中村拓志&NAP建築設計事務所×タイムアンドスタイル
タイムアンドスタイル(Time & Style)から、建築家の中村拓志氏(NAP建築設計事務所 代表取締役)がデザインしたダイニングチェアとリビングチェアが2021年6月に発売されました。
名前が実に変わっています。「タケノコ」です。ダイニングチェアとラウンジチェアの2タイプがデビューし、そのどちらも〈Takenoko chair〉と名付けられました。
2021年6月にTime & Style Atmosphere(南青山店)で行われた発表会を『TECTURE MAG』編集部では取材、中村氏のインタビューも収録しました。
編集中のインタビュー公開に先立ち、内覧会レポートをお届けします。
特記を除き、Photo by toha / txt: Naoko Endo
「タケノコ」とは???
〈Takenoko chair〉の由来となったタケノコとは、日本の木造住宅にみられる伝統的な納まりのこと。床(とこ)の間の床柱に、天然の皮付き丸太を用いる場合、そのままだと畳の上に丸太の外周部分が被ってしまうため、畳の縁(へり)を境に重複部分を斜めに削ぎ落とし、畳を敷き(入れ)やすくする加工があります。その削ぎ落とした断面が「竹の子(タケノコ)」に似ていることからついた呼称です。
中村氏がデザインした〈Takenoko chair〉の脚には、この「タケノコ」が見られます。意匠であると同時に、人が回りこんで座るときにつま先があたる後脚の後ろ側と、座ったときに踵(かかと)があたりやすい前脚の前側をカットしたもので、脚部の材に塗装を施してから、職人が削り落とし、研磨して仕上げています。
「タケノコチェア」誕生の背景
〈Takenoko chair〉が誕生するきっかけとなったのは、中村拓志&NAP建築設計事務所が昨年、設計し、京都・洛北に昨年2月に竣工した住宅〈磐座の家〉における空間デザインでした。
〈磐座の家〉は、京都産の北山杉を多用した和の住宅で、リビングダイニングには、堂々たる根付き杉丸太が大黒柱として大地に直立しています。片流れの天井裏には北山杉の磨き丸太の垂木と、それを支える軒桁の丸太があらわしとなっていて、垂木の流れの先に、巨石を配した苔むした庭があり、その先にそびえる比叡山を借景としています。中村氏曰く「この地に住まう人びとの山に対する感性やふるまいを引き出す庭と空間」とのこと。
この住まいにふさわしい家具が、既製品では叶いませんでした。そこで中村氏は、木材・自然と対話しながら、日本人がもつ繊細な美意識を反映したプロダクトを世に送り出してきた、タイムアンドスタイルに椅子の制作を依頼。その特注でつくられた椅子をもとに、商品化されたのが、6月に披露、発売された〈Takenoko chair〉になります。
開発に2年半をかけたプロダクト
下の写真は、発表会の場で披露されたコンセプトモデルです。材は椿。商品化された〈Takenoko chair〉と見比べると、材の選定だけでなく、背の形状や構造となる材の組み方などに変更点がみられます。
販売モデルでは、製材された無垢の丸棒を採用。製品ごとにその木目は異なり、唯一無二のプロダクトに。タケノコ部分の塗装はクリアのみにとどめています。
脚の前と後ろにある「タケノコ」の断面も、スパッと簡単に切り落としたようにも見えますが、中村氏と職人との間で何度も調整が繰り返され、決定された形状です。タケノコの先端部分が尖りすぎないよう、極めて繊細な加工となっています。
建築家がデザインする椅子としてのこだわり
「シェーカー教徒がつくるようなシンプルで実用的な椅子が好き」と語る中村氏が、椅子のデザインを本格的に手がけるのは今回が初めて。
「椅子のデザインが難しいのはわかっていた。玄人しかつくれないものだと、これまで手を出してこなかった」とのこと。
やり切れるかどうか内心で不安もあったそうですが、「建築家がデザインした椅子は座り心地が悪いなどと言われない椅子をつくる」という意気込みで、タイムアンドスタイルとの協働プロジェクトに臨みました。
