FEATURE
"Hirokazu Suemitsu + Yoko Suemitsu / SUEP. Lecture: Harvest in Architecture" Special Report
「末光弘和+末光陽子 / SUEP.展 Harvest in Architecture 自然を受け入れるかたち」会場レポート
FEATURE2022.06.19

「末光弘和+末光陽子 / SUEP.展 Harvest in Architecture 自然を受け入れるかたち」

[Report] 「地球からの恵みを収穫できるかたち」をシミュレートして建築ができあがる

都内では9年ぶりのSUEP.の個展

東京・乃木坂のTOTOギャラリー・間にて、国内外で活動する建築家ユニット、SUEP.の展覧会「末光弘和+末光陽子 / SUEP.展 Harvest in Architecture 自然を受け入れるかたち」が、6月8日より始まりました。会期は9月11日まで。

SUEP.としての都内での個展開催は、2013年にプリズミックギャラリーで開催された「末光弘和+末光陽子/SUEP.展 自然循環系の一部としての建築」以来、二度目。9年前と今回そのどちらも、自然の恵みを設計に最大限取り入れたプロジェクトの数々を確認することができます。

6月7日に、末光弘和、陽子の両氏が出席して実施されたプレス内覧会を、『TECTURE MAG』編集部では取材。展示の内容について解説した末光両氏の言葉などから、本展のみどころを紹介します。まずは、2人のプロフィールから。

SUEP.(スープ)プロフィール
末光弘和と末光陽子が共同主宰する一級建築士事務所。東京と福岡の2拠点にアトリエを構え、国内外で活動中。
地球環境をテーマに掲げ、風や熱などのシミュレーション技術を用いて、資源やエネルギー循環に至る自然と建築が共生する新しい時代の環境建築デザインを手がけている。

〈地中の棲処〉で第27回吉岡賞(2011、新建築社)、〈淡路島の住宅〉で第29回芦原義信賞(2019、一般社団法人日本建築美術工芸協会)と2018年度グッドデザイン賞金賞(経済産業大臣賞)受賞など、多数。
主な作品に、淡路島の住宅(2018、兵庫県)、九州芸文館アネックス1(2013、福岡県)[*1]、ミドリノオカテラス(2020、東京都)などがある。現在、台湾国内にて百佑オフィス[*2]、神奈川県内にてSOLSO FARM オフィス[*3]などが進行中。
*1:日本設計との共同設計
*2:RHTAAとの共同設計
*3:SOLSOとの共同設計

左:末光陽子氏 / 右:末光弘和氏

末光弘和(すえみつ ひろかず)
建築家。
1976年愛媛県生まれ。1999年東京大学卒業。2001年同大学大学院修了。2001–06年伊東豊雄建築設計事務所。2007年よりSUEP.共同主宰
2009–11年横浜国立大学Y-GSA設計助手。2020年より九州大学大学院准教授 / BeCAT[*1]デザインラボ長
*1.BeCAT: Built Environment Center with Art & Technologyを略した組織で、九州大学大学院に2021年4月開設。建築家の重松象平氏がセンター長、末廣香織氏が副センター長を務める

末光陽子(すえみつ ようこ)
建築家。
1974年福岡県生まれ。1997年広島大学卒業。1997–2003年佐藤総合計画。2003年にSUEP.設立、2007年より共同主宰。2018–22年昭和女子大学非常勤講師

SUEP.WebSite
http://www.suep.jp/

展示構成

・3階 GALLERY 1:01 Market of Ideas / 02 Section of the Earth
・中庭(COURTYARD):03 Shading Dome
・4階 GALLERY 2:04 Architecture towards Asia

SUEP.の活動を図解したイラストは、末光陽子氏による会場での手描き

GALLERY 1:01 Market of Ideas

SUEP.は、福岡と東京に拠点を構え、所員数は2拠点あわせて10人ほど。設計に携わる全員が、計画地(サイト)における日照や風、地熱などを調査する社内研究会「SUEP.LAB.(スープラボ)」の活動も行います。研究と設計業務は表裏一体なものとして、SUEP.では担当を分けていないのです。
かれこれ18年継続してきたというラボの存在が、SEUP.の強みであり、最大の特徴といえるでしょう。

