上の画像:ヴァレーギャラリー展示作品 草間彌生〈ナルシスの庭〉Yayoi Kusama, Narcissus Garden, Stainless steel spheres, 1966/2022, Copyright of Yayoi Kusama Photo: Masatomo MORIYAMA
2021年11月27日初掲、2022年3月21日画像追加・最新に改定
2022年に開館30周年を迎える、香川県・直島町の[ベネッセアートサイト直島]に、新たに2つのアート施設が3月12日にオープンしました。
1つは、建築家の安藤忠雄氏(1941-)が設計を担当し、[ベネッセアートサイト直島]における9つ目の安藤作品として新たに建設される〈ヴァレーギャラリー(Valley Gallery)〉。
もう1つは、2006年に開館した〈ベネッセハウスパーク〉を改装し、現代美術作家の杉本博司氏(1948-)の作品を展示・鑑賞するための空間として整備・拡張するもの。〈杉本博司ギャラリー 時の回廊〉としてリニューアルオープンしました。
2021年10月9日に現地にて、オンラインも使っての記者発表が行われ、安藤、杉本の両氏をはじめ、前述の2施設に展示する作品のアートディレクションを担当する、[ベネッセアートサイト直島]のインターナショナル・アーティスティック・ディレクターを務める三木あき子氏、ベネッセホールディングス代表取締役会長CEOの安達 保氏など関係者が出席。今回のプロジェクトの計画概要などが発表されています(以下のテキストは、ベネッセホールディングス提供の広報資料をまとめたもの)。
〈ヴァレーギャラリー〉の立地は、安藤氏の設計で知られる宿泊施設〈ベネッセハウス〉と〈地中美術館〉の間にある山間部で、〈李禹煥美術館〉の向かい側。
祠(ほこら)をイメージして建てられる半屋外建築と、屋外を含めた周辺の空間と一帯となって、〈ヴァレーギャラリー〉として整備されました。
展示されるのは、草間彌生氏(1929-)と小沢 剛氏(1965-)の作品です。
建物の内外にて、草間氏の作品〈ナルシスの庭〉が大きく展開。池のほとりに2006年より恒久展示されている、小沢氏の作品〈スラグブッダ 88-豊島の産業廃棄物処理後のスラグで作られた88体の仏〉も、その一部を改変して設置されます。
ランドスケープと一体となった両作品と、自然の中に点在する〈ベネッセハウス〉の各棟や美術館施設との連続性をもたせた配置により、エリア全体のランドスケープを体感・鑑賞できるように考えられています。島をとりまく海や、季節ごとに多彩な表情を見せる山間部の豊かな自然と、アートと建築が共鳴し、それらを総合的に鑑賞する美術館となります。
草間彌生〈ナルシスの庭〉1966/2022年(JT International SA 寄贈・公益財団法人福武財団所蔵)
小沢 剛〈スラグブッダ 88 -豊島の産業廃棄物処理後のスラグで作られた 88 体の仏〉2006年(恒久設置)
アートディレクション:三木あき子
※作品は今後状況に応じて数年毎に展示替えを行う予定
安藤忠雄氏コメント:
「プロジェクトは、福武總一郎氏らと共に、敷地を確認することから始まった。そして決まったのが、李禹煥美術館のある、倉浦に向かう谷筋の一角、春先にはヤマツツジに覆われる斜面に囲われた美しい場所だ。建物は、地形に応じて30度の角度で開いた台形平面を持つ。コンクリートの壁による二重構造を成す建物は、厚さ12mmの鉄板屋根で覆われる。鉄板には、シフトや切込みといった幾何学的操作で開口が穿たれており、建物内部に、雨や風、光といった自然の呼吸をそのままに取り入れる。小さくとも結晶のような強度をもつ空間をつくろうと考えた。」
〈ヴァレーギャラリー〉施設情報
英語表記:Valley Gallery
所在地:香川県香川郡直島町琴弾地
開館時間:9:30-16:00(最終入館15:30)
休館日:年中無休
入館料:ベネッセハウス ミュージアムの入館料(1,300円)に含まれる(ベネッセハウス宿泊者は無料)
チケット販売:ヴァレーギャラリー、ベネッセハウス ミュージアム
駐車場:なし
延床面積:96.25m²
設計:安藤忠雄建築研究所
施工:鹿島建設
開館日:2022年3月12日
〈杉本博司ギャラリー 時の回廊〉は、数多くの杉本作品を収蔵している〈ベネッセハウス パーク〉の展示空間を、屋外も含めて拡張し、杉本氏の多様な作品群を継続的かつ本格的に鑑賞することを目指した、世界的にも他に例をみないギャラリーとなります(プロジェクトアーキテクト:冨岡 大)。
