■自然の開発!? 「DAICHI」が手掛ける「Nature Development」
自然豊かな環境に身を置き、その場でしか味わえない体験をしたい。そう願う人は多いはず。
「体験に価値を見出す時代のあたらしい能動的ラグジュアリー」を掲げて2月に発足した「DAICHI(ダイチ)」は、その名のとおり大地に根ざし、自然の体感を届ける注目企業である。
(DAICHI ホームページより)
事業を準備する段階で出てきたキーワードは「Nature Development」だったという。
「自然開発」という、一見すると相いれない言葉には、どのような意味が込められているのだろうか。
「DAICHI」が手掛けること、目指す姿はどのようなものか。
代表でありプロジェクトマネージャーの馬屋原 竜(うまやはら・りゅう)氏、建築家・起業家の谷尻 誠(たにじり・まこと)氏、造園家の齊藤太一(さいとう・たいち)氏、クリエイティブ・ディレクターの木本梨絵(きもと・りえ)氏に話を伺った。
(jk)
Movie & Photographs: toha
■体験を届けることから発想した「ネイチャー・デベロップメント」
── DAICHIの立ち上げまでの経緯とメンバーの役割は、どのようなものですか?
DAICHI 代表でありプロジェクトマネージャーの馬屋原 竜氏
馬屋原:貸し宿泊の事業をすることはベースにあって、メンバーが集まって話をするなかでビジネスモデルが徐々にできていきました。最初から「キャンプ以上、別荘未満」というワードはあり、キャンプだけでもアウトドアだけでもなく、事業領域の幅のイメージが広がっていきました。
そのなかで1つ、キャッチーなキーワードとして出てきたのが「Nature Development」というものです。一般的にはデベロッパーというと都市を対象としていて、街の生活を豊かにすることに注力しています。それはそれでいいのですが、自然に目を向けると、まだ自然の魅力を広げる余地はたくさんありそうだねと盛り上がったのです。
建築家・起業家の谷尻 誠氏
谷尻:みんなでキャンプをして、サウナに入って。「こういう体験を届けたい」と話し合いましたね。建物のことを考えるにしても、単に別荘をつくって「はい、どうぞ」というモデルというより、どういう体験が必要なのかと考えていくとき、「本当に窓はいるのかな? 街の家のリビングと差がないものができて本当にいいんだろうか」などと話しながら。僕はどちらかというと振り切ってしまいたい性質なので、みんなで話すことでバランスがとれている気がします(笑)。
造園家の齊藤太一氏
齊藤:僕はスケール担当かな。「大きいほうがいいんじゃないか」と、いつも言っています(笑)。普段はランドスケープや農業などに関わり、わりと広いフィールドを目の前にして活動しているので、大きいほうがいいなと感じるのです。今回のDAICHIの事業では土地と建物があり、コンテンツを入れていくというとき、僕はなるべくダイナミックにできればいいと考えています。
クリエイティブ・ディレクターの木本梨絵氏
木本:私はヘビーなキャンパーに囲まれている中で(笑)、キャンプには年に少し行く程度ですし、客観的に見る役割だと思います。DAICHIでは企画やコンサルティング、土地に建物をつくるだけでなく、「土地にどう価値をつくっていくか」というクリエイティブディレクションもしていく予定で、客観的な視点に立ってお手伝いできればと思います。
── 場所の魅力を引き出す、ということは「Nature Development」に欠かせない要素ですよね。
谷尻:「自然が好き」という、すごくシンプルなところからの発想です。自分は自然が豊かなところで育ち、久しぶりに帰ると「自然っていいな」と思いますが、そこに住んでいる人にとっては当たり前で、価値を見出そうともしていないことも多い。せっかく自分たちは都市と自然を横断しながら仕事ができているので、それぞれの役割をもってすれば場所の魅力はもっと発掘でき、形にしていくことができるチームだと思います。
齊藤:これまでSOLSOで仕事をしてきた中でも、「山を持っているんだけど、どうしたらいいか」という相談を受けることがけっこうありました。でも、僕1人では何かを形にすることはなかなかできません。そうした話も、DAICHIで活かしていけたらお互いにとっていいことだと思っています。
馬屋原:そして、自然に対してどこか不自由さを感じている人は多いのですよね。「虫が多い」とか、「熱い・寒い」とか。そうしたネガティブな価値観を少しでも変えたい、と思います。
谷尻:自分は子供を育てるようになって、より自然に戻り始めた感覚はありますね。子供を公園に連れて行っても、遊具で遊ぶだけで。「これでは与えられるものを受け入れるだけ、考えることをしない大人になっていく可能性があるな」と思って。
自然の中にいると、木の枝を集めるとか、葉っぱを集めるとか、どこで何をして遊ぶかを全部子供は考えるわけで、そういうことが当たり前なのに、都市にいるとそうではなくなっている。このままでは、クリエイターが減ってしまうんじゃないかと思って。未来のクリエイターを増やすうえでも、やはり自然な場所に親が連れて行くきっかけをつくるのは、実は自分の使命としてあるんじゃないかと。
木本:一般的には「ラグジュアリーな体験」というと、受動的であることが多いと思っています。朝食が用意されていて、部屋が綺麗にされていて、みたいに。一方で、キャンプは能動的だけどカジュアルすぎて、ちょっと怖いなという人も多い。
DAICHIが目指すところは「能動的なラグジュアリー体験」です。自然の中で能動性を誘発するヒントのようなものが最低限用意されているところをつくれば、これまでキャンプをしてこなかった人も入りやすいし、キャンプをしていた人も新しい選択肢があります。そして、能動的な自分を発見できること自体が、DAICHIの価値になってくると考えています。
■真のラグジュアリー体験は、薪風呂にあり!? DAICHIが考える事業内容と展開
── DAICHIの事業では、何を用意されていくのでしょうか?
