計18作品が入賞・入選
アイカ工業が主催する「AICA 施工例コンテスト」は、アイカ工業またはアイカテック建材の製品を使用した建築作品を対象とし、新たなデザインの可能性を発掘するため、2012年より開催されている。
COVID-19(新型コロナウイルス感染症)拡大の影響により、3年ぶりの開催となったた2022年のコンテストでは、前回のおよそ倍の608点の応募が集まり、過去最多を記録した。
本稿では、最優秀以下の入賞15作品と、入選3作品について、詳しく紹介する(入賞ではダブル受賞を含む)。
審査は12月12日に行われ、谷尻 誠氏(SUPPOSE DESIGN OFFICE)、I IN(アイ イン)の照井洋平氏と湯山 皓氏らが出席。審査終了後の関係者座談会をまとめた審査講評も併録。
最優秀賞
作品名:はこ
用途:戸建住宅
設計:kufu
施工:堀田建設
竣工:2018年7月
工事種別:新築
採用商品:ジョリパットアルファ 水墨(外壁・内壁)
https://www.tecture.jp/projects/3235 |
〈はこ〉コンセプト
本計画地は小高い山の中腹にある。
眼下には街並みが広がり、周囲は山の緑に囲まれた豊かな環境である。
この眺望や木漏れ日を家の中に最大限引き込みたいと考えたが、その立地ゆえの課題についても整理する必要があった。まず、幅員2.0mほどの私道でしかアプローチできないため、人力で運べる部材や寸法選定を行った。
さらに、敷地内に高さ4mの段差があり、動線などの繋がりが分断されていたため、土地を繋ぐために、建物自体を駆け上がるという手法を選択した。ここで擁壁や山というスケールに対して、階段のように小さな要素を用いるのではなく"はこ"と呼べる土木と建築の中間のようなスケールで対峙させることにした。その箱型をずらしながら積上げ、母屋と離れの2棟を計画した。このずれた隙間から街・山・空とが呼応し、天井や床の高さにも変化が生じ、立体的に視線が抜けることでさまざまなシーンが生まれた。
外壁内壁共に色むらのあるジョリパットの水墨を採用することで、内外が繋がり、周りの木々の影や日差しをナチュラルに落とし込むことができた。
厳しい条件や崖が持つネガティブなイメージもある中で、住まいの安全性を念頭に敷地の課題を1つずつ解決するとともに、“崖地の魅力”を最大限に引き出すことで、土地の価値は高められると考えた。
外部を取り込むシームレスで開かれた本建築から、敷地の持つ可能性を広げていきたい。(kufu)
最優秀賞 受賞者インタビュー
── まずは受賞、おめでとうございます。
成田和弘(以下、和弘)・成田麻依(以下、麻依):ありがとうございます。
── 今回の「AICA施工例コンテスト」を知られたきっかけは?
和弘:TECTUREのメールマガジンで見て、知りました。これまでに、メーカーが主催するコンテストにはほとんど参加したことがなく、今回応募する際、アイカ工業が過去にコンテストを定期的に開催されてきたことを初めて知りました。
麻依:Instagramでも、AICA施工事例コンテストがTECTUREの投稿で表示される機会が何度かありました。アイカ工業とTECTUREがタッグを組んだことで、以前よりもコンテストの周知が広まり、設計事務所にとってのチャンスも広がったのではないかと思います。
── 応募にあたって特に力を入れられたことは?
麻依:受賞作の〈はこ〉で採用した「ジョリパット」は、内外を連続して使える建材です。山の中腹にある敷地で、周りの樹の葉の影や、光が射し込むときのキラキラした様子を含めた環境を家に取り込みたいと考えました。また、外壁に色ムラがほしい、職人さんの手の動きをテクスチャーとして残したいと「ジョリパットアルファ 水墨」を採用しました。「水墨」という名前からは和風を連想しますが、モダンな空間で使うことで、製品自体の可能性を広げることができたのではないかと思います。
そして応募にあたっては、夕日が射し込むシーンや、内外がつながっている様子が伝わるお気に入りの写真を意識して選びました。
和弘:今回は現地を見ていただく審査ではなく、事例を伝える方法としては写真がメインとなりますからね。
── 施工例コンテストに期待されることは?