杉本氏は、[ベネッセアートサイト直島]が旧称・直島コンテンポラリーアートミュージアムとして1992年にオープンする前後の黎明期より、さまざまなかたちで直島に関わり、数々のアートプロジェクトに参画してきました。
代表的な写真シリーズである〈海景〉や〈松林図〉などの作品がすでに施設内に展示されており、さらに今年1月には、2014年に制作され、国内外の展覧会などで披露されてきた〈硝子の茶室「聞鳥庵(もんどりあん)」〉が、恒久展示作品として加わり、野外に展示されています。
〈聞鳥庵〉設置に関するプレスリリース
https://benesse-artsite.jp/news/20210105-1558.html
杉本作品を鑑賞するための空間の改装・拡張は、既存のラウンジやボードルームでも行われ、杉本と建築家の榊田倫之氏によって設立された新素材研究所がデザインを手がけ、新たにカフェが整備されます。
カフェラウンジには、杉本氏が「三種の神樹」と名付けた、神代杉、屋久杉、栃の木(トチノキ)を材に用いて、彫刻作品のようなテーブルを杉本氏がしつらえます(後述・杉本氏のコメントを参照)。
杉本博司氏コメント:
「新設された〈硝子の茶室「聞鳥庵」〉を臨むカフェラウンジの改修にあたっては、極力、安藤建築のディーテールを保全したうえで、その空間に置かれる家具の彫刻化に挑みたいと思います。
まず、私が最近発見した3種類の特殊な樹(き)について説明します。神代杉の根方について
神代杉とは、縄文杉とも呼ばれ、樹木が半化石化したものを指します。この神代杉は、最近になって発掘されたものです。
紀元前466年に、東北の活火山・鳥海山が大噴火し、その際の地震によって大規模な山体崩壊が起こり、原生林の大木の1つだった巨大杉が地中に埋もれて眠ること2400年余、という時間の経過を経ています。埋没時の樹齢を1600年と推定すると、4000年前に発芽した杉という計算になります。まさに、神代の時代に生をうけたものです。屋久杉の幹について
過酷な環境で育った屋久杉は、大木が多く、樹齢1000年以上の樹が屋久杉と呼ばれます。近年、ユネスコの世界自然遺産に登録され、今は伐採は禁止されています。この屋久杉は、樹齢1500年程で、かなり前に伐採されたもので、その樹齢により、内部が空洞化しています。栃の樹の側(そば)について
「栃木県の名の由来となっているトチノキを使用。この木は、同地域で伐採された、白く波打つ木肌が美しい、推定樹齢600年のトチノキです。」今回の空間拡張について
これら3種類の樹木は、さまざまな鳥の声を聴きながら時を渡ってきたに違いありません。神代杉の4000年、屋久杉の1500年、栃の樹の600年、そして今、杉本ギャラリーカフェラウンジにおける彫刻テーブルとして、時間の経過そのものをこの場に体現させます。我が国において、巨木は神の依代(よりしろ)として信仰の対象となってきました。神代杉は縄文人によって、屋久杉は弥生人によって、栃の木は室町期の人々によって拝まれていたと思います。私はこの樹々たちを「三種の神樹」と名付けることにしました。
「時の回廊」では、時間を遡るような感覚を体感することができます。」
英語表記:Hiroshi Sugimoto Gallery:Time Corridors
所在地:香川県香川郡直島町琴弾地(ベネッセハウス パーク内)
開館時間:11:00-15:00(最終入館14:00)
休館日:年中無休
入館料:1,500円(カフェスペースでの茶と菓子代込み)予約制
チケット販売:オンラインチケットPetixでの事前購入要
駐車場:なし
延床面積:1372.4m²
建築 改修設計:新素材研究所
プロジェクトアーキテクト:冨岡 大
施工:AGB、イシマル
開館日:2022年3月12日
展示作品
既存作品:杉本博司〈カボット・ストリート・シネマ、マサチューセッツ〉1978年、〈カリブ海、ジャマイカ〉1980年、〈ワールド・トレード・センター〉1997年、〈光の教会〉1997年、〈ノートルダム・デュ・オー礼拝堂〉1998年、〈聖ベネディクト礼拝堂〉2000年、〈松林図〉 2001年、〈観念の形 003 オンデュロイド:平均曲率が0でない定数となる回転面〉2005年、〈光学硝子五輪塔 ボーデン湖、ウットヴィル〉2009/1993年
