東京・新宿区歌舞伎町に2023年4月14日に開業した超高層複合施設〈東急歌舞伎町タワー〉。施設概要については、『TECTURE MAG』にて昨年5月より既出の通り。外装デザインを、建築家の永山祐子氏が率いる永山祐子建築設計が手がけています。
施設全体概要
名称:東急歌舞伎町タワー
事業主体:東急、東急レクリエーション
所在地:東京都新宿区歌舞伎町1丁目29番1号
用途:ホテル、劇場、映画館、店舗、駐車場など延床面積:約87,400m²
階数:地上48階、地下5階、塔屋1階
高さ:約225m
設計:久米設計・東急設計コンサルタント設計共同企業体
外装デザイン:永山祐子建築設計
施工:清水・東急建設共同企業体
企画・プロデュース:POD
ホテル運営:東急ホテルズ&リゾーツ
開業日:2023年4月14日(ホテルなど一部施設を除く)
歌舞伎町に新たに2つのホテルが開業
〈東急歌舞伎町タワー〉は、東急および東急レクリエーションによる大型プロジェクトで、「新宿ミラノ座」の名を継いだ映画館をはじめ、劇場、ライブホールなどのエンターテインメント施設が低層部に展開。最上階を含む高層階にはコンセプトがそれぞれ異なる2つのホテルが入りました。どちらも東急ホテルズ&リゾーツが運営するもので、5月19日に開業しています。
2つのホテルのうち、18・20-38階に入った〈HOTEL GROOVE SHINJUKU, A PARKROYAL Hotel(ホテル グルーヴ シンジュク ア パークロイヤルホテル)〉は、まちを遊びつくす拠点となるライフスタイルホテル。レセプションを含めて18・39-47階の上層フロアに入った〈BELLUSTAR TOKYO, A Pan Pacific Hotel(ベルスター トウキョウ ア パンパシフィックホテル)〉は、ペントハウスを有する”天空のラグジュアリーホテル”です(以下「BELLUSTAR TOKYO」と略)。
『TECTURE MAG』編集部では、開業前に開催された、施設全体のメディア内覧会および永山祐子建築計画による見学ツアーと、最上階エリアのペントハウスを含む〈BELLUSTAR TOKYO〉を後日に取材しました。
本稿では、新宿に新たに誕生した注目のラグジュアリーホテル〈BELLUSTAR TOKYO〉について詳しくレポートします。
天空のプライベートヴィラ
〈BELLUSTAR TOKYO〉は、地上の喧騒から離れ、特別な空間を楽しむ都会のラグジュアリーホテルです。
ホテルの名称はラテン語の「BELLUS(美しい)」と「STAR(星)」を組み合わせた造語で、ホテルでの滞在・体験がゲストを輝かせ、美しい未来へと誘っていくようにという想いが込められています。
タワーの最上階を含む39階から47階を占有し、ラウンジ、レストラン&バー、スパが付帯。客室面積と部屋数は、41m²から76m²の各タイプ・92室が39階から44階の6フロアに展開。45階から47階にはペントハウス5室を有します。
5室のペントハウスと、ダイニング&バー、スパを合わせたホテル最上部の内装設計・空間デザインを、建築家の芦沢啓治氏が率いる芦沢啓治建築設計事務所が担当。プロジェクトのデザインパートナーとして、同事務所と何度もタッグを組んでいる、デンマークのデザインスタジオ・Norm Architects(ノーム・アーキテクツ)が参画しています。
心地良さを重視したペントハウスのデザイン
3フロアにたった5室のペントハウス。そのうちの「hana 花」と「tori 鳥」はメゾメットタイプで、客室面積は最小の「kaze 風」でも113m²、最大の客室「sora 天」では277m²の広さを誇ります。
BELLUSTAR Penthouse 構成(45階〜47階)
47階「sora 天」277m²
46階「tsuki 月」159m²
46階「kaze 風」113m²
45-46階「tori 鳥」186m²(メゾネット)
45-46階「hana 花」184m²(メゾネット)
地上からの高さ約200mの位置にあるペントハウスは、天空との一体感を損なわないよう、装飾を排したシンプルなデザインが意識されました。フレームを廃した窓から圧倒的な景色が広がります。
芦沢啓治氏コメント
「私たちは、整然としたインテリアの中で、手触り感のあるクラフト感のある素材に囲まれながら、豊かさを感じてほしいと思っています。活気のある東京の景色が、まるで禅寺の枯山水のように見えるような体験を提供したいと考えています。」