麻依:私たちが建築をつくるときは、たくさん迷いながらも自分たちを信じて設計しています。そうしてできた作品が第三者にどのように議論されたかは知りたいですし、賞は設計者が信頼される1つの要素になると思います。応募した側としては、何が評価されたのかを具体的に知りたいので、コンテストの過程もできるだけ公開してもらえると嬉しいです。
和弘:今回のようなコンテストがあることで、メーカー側は今の世の中の設計者が求めていることを感じ取られると思います。そこから、ある機能に特化した製品に向けた研究開発が行われるなどすれば、いいですね。例えばアイカ工業ではメラミン製品を屋外で使うことはまだ難しいと思うのですが、外部用のメラミン化粧板の開発につながったりするといいのではないでしょうか。ジョリパットの採用事例が多いのも、内外ともに使えることからきていると思いますし。コンテストから先へとつながる動きに、期待しています。
(2023.01.17 オンラインにて)
kufu Webサイト
https://kufu-archi.com/
優秀賞
作品名:神宮前六丁目計画(仮称)
用途:店舗
設計:田村陽平 / ハレデザイン
施工:CANVAS
竣工:2022年4月
工事種別:リノベーション
採用商品:クライマテリア モルタルアート フロア仕様(床)、ジョリパットアルファ(内壁・天井・梁・什器)
https://www.tecture.jp/projects/3211 |
〈神宮前六丁目計画(仮称)〉コンセプト
本計画のクライアントは東京・インドを拠点に活動するアパレルブランドで、「SITUATIONS」をコンセプトに、ファッションを地域・身体・衣服、それによって生まれる空間の関係性からなる状況的なものとして捉えており、「布を纏うように」という起源的な感覚を現代に織り込んだユニセックスのコレクションを発表している。
本計画では、区画の躯体に「ただ1つのマテリアルのみを纏う」空間をイメージした。(田村陽平 / ハレデザイン)
優秀賞 受賞者コメント
優秀賞に選定いただき、まことに感謝いたします。該当案件は、大学の同級生が立ち上げたブランドのスペースであり、私にとっては思い入れの深いデザインです。夜な夜な同級生(クライアント)とともにアイデアを出し合い、真剣に遊びながらデザインした空間が評価され、たいへん嬉しく思います。
今回の素材選定では、その「素材が持つ意匠性」がいかにブランドコンセプトに合っているか、またこの空間に入った第三者が「素材が持つ意匠性」により記憶や感情、情景などを呼び起こせるのか、という点にフォーカスしました。
具体的には、均質性のない自然な表情を求め、壁面と天井、梁や什器に「ジョリパットアルファ」を、床面に「クライマテリア モルタルアート フロア仕様」を用い、ほぼ同じ質感での仕上げで空間を一体化しました。照明によって、床面では照度が他の面に比べて高くなるため、サンプルを使って現地で何度も色の見え方を確認していきました。工事現場では均質化せずパターン化しないように注意喚起しながら施工してもらい、ブランドを体現したショップが実現したと思います。
(田村陽平氏。メール回答に2023.01.23オンライン取材内容を補足[文責・編集部])
優秀賞
作品名:HOUSE H -緑と戯れる家-
用途:戸建住宅
設計:かまくらスタジオ
施工:アイエフ
竣工:2017年10月
工事種別:新築
採用商品:セラール(天井)
https://www.tecture.jp/projects/3234 |
〈HOUSE H -緑と戯れる家-〉コンセプト
この住宅は、植物好きの施主が、ただ単に緑と共にあるだけではない空間を切望していたところからプロジェクトがスタートした。
ほぼ、どの空間にいても植物を眺められるだけでなく、まるで植物の万華鏡の中に入り込んだような空間をつくることで、さまざまな方法で、植物と戯れるようにして過ごすことができないかと考えた。
建て替え前の住宅では、周囲の建て込みと配置の影響から室内に光が入らず、外に置かれた鉢植えは薄暗い場所に置かざるを得なかった。そこで、施主と共に、植物たちの居場所の最適化から設計を始めた。
北側の2階、光が最も当たり逆光にならない場所に庭を設け、植物を設置。植物に当たった光を室内に導くことで、植物の色をしっかりと眺められるよう工夫している。さらに、天井を傾斜させ、ここに反射材を用いることにより、1階からは気配しか感じられない植物の姿を「虚像」として映し出し、可視化させている。
2階では、緑に溢れた植物の万華鏡の中に潜りこんだような空間が生まれている。
植物と建築が織りなす空間は、四季折々、日々刻々とさまざまに変化し、緑と生活する悦びを住む人にもたらすことができたと考えている。(かまくらスタジオ)
