CULTURE

国産ヒノキの木組みと香りを守るガラスウォールの〈AEAJグリーンテラス〉

隈研吾氏が設計した日本アロマ環境協会の新拠点が原宿にオープン

CULTURE2023.02.22

東京・原宿(渋谷区神宮前6丁目)に、隈研吾建築都市設計事務所が設計した新たな施設〈AEAJグリーンテラス〉が誕生しました。
公益社団法人 日本アロマ環境協会(Environment Association of Japan: AEAJ)[*1]の情報発信拠点としてオープンしたもので、国産ヒノキの規格材で組み上げた美しい組積構造を、ガラスウォールで覆っている、内外観ともに特徴的な建築となっています。

2023年2月1日のオープンに先立ち、AEAJでは、理事長の熊谷千津氏と、設計者である隈 研吾氏も出席した内覧会をメディア向けに実施。『TECTURE MAG』ではこれを取材しました。当日の様子をレポートします(本稿1枚目の1階内観とクレジット明記の内外観画像を除き、撮影は編集部)

隈研吾建築都市設計事務所〈AEAJグリーンテラス〉

竣工した〈AEAJグリーンテラス〉外観(画像提供:AEAJ)

アロマテラピーの魅力を伝えるための施設の建設は、AEAJにとって構想から20年におよぶ念願だったとのこと(熊谷理事長談)。2018年にJR原宿駅に近い土地を取得したあと、2019年に「AEAJ拠点施設設計プロポーザル」を実施して、隈研吾建築都市設計事務所からの設計案を採用しました(2019年7月に計画概要をAEAJプレスリリースにて発表、計画段階のイメージパースはKKAA Websiteでも公開)

〈AEAJグリーンテラス〉内覧会

メディア内覧会で〈AEAJグリーンテラス〉のデザインについて説明する建築家の隈 研吾氏

〈AEAJグリーンテラス〉フロア構成
1階外構部:アロマコリドー
1階:アロマラウンジ、アロマラボラトリー、アロマライブラリー
2階:AEAJ事務局オフィス
3階:イベントスペース、アロマテラス

〈AEAJグリーンテラス〉内覧会

〈AEAJグリーンテラス〉エントランス付近からの見上げ、3階に設けられた「アロマテラス」の屋根材を確認できる

国産ヒノキの組積構造

〈AEAJグリーンテラス〉は、人々の心身の健康に寄与し、アロマ環境の保全と創造を図るAEAJの活動のシンボルとなるべく、多様な木材をさまざまなかたちで活用した空間デザインとなっています。

隈研吾建築都市設計事務所〈AEAJグリーンテラス〉

1階 アロマ・香り・植物に関する貴重な書籍を閲覧できる「アロマライブラリー」(提供:AEAJ)

隈研吾建築都市設計事務所〈AEAJグリーンテラス〉

1階「アロマラボラトリー」​では世界中から集められた香り・約300種を試すことができる(提供:AEAJ)

〈AEAJグリーンテラス〉内覧会

「アロマラボラトリー」什器

〈AEAJグリーンテラス〉内覧会

〈AEAJグリーンテラス〉1階 内観

〈AEAJグリーンテラス〉のコンセプトとして、この場所に集う人々の健康と快適性、さらには未来の自然環境保全を視野に、さまざまな種類の木材を採用。木組みは国産のヒノキ、フローリングはクリ、壁や什器にはカラマツの単板積層材(LVL: Laminated Veneer Lumber)をそれぞれ使用。これら木材の使用量は平米数で95.5m²となり、炭素固定量は約75トンと算出されています[*2]
*2.AEAJプレスリリースより(林野庁「建築物に利用した木材に係る炭素貯蔵量の表示に関するガイドライン」「令和元年度 森林・林業白書」からの数字)

〈AEAJグリーンテラス〉内覧会

2階から上に続く階段

〈AEAJグリーンテラス〉階段 〈AEAJグリーンテラス〉階段

〈AEAJグリーンテラス〉3階 イベントスペース

メディア説明会が行われた3階イベントスペース
クリ材のフローリングの下は遮音用薄型コンクリートパネルで、床下に空調とOAフロアをまとめ、天井高を3m以上確保して居住性を高めている

コンセプトは「都会の真ん中に杜(もり)をつくる」

18組が参加したというプロポーザルにおいて、隈研吾建築都市設計事務所が意識したのは、精油が植物から抽出されるものであるからこそ、自然を意識したデザインと構法によって建てること。そして「木の香り」でした。ガラスのファサードは、木組みで使用した大量のヒノキの香りを内部に閉じ込め、長く保ちます。

