YKK APが提案する「未来をひらく窓」
2021年10月19日初掲、テキスト追加(YSLA Architcts寄稿)
東京ミッドタウンのガレリア B1アトリウムにて、特別展示「未来をひらく窓―Gaudí Meets 3D Printing」が、10月15日から11月3日まで開催されています。
本展は、国内外で活躍する建築家やデザイナーをはじめ、複数の大学研究室も参加している大規模な共創プロジェクトです(企画・主催:YKK AP)。また、都内ではこの時期恒例となっている、デザインとアートの祭典「Tokyo Midtown DESIGN TOUCH 2021」および「DESIGNART TOKYO 2021」参加イベントの1つでもあります。
『TECTURE MAG』では、「Tokyo Midtown DESIGN TOUCH 2021」の会期初日に開催された、プレスツアーに参加、会場を取材しました。主催者提供の画像を含め、本イベントのコンセプトや狙いなどについてお伝えします(特記なき会場風景は全て、TEAM TECTURE MAG 撮影)。
会場の吹き抜け上層から吊り下げられたテキスタイルバナーは、〈サグラダ・ファミリア〉の塔のデザインの原型であり、ガウディが逆さ吊り実験で得た曲線(フニクラ)を表現したオマージュ。
なお、窓外に見える芝生広場では、東京ミッドタウンのイベント「Tokyo Midtown DESIGN TOUCH 2021」の作品の1つ、noizによる〈unnamed-視点を変えて見るデザイン-〉が展示中です。
光溢れる吹き抜け空間に展示されているのは、従来の概念を打ち破るような、自由な造形の窓のプロトタイプ。今からおよそ100年前に建築家として活躍した、アントニ・ガウディ(Antoni Gaudi|1852-1926)の建築作品に見られる窓・開口部からインスパイアされた、3タイプの「未来をひらく窓」。そのいずれも、私たちがふだん見慣れている「窓」とはかたちを異にしています。
「窓」=「四角い」だけじゃない!
本展のクリエイティブディレクターを務める、プロダクトデザイナーの鈴木啓太氏(PRODUCT DESIGN CENTER代表)は、本展における「窓」について次のように語ります。
「窓(マド)と聞くと、大人も子どもも、漢字の田の字のような、四角いかたちを連想すると思います。でも実は、世の中には、もっと自由で素敵な窓がいっぱいあるのです。窓は近年、遮音とか遮光の面で高機能化していて、かたちも洗練されているけれども、そんな四角いばかりが窓じゃなくて、もっと自由で、可能性があることを、本展を通じて知ってほしい。」
鈴木啓太氏プロフィール:
プロダクトデザイナー、クリエイティブディレクター
1982年生まれ、多摩美術大学プロダクトデザイン専攻卒業。PRODUCT DESIGN CENTER代表。
古美術収集家の祖父の影響で、幼少より人が織りなす文化や歴史に興味を持つ。森林活用から都市環境、伝統工芸から3Dプリンティングなどのアディティブ・マニュファクチャリングまで、幅広い分野に精通。美意識と機能性を融合させたデザインで、国内外でプランニングからエンジニアリングまでを手掛ける。
主な受賞歴として、2008年「TOKYO MIDTOWN AWARD」受賞、2019年「相模鉄道20000系」が「ローレル賞2019」受賞、2020年「ELLE DECOR Young Japanese Design Talent」受賞など。2015-2017年グッドデザイン賞では最年少審査委員を務めた。
もしもガウディが現代の3Dプリンタ技術と出会ったら・・・?