優秀賞 受賞者コメント
福井啓介氏(左)と森川啓介氏(右)
光を室内に導くため、傾斜した天井を塗装で仕上げることも検討しましたが、コスト面や施工性を比較検討した結果、不燃化粧板の「セラール」を選択しました。鈍い反射が起こる品番を選び、窓の外に設置した植物の鮮やかな緑のみを取り入れることを考えました。実際に室内で動きながら天井を見上げると、傾斜天井全体に虚像が映り、ゆらぎと浮遊感のある空間になっています。
写真だけでは建築的に評価されづらい作品とは思いますが、ハードルを超えて優秀賞をいただけたことは嬉しいですし、今後の励みになります。
(福井啓介氏、文責編集部。2023.01.23 オンラインにて)
優秀賞
作品名:# 桁
用途:戸建住宅
設計:前田圭介 / UID
施工:中原建設
竣工:2021年4月
工事種別:新築
採用商品:ジョリパットネオ(外壁・内壁)
https://www.tecture.jp/projects/3231 |
〈#桁〉コンセプト
大地と空の領域を緩やかに規定する大屋根を考えた。
1970年代から宅地造成が行われた山の中腹から裾野にかけて広がる斜面に建つ住まいである。都心近くに位置しながらも、緑溢れる豊かな自然を形成している環境だ。しかし南北方向に細長い敷地の南面には何の脈略もない高層マンションがそびえ立ち、ある種異様な景観を生み出しながら、南側からの採光やプライバシーの確保が難しい状況をつくり出していた。一方、高低差がある東面は斜面に沿って美しい川が見下ろすことができ、遠くの山並みと市街地が一望できる優れた眺望を同時に持ち合わせていた。
この微地形を取り込む大地に根ざした断面計画と垂直方向に大らかな屋根によって内外の領域を規定する立体的な空間を考えてみた。具体的には、1,000mm×64mmの集成材で2,700mmの井桁状に編んだ大きな屋根を12本の末広がりの鉄骨十字柱などで支えている。このフラットでリジッドな屋根形状と数種類のフロアレヴェルによる変化は、開放的な場から内向的な場へグラデーションのように外部との多様な空間体験を常に生み出していく。周辺環境から逸脱した建物が立ち並ぶ現代においても、与えられた地形と周辺環境を丁寧に紐解き、人と建築の豊かな関係性を再構築することが、この地におけるごく自然な景観を取り戻すことにつながるだろう。(前田圭介 / UID)
優秀賞 受賞者コメント
前田圭介氏 ©藤塚光政
このたびは選出いただき、ありがとうございます。優秀賞と特別賞のダブル受賞ということで、それぞれのクライアントや施工者、事務所の担当スタッフを含め、皆で喜んでいます。「ジョリパット」は職人の手仕事感が残る自然な風合いと、多彩な色柄が気に入っているので、評価いただき嬉しく思います。
〈#桁〉は井桁状に組んだ集成材の梁と、十字形の鉄骨柱による構造形式が特徴的な建築で、壁仕上げはそれらを引き立てる土壁のような風合いの仕上げを求めていました。そこで、大壁工法で目地を設けずに施工できることから「ジョリパット」を採用し、さまざまな色柄のサンプルを取り寄せて現地で確認し、最終的には「エンシェントブリック」に少し「ミーティア」を混ぜたような柄に決定しました。均一でない仕上がりとするため、同じようなパターンの連続にならないよう壁全体を見ながら模様を調整し、天井面と壁、内壁と外壁とで模様の出し方を少しずつ変化させています。仕上がった壁は、手仕事によるムラがあり、光の当たり方でさまざまな表情を見せることができたので満足しています。
「ジョリパット」は左官職人の腕によっても仕上がりが異なるので、施工例コンテストは施工会社も共同で応募し審査されると面白そうです。そしてTECTUREとコラボレーションした今回のようなコンテストは、継続的に開催していただけたらと思います。
(前田圭介氏。メール回答に2023.01.26オンライン取材内容を補足[文責・編集部])
特別賞
作品名:弁才天 伊勢神宮店
用途:店舗
設計:藤川祐二郎、金瑛実 / YLANG YLANG
施工:リクリエイト
竣工:2021年7月
工事種別:コンバージョン
採用商品:ジョリパット爽土(内壁・天井)
https://www.tecture.jp/projects/3204 |
〈弁才天 伊勢神宮店〉 コンセプト
クライアントの「弁才天」は、フルーツ大福で知られる店で、店舗ごとに異なるデザインが展開されている。
それを踏まえて「場のルーツを探り、場所性をアイデンティティとしてデザインに落とし込むこと」に取り組んだ。
伊勢市に出店する店舗を設計するにあたり、伊勢神宮の伝統でもある「生成り」をコンセプトに計画を進めた。生成りとは、ありのままをよしとすることで、日本建築の本質にも通ずる。
