CULTURE

BIGのドキュメンタリー映画『コペンハーゲンに⼭を』1/14公開

ゲレンデの下はゴミ処理&発電所、夢の〈コペンヒル〉がコペンハーゲンに完成するまで

CULTURE2022.12.13

デンマークの建築家、ビャルケ・インゲルスが率いる建築事務所・BIG(ビッグ)が設計し、母国デンマークの⾸都コペンハーゲンに建設された、スキー場を併設したゴミ処理場&発電所〈CopenHill〉が、コンペティションでの選出から2019年10月に完成するまでの過程を撮影したドキュメンタリー映画『コペンハーゲンに⼭を』が、2023年1⽉14⽇(⼟)より日本国内で公開されます(東京・渋谷のシアター・イメージフォーラムほか全国順次ロードショー)。

BIGドキュメンタリー映画『コペンハーゲンに⼭を』

©2020 Good Company Pictures

コペンハーゲンに“⼈⼯の⼭”を出現させたBIG

デンマークの⾸都・コペンハーゲン南東部にある島・アマー(Amager)にある、⽼朽化したゴミ処理施設を建て替える設計者を決めるためのコンペティションが2011年に実施され、審査の結果、満場⼀致で、建築家のビャルケ・インゲルス(Bjarke Ingels Group|1974-)が率いるBIG(Bjarke Ingels Group)の案が選出された。
BIGのアイデアは、⾶び抜けて奇抜だった。巨⼤なゴミ焼却発電所の屋根に、スキー場を併設し、コペンハーゲンに新たなランドマークをつくるというもの。ウィナーを発表する際、アマー・リソース・センターCEO のウラ・レトガーは、歌い出すほど興奮していた。

だが、このプロジェクトに密着したカメラは、建物が完成するまでの過程で、苦難の連続を追うことになる。ゴミ焼却発電所とスキー場は、建築として共存できるのか? 予算内に完成するのか? 次々と出る課題が⼭積みになっていく──。

BIG 〈CopenHill(コペンヒル)〉

〈コペンヒル〉でのゴミ処理の様子 ©2020 Good Company Pictures


#Babcock & Wilcox Vølund A/S YouTube「Copenhill by B&W Vølund: Copenhagen’s waste-fired power plant and ski slope is under construction」(2015/03/12)

誰も⾏きたがらなかったゴミ処理場が観光名所に

いくつもの難題を乗り越え コペンハーゲンの新しい”山”となる〈CopenHill(コペンヒル)〉は2019年10⽉に誕⽣した(Google Map / 施設Website)。コンペの実施から完成まで約9年を要し、かかった費⽤は約5億ユーロ。

〈コペンヒル〉の”標⾼”は85mで、ヒルトップからはデンマークの景⾊を楽しめる。全⻑は450m、ゲレンデの幅は60m。4つのリフトが設置され、ここで人々はスキーを楽しむことができる。

BIG 〈CopenHill(コペンヒル)〉

©2020 Good Company Pictures

“未来都市とサステナブルな環境づくりは両⽴可能”

ゲレンデの下は、ゴミから再⽣可能エネルギーを生み出す最新鋭のゴミ焼却発電所で、年間で約3万世帯分の電⼒と、7万2000 世帯分の暖房⽤温⽔を供給することができる。
屋上には、レストランやハイキング・ランニングコースのほか、壁には世界⼀⾼い85m のクライミングウォールも設置されている。足の下はゴミ処理場とは思えない。誰も⾏きたがらなかったゴミ処理施設が、誰もが⾏きたがる「夢の施設」になったのだ。

BIG 〈CopenHill(コペンヒル)〉

©2020 Good Company Pictures

製作者メッセージ

「この『コペンハーゲンに⼭を』で私たちは建物が主役の映画を作りました。発電所のような技術的に複雑なものと、コペンハーゲンの⼈々を集める社会的な遊び場を組み合わせるプロセスを探求しました。この発電所は、未来の発電所の建設⽅法を変える可能性があります。この映画を制作するにあたり、これほど壮⼤なものには、イメージも、ストーリーの伝え⽅も思い切った決断が必要でした。