特徴的なのが、見た目にもわかりやすい椅子の構造です。古民家の屋根裏に見られる架構のようです。これは、建築家がつくる椅子であることを意識した中村氏が、建築的な手法を用いたため。日本建築の水平垂直構造を取り入れ、椅子の中に1つの空間があるように材を構築してデザイン。そのほかにも、座の位置、背もたれの角度、背もたれを支える材のビスを見せないといった細かな部分まで、ひとつひとつブラッシュアップし、開発からローンチまでに約2年半をかけています。
〈Takenoko chair〉設計コンセプト
私たちの先祖は、草庵茶室の中に自然そのままの姿の皮付き丸太を取り入れました。それは角材で構成された書院造の美学とは異なる、自然主義的な思想の端的な表明であります。また床柱に現れるタケノコには、本来は床を貫くものとして忌み嫌われる家屋内の筍の子を、あばら屋の風情として愛するような、侘び寂びの感性が現れています。
樹木のありのままの姿に向き合い、自らの暮らしに適合させること。Takenoko chair には、自然と共に生きる日本人の慎しさや美学的な感性があらわれています。私は建築に自然のままの姿の丸太を多く用います。角材と比べると丸太は歪みがあったり太さも違うため、設計や施工には時間と技術を要しますが、素材の美しさだけでなく、人間が自然に合わせて暮らすという慎ましさが、空間に独特の柔らかさと居心地のよさを作り出します。私たちは長年、そのような空間に合う、自然との共存や日本人の自然主義的な生活美学を体現する椅子を、自らの手で生み出したいと考えてきました。(中村拓志)
中村拓志&NAP建築設計事務所
https://www.nakam.info/jp/
現代の多様な空間にふさわしい椅子
目指したのは、住宅にも、オフィスにも、レストランにも、和の空間にも馴染む椅子。そして、現代の居住空間にふさわしいデザインであること。見た目だけでなく、椅子をおいたあとに発生することも、細かい配慮がなされています。
〈Takenoko chair〉を持ち上げてみると、思っていたよりはるかに軽く、動かしやすい重量となっています。さらには、アーム部分をテーブルに引っ掛けられるようにしてあるのも、中村氏がこだわった点です。
レストランなどでは、椅子の上下をひっくり返して座面とテーブルをつけて置き、テーブル下のモップがけをしていますが、〈Takenoko chair〉はその必要がありません。かつ、床との間に生まれた隙間には、ルンバなどのロボット掃除機が容易に入り込めるのも、テスト済み。
このとき、テーブルに引っ掛けたアーム部分が、建築のキャンチレバーのように椅子全体を支えます。かつグラつかないよう、重心のバランスをとった構造に。建築家ならではの緻密な計算が施され、デザインされたのが、この〈Takenoko chair〉です。
禅の教えにも通じる〈Takenoko chair〉
〈Takenoko chair〉を共同でつくりあげた中村氏とタイムアンドスタイルは、このプロダクトを通して、以下のメッセージを発信しています。
「禅寺の修行の1つに掃除があるように、室内を美しく清めることは、私たちがどう生きるかという宗教的で哲学的な実践です。私たちはこの日本の崇高な生活哲学を椅子に込めました。」
『TECTURE MAG』編集部では、中村氏にインタビューを行い、〈Takenoko chair〉の設計コンセプトについて自身の言葉で語っていただきました。後日掲載予定にて、公開をお待ちください。
※8月10日に掲載しました(下記リンク参照)
〈Takenoko chair〉
サイズ:W560 D483 H760 SH437 AH618(mm)
材種:ブナ
カラー:ナチュラルホワイト、スノーホワイト、ミディアムグレー、チャコールグレー
価格:99,000円(税込み)より
材種:ホワイトアッシュ
カラー:チーク色、ウォールナット色
価格:108,900円(税込み)より
〈Takenoko lounge chair〉
サイズ:W615 D609 H688 SH392 AH525(mm)
材種:ブナ
カラー:ナチュラルホワイト、スノーホワイト、ミディアムグレー、チャコールグレー
価格:165,000円(税込)より
材種:ホワイトアッシュ
カラー:チーク色、ウォールナット色
価格:174,900円(税込)より
発売開始(2タイプ共通):2021年6月11日(金)
タイムアンドスタイル公式Webサイト
https://www.timeandstyle.com/