壁と天井に生成り色の土壁をあしらい、ありのまま=無垢と捉え、カウンターにヒノキ板、敷き台に根府川石の無垢材を施した。
また、伊勢神宮にある神宮茶室、霽月(せいげつ)の雲間に光る月の由来から、弁才天のロゴマークで雲を、丸みのある壁・天井・照明で月を表現した。(藤川祐二郎)
特別賞
作品名:7 Gates Lounge
用途:倉庫
設計:シオ建築設計事務所
施工:西松建設
竣工:2019年9月
工事種別:新築
採用商品:ジョリパットシルキーパレット(内壁・ドーム天井)、メラミン化粧板(ソファ台輪)
https://www.tecture.jp/projects/3212 |
〈7 Gates Lounge〉コンセプト
茨城県つくば市における、ファッションECサイト「ZOZOTOWN」を運営するZOZOの物流拠点〈ZOZOBACE〉の増床計画である。
ラウンジのデザインでは、拡張性、フレキシビリティを求められた。拡張性を確保するためソファ席を用い、ラウンジを7つの部屋に区切り、壁に沿ってソファ席を作ることで座席数を担保した。
ラウンジは全長約70mあり、この長さを活かすため、ラウンジの開口はつくばの縄文遺跡から着想したアーチ形状とした。各ラウンジは似た形状のため誰でも区別できるように、ZOZO社のロゴを使ったカラフルな壁をつくり、識別できるようにした。
大勢のスタッフがロッカー室や倉庫へ行くための動線を兼ねた、もう一方のラウンジでは、つくばのワインカーブのアーチ天井から着想し、「Tunnel Cave」と名付けた。「Tunnel Cave」から各ラウンジへは、Caveにラウンジの壁と同じ色の腰壁を用いることでサインとした。
木の床と左官の壁で仕上げたラウンジは、スタッフにとっての安らぎの空間となるとともに、スタッフ達の個性と感性、そして、使い勝手に応える、多様でフレキシブルな場所としてその機能を果たす。
「ZOZOBASE」の焼印を入れた椅子や、「ZOZO」のフローリング、ロゴのカラーの壁のラウンジでゆったりと過ごすことで、ZOZOグループの一員として一体感が得られ。同じグループで働くスタッフ同士の連帯感を高めることができる場所をデザインした。(シオ建築設計事務所)
特別賞
作品名:鮨 やくしどう
用途:飲食店
設計:前田圭介 / UID
施工:共栄店舗
竣工:2021年6月
工事種別:リノベーション
採用商品:ジョリパットアルファ 水墨(外壁・内壁・天井)
https://www.tecture.jp/projects/3232 |
〈鮨 やくしどう〉コンセプト
中世より物流で栄え、かつては賑わいをみせた広島県・尾道の古い通りに、まちの伝統を継承しながら、「上質感」と「親近感」の2つを融合させた、隠れ家的な鮨屋の改修プロジェクトである。
尾道の路地は、分岐する小道や段差、時には道に覆い被さるような木々といった変化によって奥へ進む楽しさがある。そこで、通り抜ける路地のような空間をこの場所につくり出すことで生まれる奥行き感が、人々を店内に引き込み、天井高さや階段などといった変化が空間に楽しさと緊張感を与えてくれる。
また、日本の美を継承するミニマルな空間は、街の喧騒を忘れ、心に余白と上質で特別な時間をつくり出し、華やかな空間では感じることのできない繊細な色調や手触り、その空間で味わう料理本来の味を五感で楽しむことができる空間とした。(前田圭介 / UID)
特別賞 & 新商品賞(セラール セレント) ※ダブル受賞
作品名:allée
用途:カフェ
設計:KAMITOPEN一級建築士事務所
施工:セットアップ
竣工:2021年11月
工事種別:新築
採用商品:セラール セレント(内壁・天井・カウンター腰壁)
https://www.tecture.jp/projects/2238 |
〈allée〉コンセプト「焼色」
黄金色、ウォルナットカラー、サンドカラー、焼き菓子の魅力の1つは、香ばしい焼き色にある。
味覚は色に密接に関係していると言われ、魅力的な色は忘れ難い印象を与える。
そこで、焼き色で空間を覆うことによって、おいしい空間をデザインすることを試みた。
実際には、鉄が錆びたコールテン鋼色、真っ黒の焼き杉色、焦げ茶のマーモリウム色で空間を包み込んだ。
また、ロゴは炎をモチーフにデザインし、ショッパーは蝋引き紙を使用することによって、全てのアイテムにコンセプトを通し、ガラス面には煙に見立てた手書きのイラストを施すことによって、店内から店外へ思いが伝わっていく様を表現した。
私は、この場所を訪れた人々が、ほっと一息つく時間を過ごすことを望む。(KAMITOPEN一級建築士事務所)
特別賞
作品名:ASKWATCH Nakano
用途:店舗
設計:KENTA NAGAI STUDIO
施工:STUDIO, Inc.