建築物を題材にした映画をつくるのは、常にチャレンジングなことです。基本的に”死んでいる”ものを、映画という⼿段で⽣き返らせなければならないのですから。しかし、この建物の建設に関わった⼈々は、時に対⽴し、同時に多様な意⾒を提⽰できる、映画にとって興味深い登場⼈物であることがわかりました。この建物は、ビャルケ・インゲルスが考案し、ウラ・レトガー(アマー・リソース・センターCEO)が⽣活のために逆境に⽴たされても、それを⽀えたからこそ実現したものです。私たちは、このようなユニークな建物を建てることの複雑さを知ってもらい、強いイメージと⼒強い⾳楽が、このプロジェクトと同じくらい壮⼤なものとして映画を盛り上げてくれるような、そんな映画体験にしていきたいと思いました。そのために、リムスキー=コルサコフの交響曲で構成される章⽴ての映画にしました。」(キャスパー・アストラップ・シュローダー、ライケ・セリン・フォクダル)

BIGドキュメンタリー映画『コペンハーゲンに⼭を』

ライケ・セリン・フォクダル監督(左)キャスパー・シュローダー監督(右) 提供:ユナイテッドピープル

監督インタビュー

——映画製作を思い⽴ったきっかけは?

ライケ・セリン・シュローダー監督
映画にするアイデアは、発電所の建設側からです。建設のプロセスを映画にしたらおもしろいのではないかと。何年も撮影した映像を私に渡し、映画化をオファーされたんです。映像を⼿に⼊れると、400時間ものフッテージがありましたが、ミーティングや建設の様⼦などすべてを記録した映像です。これは⼤変だと思い、幾つもドキュメンタリー映画の編集を⼿掛けているライケセリン・フォクダル(本作共同脚本)に⼒になってくれないかと相談しました。彼⼥は素晴らしいアイデアを多数出してくれたので、共同監督になってもらいました。

——400時間もの映像から映画化、さぞ⼤変だったでしょうね。

フォクダル監督:映像は⼿持ちカメラで1つの会議を 4時間撮影したようなものが多かったんです。
⾳も上⼿く録れていません。市との調整や資⾦調達の様⼦など様々な難しいミーティングの様⼦はほぼ使わない選択をしました。そして、主⼈公を建物にすることにしたのです。そこで建物にズームインする映像などさまざまなアングルで建物を撮影しました。

シュローダー監督:それからビャルケのインタビューを加えました。400時間のすべてを⾒る選択はせず、建物を主⼈公にし、建物ができ上がっていくクリエイティブなプロセスに集中することにしたのです。ご覧の通りこの建物は巨⼤ですよね。そして発電所の屋根にスキー場を併設するなんて極めてクレイジーです。このスケールの⼤きさを伝えるための撮影でしたし、⾳楽もドラマティックなものを選択しました。

——映画のテンポが使⽤されているクラシック⾳楽と合いとても好きです。どのように選んだのですか?

シュローダー監督:1本の映画としてのある種の⼀体感を⽣み出すためにも、選択したのはたった1つの曲なんです(ニコライ・リムスキー=コルサコフ交響組曲『シェヘラザード』[作品 35])。

フォクダル監督:使⽤したのは曲の後半の部分ですが、シンフォニーと順番を変えずに使⽤しました。⾳楽はこの映画の魅⼒の1つですが、⾳楽を聞かせたいシーンでは、建物を2分間ズームする映像をぶつけました。

BIGドキュメンタリー映画『コペンハーゲンに⼭を』

©2020 Good Company Pictures(提供:ユナイテッドピープル)

——映画制作中、難しかった点は?

フォクダル監督:クライミングウォールの設置が⼤幅に遅れたことです。映画には⼊れられないかもしれないと⼼配しましたが、何とかひと冬待って、撮影できました。

シュローダー監督:400時間の映像⼊りのハードドライブを受け取った時は「どうしよう?」と思いましたね。最初から映画を企画して制作に⼊るプロセスとは異なるプロセスでこの映画は始まりましたから。最も難しかったのはビャルケのスケジュールを抑えることでした。「1時間ならいいよ」と、何とか彼のハウスボートで撮影できました。

フォクダル監督:良かったのは、キャスパー(・シュローダー)が個⼈的にビャルケと友達だから、彼のビャルケのビジョナリーな考え⽅を理解した上で進められたことです。

シュローダー監督:僕の妻が20年前に彼の会社でインターンをしたことで縁ができて、彼の過去の作品を撮影したんです。その後、幾つかのプロジェクトで⼀緒に仕事しているうちに友⼈になったんです。ビールを飲んだりね(笑)。

BIG 〈CopenHill(コペンヒル)〉

〈コペンヒル〉館内の様子 ©2020 Good Company Pictures

——ビャルケ・エンゲルス氏の発想のスケール感には驚かされます。常に映画中のような調⼦なんですか?

