東京都が管轄する都立公園において、公募設置管理制度(Park-PFI)[*1.後述]を活用した整備計画のうち、都立明治公園において、広場などの整備が終了、10月31日に一部が開園しています(東京建物プレスリリース)。
これまで発表された計画概要については、『TECTURE MAG』では2021年11月11にニュースを掲載、その後の発表を2022年1月26日に続報として伝えています。
都立明治公園整備計画 続報:東京都初のPark-PFI活用事業「TOKYO LEGACY PARKs」プロジェクトが始動
『TECTURE MAG』では、10月31日の午前中に行われたメディア内覧会を取材しました(本稿1枚目と特記ある画像、ムービーを除き、現地の画像は全てTEAM TECTURE MAG撮影)。
本事業の対象地は、国立競技場の南側、約1.6haの敷地面積を有します。供用を開始したのはこのうちの約2/3を占める「3つの広場」と「誇りの杜(もり)」と名付けられた雑木林のエリアになります。敷地内に分散して建設中の商業施設棟は、2024年1月開業予定で、これをもって全面開園となる見込みです。
本件は、都立公園として初めてPark-PFIを活用したプロジェクトです。公募で事業者に選定されたTokyo Legacy Parks(以下TLPと略称)[*2.後述]が公園の整備を行うとともに、既存公園との接続を担う歩行者デッキ1号・2号を含め、今後20年間にわたり維持・管理を担当します。
敷地内に5棟の店舗棟(公募対象公園施設)を分散して配置したのは、20年後に商業棟を解体した状態で公園を東京都に返還する前提のため。それぞれ解体しやすい規模とし、大きな構造物を建てることで土地にかかる負荷を減らしています。
TLPでは、「世界に誇れる、東京という都市の“レガシー”となる公園を創り、責任を持って持続的に運営、希望と誇りと共に次世代へ継承」という事業コンセプトに基づき、以下5つの理念を掲げています。
1.多様性・包括性(Diversity&Inclusion Inclusion)
2.緑・環境(Green&Ecology Ecology)
3.地域社会との持続的関係(SocialSocial&PartnershipPartnership)
4.エシカル思想(Ethical Mind SetSet)
5.心の健康・幸福(WellnessWellness&Well beingbeing)
2024年1月の全面開園に先立ち、園内には3つの広場と、約7,500m²の樹林地「誇りの杜」がオープンしました。
先行オープン(2023年10月31日)
・渋谷川をモチーフに水景を取り入れた「みち広場」
・約1,000m²の芝生広場「希望の広場」
・約60種・約700本を植樹した「誇りの杜」
・可変可能な遊具を配した「インクルーシブ広場」
敷地内を外苑西通りから東側に歩いてみるとよくわかりますが、本サイトは東西で最大約7.8mの高低差(西側に約2mの擁壁、東側に約3mの法面)があります。
加えて、現在は暗渠となって外苑西通りの道路の下に渋谷川の水の流れがあり、この土地が有する記憶をデザインに反映させ、未来へと継承させることが、運営事業予定者を選定する公募段階で求められていました。
この難問に挑んだのが、大阪に拠点を構えるN2LANDSCAPE(エヌツーランドスケープ / 代表取締役:野口健一郎、デザインパートナー:根本哲夫)です。
「敷地内には3つの広場と杜をつくり、商業施設を分棟で建てる。この全体のプランをどのようにランドスケープにどのように落とし込むかが大きな課題でした。古地図や江戸時代の浮世絵なども参考にしながら、ランドスケープデザインに生かしています。最も苦慮したのが広場としての平らな面をいかにつくるかでした。
さらに、この地を視察したときの第一印象が「狭い・暗い」というものでした。東南側の建物の敷地では歩道が拡幅されゆったりとしているのに、計画地に接続した途端に狭くなる。外苑西通り沿いの歩道も、停留所でバスを待つ人々のすぐ後ろを自転車が走行しているといった課題が散見されました。そこで、周辺の街のルールに倣いつつ、まずは公園外周部に”みち広場”などの開放的な空間をしつらえました。」(N2LANDSCAPE 野口健一郎氏談)
