すでにお伝えしたとおり、日本最大級のデザイン&アートフェスティバル「DESIGNART TOKYO(デザイナート・トーキョー)2020」が10月23日よりスタートした(-2020.11.03)。
この展覧会のメイン会場であるワールド北青山ビルでは、特別にパビリオンが設置され、「NEW HOME OFFICE EXHIBITION_働き方の新境地」展が行われている。
同会場で開幕前日に開催されたプレスビューを、TECTURE MAGは取材。
会場構成を担当した建築家の神谷修平氏(カミヤアーキテクツ代表)と、デザイナート発起人の1人で主催者の中心人物である青木昭夫氏(デザイナート代表)にインタビューした。
既成概念をくつがえす、円形を分割した形状のブースは、どのように生まれたのだろうか。
企画の意図や設計のプロセスに加えて、施工中や展示物がまだ設置されていない様子なども紹介する。
Movie & photographs: toha
インタビュー動画のダイジェスト
青木昭夫氏(デザイナート代表)
青木:
「デザインとアートを横断し、ミックスカルチャーで集めた東京らしいこのイベントは、今年で4年目。
街中が美術館のようになる「分散回遊型」として、感染症防止対策をとりながら巡ることができます。
神谷さんとは、隈研吾建築都市設計事務所にいらしたときに協働し、それ以来、一緒に面白いことをしようと企んでいました。今回の企画のための設計者として真っ先に思いついたのが、神谷さんでした」
神谷修平氏(カミヤアーキテクツ代表)
神谷:
「デザイナートからは、6つの企業が参加するためのブースを設置する要望がありました。
コロナ禍において変化し続ける働き方の新しいスタイル、時代の転換期を迎えることを表現する重要な展覧会です。
単なる会場構成ではなく、デザイナートのメインパビリオンとして、アイコニックなデザインを心がけました」
神谷:
「当初は、6つのブースを四角くグリッド状に分けていくことが想定されていました。いろいろと考えるなかで、たどり着いたのが、円形に分けるプランです。
このカットケーキの形状をしたプランの良さは、3つあります。
1つ目は、間口が大きくそれぞれのブースでとれること。
2つ目は、全体を来場者が回遊できること。エンドがないのですぐに帰らず、滞在時間が多いメリットがあります。
最後に、来場者がブースの前に立っていると、他のブースが見えなくなる効果が高いことです。
チャレンジングなプランでしたが、クライアントに提出したところ、すんなりと受け入れられました」
神谷:
「アイコン性を求められていたので、外から見たときにピークをつくる設計をしました。
今回のテーマである“ホーム”、住宅の原点の1つであるモンゴルのゲルを思い出したのです。
実際に自分がゲルに泊まったときの感動を、どうにかパビリオンに結びつけたかった。
草原の中に佇むゲルのシルエットの良さを東京の青山で表現し、象徴的なかたちをつくろうとしました」
神谷:
「いつもプロジェクトを考えるときは、新しいシステムをつくり、それによって空間の意味を問い直そうとしています。デンマークの事務所 BIGにいたときは『システマティック・クリエイティビティ』と呼んでいました。
パビリオンは、木造の軸組の両側に合板を挟むかたちで強度をとっています。中心から外へ向かうに従って壁は低くなり、安定度が高まります。補助的に上部にはワイヤを張り、水平力に耐えています。
仕上げは、OSBボードを用いています。いろいろと検討しましたが、OSBは肌理(きめ)が粗く、大理石で仕上げられた空間とのコントラストが最も効いていたので選びました」
青木:
「神谷さんの素晴らしいところは、機能や要望を叶えながら大胆な独創性を導き出すことです。
この案を初めて見た瞬間は圧倒的で、出展者の皆さんが喜ぶだろうと思いました。
ブース内はパースが効いて写真映りもいいですし、世界観を打ち出すというときには、これからのスタンダードになるブースの在り方になるのではないでしょうか。発明的な設計だと思います」
神谷:
「僕らは、新しいデザインでクライアントを成功に導きたいと考えています。
ときには、与件自体を疑い、問い直すことも含んでいます。そうしないと、新しい価値観やゲームチェンジは起こりませんから。
今回もクライアントと一緒に問い直しながら、パートナーとしてつくり上げることができたかなと思っています。
普遍性のある特殊解をみつけるというのも、我々のデザインのテーマです。
今回導き出した形状は、今後の建築やプロダクトにもつなげていきたいと考えています」
青木:
「『NEW HOME OFFICE』は、『本当にいいものを選びたい』という方に向けて用意した企画です。
リモートワークでは、家具などの準備をきちんとしていないと、精神的にも身体的にも良くありません。
今回の展示物は、この場で注文することもできます。
『自分の部屋に置いたらどうなるだろう』とイメージしながら、楽しんでいただけたらと思います」
体験して分かる「部屋感」と「没入感」、アイコニックな姿
ブースを改めて見ていくと、神谷氏の狙い通りのことが実現されていることに驚く。
円形プランを60度ずつ分割された「カットケーキ」形状の各ブースは、入隅が鋭角という印象を感じず、きちんとした「部屋感」がある。
また、隣のブースの様子が目に入ってこないので、それぞれの世界観に没頭できる。
Image provided by KAMIYA ARCHITECTS Ltd.
そして立ち現れている“ゲル”のようなパビリオンの姿は、青山通りのガラス張りのファサード内にあって目を引き、来訪者の記憶に残るものだ。
期間中、ぜひ実際に足を運んで各ブースの展示に触れていただき、その効果を体感していただきたい。
(jk)
DESIGNART TOKYO 2020(デザイナート・トーキョー 2020)
会期:2020年10月23日(金)~11月3日(火・祝)
エリア:表参道・外苑前 / 原宿・明治神宮前 / 渋谷 / 代官山 / 六本木 / 新宿 / 銀座
主催:DESIGNART TOKYO 実行委員会
発起人:青木昭夫(MIRU DESIGN)、川上シュン(artless)、小池博史(NON-GRID・IMG SRC)、永田宙郷(TIMELESS)、アストリッド・クライン(Klein Dytham architecture)、マーク・ダイサム(Klein Dytham architecture)
公式ウェブサイト:http://designart.jp/designarttokyo2020/
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