東京・原宿(渋谷区神宮前6丁目)に、隈研吾建築都市設計事務所が設計した新たな施設〈AEAJグリーンテラス〉が誕生しました。
公益社団法人 日本アロマ環境協会(Environment Association of Japan: AEAJ)[*1]の情報発信拠点としてオープンしたもので、国産ヒノキの規格材で組み上げた美しい組積構造を、ガラスウォールで覆っている、内外観ともに特徴的な建築となっています。
2023年2月1日のオープンに先立ち、AEAJでは、理事長の熊谷千津氏と、設計者である隈 研吾氏も出席した内覧会をメディア向けに実施。『TECTURE MAG』ではこれを取材しました。当日の様子をレポートします(本稿1枚目の1階内観とクレジット明記の内外観画像を除き、撮影は編集部)。
アロマテラピーの魅力を伝えるための施設の建設は、AEAJにとって構想から20年におよぶ念願だったとのこと(熊谷理事長談)。2018年にJR原宿駅に近い土地を取得したあと、2019年に「AEAJ拠点施設設計プロポーザル」を実施して、隈研吾建築都市設計事務所からの設計案を採用しました(2019年7月に計画概要をAEAJプレスリリースにて発表、計画段階のイメージパースはKKAA Websiteでも公開)。
〈AEAJグリーンテラス〉フロア構成:
1階外構部:アロマコリドー
1階:アロマラウンジ、アロマラボラトリー、アロマライブラリー
2階:AEAJ事務局オフィス
3階:イベントスペース、アロマテラス
〈AEAJグリーンテラス〉は、人々の心身の健康に寄与し、アロマ環境の保全と創造を図るAEAJの活動のシンボルとなるべく、多様な木材をさまざまなかたちで活用した空間デザインとなっています。
〈AEAJグリーンテラス〉のコンセプトとして、この場所に集う人々の健康と快適性、さらには未来の自然環境保全を視野に、さまざまな種類の木材を採用。木組みは国産のヒノキ、フローリングはクリ、壁や什器にはカラマツの単板積層材(LVL: Laminated Veneer Lumber)をそれぞれ使用。これら木材の使用量は平米数で95.5m²となり、炭素固定量は約75トンと算出されています[*2]。
*2.AEAJプレスリリースより(林野庁「建築物に利用した木材に係る炭素貯蔵量の表示に関するガイドライン」「令和元年度 森林・林業白書」からの数字)
18組が参加したというプロポーザルにおいて、隈研吾建築都市設計事務所が意識したのは、精油が植物から抽出されるものであるからこそ、自然を意識したデザインと構法によって建てること。そして「木の香り」でした。ガラスのファサードは、木組みで使用した大量のヒノキの香りを内部に閉じ込め、長く保ちます。
建物を囲ったガラスウォール越しに確認できる木組みは、イメージパースで全体をみると、まるで大樹のよう。市場の汎用材である105mm角の規格材を用いて、隈氏は、原宿という都会の真ん中に、もう1つの杜(もり)を出現させました。
構造は、日本の伝統的な建築技法である木組みを活用したハイブリッドで、筋交いを入れず、ブレースの代わりに木組みの「壁」が水平力を負担し、構造を保たせています。高いデザイン性を確保しつつ、鉄骨とコンクリートの使用を最小限に抑えています。
内覧会での隈氏のプラン解説によれば、今回の設計で強く意識されたのが、隈氏が建築家としての「原点」と過去に何度も語っている、丹下健三(1913-2005)が設計した〈国立代々木競技場〉が計画地の西側に位置していることでした。〈AEAJグリーンテラス〉のアプローチ手前からも、その特徴的な屋根のかたちを確認できる〈国立代々木競技場〉は、計画地とは東西の軸線上にあり、さらにこの丹下建築から北の軸線には、明治神宮の本殿が位置しています。
1964年の東京オリンピックの主要施設として建設された〈国立代々木競技場〉は、巨大なワイヤーロープで屋根を吊った革新的な構造であることはよく知られています。JRの線路を挟んで、3階の「アロマテラス」から全景を一望できる丹下建築との響き合うことを意識してデザインされたのが、隈氏の最新作〈AEAJグリーンテラス〉となります。
アロマテラピーの魅力を伝え、さまざまな情報を発信する拠点となる〈AEAJグリーンテラス〉は、予約をすれば誰でも利用が可能です。
今後はオリジナルのフレグランス作成が楽しめる「Aroma Bar」や、アロマクラフトづくり、植物を育む自然環境について学ぶワークショップなどを実施する計画とのこと。
#日本アロマ環境協会 AEAJ YouTubeチャンネル「建築家 隈研吾が語る、神宮前の小さな森〈AEAJグリーンテラス〉」(2023/01/31)
隈 研吾氏プロフィール
1954年生まれ。1990年隈研吾建築都市設計事務所設立。慶應義塾大学教授、東京大学教授を経て、現在、東京大学特別教授・名誉教授。
自然と技術と人間の新しい関係を切り開く建築を提案し、30を超える国ち地域でプロジェクトが進行中。
主な著書に『全仕事』(2022年、大和書房)、岩波書店から刊行された『点・線・面』(2020年)、『小さな建築』(2013年)、『自然な建築』(2008年)、『負ける建築』(2004年)などがある。隈研吾建築都市設計事務所ウェブサイト
https://kkaa.co.jp/
所在地:渋谷区神宮前6丁目34-24(Google Map)
用途地域:第二種中高層住居専用地域
敷地面積:322.91m²
構造:混合造(S+RC、一部木造)
設計:隈研吾建築都市設計事務所
構造:江尻建築構造設計事務所
設備:環境エンジニアリング
施工:松下産業
開館日時:火~土曜 13:00~18:00
休館日:日曜・月曜・祝日
利用方法:予約制、以下URLの特設サイトから申し込み
利用料金:一般 500円 / AEAJ会員・18歳未満・障がい者手帳の提示で無料
〈AEAJグリーンテラス〉特設サイト
https://www.aromakankyo.or.jp/greenterrace/
公益社団法人 日本アロマ環境協会
1996年に日本アロマテラピー協会(AAJ)として設立。同年に第1回「アロマテラピーアドバイザー認定講習会」を開催。以降も植物の香りを用いた「アロマテラピー」を通じて人々の心身の健康に寄与することを目的に、アロマテラピーの普及・調査・研究などを行っている。アロマテラピーの正しい知識と技能を有する人材育成を目的に、1999年より認定試験・アロマテラピー検定を実施。2005年に環境省管轄の社団法人に改組設立、2012年に内閣府所管の公益社団法人に移行。2023年1月に〈AEAJグリーンテラス〉2Fに事務局を移転。
https://www.aromakankyo.or.jp/aeaj/