カリモク家具のコレクション〈Karimoku Case Study〉から厳選されたプロダクト
別荘や邸宅を貸し切ったようなラグジュアリーな感覚で、かつ我が家のようにゲストがくつろいで過ごす過ごせる”天空のプライベートヴィラ”として、間(ま)と余白、そして本物の素材がもつ質感と、醸し出される温かみも強く意識されました。
家具には、芦沢啓治氏とノーム・アーキテクツがデザイナーとして参加している、カリモク家具の〈Karimoku Case Study(カリモクケーススタディ)〉から厳選されたプロダクトが採用されています。
加えて、両組によってこのホテル空間のためにデザインされた造作家具もあり、これらの一部は〈Karimoku Case Study〉の新たなアイテムとしてコレクションに追加される予定です。
デザインコンセプト
都心の中心地である新宿に誕生した東急歌舞伎町タワーのBELLUSTAR TOKYO, A Pan Pacific Hotel最上部となる45階から47階にある5室のBELLUSTAR Penthouse、BELLUSTAR Restaurant & Bar、SPA sunyaのインテリアの設計のプロジェクトである。今回のすべての空間には、カリモク家具との協働によりカリモクケーススタディの家具をメインに新しくデザインしたものも含め配置している。
200メートル下の都会の喧騒から解放され、富士山まで見渡せる眺望はまさに絶景である。豊かなスペースと、東京の中心である景色。都心でありながら静かに暮らせる贅沢は他に比べようがないだろう。しかしながらゲストが滞在する間、その眺望すら忘れてしまうような美しい静かな空間を作ることに専念した。
東急歌舞伎町タワーにおいても最も壮大な空間である、南側に面したBELLUSTAR Restaurant & Bar。3層吹き抜け空間をもち、東京の景色と一体となる。窓側の席は、まさに景色に溶け込む二人席が並び、窓から離れた4人席は、少しプライベート感をつくり出すために特注で製作したペンダントライトを壁から持ち出している。隣接する東側に面したバーでは、窓に向いたラウンジチェアーを配し、バーカウンターは、鏡によって景色とバックカウンターに並んだお酒の配列を楽しめる。円形のラウンジソファーは、仲間と共に団欒を楽しむためのものとして設計されている。
西側に面した2つのレストランでは、鉄板焼と寿司を味わうことができる。「鉄板 天祐(てんゆう)」においては、ジグザクのカウンターとすることで、シェフに対してプライベート感を演出しつつ、外の景色も楽しめるようにと計画した。「鮨 甚江(JIN-È)」では、伝統的な江戸前鮨を食べる上で、鮨のように空間は削ぎ落とされたシンプルさがあり、またそこから見える景色と相まって、独特な空間を作り出している。
東急歌舞伎町タワーの最上階に位置し、西側に面したSPA sunyaは、ホテルの利用者、外部の人たちも使うことができ、スパの時間は、まさにリラクゼーションと美容、双方のための至福の時間でもある。施術ルームからのビューやラウンジにおいては、ペントハウスのホテルと同様のデザインコードで作っており、最高のくつろぎを最高の景色の中で味わってもらえればと思い設計した。
PENTHOUSE Loungeはまさにサンセットを楽しむラウンジであり、その静かであろう世界観を作りたいと思い、高い天井高に対して低めの家具をセットし、その配置によって空間とプライベートな感覚を作ることを心がけた。
日本の四季の美しさからインスピレーションを得たBELLUSTAR Penthouseは、「天」そして「花、鳥、風、月」と名付けられ、それぞれの静謐な美しい空間をもつ5室で一つの世界観を表現している。Norm Architectsとのコラボレーションにより、豊かな材料と、美しいシンプルなデティールで構成された空間となり、東京のど真ん中でありながら落ち着いた気分で日常的に過ごすともに、非日常的な環境も併せ持つ特別な空間が生まれている。
照明計画は陰翳礼讃を意識し、眩しさがないように注意深く配置するとともに、空間の中で陰影が心地のいいバランスとなるように計画した。壁や天井に使用した漆喰の色や、テキスタイルの色は自然界の色から注意深く選択し、床の色、家具の色などがバランス良くまたシンフォニーを奏でるように選ばれている。