竣工:2022年5月
工事種別:新築
採用商品:メラミン化粧板(ショーケース内部・壁面・テーブル天板)
https://www.tecture.jp/projects/3208 |
〈ASKWATCH Nakano〉コンセプト
世界中の希少な時計を集めた専門店の2号店の計画である。
サイトは、サブカルチャーの聖地として知られ、さまざまな商品と狭小店舗が高密度に集積されている、都内の商業施設・中野ブロードウェイの一角にある。近年では高級腕時計の聖地としても知られ、館内には多くの時計店が立ち並ぶ。
特徴的な商業施設内への出店となることから、本店でつくりあげたブランドイメージを踏襲しながらも、異なる環境や客層との関係性を考慮し再構築することが必要であると考えた。
まず、本店の特徴ともいえる、天井照明を排した什器のみの照明計画による非日常感の演出は、この施設内においては多くみられる手法であることに気が付いた。
そのため、フロアに並列するほかの店舗にこの店が埋もれないよう、差別化を図ると共に、この施設を訪れる顧客層にも受け入れられるファサードをつくりだすことが必要となった。
そこで、共有部と店内の間にカラーガラスを建てることとした。ブランドイメージの1つである無機質な光の表情は踏襲しながらも、それらの光をカラーガラスを通してアンバーで上品な表情へと変換することで、並列するほかの店舗との差別化を図り、館内の競合店を訪れた顧客が興味を持ちやすい上品なファサードをつくりだした。
そのほか、店内ではこれまでの同ブランドのコンセプトを踏襲し、時間と空間の関係性を感じられるよう、高いコントラストを意識しながら、石、プラスチック、アルミニウムなどの各仕上げ材の特徴を生かしつつ、空間に配していく構成とした。
中野ブロードウェイにおける完全に整備された区画内では、荒々しい躯体を取り入れたデザインは望めないため、一部の壁を石貼りとすることで、素材特有の重量感と時間の蓄積を視覚化したいと考えた。
また、細長い筒状の店内において、正面の壁面はミラー仕上げとし、限られた店内スペースに奥行をつくりだすことで、狭小区画特有の圧迫感やカウンターと対峙する入りにくさを払拭する構成とした。
ブランドコンセプトを体現しながらも、環境や訪れる客層などを考慮し、新たなファンを獲得できる、そんな時計のメッカの地に相応しい店舗づくりを目指した。(KENTA NAGAI STUDIO)
新商品賞(ウイルテクト)
作品名:Re:
用途:特殊浴場(サウナ等)
設計:KAMITOPEN一級建築士事務所
施工:セットアップ
竣工:2022年9月
工事種別:新築
採用商品:アイカウイルテクト Plus(カウンター・テーブル・ベンチ)
https://www.tecture.jp/projects/3180 |
〈Re:〉コンセプト「森閑」
「森閑(しんかん)」とは、「深閑」とも書き、物音ひとつせず静まりかえっている様(さま)を表す。
サウナ施設である〈re:〉では、音に着目し、全ての雑音を排除することで1人でリラックスできる空間をつくることを試みた。
具体的には、区画壁は屋根裏まで伸ばし、全ての仕上げ材に凹凸を施した。壁面の中には遮音材を施し、音を極限まで吸収する。そうして静けさを手に入れた空間に、自然の太陽光と「向きと強さと色温度」が呼応する照明を施すことにより、自然の中に生まれる森の中の静寂を空間としてデザインした。
また、ととのうために必要な風も、壁に当たったランダムな反射風を整えることによって、自然の中に生まれる風をそれぞれの個室で再現した。
私は、〈re:〉によって、訪れた人々に心と体の新たな再生体験を得て欲しいと考える。(KAMITOPEN一級建築士事務所)
新商品賞(クライマテリア)
作品名:HOTEL AOKA KAMIGOTO
用途:ホテル
設計:seventh-code、バカンス
施工:浜田建材工業・近藤組 JV
竣工:2019年12月
工事種別:リノベーション
採用商品:クライマテリア イタリアート(内壁)
https://www.tecture.jp/projects/3207 |
〈HOTEL AOKA KAMIGOTO〉コンセプト「モダニズム1920」
