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【会場レポート】江角泰俊×隈研吾×インターメディアテク

特別展示「被覆のアナロジー -組む衣服 / 編む建築」

東京・丸の内のJPタワー学術文化総合ミュージアム「インターメディアテク」にて、特別展示「被覆のアナロジー -組む衣服 / 編む建築」が11月5日より開催されています。ファッションデザイナーの江角泰俊氏[*1]と建築家の隈研吾氏、およびインターメディアテク(IMT)[*2]との企画による世界初公開となる展示です。

TECTURE MAGは11月4日に行われたプレスビューに参加。会場の様子と、江角氏と隈氏による解説をレポートします。

特別展示「被覆のアナロジー ― 組む衣服/編む建築」

ステートメント

衣服と建築は、異なる分野であっても人間の活動においてはいずれも「まとう」ことを定義する創作物です。衣服であれば身体を包み、建物であれば人々の営みを包む。両者は広く人間の活動を取り巻く「被覆環境」と位置づけることができます。

近代以降、工業化による生産プロセスの効率化と分業化によって、両者は均質化した交換可能な商品として生産され、流通し、消費されてきました。その結果、人間を取り囲む「被覆環境」から身体感覚や多様性は大きく失われることとなりました。その一方、近年ではモノ中心の消費よりも体験や共感に価値が置かれるようになり、「被覆環境」においても住む・着るという素朴な体験の中にある魅力、即ち身体感覚を中心に据えた価値観に立ち戻る動きが見られます。このような社会の変化の中で従来のデザイン手法を見直し、新しく再構成することに意義があるのではないか。ブラックボックス化した複雑なデザイン・生産のプロセスを、編む・組むといったプリミティブな手法によって透明化し開放すること。そして、透明性の確保による副産物として、生産から流通、消費、廃棄、再生産といった循環型プロセスによる持続可能性の担保が可能となると考えます。

「被覆環境」を取り巻く今日的な課題は共通しており、領域を超えたデザインによる提案が求められています。本展「組む衣服/編む建築」は、衣服と建築に類似する構造的・組織的な成り立ちに着目し、生産技術の発展による自由度の向上、環境負荷に配慮した自然素材の利用、再生繊維や材料のリユースなど、有機的に統合された新しいデザイン手法を提示しようとする試みです。

特別展示「被覆のアナロジー ― 組む衣服/編む建築」

*1.江角泰俊(えずみ やすとし)氏プロフィール
ロンドン、セントラルセントマーティンズ美術学校卒業。アレキサンダーマックイーンなどコレクションブランドで経験を積む 2008年にアクアスキュータムにてニットウェアデザイナーを務める。2010年に自身のファッションブランド・YASUTOSHI EZUMIを立ち上げ、東京コレクション ランウェイショーにて発表。2012年に株式会社Ri Designを設立。2018秋冬コレクションよりブランド名を「EZUMi」に改称。2020年クレストブリッジ(ブルーレーベル、ブラックレーベル)クリエイティブディレクターに就任。

「EZUMi」公式ウェブサイト
https://ezumi.jp/

「EZUMi」公式インスタグラム
https://www.instagram.com/yasutoshiezumi/

*2.インターメディアテク(INTERMEDIATHEQUE: IMT)
2013年3月に丸の内JPタワー・KITTEの3階に開館した、日本郵便と東京大学総合研究博物館が協働で運営をおこなう公共貢献施設。施設名称は、各種の表現メディアを架橋することで新しい文化の創造につなげる「間メディア実験館」に由来する。東京大学が1877年(明治10)の開学以来、蓄積してきた学術標本を常設で展示しているほか、不定期で企画・特別展も開催している。
http://www.intermediatheque.jp/

会場風景。江角氏と隈氏が互いに建築と衣服にインスピレーションを受け、作品が生み出されている
隈氏による「編む建築」と江角氏による「組む衣服」の解説
江角氏は、隈氏の提言する「負ける建築」から着想を得て「粒状ガーメント」を考案し、衣服で目立つ「襟」を制作。襟を組み合わせることで自由な形状がつくられる

「竹衣服」のドレス、スカート、トップス。江角氏は竹を使って衣服へと昇華させるべく試行。竹職人とともに衣服との調和やアウトラインシルエットのつくり方などを模索
 
テンセグリティ構造をファッションに応用した「テンセグリティーガーメント」。繊維リサイクルボード「PANECO®」を使用
会場空間を構成する曲面の壁は、再生繊維素材「TUTTI」による布に、スリット状に切れ目を入れて引き伸ばして固定したもの



会場の最後の部屋では「襟」のサンプルや、会場構成、素材、工法が解説されている
プレス向けの解説はインターメディアテク内の「レクチャーシアター」で開催された

江角氏は今回の「建築と衣服のコラボレーション」についての企画主旨を説明。
「構造を衣服に活かし、衣服を構造に活かすという、異なるジャンルのクロスオーバーで新たなプロダクトができればと考えました」。

江角氏は隈氏が提言する「負ける建築」「粒状感」から着想して「襟」のパターンを制作し、部分から全体を組み上げる手法で衣服を構想。伝統素材の竹を使うことにも挑戦し、竹職人とともに制作したという。

隈氏は、建築と衣服の行き来をする発想の源泉として、ゴットフリート・ゼムパーという19世紀ドイツの建築家が「建築は編んでつくるものである」と定義したことに言及。

「当時のヨーロッパの建築は石やレンガを積むものであったのに、なぜ“建築は編むもの”という定義に至ったのか。彼はロンドンのクリスタルパレスで開催された万博で、世界の民俗学的な展示に関わるなかで枝や葉を編むような構築物を目にし、それこそが原型ではないかと思いついたのです。

実は“編む”というのは建築の原型であると同時に、未来的な定義です。コンクリートの建築は固めてしまい、その後に壊すしかありませんが、編むことで自由に生成でき、成長の可能性がある建築がつくれるかもしれない。そうしたことを皆さんと一緒に考えられたらと思います」。

隈氏は、今回使用した再生繊維素材についても言及。

「質感として面白く、硬さと柔らかさの中間にある素材ということで、今回にピッタリの素材でした。
フェルトも実は遊牧民の古い技術によるもので、現代に活かすことを考えました。切れ目を入れて変形させていますが、これは金属に切れ目を入れて伸ばすエクスパンドメタルの製法を布に応用したものです。

空間のかたちに自由に応答させられる素材として、建築にもこれから使ってみたい。
実験的であると同時に実用性のあるかたちを、見ていただければと思います」。

「知」の世界に浸ることができる「インターメディアテク」で、衣服と建築の先進的なコラボレーションの姿を、ぜひ確かめていただきたい。

(Text & Photo: jk)


特別展示「被覆のアナロジー -組む衣服 / 編む建築」開催概要

会期:2022年11月5日(土)〜2023年4月2日(日)
会場:インターメディアテク 2階「GREY CUBE(フォーラム)」
所在地:東京都千代田区丸の内2-7-2 KITTE2・3F(Google Map
開場時間:11:00–18:00(金・土は20:00まで開館)※時間は変更となる場合あり
休館日:月曜(月曜が祝日の場合は翌日火曜休館)、年末年始、そのほか館が定める日(詳細は同館ホームページの開館案内を参照)
入館料:無料

主催:東京大学総合研究博物館
共催:Ri Design、隈研吾建築都市設計事務所
協力:スタイレム瀧定大阪、ユニコ、モリリン、ワークスタジオ、七彩

詳細
http://www.intermediatheque.jp/ja/schedule/view/id/IMT0256

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