〈AEAJグリーンテラス〉内覧会

〈AEAJグリーンテラス〉の特殊な構造について説明する隈氏

建物を囲ったガラスウォール越しに確認できる木組みは、イメージパースで全体をみると、まるで大樹のよう。市場の汎用材である105mm角の規格材を用いて、隈氏は、原宿という都会の真ん中に、もう1つの杜(もり)を出現させました。

〈AEAJグリーンテラス〉内覧会

ヨーロッパでみられる石の組積建造物もイメージしているという木組み(3階 内観)

〈AEAJグリーンテラス〉内覧会

角材の接合では、金物を使わずに接着剤を採用、美しい仕上がりを実現した

〈AEAJグリーンテラス〉内覧会

〈AEAJグリーンテラス〉1階 天井見上げ / 木漏れ日をイメージしたデザイン

構造は、日本の伝統的な建築技法である木組みを活用したハイブリッドで、筋交いを入れず、ブレースの代わりに木組みの「壁」が水平力を負担し、構造を保たせています。高いデザイン性を確保しつつ、鉄骨とコンクリートの使用を最小限に抑えています。

丹下建築と明治神宮社殿の軸線を意識

内覧会での隈氏のプラン解説によれば、今回の設計で強く意識されたのが、隈氏が建築家としての「原点」と過去に何度も語っている、丹下健三(1913-2005)が設計した〈国立代々木競技場〉が計画地の西側に位置していることでした。〈AEAJグリーンテラス〉のアプローチ手前からも、その特徴的な屋根のかたちを確認できる〈国立代々木競技場〉は、計画地とは東西の軸線上にあり、さらにこの丹下建築から北の軸線には、明治神宮の本殿が位置しています。

〈AEAJグリーンテラス〉内覧会

3階「アロマテラス」からの眺め、〈国立代々木競技場〉を一望できる

1964年の東京オリンピックの主要施設として建設された〈国立代々木競技場〉は、巨大なワイヤーロープで屋根を吊った革新的な構造であることはよく知られています。JRの線路を挟んで、3階の「アロマテラス」から全景を一望できる丹下建築との響き合うことを意識してデザインされたのが、隈氏の最新作〈AEAJグリーンテラス〉となります。

隈 研吾氏と熊谷千津氏(AEAJ理事長)

隈 研吾氏と熊谷千津氏(AEAJ理事長)

アロマテラピーの魅力を伝え、さまざまな情報を発信する拠点となる〈AEAJグリーンテラス〉は、予約をすれば誰でも利用が可能です。
今後はオリジナルのフレグランス作成が楽しめる「Aroma Bar」や、アロマクラフトづくり、植物を育む自然環境について学ぶワークショップなどを実施する計画とのこと。


#日本アロマ環境協会 AEAJ YouTubeチャンネル「建築家 隈研吾が語る、神宮前の小さな森〈AEAJグリーンテラス〉」(2023/01/31)

隈 研吾氏プロフィール
1954年生まれ。1990年隈研吾建築都市設計事務所設立。慶應義塾大学教授、東京大学教授を経て、現在、東京大学特別教授・名誉教授。
自然と技術と人間の新しい関係を切り開く建築を提案し、30を超える国ち地域でプロジェクトが進行中。
主な著書に『全仕事』(2022年、大和書房)、岩波書店から刊行された『点・線・面』(2020年)、『小さな建築』(2013年)、『自然な建築』(2008年)、『負ける建築』(2004年)などがある。

隈研吾建築都市設計事務所ウェブサイト
https://kkaa.co.jp/

〈AEAJグリーンテラス〉内覧会

1階「アロマラウンジ」 施工は、鉄骨で床下の骨組みをつくってから、105mm角の木材を周りに組み上げ、3層を組み上げた。3層は隈研吾建築都市設計事務所でも初めての規模であり、ハイブリッドとのバランスが難しかったとのこと

〈AEAJグリーンテラス〉内覧会

木組みのヒノキの香りを感じられる「アロマラウンジ」では、AEAJオリジナルのボタニカルティーも楽しめる

隈研吾建築都市設計事務所〈AEAJグリーンテラス〉

エントランスまでのアプローチ「アロマコリドー」は、精油の原料植物となる香りある植物のほか、鳥や蝶など多様な生物が集まってくるように、花や実をつける種類を中心に計43種を植え、生物多様性に考慮した植栽計画となっている(画像提供:AEAJ)

〈AEAJグリーンテラス〉施設概要

所在地:渋谷区神宮前6丁目34-24(Google Map
用途地域:第二種中高層住居専用地域
敷地面積:322.91m²
構造:混合造(S+RC、一部木造)
設計:隈研吾建築都市設計事務所
構造:江尻建築構造設計事務所
設備:環境エンジニアリング
施工:松下産業

開館日時:火~土曜 13:00~18:00
休館日:日曜・月曜・祝日
利用方法:予約制、以下URLの特設サイトから申し込み
利用料金:一般 500円 / AEAJ会員・18歳未満・障がい者手帳の提示で無料