景色と空間だけが浮かび上がるように、ノイズを取り除いた美学的な空間に身を沈めていると、心が落ち着いてくるのが分かる。都市での高揚感と静かなホームによって旅の体験はより幸福感を感じられることと思う。この都心の最上階層にある立地と素晴らしい眺望の中で、非日常でありながらも日常的な、静かで美しい時間と空間を楽しんでいただけたら幸いである。(芦沢啓治)
カリモク家具のデザイナー3組のアイテムが一堂に
前述の芦沢氏によるテキストにもあるように、ペントハウスだけでなく、ホテルのラウンジ、3つのレストラン、バー、そしてスパに配置された家具(製品)と造作家具の製作をカリモク家具が手がけています。
レストランのダイニングチェアには、2022年に〈Karimoku Case Study〉の新たなデザイナーとなった、建築家のNorman Foster(ノーマン・フォスター)氏が手がけたプロダクトが採用されています。このほかにもノーム・アーキテクツがこのプロジェクトのためにデザインしたチェア(Karimoku Case Studyから発売予定)や、芦沢氏がデザインしたプロダクトも配置されているなど、これまでに〈Karimoku Case Study〉のアイテムは国内外のホテルで採用されてきましたが、この3組がデザインした家具が一堂に会しているホテルは、世界でもここだけです。
客室、レストラン、共有部など各所にアートを展開
新宿・歌舞伎町の文化を体験できる施設として、〈東急歌舞伎町タワー〉という施設名称が決定する前の「歌舞伎町一丁目地区開発計画(新宿TOKYU MILANO再開発計画)」の段階から「新宿・歌舞アートプロジェクト」が展開されました。
永山祐子氏が外装デザインを手がける「歌舞伎町一丁目地区開発計画」の仮囲いで展開する「新宿アートウォールプロジェクト」が完成【現地レポート】
『TECTURE MAG』にて2021年5月に取り上げたように、建設中の現場の工事用仮囲いには、劇場版アニメ「エヴァンゲリオン」と連動した開発好明氏のアート作品と、新宿とゆかりの深い写真家の森山大道氏の写真群「SHINJUKU」がアートウォールとなって展示され、タワー竣工への期待感を盛り上げました。
「新宿・歌舞アートプロジェクト」は継続され、両氏を含む、総勢26組の作家による作品が、タワーの各所で展示されています(キュレーター:拝戸雅彦[愛知県美術館館長]、ANOMALY)。
以下の写真は、〈BELLUSTAR TOKYO〉の客室やレストラン、共有部など館内各所で目にすることができるアート作品です。
〈BELLUSTAR TOKYO, A Pan Pacific Hotel〉施設概要
所在地:東京都新宿区歌舞伎町1丁目29番1号 東急歌舞伎町タワー 18・39〜47階(Google Map)
ペントハウス面積:BELLUSTAR Penthouse(全5室):113~277m²
客室面積:41m²~82m²
客室数:計97室
フロア構成:47階 スパ / 46階 ペントハウスラウンジ / 45階 レストラン&バー / 45階-47階 ペントハウス(5室)/ 39-47階 客室(92室)/ 18階 レセプション / 1階(タワー西側)ウェルカムラウンジ「BELLUSTAR One」
飲食店舗:モダンフレンチ「Restaurant Bellustar」(36席:内個室8名、全1室)/ メインバー「Bar Bellustar」(58席)/ 鉄板焼「鉄板 天祐」 (10席)/ 寿司「鮨 甚江(JIN-È)」(9席)45階〜47階 内装設計(客室・ペントハウス・ラウンジ・レストラン&バー):芦沢啓治建築設計事務所+Norm Architects
・BELLUSTAR PENTHOUSE(5室):芦沢啓治建築設計事務所+Norm Architects
・BELLUSTAR Restaurant&Bar:芦沢啓治建築設計事務所
・SPA sunya:芦沢啓治建築設計事務所
・FFE(Furniture, Fixture and Equipment):芦沢啓治建築設計事務所+Norm Architect
39-47階 客室内装設計:久米設計
1階 ウェルカムラウンジ 内装設計:永山祐子建築設計〈BELLUSTAR TOKYO, A Pan Pacific Hotel〉公式ウェブサイト
https://www.bellustartokyo.jp/
〈東急歌舞伎町タワー〉のそのほかのフロアとホテル〈HOTEL GROOVE SHINJUKU, A PARKROYAL Hotel〉のレポートは後日掲載予定(Comming Soon !)
Reported by Naoko Endo