■ ARC-Xを新規リノベーションブランドに導入
ヴィンテージマンションの玄関ドアを開けると、正面には外光が柔らかく透過するガラスの壁。
ガラスの向こうには、洗面とバスが一体となった水回り空間が広がります。
「みんなが想像できなかったようなリノベーション空間を提供したい」という想いから始まったプロジェクト「SMARG リノベーション」。
デザインを担当したのは、店舗をはじめとしてレストラン、オフィス、インスタレーションなど、幅広いジャンルの空間デザインを国内外で手がける I IN(アイ イン)の湯山 皓さんと照井洋平さんです。
事業主のグッドライフから新しいリノベーションブランド「SMARG」とデザインライン「THELIFE」立ち上げの相談を受け、2人は「新しい住空間のあり方」を発信することを提案。
そのキーポイントの1つは、先入観を変える水回り空間の設え方にあります。
「これまでになかった空間体験をつくりたい」という湯山氏と照井氏に、設計で注力した点について話を聞きました。
Movie & photographs: toha(特記を除く)
■ これまでにない空間体験を届けたい
「古いマンションに入って、それぞれの住戸にアクセスする。その部屋に着いて、扉を開けた瞬間にもうまったく違う世界が広がっている。そういうストーリーをつくれたらというのが、スタートとしてありました」と語る湯山さん。
日本のマンションの住戸で一般的となっている間取りは、玄関扉を開けると暗い靴脱ぎスペースがあり、廊下が真っ直ぐに伸びるというもの。
「大きく変えるには、開けた瞬間に外光が届いて、明るい空間が広がっていたら心地良いのではないかと思いました。やはり設備や水回りでの場所の制限はありますが、水回り空間をつくる間仕切りの素材を変えることで、最初にイメージしていた空間づくりが全部つながると考えました」と湯山氏は説明します。
Photograph: Norihito Yamauchi
玄関スペースと水回り空間を仕切るガラスは、深い凹凸のあるタイプのものを使用。水回り空間に入った外の光が、ガラス面を通して抽象的な光壁となり、玄関スペースに満ちています。
照井氏は「透明感のある間仕切りを水回りで使うことは、広く受け入れられるものでもないと思います。けれど、1つでも多い選択肢を世の中につくって提案していきたいと考えました」と振り返ります。
「デザイナーとして僕たちが入る意味は、やはりそういうところにあるのではないでしょうか。これまでになかった形、これまでになかった空間体験をどう実現していくかというのは、デザイナーの使命ではないかと思います」。
■ 水回りを最初に考えてシームレスに
玄関扉を開けた瞬間から、新しい空間体験をしてもらうという設え。
新しいデザインライン「THELIFE」のプランニングでは、既存のセオリーと逆の発想をしたといいます。
「今回のブランドの空間では、水回りを最後ではなく、最初に考えるようにしました。これまでの水回りは空いているところに入ったり、設備的な絡みなどがあって、どうしても選択肢が少ないといえます。『水回りってここだよね』とか『小さな空間だよね』というのが先入観としてあったと思うのですが、それを変えたいと。それで、なるべく広く、光が入る水回り空間がつくれたらいいと考えました」と湯山さんは語ります。
水回り空間を広く明るくするとともに、2人が重きを置いたのは「シームレスにすること」だといいます。
「これまでも緩やかに人の生活のあり方は変わってきているという実感はあって、この1、2年で大きく加速したと思います。生活の中にある行為が、シームレスにつながっていく感覚があります。
例えば食事をするとき、これまでは料理をして食べ、すべて片付けて次の活動に移るように、1つひとつが分かれていた感覚がありました。ですが、家の中にいる時間が長くなり、1日の中の生活が全部シームレスになってきました。
それぞれの機能を与えられていた空間も、シームレスにつながっていくことが、これからの住空間の考え方の1つとなるのではないでしょうか。
今回の『THELIFE』では、なるべく大きな一体とした1つの空間の中で、それぞれの行為をするためのスペースがあるような感覚でプランニングをしています。
そうすることで、自由に暮らせるのではないか。そして大きな空間の中で自由に過ごせることが、“リッチな感覚”につながるのではないか。そう考えています」と湯山氏は語ります。
Photograph: Norihito Yamauchi
照井氏も「今回は水回りに関しても、その考え方をそのまま再現しています。洗面カウンターとバスタブがある水回りを大きな1つの空間の中で表現することで、これまでとは異なる水回り体験ができるようにしています」と語ります。
■ 大きな余白をもつARC-Xがフィット