ラボの研究アーカイブの展示「Market of Ideas」は、3階GALLERY 1のフロアにて。

末光弘和+末光陽子 / SUEP.展 2022年 TOTOギャラリー・間

3階 GALLERY 1

「SUEP.LAB.は、私たちにとって苗床のような位置づけです。ここでのリサーチから、”自然を受け入れるかたち”の原型となるSEED(種)を発見し、育てることで、実際の建築デザインへと展開していく。育てたそれをLANDFORM(地形)に植え付けることで、SUEP.の建築ができあがると考えています。」(末光弘和氏談)

「○○の恵みを収穫する○○のかたち」を導き出す

研究の対象は、建物だけでなく、隣接するほかの建物や、建ったあとの未来にも目が向けられます。
例えば、「緑陰の恵みを収穫する樹木配列のかたち」(LAB no.08)、「地中の恵みを収獲する半地下のかたち」(LAB no.15)、「立面日射量を最小化するように成長する高層ビルのかたち」(LAB no.19)、「隣接する建物へ太陽の恵みを導くかたち」(LAB no.05)などなど。
「木のまわりの日射ポテンシャルのかたち」(LAB no.02)は、台湾で進行中のプロジェクト「百佑オフィス」に関するリサーチで、動画や構造モックアップなどが、SUEP.の最新プロジェクトを5つまとめた4階に展示されています。

九大BeCATでも実践中の環境エンジニアリング

SUEP.およびラボの活動を支えているのが、各種分析ソフトとプログラム。求めるデータが市販品では計算できない場合、SUEP.では独自にプログラムを開発することもあるとのこと。

「環境シミュレーション関連のソフトは、近年において飛躍的に伸びてきている。」と弘和氏。
弘和氏が教鞭を執る九州大学大学院のBeCAT(ビーキャット)は、「環境」をテーマに、デザイン×エンジニアリング教育を牽引する存在です(詳細は『TECTURE MAG』特集記事「九大大学院 BeCATとは?」を参照)

「環境シミュレーション」というワードを聞くと、コンピュータリゼーション(computerization)やら解析図やらが想像され、操作も見るのも難しそうだと、心の中でハードルを上げがちですが、本展のLAB.BOXを使った展示は、なにやらおもちゃ箱をひっくりかえしたようであり、”リサーチの種の市場”に迷い込んだよう。箱を重ねて見える高さも少しずつ変えてリズムをつくり、軽快な展示に。百聞は一見にしかず、建築を専門に学んでいなくとも、親しみやすく、わかりやすい展示構成となっています。

地下水脈まで描かれた模型展示!

SUEP.LAB.の研究をもとに、建物が設計されていることがわかるのが、壁側の模型展示「02 Section of the Earth」です。
竣工した7つのプロジェクトの縮尺1/20模型が、L字2方向に設置されているのですが、起点となる〈地中の棲処〉(2010、福岡県)から、終点の〈嬉野市立塩田中学校〉(2014、佐賀県)まで、展示台が”陸続き”になっています。

ギャラ間では初、地中まで描きこんだ模型展示

模型の下は地中の扱いで、黒の段ボール紙に、既存の木の根や、さらにその下を流れる地下水脈などが白い線で描き込まれています(ドローイング:末光陽子+弘和氏)
TOTOギャラリー・間のスタッフの談によれば、地下をこれほど深く掘り下げてみせる模型展示は、記憶の限りで過去に例がないとのこと。

地中にはもぐらの巣なども描かれ、空には鳥の姿も(鳥の存在を重要な検討要素に加えた事例として、4階に都内にて2021年に竣工した〈ミドリノオカテラス〉が展示されている)。地上部分の縮尺1/20模型もさりながら、地中のドローイングを見ていくだけでも楽しめます。

3階 GALLERY 1

「建築家は、人々の生活や文化の一端を担います。ゼロエネルギー住宅、カーボンニュートラルなどと言われている昨今、建築家としてでは何ができるのか?と考えたとき、サイト周辺の環境のデータを採取すればよいのかといえば、それは違う。数値の先にある議論がもっと必要です。また、これまでの環境シミュレーションのプレゼンテーションは画一的なものばかりだったように思うのですが、ギャラ間さんで展覧会を行うに際して、私たちは多様性というものを前提に、わかりやすくビジュアライズして、SUEP.として提示できるよい機会だと考えました。」(末光弘和氏談)