美しい海と世界文化遺産登録の教会群を誇る、長崎県五島列島において、衰退してしまった地元ホテルを、リブランディングとリノベーションにより、旅行客を幅広く受け入れ、島民の憩いの場ともなるようなホテルへと再生させるプロジェクトである。
デザインにおいては、海を楽しむ人はもちろん、教会巡りを堪能する人の拠点としても、その文化的体験からひと続きのような、余韻に浸る時間のノイズとならず、むしろ一層充実したものにできる空間づくりを目指した。
コンンセプトは“モダニズム1920”。島内に現存する多くの教会が建造された1920年代の空気感にチューニングを合わせ、教会建築のレプリカをつくるよりも、既存建物の建築的特徴を活かす考え方から、フランスなどの近代デザインを参照した意匠へと結実させた。
なかでも重要となるのが、ゲストを迎えるエントランス・ロビーと、それに連なるライブラリー、寿司バー、暖炉ラウンジ、レストランといった共用部の世界観、空気感であった。そこで、内装仕上げでは「時代の質感」を求め、ロビーなど一連の空間のメインの壁仕上げとして、アイカ工業の「クライマテリア」を採用した。
島のレガシーに共鳴する空間を創出できたと自負している。(seventh-code) ※ バカンスとの共同設計
新商品賞(メラミンタイル)
作品名:iBankマーケティング
用途:オフィス
設計:勝木哲也、山本桜子 / TAP
施工:TAP
竣工:2021年6月
工事種別:リノベーション
採用商品:メラミンタイル(床)、メラミン化粧板(カウンター)
https://www.tecture.jp/projects/3188 |
〈iBankマーケティング〉コンセプト
福岡の中心市街地における、iBankマーケティングの本社オフィスプロジェクトである。
同社は、ふくおかフィナンシャルグループの企業内ベンチャーとしてスタートし、銀行ではできない広告・マーケティング領域のビジネスを手掛け、銀行出身者、マーケター、デザイナー、エンジニアなどさまざまな職種の人が働いている。
オフィスはビルの9階と10階の2フロアからなり、九州一の繁華街・中洲を見渡せる。
9階はデザイナー、マーケターが中心で社内外からの来訪者が多く、ミーティングスペースをコミュニケーションの核とした。
フロアの中央にはコーポレートカラーをアクセントにしたカウンターがあり、垣根なく集まれる場を設け、多様な情報共有や新しいアイデアが生まれることを意識した。
エンジニア、バックオフィスが中心となる10階では、プレゼンテーションスペースをコミュニケーションの核とした。共有できる情報をオープンにすることで、普段交わらないスタッフ同士の交流につながることを期待した。役員の席も壁もないオープンなスペースとし、ビックテーブルに数人の役員が座り、スタッフを交えたミーティングをその場で行うことができる。
ベンチャー時代と変わらず「ラフなコミュニケーション」が生まれる空間づくりを目指した。(TAP)
キッチンコーディネート賞
作品名:REIDA
用途:商業施設
設計:レイホク
施工:レイホク
竣工:2021年10月
工事種別:新築
採用商品:フィオレストーン(キッチントップ)、 メラミン化粧板(カウンタートップ)、セラール(バックパネル)、ジョリパットアルファ 水墨(壁面)
https://www.tecture.jp/projects/3203 |
〈REIDA〉コンセプト
福井県福井市に拠点を構える、オーダーメイド・キッチンメーカー・REIDA(レイダ)の依頼により、ショールーム空間を設計した。
それまでのショールームでは、キッチンは人からあまり見られない、隠れた位置に設けられることが多かったように思うが、今回のプロジェクトでは「人から見られる」ことを意識して空間を設計した。
昨今において、キッチンはさまざななライフスタイルに対応できることが求められており、例えば、共働きの夫婦、子どももいる家庭、週末に招いたゲストに料理を振るまうなど。キッチンにも多様化が求められている。これにより、使い勝手や機能だけでなく、インテリアとしてのデザイン、社交場としての心地良さ、そして何よりも使う人の個性にフィットしていることが求められていると考えた。