谷尻:ビジネスモデルとしては、DAICHI的に価値のある土地を購入し、そこに企画を建てて建物を建てて、販売します。購入者は自分が使いたいときに使い、使わないときは貸せるようにします。貸すためのマッチングや運用のサポートもDAICHIのほうで行うことを考えました。
ただ、建物を皆さんに利用いただけることは考えていますが、内容を定め切ってはいません。これまでは都市の中にビルを建てて、人とコンテンツとモノと情報とコンテンツを建物に詰め込むことが行われてきました。これからは郊外に出向いて、自然の豊かな環境の中で宿泊だけでなく、より多くの時間を過ごし活動するようになる。そうすると、そこで商売や事業が行われるようになるかもしれないし、その地方で働けるようになるかもしれません。そうした展開は、まだまだありそうな気がしています。
一般的に事業や投資というと、価値のある場所に建物を建てて、きちんとした設備を整えていきます。そうすると、全部必要になってくるんですね。僕たちがやっているのは逆で、「何もない敷地でいいよね」とか、「そんなに立派な建物でなくてもいいよね」とか、「実は空調がなくていいかもね」といったことです。「本来は必要ではなかったかもしれない」ということを、元に戻していくような作業というか。
そうすると、「これって実は豊かな体験なんじゃないかな」と思えてくるんですよね。例えば、薪をくべて自分で火をおこしてお風呂に入るとか、普通の宿泊施設ではさせてもらえません。昔の人の生活に現代の良き部分は残しながら戻していくような提案が、僕らが一番やりたいことで、実は一番ラグジュアリーなのではないかと思っています。
馬屋原:事業の内容について話すとき、「詰め込みすぎない」というポイントはよくあがりますね。便利なハードやソフトを入れると確かに便利なのですが、「それは別に自然の中でやらなくてもいいよね」と。その線引は、すごく重要ではないかと考えています。
齊藤:絶妙なバランスを探していますね。今、リアルキャンパーや建築のプロフェッショナルの視点から、どの程度のホスピタリティが必要なのかを調整しながら、いくつかのモデルをつくっているところです。
木本:DAICHIでつくる建物は、大きく分けて2パターンあります。広いけれど大きな開口があって外とシームレスになっているパターンと、あえて屋内のスペースを最小限に絞ることで外に出ざるを得ない状況をつくるパターンです。どの物件も、中だけでは完結できないようなつくりで、自然の風景をそのまま取り込む点は、共通しています。
DAICHIで手掛ける建物の内観イメージ
谷尻:今までは、建物を建てて中に全部閉じ込めていたわけで。僕らはそこを解放して、外でのアクティビティをつくっていきたいんです。
最近、なんで外が必要なのかをすごく考えていて。外で食べると美味しく感じる1つの理由は、空気と一緒に食べるからだと気づいたんですね。ご飯も飲み物も、美味しい空気と一緒に身体の中に取り入れるから美味しいと感じる。それで、食もサウナもお風呂も眠ることも、いろんなことを外でできるようにして、外の空気と一緒に提案したいと考えています。
DAICHIで手掛ける建物の外観イメージ
── サウナも重要なコンテンツなのですね。DAICHIのサウナチームとして「ととのえ親方」松尾 大さんと、「サウナ師匠」秋山大輔さんが加わっています。
谷尻:サウナは僕たちにとって、今ではナシでは語れないものになっています(笑)。松尾さんと秋山さんはサウナのプロデュースを普段からされていますが、あくまでサウナに特化しています。でも僕らは全体の中にサウナがあることによって、部分と全体が相互にうまく共鳴し合う関係をつくりたいので、アドバイザーに入ってもらっています。
外は寒くても、サウナの後の外気浴は気持ちよかったりします。宿泊は冬がオフシーズンになりがちですが、サウナは冬がハイシーズン。むしろ寒い場所に出かけてもらい、プライベートで自然の中でサウナに入って食事をして宿泊する。もう、それ以上の豊かさはありませんよね。
木本:1年中泊まってもらわなくてもいい、という話はしていますね。季節によって体験が違うので、通常の宿泊施設のように、毎日予約を埋めることを考えていなくてもよいでしょうと。
谷尻:今までの宿泊施設では、いかに稼働率を高めるかと考えられてきました。初期投資が大きければ運用でも負担がかかって、どこかで歯車がギシギシと鳴ってしまうところがあったと思います。DAICHIの想定するところでは、1年のうち3分の1でも泊まってもらえれば十分なのではないかと考えています。
馬屋原:土地それぞれの気候があるので、そこに順応しながらですね。自然に逆らうというのは、僕らがやりたいこととは違うと思っています。
やはり「Nature Development」という大きなキーワードのもと、自然に逆らわないというところにしっかりと軸足を置いて、それぞれの得意な能力値を活かしながらネイチャーを体現できるチームになっていきたいというのが当面の目標です。
これから関わっていただけるクライアントも特別な想いをもっている方が多いと思うので、そうした想いを汲み取りながら、僕は全体をとりまとめながら下支えをしていきたいと思います。
(2021.02.02 DAICHIオフィスにて)