏。同氏は、「THE TOKYO TOILET」プロジェクトに欠かせないスタッフ、清掃員のジャンプスーツ型ユニフォームのデザイン監修も手がけています(後述)。
NIGO®️(ニゴー)氏プロフィール
90年代に自身が立ち上げたファッションブランドが世界中を席巻し、ストリートカルチャーのパイオニアとして有名に。ライフスタイル全般のクリエイションは世界中で高い評価を得ている。
2011年からは、HUMAN MADEのデザインをメインに、LOUIS VUITTONやadidasからも自身のコレクションを発表。ほかにも、CyberAgentやJINSのサングラス部門のクリエイティブ・ディレクターを務める一方、飲食店舗CURRY UP®︎や日本酒ブランドSAKE STORM COWBOYのプロデュースなども手掛ける。
米国のユニバーサルミュージックと契約し、音楽の分野でも精力的に活動中。
古き良き時代の一軒家をイメージ
計画地は、写真からもわかるとおり、細長い変形地です。切妻屋根の下には、大きく3つのブースを内包。向かって左から、男性用トイレ(8.66m²)、バリアフリートイレ(5.30m²)、女性用トイレ(5.72m²)が配置され、敷地の奥行きに合わせたサイズであることが、触知案内板の図示と、片側・左右からの眺めでも確認できます。
コンセプトは温故知新
トイレの外観はとてもかわいらしく、どこか懐かしい、レトロな印象を与えます。デザインのコンセプトは「温故知新」で、白い壁や、開閉扉や窓枠の明るいミントグリーン、赤茶色の屋根などの配色も、このコンセプトに基づくデザインです。
コンセプトは温故知新。
ますは何よりトイレとしての入りやすさと使いやすさを第一に考え、高いビルが建ち並び、日々変わりゆく東京とは対照的に、原宿の片隅にひっそりと建つ、古き良き一軒家をイメージしました。
世代によって、トイレを使われる方が懐かしくも感じ、新しくも感じていただけるようなデザインです。(NIGO®)
若者が抱く「公共トイレ」のマイナスイメージ
神宮前公衆トイレ〈THE HOUSE〉の供用開始に先立つ5月中旬、日本財団では、全国の17歳から19歳の男女1,000名に対し、公共トイレに関する意識調査[*1]を実施しています。結果、プロジェト立ち上げの背景にある社会および人々の意識が数値化され、公共トイレ周辺のさまざまな課題が改めて浮き彫りとなっています。
各種設問による調査結果によれば、百貨店や映画館などの商業施設、飲食店など7つの公共施設のトイレに対するイメージを尋ねた問いに対し(n=1,000、複数回答)、回答者の67.6%が「公園内や歩道にあるトイレ」のイメージ筆頭に「汚い」を選び、利用率も13.5%という低い数字が出ています[*1]。
公衆トイレ=汚い、臭い、怖いといったイメージは、ひと昔前のことではなく、18歳前後の若者にも如実にあることが判明しました。
*1.出典:第38回 18歳意識調査「テーマ:公共トイレ」報告書(2021年6月22日 日本財団実施・発表)および、同調査要約版(2021年6月24日メディア向け配布資料)
https://www.nippon-foundation.or.jp/who/news/pr/2021/20210622-58481.html
根強いこのマイナスイメージを払拭するための取り組みが「THE TOKYO TOILET」プロジェクトであり、特別にデザインされたのが、清掃員のためのユニフォームです。
デザインの力で気持ちをアゲる
「THE TOKYO TOILET」プロジェクトにおいて、NIGO®️氏は神宮前1丁目の公衆トイレ以外にも、清掃員のオリジナルユニフォームのデザイン監修も手がけています。
「着てかっこいいと思えるユニフォーム」というのは、プロジェクトを推進する日本財団の常務理事を務める笹川順平氏の形容です(2020年8月5日 恵比寿公園 片山正通氏デザインの公園トイレ記者発表会にて)。同財団では、トイレを清掃するスタッフのモチベーションを計画段階から重視し、NIGO®️氏にユニフォームのデザインを依頼しました。
その成果のほどはいかに?
最新の公園トイレの記者発表会にて、笹川氏は次のように語っています(2021年6月24日 鍋島松濤公園トイレ〈森のコミチ〉記者発表会にて)。
「昨夏のスタートからいちばん変わったのが、清掃員の気持ちです。彼らに現場で話を聞くと、『お客さまから声をかけてもらえるようになって嬉しい』と言うのです。この、利用者ではなく『お客さま』という形容が、とても象徴的だと思います。『お客さま』からは、掃除のどういったところが大変かとか、建築的なことまで訊かれるそうで、そういったやりとりに、彼ら清掃員は大きな喜びを感じている」(笹川順平日本財団常務理事)
笹川氏曰く、「プロジェクトの清掃員は、NIGO®️氏がデザインしたオリジナルユニフォームを着る権利を得ていることに等しく、誇りを持ってトイレの清掃に従事している」とのこと。
悪循環を断ち切るために
とはいえ、安藤建築といえども壁に落書きをしたり、トイレ本来の用途やマナーを逸脱する心無い利用者がいるのが厳しい現実です。これには、すぐさま清掃員を派遣して対応、トイレの美化に努めています(維持管理:日本財団・渋谷区・一般財団法人渋谷区観光協会)。根気と強いメンタルが要ることですが、きれいな状態を保ち続けているトイレは『汚されにくい』ということもだんだんとわかってきており、1日2回だった清掃回数を3回に増やしています。(2021年6月24日 笹川常務理事談)
「THE TOKYO TOILET」プロジェクトは、建築(の竣工)までが半分、使い始めてからが新たなスタートで、もう半分(の道のり)があると考えています。きれいに使い続けることができる国民性だと、世界に向けてアピールしていきたい。但しこれは、使う人の協力なくしてはありえない。みなさんの協力のもと、従来の公共トイレにある『暗い、汚い、臭い、怖い』といったイメージを完全になくしたいと考えています」(2021年6月24日 笹川常務理事談 / カッコ内など編集部にて一部を意訳)
試金石となる「THE TOKYO TOILET」プロジェクト
「THE TOKYO TOILET」プロジェクトは今後、トイレの3Kイメージを取り払うモデルケースにもなりうると、笹川氏は展望を語ります(2021年6月24日記者発表会)。計画地の周辺住民への配慮に必要なこと、行政との折衝や建築家・デザイナーとのやりとり、メンテナンスなどといった、立ち上げから数えて約3年の間に積み重ねてきた知見とノウハウを、外部に提供する考えもあるとのこと。
「THE TOKYO TOILET」プロジェクトにて渋谷区内に設置される公共トイレは17。2021年6月24日時点で9つが完成、これらを管理・維持しながら、2022年3月までに残り8つのトイレが竣工を目指します。もちろんそれは、竣工=完成形ではありません。使う側の気持ちもリ・デザインされるべきトイレ空間となります。(en)
神宮前公衆トイレ〈THE HOUSE〉
所在地:東京都渋谷区神宮前1-3-14(Google Map)
デザイン:NIGO®️(ニゴー)
ピクトグラム デザイン:佐藤可士和(SAMURAI)
トイレの現状調査・設置機器提案:TOTO株式会社
設計・施工:大和ハウス工業
事業主:日本財団(完成した公共トイレは渋谷区に譲渡)
「THE TOKYO TOILET」プロジェクト 公式Webサイト
https://tokyotoilet.jp/