シュローダー監督:そうです。無数のアイデアの持ち主でクリエイティブです。いつも常識にとらわれない発想をしています。でも彼は他⼈の意⾒を聞くことにも⻑けていますよ。利⽤者側の視点も持っているから〈コペンヒル〉の発想ができたんです。「この発電所にできるだけ沢⼭の⼈に来てもらうには?」という視点から、クライミングウォールとスキー場を併設することを思いついたんです。尋常じゃない発想⼒ですよね。そして、彼は自分の発想を実現できる資⾦を持っている⼈も⾒つけられるんです。最初の頃のデンマークでの彼の受け⽌め⽅は、「夢ばかり語って、そんな夢想が実現するわけないだろう」と否定的に受け⽌められていましたが、⼀度成功すると「すごいじゃないか」と態度が⼀変しました。

BIG 〈CopenHill(コペンヒル)〉

©2020 Good Company Pictures

——制作中で最も感動したことは?

シュローダー監督:ビャルケのアイデアは楽しいけど、スキーを滑ることなんて実際にはできないのではないかと疑っていました。完成したとしても誰も利⽤しないのではないかとも。でも完成後に沢⼭の⼈々が利⽤していることを観て、驚きました。

フォクダル監督:ほとんどすべてのコペンハーゲン住⺠が、あの建物のスロープを登ったと思いますよ。スキーは有料ですが公園として公開されているので、無料で登ることができるんです。

シュローダー監督:⼀度、上に登ったら「すごい!信じられない!」と感動しますよ。

フォクダル監督:コペンハーゲンの⼈々の⼼を鷲掴みにしました。空気を汚染しない、グリーンでサステナブルな施設ですから、この点もとても評価されました。教育施設としても機能していて、学校からの⾒学に来る⽣徒が絶えません。

シュローダー監督:建物の⼀部分を教育に使うことを、彼は最初から設計していたんです。

BIG 〈CopenHill(コペンヒル)〉

©2020 Good Company Pictures

——⽇本の観客へのメッセージをお願いします。

シュローダー監督:『コペンハーゲンに⼭を』は、コペンハーゲンに建設された発電所であるだけでなく、スキー場や世界で最も⾼いところにあるクライミングウォールが設置されている施設を紹介します。この映画が未来を担う世代に勇気を与えるものであることを願っています。私たちが出すゴミを活⽤する新しいアイデアを学んでください。私たち⼈類はかつてないほどゴミを出しています。ゴミをどう処分するか考えなければなりません。ビャルケが考えたコペンヒルからインスピレーションが得られると思います。

ビャルケ・インゲルス(Bjarke Ingels)

ビャルケ・インゲルス(Bjarke Ingels)プロフィール
建築家。1974年デンマーク・コペンハーゲン⽣まれ。バルセロナ建築大学で学び、レム・コールハースの建築設計事務所OMA(ロッテルダム)に勤務。その後、建築事務所PLOTを共同設立、2005年にビャルケ・インゲルス・グループ(Bjarke Ingels Group: BIG)を設立。
世界各地でさまざまなプロジェクトが進行中。待機作の1つに、トヨタ⾃動⾞が静岡県内で進めている実証都市建設プロジェクト「Woven City」の都市設計がある。
2011年、ウォール・ストリート・ジャーナルマガジンによりイノベーターオブザイヤー選出。2016年には『TIME』誌の「世界で最も影響力がある100人」に選出されている。

BIG Website
https://www.big.dk/

本作には、設計者のインゲルス自身もインタビューに応じるなど出演、映画制作に協力しています。


#ユナイテッドピープル(cinemo):映画『コペンハーゲンに山を』予告編(2022/12/07)

映画『コペンハーゲンに山を』
2023年1月14日(土)シアター・イメージフォーラムほか全国順次ロードショー

原題:Making a Mountain
監督:ライケ・セリン・フォクダル、キャスパー・アストラップ・シュローダー
プロデューサー:カトリーヌ・A・サールストロム、キャスパー・アストラップ・シュローダー
出演:ビャルケ・インゲルス、ウラ・レトガーほか
撮影:ヘンリク・ボーン・イプセン、ユッタ・マリー・イェッセン、キャスパー・アストラップ・シュローダーほか
編集:ライケ・セリン・フォクダル
脚本:ライケ・セリン・フォクダル、キャスパー・アストラップ・シュローダー
⾳楽:ラスムス・ウィンター・イェンセン
制作会社:グッドカンパニーピクチャーズ
配給:ユナイテッドピープル 2020年 / デンマーク / 51 分
©2020 Good Company Pictures

映画『コペンハーゲンに⼭を』公式ウェブサイト
https://unitedpeople.jp/copenhill/

※本稿のテキスト・画像提供:ユナイテッドピープル(配給元)

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