〈AEAJグリーンテラス〉特設サイト
https://www.aromakankyo.or.jp/greenterrace/

公益社団法人 日本アロマ環境協会
1996年に日本アロマテラピー協会(AAJ)として設立。同年に第1回「アロマテラピーアドバイザー認定講習会」を開催。以降も植物の香りを用いた「アロマテラピー」を通じて人々の心身の健康に寄与することを目的に、アロマテラピーの普及・調査・研究などを行っている。アロマテラピーの正しい知識と技能を有する人材育成を目的に、1999年より認定試験・アロマテラピー検定を実施。2005年に環境省管轄の社団法人に改組設立、2012年に内閣府所管の公益社団法人に移行。2023年1月に〈AEAJグリーンテラス〉2Fに事務局を移転。
https://www.aromakankyo.or.jp/aeaj/

【購読無料】空間デザインの今がわかるメールマガジン TECTURE NEWS LETTER

今すぐ登録!▶

隈研吾建築都市設計事務所によるプロジェクトほか取材記事

FEATURE2020.11.13

Special report: Coverage of the media preview

隈研吾デザイン監修〈角川武蔵野ミュージアム〉11/6 グランドオープン!【Report】
FEATURE2020.12.14
【内覧会Report】隈研吾設計 東工大〈Hisao & Hiroko Taki Plaza〉が竣工、大友克洋原画の陶板レリーフがお目見え
FEATURE2021.07.01

[Movie] Quick report: Nabeshima Shoto Park Toilet by Kengo Kuma

【動画レポート】隈研吾が語る「多様性の時代、森の時代のトイレ」
FEATURE2021.08.05

【会場レポート】「隈研吾展 新しい公共性をつくるための😸の5原則」

東京国立近代美術館にて9月26日(日)まで
FEATURE2021.09.23
早稲田大学国際文学館(村上春樹ライブラリー)が10/1開館、設計は隈研吾氏が担当【内覧会レポート】
FEATURE2022.06.30

隈研吾が設計した四畳半の小屋〈木庵〉、国立競技場からの会場レポート

341万円で買える隈研吾作品、CLT×板金技術が可能にした極小建築

隈研吾建築都市設計事務所 進行中のプロジェクト

CULTURE2020.10.28

隈研吾設計(仮称)江戸川区角野栄子児童文学館

施設概要を江戸川区が発表
FEATURE2021.04.22
旭川家具産地の東川町が隈研吾氏との連携プロジェクト「サテライトオフィス群+デザインミュージアム」建設計画などを「椅子の日」に発表
CULTURE2022.04.01

隈研吾監修〈バンヤンツリー・東山 京都〉2024年春開業予定

インテリアデザインをdwp、客室デザインを橋本夕紀夫デザインスタジオが担当
CULTURE2022.04.27

高輪ゲートウェイシティ(仮称)概要

計5棟のうち、隈研吾氏が文化創造棟の外装をデザイン
CULTURE2022.05.10

隈研吾氏が東海市横須賀町の新施設を設計

地域と調和した外観デザイン、映像を活用した交流施設に
CULTURE2023.01.19

隈研吾氏が手がけるゼロエネルギーホテル〈ITOMACHI HOTEL 0〉

愛媛県西条市に建設中の新街区〈いとまち〉に今春オープン予定

隈研吾氏 著作&関連書籍

CULTURE2020.04.16
隈 研吾『ひとの住処 1964-2020』刊行記念 対談記事「タモリさん、隈研吾の案内で国立競技場を巡る!」
CULTURE2021.05.15
日経アーキ「建築巡礼」の画文家・宮沢 洋氏の新刊『隈研吾建築図鑑』
CULTURE2021.06.26
隈研吾著+瀧本幹也撮りおろし『隈研吾 はじまりの物語 ゆすはらが教えてくれたこと』
CULTURE2021.07.21

国立競技場ができるまでを定点撮影で辿る

写真集『国立競技場 Construction』刊行
CULTURE2022.04.17

新刊『郊外住宅地の再生とエリアマネジメント』

佐藤可士和、隈研吾らが参画した「団地の未来プロジェクト」を含む洋光台エリアマネジメント10年間の軌跡
CULTURE2022.06.26

隈研吾 新刊『全仕事』

建築家・隈研吾を"変え続けた"55の建築から浮かび上がる挑戦の軌跡

RECOMENDED ARTICLE

  • TOP
  • CULTURE
  • ARCHITECTURE
  • 隈研吾設計、日本アロマ環境協会の新拠点が原宿にオープン! 国産ヒノキの木組みと香りを守るガラスウォールが特徴的な〈AEAJグリーンテラス〉
【購読無料】空間デザインの今がわかるメールマガジン
お問い合わせ