〈硝子の茶室「聞鳥庵」〉2014年
新規展示作品:杉本博司〈ハイエナ、ジャッカル、コンドル〉1976年、〈華厳の滝〉1977年、〈日本海、隠岐〉1987年、〈アイリッシュ海、マン島〉1990年、〈On the Beach 001〉1990/2014年 、〈On the Beach 007〉1990/2014年 、〈On the Beach 017〉1990/2014年、〈On the Beach 018〉1990/2014年、〈プリズム〉2002年、〈護王神社模型〉2003年、〈光学硝子五輪塔 日本海、礼文島〉2012/1996年、〈光学硝子五輪塔 相模湾、熱海〉2012/1997年、〈光学硝子五輪塔 オホーツク海、北海道〉2012/1989年、〈硝子の茶室「聞鳥庵」〉2014年、〈Past Presence 070 大きな女性像 III、アルベルト・ジャコメッティ〉2016年、〈Opticks 020〉2018年、〈Opticks 073〉2018年、〈Opticks 080〉2018年、〈三種の神樹-神代杉〉2022年、〈三種の神樹-屋久杉〉2022年、〈三種の神樹-栃の樹〉2022年
アートディレクション:三木あき子
※作品は今後状況に応じて、数年毎に展示替えを行う予定
三木あき子(ベネッセアートサイト直島 インターナショナル・アーティスティック・ディレクター)コメント:
境界や聖域とされる谷間に沿うように建てられた〈ヴァレーギャラリー〉は、祠をイメージした小さな建物です。
2重の壁による内部空間は、内省的である一方で、海側のシーサイドギャラリーと同様に半屋外に対して開かれ、光や風など自然エネルギーの動きも直接的に感じ取ることができます。
今回、その屋内外に展示される草間彌生氏の〈ナルシスの庭〉は、草間氏が1966年のヴェネチア・ビエンナーレで、パビリオンの外の芝生に大量のミラーボールを敷き詰め、世界的注目を集めることになった記念すべき作品です。恒久展示である小沢 剛氏の作品〈スラグブッダ〉は、直島の歴史に残る八十八か所の仏像をモチーフとし、豊島で不法投棄された産業廃棄物を焼却処理した後で最終的に生じるスラグを素材に、2006年に製作されました。
安藤建築と、周囲の自然や地域の歴史を”映し出す”これらの作品が、互いに響き合い、改めて自然の豊かさや共生、無限と有限、根源的な祈りの心や再生などについて、鑑賞者に対して意識するよう促します。建物内では、数年ベースで展示替えを行う予定です。
〈杉本博司ギャラリー 時の回廊〉は、杉本博司の直島における長年にわたる取り組みが、作家として究極の作品とも言える、神奈川県小田原市の〈江之浦測候所〉が生まれるきっかけとなったという経緯から、氏の創作活動のひとつの原点とも言える直島と、江之浦とをつなげるかたちで構想されました。
〈江之浦測候所〉が、主に建築と作庭が中心となっているのに対し、直島での新たなギャラリーは、杉本氏の代表的な写真作品やデザイン、彫刻作品などを、継続的かつ本格的に鑑賞できる、世界的にみても主要な展示施設となります。既存の野外展示作品〈護王神社〉などとあわせて、より幅広く、杉本の多様な活動に触れることが、直島において可能となります。
施設名称に冠した「時の回廊」とは、建築空間や自然環境を回遊し、体感することを促す安藤建築の特徴や、杉本氏が追求し続ける時間に対する問い、そして、彼らの長年にわたる直島との関係性などを反映し、宿泊者や鑑賞者に自然の変化や壮大な時間の流れを体感してもらい、歴史や生きることについても思索を巡らせてもらうことを意図して構想されています。展示替えは、一部において長期的なスパンで行う予定です。」
[ベネッセアートサイト直島]施設概要
瀬戸内海の直島、豊島、犬島を舞台に、ベネッセホールディングス(岡山県岡山市)、公益財団法人福武財団(香川県香川郡直島町)が展開しているアート活動の総称。30数年にわたり、アートを媒介とした地域づくりに取り組んでおり、地域に暮らす人々とともに新しい価値を生み出し、「Benesse=よく生きる」を世界へ発信することを目的とする。SDGs(持続可能な開発目標)の実現に向けて策定したベネッセグループの「サステナビリティビジョン」における重点な活動の1つとして位置づけられ、「地域との価値共創」の中核を担っている。
[ベネッセアートサイト直島]公式Webサイト
https://benesse-artsite.jp/