『TECTURE MAG』にて今年2月に速報した、ユートピアアグリカルチャー(北海道沙流郡日高町、UTOPIA AGRICULTURE:UA)によるプロジェクト「FOREST REGENERATIVE PROJECT(フォレスト リジェネラティブ プロジェクト)」のモデルファーム「盤渓農場」が10月18日にオープンした。札幌市郊外の盤渓において、温室効果ガスの吸収能力などが低下した森を再生させながら、放牧酪農・畜産・養鶏を行うもので、DOMINO ARCHITECTSの大野友資氏が参画、施設全体の計画と施設の設計を担当している。
10月18日にオープンした「盤渓農場」は、UAが北海道大学大学院の内田義崇助教授の研究室(農学研究院 環境生命地球化学研究室)や、施設の設計メンバーと共に今年2月に開始した「FOREST REGENERATIVE PROJECT」の実験を本格的に始動させる場です。「地球、動物、人に優しい牧場運営の実験と、その材料を使った美味しいお菓子作り」をコンセプトとする、UAの「放牧の実験」の象徴となるモデルファームを目指しているとのこと。
「盤渓農場」の稼働により、山に動物と人が入り、森に関わることで、森林としての従来の機能が低下したいわゆる”死んだ森”を活性化させ、さらには、酪農・畜産・養鶏における温室効果ガスを吸収。環境をネガティブにするための実験が行われます。海外の研究者によって実証結果も出ているシルボパスチャー(林間放牧)を札幌の森で実践するものです。
UAが取得した敷地内には、森に放つ馬や牛を休ませる小さな牧舎のほか、より自然に近づけた環境で養鶏する鶏舎を2棟、卵の自動販売機および配送のための施設、計4棟が建設されています。
4棟3施設のポイント
・農業用資材を活用しつつ、外観の美しさと機能を併せ持った、動物のための建築
・より自然な卵の生産を目指し、極限まで屋外での放し飼い状態に近づけた養鶏場
・自然環境に近い卵という実験結果を市民と共有するため、盤渓で採れた「盤渓自然卵」を購入できる自動販売機の設置
「森の活性化」と「より美味しい洋菓子の原材料づくり」を両立させるため、通常の牧畜施設とは違った配置と建築になっているとのこと。これらの全体計画と設計を、建築家の大野友資氏(DOMINO ARCHITECTS)が担当しています。設計コンセプトとして、「盤渓という土地へのリスペクトを持ち、土地に根付いた建築をすること」が掲げられました。
各施設の特徴
“動物のためのスペース”
土地の前所有者による農作業用の小屋が既存建物としてあり、それが三角屋根の特徴的なかたちをしていて、この土地に似合っていたことから、その小屋がデザインのモチーフとなっています。
外壁の面材には、熱を反射する農業用シートを活用し、施設内の温度調節ができ、エネルギー効率も良く、見た目にも新奇性がある、動物のための建物になっています。
鶏舎
鶏舎の中は、鶏の自生地であるインドネシアの里山をイメージし、日本国内の法律に準拠したうえで、最も放し飼いに近い平飼いを目指しています。
建物はビニールハウスで、外部との視覚的障害が少なく、棟の両面を開口してい空気循環率を高くしています。内部には鶏が食べても問題ない30種類ほどの多様な植物を植えることで、野生の環境に近い状態をつくっています(環境設計:ワイルドサイエンティスト / 片野晃輔氏)。面積あたりの羽数も少なくし、ストレス負荷を減らした状態となっています。
「盤渓自然卵」+発送所
駐車場から最も近い棟には、施設の顔として、「盤渓自然卵」の自動販売機が設置されました。「盤渓農場」で採れた新鮮な卵がその日のうちに販売されます。
この自販機は窓付きのロッカータイプで、購入者自身がどの卵にするかを選べるようになっています。卵をちゃんと見る、卵と向き合う、そして購入に進むという、体験の手順を強く意識した設計とのこと(デザイン:クリエイティブスタジオnomena / 武井祥平氏)。
DOMINO ARCHITECTS / 大野友資氏コメント
「農場の設計は初めてでしたが、鶏や牛、馬、人それぞれがのびのびと過ごせる場所ができたのではないかと思います。大掛かりで完成された建物を建てるのではなく、使いながら足りない所をその都度工夫して補っていけるような、未完成ながら大らかな建築・ランドスケープを目指しました。本プロジェクトと並走するかたちで、建築も成長していくことを期待しています。」
また、「盤渓農場」では、センシング技術による森と牧草地を含む農場全体の環境の活性化と、その可視化について、仮説立案と実証実験が行われます。
UAと協働する北海道大学大学院の内田研究室が研究するリジェネレイティブアグリカルチャー(環境再生型農業)[*1]において重要なテーマとなっている、土壌の水分量や栄養素の可視化、土壌の健康状態と微生物の関係性など、環境の実態把握につながる技術の探索を推進していくとのこと。地球環境やアニマルウェルフェア[*2]に配慮しながらも、生産性を向上させる新たな農畜産業の実現するシステムの構想を具体化していきます。
*1.類似のワードに「環境保全型農業」がある / 環境保全型農業:農業の持つ物質循環機能を生かし、生産性との調和などに留意しつつ、土づくりなどを通じて、化学肥料、農薬の使用などによる環境負荷の軽減に配慮した持続的な農業を指す農林水産省ウェブサイトより)
https://www.maff.go.jp/j/seisan/kankyo/hozen_type/
*2.アニマルウェルフェア:動物の生活とその死に関わる環境と関連する動物の身体的・心的状態を指す(農林水産省ウェブサイトより)
https://www.maff.go.jp/j/chikusan/sinko/animal_welfare.html
さらに、盤渓農場の森は、北海道大学とソニーグループによる、リジェネレイティブアグリカルチャーに関する共同研究においても、貴重な実証実験フィールドの1つとして位置づけられています。
今後は数年単位で実験を進めることで、森と動物と人の新しい関係性、UAと協働する各所が共に目指す”真のリジェネレイティブアグリカルチャー”を構築していく考えです。
ユートピアアグリカルチャー(UA)代表 長沼真太郎コメント:
「盤渓農場は、まだしっかりとした定義のない日本版リジェネラティブアグリカルチャーの発信拠点となることを目指しています。さまざまな業界の方々との協業を通じて、クローズドではなくオープンな研究により、北海道のみならず、日本全体の酪農・畜産業界の発展に貢献していきたい。5年、10年と長期にわたるプロジェクトではありますが、お菓子屋としての情熱をもって進めていきます。今後にぜひご期待ください。」
所在地:北海道札幌市中央区盤渓376(Google Map)
休業日:冬季の間は休業予定
詳細・プロジェクトメンバープロフィール
UAプレスリリース(2022年10月18日)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000018.000073954.html
ユートピアアグリカルチャー(UA)会社概要
https://www.utopiaagriculture.com/about/