これらを具現化したショールーム空間として、キッチンの天板にはアイカ工業のフィオレストーンを使うことで質感を出し、シンクキッチンの天板にはメラミン化粧板、バックパネルには素材感のあるセラールを採用した。壁はジョリパットアルファ 水墨で仕上げている。(レイホク)
オルティノ同柄コーディネート賞
作品名:ASUCAアイクリニック
用途:診療所
設計:堀川 塁 / タカラスペースデザイン
施工:タカラスペースデザイン
竣工:2022年4月
工事種別:新築
採用商品:オルティノルーバー、オルティノ(ペリメーター仕上げ・壁面)、アルディカ(柱)、 メラミン化粧板(扉・家具)
https://www.tecture.jp/projects/3187 |
〈ASUCAアイクリニック〉コンセプト
ビルのテナントとしてクリニックを設計するプロジェクトである。
サイトは仙台駅直結の高層ビル11階に位置し、周囲には同じ高さのビルはなく、窓からは仙台の街を一望できる。内部の条件としては、オフィスビル特有のシステム天井で、空調、給排気システムを全くのゼロから構築することが難しく、天井部分の操作は面材の仕上げを含めてほぼできないフロアであった。
施主の希望は、3方向を向いた景色を生かすことであった。このため、視覚的に大きな存在感を放っているマス目状の天井を意識させないよう、クリニックを利用する人々の目線を下げる必要があると考えた。そこで、天井照明はグレアレスとし、床のライン照明を強調して目を向けさせた。
また、広いクリニックの内部と外部とを光のラインで区切ることによって、外と内の境界をあえてはっきりさせ、外の景色をより際立たせることを試みた。
診療スペースはフロアの中心部に集め、この「箱」が2方向を向いた大きな窓に面している。受付から検査までの動線と位置関係は、左側に外の景色を見ながら、右側には「箱」がある。このとき、右側のしつらえとしてアイカ工業のオルティノルーバーをランダムに配置することで、単一となる動線に変化を与えようと考えた。さらに、窓の下の壁のしつらえを同柄のオルティノ・ペリメーター仕上げとすることで、空間全体の統一感を出すことに成功した。(堀川 塁 / タカラスペースデザイン)
メース賞
作品名:Seminar house in Domaine Kurodasho
用途:研修施設
設計:TOFU
施工:前川建設
竣工:2021年9月
工事種別:新築
採用商品:メース(外壁)
https://www.tecture.jp/projects/3210 |
〈Seminar house in Domaine Kurodasho〉コンセプト
本プロジェクトが計画された「ドメーヌ黒田庄」は、兵庫県西脇市の黒田庄町に建設された、酒蔵関連施設および酒米を生産する田んぼの集合体である。ドメーヌとは、フランス語で領域、区画を意味し、特にワインの銘醸地であるブルゴーニュ地方で使われている言葉で、葡萄の栽培から醸造、熟成、瓶詰めまでを自ら行う生産者を指す。
本計画は、2018年に酒蔵施設の建設を始め、農業棟、乾燥調整棟、精米棟、醸造棟、冷蔵庫棟、セミナー棟の計8棟を3年・3期にわたって建設するもので、農と醸を包括するドメーヌが2021年に完成し、酒蔵のある田園風景が黒田庄に出現した。
この施設は「ドメーヌ黒田庄」のセミナーハウスで、世界中から集まるシェフやソムリエ、醸造を学ぶ学生を招待する場所として計画された。来館者がドメーヌを最も体感できる施設であることを優先し、建築のダイアグラムを設定した。
地形を利用したアプローチを設定し、地上4mをメインの床レベルとすることで、来館者は北側には酒米を育てる広大な田んぼの風景を、南側には広場を行き交う蔵人と醸造を行う酒蔵を眺望できる。オーナーが思い描いた農と醸のドメーヌを視覚的に体感できる場所となっている。
外観はアイカテック建材の押出成形セメント板(Extruded Cement Panel: ECP)のメースに特殊塗装を施し、ドメーヌ全体の自然色にあわせた色感や質感を表現した。同時に施設全体の統一感も保っている。(TOFU)
入選
作品名:F residence
用途:共同住宅
設計:乃村工藝社 A.N.D.