シームレスにつながる体験を実現するための設えについて、湯山氏は次のように説明します。
「今回は空間自体を大きく設計していますが、機能をもつ場所もなるべく大きく取ろうとしています。大きいスペースがあれば、できることの幅も広がるのではないかと思いました。洗面カウンターは、半分ほどの広さがあればよいところを、倍近くの広さを確保しています」。
ここでフィットしたのが、ARC-Xの洗面器だったといいます。
「今回、我々が採用したARC-Xの商品は、水が使える洗面スペースがあり、その両サイドに大きな余白があります。その考え方が、今回の『THELIFE』のデザインに通じるものがあるなと感じました」(湯山氏)。
ARC-Xの製品は、SNSを通じて知ったという湯山氏。
「水回りの情報を集めていたことからInstagramの広告に現れたと思うのですが、そのビジュアルにはすごく魅力的な空気が流れていて、見た瞬間に『これは調べてみよう』と思いましたね。ウェブページを見ても、デザインに対する強いモチベーションを感じて、すごく共感するところがあったのです」。
照井氏も、まずビジュアルに惹かれたと振り返ります。「最初のきっかけは、1枚の写真に詰まっています。ビジュアルの入口があって、どんどん中に入っていくというのは、我々の仕事に通じるところがあります。どのようなメッセージをもってブランドのイメージを出しているかという時代だと思うので、すごく共感します」。
2人がARC-Xのことを知ったのは、ちょうど『建築建材展』にARC-Xが出展を控えた時期。2人は会場まで足を運び、商品ラインナップのサイズ感やデザインを確認。「間違いなく今回の物件にスペックできる」と確信を持って、クライアントに提案しました。
湯山氏はその経緯を、次のように補足します。「実は、もともとARC-Xのカウンターをスペックする前に、我々のほうで人造大理石を使った洗面カウンターをゼロからデザインをしていました。水の流れ方まで検討して、ディテールまですべでデザインをしきったところで、少し見直すことになりました。
『THELIFE』というモデルはさまざまなところで実現する予定があり、納期やコストの部分など、リアリティのある課題を解決しながら再現性を持つ必要がありました。ARC-Xの洗面器の中で、シームレスな天板があり、その一部が削られるように傾斜をもち、その傾斜でそのまま水が流れていく製品が、我々がデザインしていた形とほぼ同じでした。綺麗で機能的に問題ないだろうと思ったのです」。
■ 素材感と光の反射感で空間と調和したARC-X
ARC-Xの製品と自分たちのデザインが重なり合った、というI INの湯山氏と照井氏。
「ただ綺麗なものをつくるのは難しいということは、日々僕らも感じていて。ただただ洗練されて美しいものを詰めて実現するのは、本当に多くのプロセスを要します。そうした魅力がARC-Xのプロダクトにはあります。
どうしても洗面カウンターやバスタブは、空間の主役になるものではないかなと思っていて。だからこそ、空間とどのように調和するかはプロダクトとしては重要だと思っています。ARC-Xのプロダクトは角張ったものやアールのあるものなど、形状の種類はありますが、どれもがゴールとして『空間と調和すること』を目指しているのではないかと感じます」(湯山氏)。
素材感を通しても、ARC-Xとの親和性を見たといいます。
「今回ARC-Xのカウンターをセレクトした理由の1つは、素材感でした。人造大理石を選んだのは、加工性や柄の美しさがあるのですが、手触りはすごく大切にしているためです。触ったときの温度感や滑り感に、魅力を感じています」(照井氏)。
光の可能性に注目して空間の新しい表現を追求する、I INの2人。実際にARC-Xの洗面器を納めた感想は、どのようなものでしょうか。
「本当にうまく空間と調和したなと感じています。形状も、素材そのものの魅力もありましたし、やはり人造大理石の光に対するリアクションもすごく魅力的です。光を反射するわけでもなく、かといって吸い切るわけでもない。
その微妙な感覚がすごく空間に合っていましたし、出来上がった空間を見て、まるで空間がARC-Xのためにあったような気もするし、ARC-Xのカウンターが空間のためにあったような気もします。すごく自然にそこにある、という雰囲気ができたと思います」と照井氏。
洗練された空間の魅力を引き立て、調和するARC-Xの製品。
「これまでと違う水回りの空間での暮らし方を提案したい」と語るI INの湯山氏と照井氏は、これからのプロジェクトでもARC-Xを導入したいと語ります。
ARC-X(アークエックス)
流行に左右されることなく、普遍的な価値を備えた、水まわり製品シリーズ。
あらゆる多様性を受け入れ、どんな空間にもフィットすることで、空間づくりの可能性を拡げる。