「隣接する国立競技場の敷地内にも、旧渋谷川の記憶を取り込んで整備された水場があります。姿かたちはそれとは異なりますが、明治公園でも水の流れをつくっています。園路をセットバックさせ、かつての堤防、堤(つつみ)のような「草土手」を造成しています。さらに、公園が接している交差点の由来である、江戸時代創建の仙寿院が桜の名所だったことを踏まえ、13種類の桜を植えました。花の色も開花時期も異なるので、来春のお花見を楽しみにしていてください。」(野口健一郎氏談)
「”希望の広場”全体で、東から西に2%下がる勾配をつけています。これは、外苑西通りの仙寿院交差点や霞が丘団地交差点からの眺めを考慮した設定です。雨水の処理だけなら1%勾配で足りるのですが、それではここに芝生があると視認しずらくなってしまう。緑の存在を感じとってもらいながら、公園の奥にある杜(もり)への奥行き感をつないでいくという効果も狙っています。」(N2LANDSCAPE 野口氏談)
敷地の東側に広がる「誇りの杜」では、常緑樹落葉樹を中心に約60種・約700本を新たに植樹。武蔵野台地の雑木林をイメージした杜づくりを目指し、在来種を基本とする樹種構成や階層構造、配植となっています。
造成にあたり、他所から土を新たに運び入れるのではなく、もとからこの地にあった土を改良する「土づくり」から始めています。さらに、同じ種類の雑木林の落ち葉を用意して敷き詰めることで、早期に土壌環境や林床(りんしょう)環境を整え、生物多様性に配慮した公園づくりを目指しているとのこと。
明治公園の遊具は、福井県敦賀市に拠点を構えるジャクエツが担当しました。同社が展開する遊具シリーズ「RESILIENCE PLAYGROUND」の新作3種・7点が配置されています。
従来の公園でよくみられる固定式ではなく、時代の変化や利用者のニーズに合わせて常に改善・進化し、必要なメンテナンスを行なったり、遊具ごと刷新するといった可変的な対応ができるようになっているのが特徴です。
都立明治公園は、工事中の商業棟を除く一部が10月31日に開園。11月3日(金・祝)と4日(土)には、地域の学校や団体と連携した披露イベント「明治公園祭」が開催されます。
都立明治公園および再整備事業概要
所在地:東京都新宿区霞ヶ丘町地内、渋谷区神宮前2丁目地内(Google Map)
敷地面積:16,179m²(約1.6ha)
主な公園施設:誇りの杜(約7,500m²)、希望の広場・インクルーシブ広場(約2,550m²)、水景施設(約80m²)、管理棟、トイレ棟
公募対象公園施設:
・A棟(カフェ・リラクゼーション施設等):RC造・地上3階建(約560m²)
・B棟(カフェ):RC造・地上2階建(約220m²)
・C棟(アウトドアアクティビティショップ):木造・地上2階建(約110m²)
・D棟(カフェ レストラン):木造・地上2階建(約110m²)
・E棟(レストラン):木造・地上2階建(約110m²)
設計監理:日本工営都市空間
ランドスケープデザイン:N2LANDSCAPE
施工:西武造園(造園)、東洋建設(建築)
遊具デザイン:ジャクエツ(JAKUETSU)
遊具監修:紅谷浩之(医師、一般社団法人Orange Kids Care Lab.代表、オレンジホームケアクリニック代表)
樹林地「誇りの杜」造園協力:濱野周泰(東京農業大学客員教授)ムービー提供:TLP都立明治公園 公式ウェブサイト
https://www.meiji-park.tokyo/
*1.公募設置管理制度(Park-PFI):都市公園において飲食店、売店等の公園利用者の利便性の向上に資する公園施設(公募対象公園施設)の設置と、設置した施設から得られる収益を活用して、その周辺の園路、広場等の公園施設(特定公園施設)の整備等を一体的に行う民間事業者を公募により選定する、都市公園法に基づく制度
*2.東京建物を代表構成団体とし、三井物産、日本工営都市空間、西武造園、読売広告社、日テレ アックスオンを構成員とするコンソーシアムが設立した、都立明治公園Park-PFI事業設置等予定者(事業者)、特定公園施設の指定管理者としても選定されている