2020年に広がったCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)は、身の回りのプロダクトにも影響を及ぼした。
人同士が会話し触れ合うこと、人がモノに触れることに大きな制限が加わり、プロダクトデザインのアプローチにも変革が求められた。
プロダクトのデザインにはどのような変化があったのか。
2020年4月にローンチしたTECTURE MAG のこれまでの主な記事を、テーマごとに振り返る本特集企画。
第3回目の今回は、コロナを乗り越えるプロダクトをピックアップ。
2021年とニューノーマル時代を切り拓く、空間デザインのヒントにしていただきたい。
■プロダクト選びの視点が確実に変わった
下記のアンケート調査では「新型コロナウイルスの解決に積極的に取組む企業やブランドの商品を購入したいと思いますか?」という質問に対して、「積極的に購入したい」「購入したい」の合計は、前年の47%から61%へアップ。
「新型コロナウイルスによる消費者意識調査」より(メンバーズ、2020.4.28-30、調査人数:1,000名)
https://blog.members.co.jp/article/42174
社会課題解決に積極的に取り組む企業やブランドの購買意向は、確実に高まった。
デザイナーやメーカーは、直接的にしても間接的にしても、新型コロナウイルスに対する課題解決をもとにした開発アプローチが求められるようになっている。
■衛生の観点に新しい体験を加える
感染リスクを減らすため、手洗いや非接触、飛沫拡散防止に対応したプロダクトが出始めた2020年。
当初はアイデアをシンプルに実現したプロダクトも、時間を追うごとに同じジャンルでデザインや機能が洗練されていったのは記憶に新しい。
さらに、エンターテイメントや特別な生活シーンなど、より広い場面で用いることのできるプロダクトも登場。
ニューノーマル時代の新しい生活習慣とともに、新しい体験が付加されたプロダクトは必要不可欠なものとして需要が拡大していくことが見込まれる。
【PICK UP!】
●街中に公衆手洗いスタンド〈WOSH〉を設置するプロジェクト「WELCOME WASH GINZA」が東京 銀座・有楽町エリアで始動
https://mag.tecture.jp/product/20200925-14285/
〈WOSH〉は、水循環を用いた次世代の分散型水インフラの研究開発・事業を展開するWOTA(ウォータ)が開発した、AIを活用した自律分散型水循環システムを搭載したポータブル手洗い機。
〈WOSH〉は、グッドデザイン賞2020大賞にも選定された。https://mag.tecture.jp/event/20201030-16520/
【その他の注目記事】
●板坂 諭氏がデザインした婚礼会場用パーテーション〈BLOOM〉
https://mag.tecture.jp/product/20200805-11111/
COVID-19(新型コロナウイルス感染症)の飛沫感染リスクを減らしながらも、祝祭の場を美しく快適にするためのプロダクト。パーテーションのデザインは、個人向けウェディングプロデュース事業などを展開する株式会社CRAZYと板坂氏との共同開発によるもの。エレガントな佇まいが、注目を集めた。
●新しいエンターテイメント体験を自宅で。配信音源に高精度で同期するライティングデバイス〈Home Sync Light〉をライゾマティクスとエヴィクサーが開発
https://mag.tecture.jp/product/20201009-15551/
〈Home Sync Light〉は、自宅などでライブ配信を視聴しながら楽しむことのできる、配信音源に高精度で同期して光るデバイス。ライブの映像演出や、照明、レーザー等に合わせたLEDの光が部屋中に広がり、配信視聴体験をより臨場感あふれるものに拡張するという。
●フジテックがタッチレスでエレベータを操作する「非接触ボタン」の適用を拡大
https://mag.tecture.jp/product/20200713-9822/
フジテックは、2020年4月に販売を開始した標準型エレベータ「エクシオール」で適用を開始している「非接触ボタン(旧名称:非接触呼び登録)」について、2020年7月1日より、フロア数の制限などを緩和し、オフィス、ホテル、商業施設、マンション、病院など、設置できる建物用途を拡大したと発表。非接触でより便利な機能は、今後のプロダクト開発の主軸となることが予期させる。
■小さな空間で環境をコントロールする
建築と小物のスケールの間にあるプロダクトとしては、特定の目的のために囲う空間をつくるものがある。