太陽、風、日射や地中の熱など、地球環境から受ける”恵み”を認識し、客観視できるデータとして抽出し、それらを設計の起点として、建築家としての肉付けを行うことで、建築を媒介とした、資源の循環システムを構築できるのではないかと、SUEP.では考えています。彼らにとって、建築とは、スクラップ&ビルドで環境に負荷を与える存在ではなく、さまざまな生命活動を促す媒体と位置づけられています。

このような環境と建築に対する姿勢や、これまでのプロジェクトについては、SUEP.を率いる末光両氏が登壇して、7月15日(金)に都内にて開催される講演会にて、詳しい内容が明らかになることでしょう。

関連プログラム情報

末光弘和+末光陽子 / SUEP.講演会「Harvest in Architecture 自然を受け入れるかたち」
日時:2022年7月15日(金)18:00-20:00(予定)
会場:イイノホール
所在地:東京都千代田区内幸町2-1-1飯野ビルディング4F(Google Map
定員(予定):500名 ※応募者多数の場合は抽選、結果は7月8日(金)までに当選者に通知予定
※会場ではCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)対策を実施
参加料:無料
参加⽅法:事前申込制(受付期間あり、未就学の出席不可)
申込受付期日6月26日(日) 7月3日(日)まで ※受付期間延長

3階 GALLERY 1(2022年6月11日撮影)
宇宙から見た地球の映像から始まるモニター展示

地球規模の自然環境で建築を俯瞰する

SUEP.の設計姿勢が表現された展示がさらにもう1つ。3階壁側のモニターでの映像展示です。7つの模型に対応した内容で、再生時間は7本ともきっかり4分。ループ上映されている映像のリスタートを見逃さないことを強く勧めます。
映像は、宇宙から見た地球の俯瞰から始まり、次第に地表へと近づいて、最後はそれぞれのサイトに帰着します。SUEP.が拠点とする九州・福岡は、海流や大陸の気候など、アジア全体の影響を古来より受けやすい地域です。地球規模での環境をとらえ、設計活動に積極的に取り入れるのは、ごく自然な流れといえます。

4階のGALLERY 2は、SUEP.が考える”開放系”の建築による、アジアにおける建築のビジョンが、近年に竣工した個人邸、共同住宅、ホテルと、国内外で進行中のプロジェクトを通して提示されます。

4階 GALLERY 2 で展示されているプロジェクト

・百佑オフィス(台湾、進行中)
・SOLSO FARM オフィス(神奈川県、進行中)※SOLSOとの共同設計
・ミドリノオカテラス(東京、2020年竣工)
・淡路島の住宅(兵庫県、2018年竣工)
・レソラ今泉テラス(福岡、2021年開業)※日建設計との共同設計

驚きの「ミドリノオカテラス 生態ネットワーク模型」

2020年竣工の〈ミドリノオカテラス〉には、緑地から緑地を移動する鳥たちが羽を休めたくなるようなベリーの樹などが屋上に植えられていますが、SUEP.はその前段階で、周辺エリアにそこにどんな鳥や蝶が棲息しているかまでのリサーチを行っています。屋上に植栽しても、受粉をしてくれる生物がいなければうまく育っていかないからです。

〈淡路島の住宅〉の展示では「太陽軌道模型」も登場

〈淡路島の住宅〉(兵庫県、2018年竣工)は個人の邸宅。地域の材を使い、ファサードは淡路の特産工業「瓦」が採用されています。会場には1/1のモックアップのほか、「太陽軌道模型」もお目見え。末光弘和氏が「本展では、通常の建築展ではあまり見られないような模型も出ている」と語るうちの1つです。

半円ドームには、冬至、春分・秋分、夏至の太陽の軌道が描かれ、1時間ごとにマーキングされたポイントから、透明ドーム越しに〈淡路島の住宅〉を見ることを推奨。「自分が太陽になった気持ちで、住まいを眺めて」と末光弘和氏。

緑を育てる〈レソラ今泉テラス〉のファサード

福岡の裏天神と呼ばれるエリアにて、2021年に開業したホテル〈レソラ今泉テラス〉は、今泉公園前における、NTT都市開発が進める再開発プロジェクトの1つです。

周辺の建物が、三角形の公園に対して”背を向けている”多いなかで、SUEP.は逆にフロントを向けることを提案、機能性と意匠性の高い独創的なファサードをデザインしています。

TOTOギャラリー・間 屋外階段上のサイン

中庭には白いパビリオンが登場!