施工:アクシス
竣工:2020年1月
工事種別:リノベーション
採用商品:クライマテリア モルタルアート(内壁・天井)
https://www.tecture.jp/projects/3209 |
〈F residence〉コンセプト
都心におけるマンションリノベーションのプロジェクトである。
西側にエゴノキの街路樹、東側に桜を望む、都心部において貴重な自然環境に囲まれた敷地に対し、自然素材を多用し、素材の持つ質感や表情を生かしたデザインとすることで、周辺環境との調和を図っている。
2層吹き抜けのエントランスホールには、石灰岩をスクラッチ加工した壁面を設置。また天井高約4mのリビングには、開口部に見附9mmの繊細な木製ルーバー建具を設け、周囲の自然環境を取り込みつつ、プライバシーに配慮した意匠とした。
廊下を含む壁と天井面には、アイカ工業のクライマテリアを多用し、リビングの天井をR形状とすることで、素材の持つ陰翳を最大化することを試みた。昼間は周辺の木々の陰影が映り込み、夜間は間接照明によって柔らかな光で包まれる。
均一な素材を避け、落ち着いたカラースキームとゆとりある平面構成により、都会の中に佇む“Urban Resort(アーバンリゾート)” として、別荘のような居住空間を目指した。(設計:乃村工藝社 A.N.D. / 施工:アクシス)
入選
作品名:ある漫画家の自邸 / A Japanese manga artist’s house
用途:戸建住宅
設計:TAN YAMANOUCHI / AWGL
施工:泰進建設
竣工:2022年9月
工事種別:新築
採用商品:ジョリパット爽土エクステリア(外壁)
https://www.tecture.jp/projects/3230 |
〈ある漫画家の自邸 / A Japanese manga artist’s house〉コンセプト
サイトは東京都心、漫画家と所縁(ゆかり)の深い土地に建っている。新進気鋭の漫画家と夫が暮らす、木造戸建住宅である。
クライントからは、漫画家としての仕事が家の中で完結できることと、創作へのインスピレーションを与えてくれる空間が求められ、「日常から数センチ浮いているような建築」をつくりたいと考えた。あくまで具体的な日常と接続しつつも、どこかフィクショナルな物語性が介在する、そんな建築の在り方を目指した。
建物の西側は前面道路に面しており、大地が大きくめくれ上がるイメージで曲面耐震壁を立ち上げ、トンネル状のアプローチを配置した。日常から非日常に一歩足を踏み入れる、映画のワンシーンのような導入とする意図である。
さらに、奥に長い敷地を最大限活かすため、東側は3層・西側を2層とし、極端な高低を与えた。北側には光庭を挿入したのに対して、その他では開口部を可能な限り減らし、家の中をアメーバ状に拡がるヴォイドに対する明暗のコントラストを与えた。その空間に階段を一直線に通すことで、高低と明暗の効いたヴォイドの中を突っ切っていく、身体的なストーリーのある立体構成とした。
現代の漫画家にとって、自邸は打ち合わせの場であり、メディア露出の際の撮影スタジオも兼ねており、プライベートとパブリックの濃淡が求められている。繊細な場所の使い分けを可能にする“溜まり”を、ヴォイドの設計によって提供することを意図した。(TAN YAMANOUCHI / AWGL)
入選
作品名:島原のオフィス
用途:オフィスビル
設計:中村 創、中村弘美 / DAN設計室
施工:星野建設
竣工:2022年3月
工事種別:新築
採用商品:ジョリパットアルファ(外壁)
https://www.tecture.jp/projects/3181 |
〈島原のオフィス〉コンセプト
長崎県島原市におけるプロジェクトである。敷地は、南側に島原の港と海を、西側に雲仙岳を望む位置にあった。
クライアントからは、島原港と雲仙岳、この2つの景色を眺めながら仕事ができるオフィスを計画したい。同時に、大通りに面している為、道路との見合いを極力なくしてほしいとの要望があった。
これらをクリアするとともに、周囲からの視線を遮り、かつ最大限の眺望を確保するため、外壁の角度を斜めに振って計画した。
この斜めの外壁の一定のリズムの中に、ランダムな開口を設けることで、変化のあるファサードを生み出すことができた。時間と共に外観の陰影にも変化をもたらし、内部には開口部から漏れる光が時間の経過とともに表情を変えていく。
さらに、この斜めの外壁は、内部空間のインテリアとして「ニッチ」の役割を果たしている。ホールでの「ニッチ」はディスプレイとして、会議室と事務室では棚として利用されている。この「ニッチ」も開口と同様に、サイズと位置をランダムにしたことで、単調にならず変化をもたらす空間となっている。(中村 創、中村弘美 / DAN設計室)
「AICA 施工例コンテスト 2022」開催概要&実績
対象作品:2022年11月末までに国内外で竣工し、アイカ工業またはアイカテック建材の商品を使用した施工事例
応募総数:608点
審査結果:上記の通り
賞金総額:200万円(最優秀1点:500,000円 / 優秀賞3点:各150,000円 / 特別賞5点:各100,000円 / 以下各賞・入選:各50,000円)
※選考の結果、入選作品は3点、賞金総額は195万円となりました
審査委員長:谷尻 誠(SUPPOSE DESIGN OFFICE)
審査委員:照井洋平+湯山 皓(I IN)、山根脩平(tecture代表取締役CEO)、百々 聡(アイカ工業取締役 専務執行役員)
募集期間:2022年9月1日(木)〜11月30日(水)
審査会:2022年12月12日(月)
結果発表:2022年12月23日(金)
「AICA×TECTURE AWARD 2022(AICA 施工例コンテスト 2022)」特設サイト
https://aica-tecture-award.jp/
アイカ工業 ウェブサイト
https://www.aica.co.jp/
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