小さな閉鎖系の空間では、換気や空気の状態を比較的コントロールしやすいことが予想される。
医療のための検査所や診療所は、逼迫する医療の現場での感染リスクを解決する手段として登場し、注目された。
今後はコロナ対策としての小さな空間の適用範囲が、オフィス空間、宿泊施設や商業施設、住空間などにさらに広がっていくことが予想される。
【PICK UP!】
●消防法準拠・可動式、設置は置くだけの簡単クリーンルーム、除菌システムを実装した3平米個室ブース〈BlueBox〉
https://mag.tecture.jp/product/20200818-11792/
【その他の注目記事】
●建築用コンテナに陰圧設備を内蔵した移動型診療所〈モバイルクリニック〉
https://mag.tecture.jp/product/20200513-5322/
●【医療機関向け】テントを活用したドライブスルー型PCR検査所
https://mag.tecture.jp/product/20200415-2284/
■快適性を高め市場を広げるオフィス家具
2020年は緊急事態宣言に伴うテレワークやリモートワークの需要が一気に高まったことにより、住宅内で働くためのプロダクトが注目された年でもあった。
特に、長時間を座って過ごす椅子への関心は強く、本格的なオフィスチェアを家庭に導入したという声を周りでも聞くのではないだろうか。
この好機を捉え、オフィス家具を扱う主要メーカーは、ホームオフィス市場を積極的に開拓している様子が伺える。
さらに、複数のオフィス家具メーカーは長時間着座という共通の需要でゲーミングチェアも発表。
働くことと暮らしが切り離せなくなりつつあるニューノーマル時代にあって、1つひとつの家具の快適性を高める機運は、さらに高まっていくことだろう。
【PICK UP!】
●ゲーマーのために開発された〈エンボディゲーミングチェア〉をハーマンミラーとロジクールGが発表
https://mag.tecture.jp/product/20200728-10503/
ハーマンミラーは、ホームオフィス専門の体験型ストア〈ハーマンミラーストア青山〉をオープン。ホームオフィスと小規模ビジネスワーカーをサポートすることを目的としている。
https://mag.tecture.jp/business/20201211-19016/
●究極の家具はゲーム用? オカムラがゲーミング家具開発でeスポーツ市場に参入
https://mag.tecture.jp/business/20201014-15648/
オカムラは、オフィス環境に提供してきた数多くの製品開発の知見を活かしてさまざまなゲームの種類によって異なる姿勢をシーティングとデスクで適切、かつ快適にサポートするゲーミングファニチュア「STRIKERストライカー」をリリース。
【その他の注目記事】
●カッシーナ初の本格アウトドアコレクション 新作展示「ボタニカル・ガーデン」 Cassina ixc.青山本店ほか4店舗で7月9日より順次スタート
https://mag.tecture.jp/product/20200707-9549/
カッシーナでは初となる本格的なアウトドアコレクションを発表。屋外での生活の提案は、COVID-19拡大防止や予防などの観点も含まれる。
●インターオフィスが35ブランド・1000アイテムを揃えたECサイト「MAARKET」をオープン
https://mag.tecture.jp/business/20200814-11611/
ヨーロッパ製オフィス家具などの輸出入・販売、空間デザインの提案を行なっているインターオフィスが、世界中からセレクトしたクオリティーの高いインテリアプロダクトを集めたECサイト「MAARKET(マーケット)」を8月3日にオープン。
■2021年以降のプロダクトはどうなる!?
手洗い励行、マスク着用、密を避けるなどの行動は、生活習慣として根付いてきている。
それに伴い、より洗練された外観にしたり、より充実した機能をもたせたりするプロダクトは増えていくだろう。
そして、領域を拡大しながらプロダクトを開発するメーカーやデザイナーもさらに現れるはずだ。
空間デザインの発想やアプローチから、新たな機能をもたせたり利用の幅を広げるプロダクトにも期待したい。
TECTURE MAGでは2021年も、新たな視点をもつプロダクトの事例を取り上げ、深堀りしていきます。
本年も、どうぞよろしくお願いいたします。
(jk)
【2020-2021 特別企画】
ニューノーマル時代の空間デザインとクリエイティブ
Ⅰ コロナで加速! 働き方とワークプレイスの変革
Ⅱ コロナに着想! 進化する空間ビジネス
Ⅲ コロナから創出! 未来に跳躍するプロダクト