レポートの最後に、中庭(コートヤード)での展示について記します。

TOTOギャラリー・間は、フロアが3階のGALLERY 1と、4階のGALLERY 2に分かれ、そのあいだに屋外空間の中庭があるのは周知のとおり。この3つのスペースをどのようにつないで構成するのか、屋外展示でなにをみせるのかは、出展者それぞれの創意工夫を毎回、みることができます(前回のSANAA展では、縮尺1/75のサイズで、妹島和世建築設計事務所が中国で取り組むプロジェクト〈Puyuan Design and Event Center〉の敷地模型が、コンクリートの床を這わせるようにして水平に展開 /会場レポートはこちら

SUEP.は今回ここで、中庭の半分を覆うパビリオン・Shading Dome(シェーディングドーム)を制作しました。北九州市立大学藤田慎之輔研究室と、末光弘和氏が教鞭を執る九州大学大学院の末光研究室との3者共同展示になります(制作協力者:ギャラリー表示設定の画像内のクレジット表記を参照)

パビリオン〈Shading Dome(シェーディングドーム)〉(2022年6月9日撮影)

「会期は6月から9月の初旬、東京で最も暑い時期になることを考えて、涼しい木陰をここにつくろうと考えました。木の葉を模したアルミのパネルを450枚使って、シェードの屋根をアーチ状にかけています。アルミの表面には、TOTOの工場見学で知った、陶器製造の際に発生する廃材を混ぜた塗料を塗っています。白いパーツをよく見ると、表面がザラついているのは、原料の一部である陶器の名残りです。組み上げたときの形状は、全日程の日照を調べ、床に落ちる影をシミュレートしたうえでデザインしました。」(末光弘和、陽子氏談)

人工の木陰で涼をとる

「シェード状の屋根には透き間があり、晴れた日には、木漏れ日のような影が落ちます。5月の検測値で、直射のコンクリート面は日中、50度近くまで上がるのですが、この人工の木陰の下はかなり涼しくなるはずです。ぜひ、暑い日に体感しにきてください。」(末光弘和、陽子氏談)

パビリオン〈Shading Dome〉(2022年6月9日撮影)

会期中は、TOTOギャラリー・間の館長、またはディレクター、スタッフによるギャラリーツアーも実施されます(開催日は、TOTOギャラリー・間 公式ウェブサイトのイベントカレンダーを参照)

展覧会開催概要

「末光弘和+末光陽子 / SUEP.展 Harvest in Architecture 自然を受け入れるかたち」
会期:2022年6月8日(水)~9月11日(日)
開館時間:11:00-18:00
休館日:月曜・祝日・夏期休業期間(8月8日[月]~15日[月])
会場:TOTOギャラリー・間
所在地:東京都港区南青山1-24-3 TOTO乃木坂ビル3F(Google Map
電話番号:03-3402-1010
入場料:無料(但し、入場は予約制)
※展覧会場、2F/Bookshop TOTO共に、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)拡⼤防⽌の⼀環として、入場・入店は予約制を導⼊

展覧会詳細(ギャラリーツアー開催日程ほか)
https://jp.toto.com/gallerma/ex220608/index.htm

関連プログラム情報

末光弘和+末光陽子 / SUEP.講演会「Harvest in Architecture 自然を受け入れるかたち」
日時:2022年7月15日(金)18:00-20:00(予定)
会場:イイノホール(Google Map
定員(予定):500名 ※応募者多数の場合は抽選、結果は7月8日(金)までに当選者に通知予定
※会場ではCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)対策を実施
参加料:無料
参加⽅法:事前申込制(受付期間あり、未就学の出席不可)
申込受付期日6月26日(日) 7月3日(日)まで ※受付期間延長

主催:TOTOギャラリー・間
企画:TOTOギャラリー・間運営委員会(特別顧問:安藤忠雄、委員:千葉 学、塚本由晴、セン・クアン、田根 剛)
後援:一般社団法人東京建築士会、一般社団法人東京都建築士事務所協会、公益社団法人日本建築家協会関東甲信越支部、一般社団法人日本建築学会関東支部
協力:九州大学大学院 末光弘和研究室

TOTOギャラリー・間 公式ウェブサイト
https://jp.toto.com/gallerma


Photo by TEAM TECTURE MAG
Reported by Naoko Endo

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展覧会概要

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