「本展の準備にあたって、プロジェクトチームを組み、徹底的に窓のリサーチを行いました。」と鈴木氏。その1つが、自由で美しい造形のガウディ建築の窓でした。しかも、光や風や音といった外部環境、自然の要素を室内空間に巧みに取り込んでいたことがわかりました。
「ガウディの自由なデザインと共創の精神から着想を得て、光・音・風という自然環境と呼応した3つの窓をデザインしました。机上のアイデアにとどまらず、ガウディがもし現代の最先端技術である3Dプリンティングと出会ったら? という設定で、実際に出力してつくったプロトタイプを3タイプ、展示しています。これまでの価値観を打ち破る、現代にふさわしい、新しい窓の提案ができたと考えています。」
「太陽と月の窓 / Sun and Moon Window」
テーマは光。インスパイアされたのは、ガウディが〈コロニア・グエル教会〉の窓で採用した開閉機構。さらに、鈴木氏が初めて訪れたガウディ建築〈サグラダ・ファミリア〉で体験した、窓と太陽の光が織りなす美しい色彩のイメージからも着想を得ています。
この「太陽と月の窓」は、窓の中心に回転軸がデザインされ、地球儀のように窓を自由な角度に動かすことができます。窓の透過部は、太陽光に反応して色が変化。光の強さに応じて窓の色が濃く変化し、紫外線をカットします。
また木製の窓のフレームは、手仕事で木を彫刻的に加工していたガウディの時代へオマージュを捧げつつ、3Dデータをもとに最新の加工機で木を削り出しました。フレームを壁に固定する窓枠は3Dプリンタで製作しています。
太陽の上昇とともに色づき、太陽が沈むと透明に戻る窓。日中はステンドグラスのような美しい色彩の影が現れ、夜には繊細な月灯りを室内に取り込みます。
協賛・素材協力:MOLp® by 三井化学
協賛・制作協力:前田建設工業 ICI総合センター
音がテーマの「音の窓」
テーマは音。インスパイアされたのは、ガウディが〈サグラダ・ファミリア〉の塔で採用した、無数の孔が空いた窓による共鳴構造。
同大聖堂が完成した際には、内部に吊るされた鐘の音が重なり合うことで、建築全体が楽器のように音を奏でると伝えられています。
このセラミック製の「音の窓」は、ホーン型の断面形状によって、自然の音や動物の声を拾い、拡張し、屋内で楽しむことができます。音を遮断せず、取り込むことで、自然と人とのつながりを生み出します。
また、ガウディが、破砕したタイルの欠片を好んで使用していたことにちなんで、リサイクル・セラミックをビーズ状に均一精製した材料を、3D技術で出力した後に、陶芸家が色付けを行いました。ガウディの意匠と同じく、1点1点で異なる、焼き物ならではの表情も楽しめます。
協賛・制作協力:AGCセラミックス
施釉:山田隆太郎
「風が巡る窓 / Air Window」
テーマは風。インスパイアされたのは、ガウディが〈カサ・バトリョ〉で採用した換気機能。
この「風が巡る窓」は、蝶の羽根を模した複雑なメッシュが織りなすジャイロイド構造を用いて、常時換気を可能にしました。
3Dプリントでフレームの内部をストローのようにデザインし、温水や冷水を流し込むことで、室内に取り入れる空気の温度を調節。分離した2つの流路により、寒い日は室温を下げずに、暑い日は室温を上げずに換気と熱交換を両立させています。設置環境や用途に応じて、粗密の設計を自在にカスタマイズできる点もポイントです。
始まりは孔だったという窓の原点に戻り、開口部の壁とメッシュをつなげることで「壁と窓の中間の存在」を目指しました。
構造設計:Nature Architects株式会社
時代を先取りしていたガウディ
昨年来からの新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大の影響で、オフィスや住宅では、換気がとても重要視されています。奇しくも、ガウディが生きた約100年前にも、感染症(スペイン風邪)の世界的流行がありました。
〈カサ・バトリョ〉と〈カサ・ミラ〉は、スペイン風邪が猛威をふるう10年ほど前の竣工ながら、すでにガウディは24時間換気ができる窓をデザインしていたとのこと。
「音の窓」では、窓枠の素材として通常は使わない、やきもの(セラミック)を採用。その理由と製作の裏側について、鈴木氏は次のように説明してくれました。
「造形は3D出力ですが、仕上げは職人が手作業で釉薬をかけて焼き上げています。最先端技術と、普遍的な工芸技術が融合したものです。釉薬独特の風合いやツヤ感のほか、経年変化でエイジングしていく過程も美しいと思う。すがたかたちだけでなく、近年の窓は、住宅建材として遮音や遮光性能といったことが重要視され、ユーザーもそれを期待する傾向にある。でも、窓から差し込む光や風は本来、心地よいものです。未来の窓として、自然との融合をテーマに、3つのプロトタイプをデザインしました。」
スペシャル映像コンテンツも多数公開中
プロジェクトの経緯や、3つの窓のプロトライプの特徴は、YKK APのYouTube公式チャンネルにて、会期初日に公開された共創プロセス映像にて、鈴木氏自身の言葉で説明されています(会場内モニターでも上映あり)。
さらに、本展の映像コンテンツとして、5組の建築家にもインタビューを行なっています。
YKK AP YouTube公式チャンネル
#YKK AP #windowonthefuture #未来をひらく窓
https://www.youtube.com/hashtag/windowonthefuture
②WINDOW ON THE FUTURE 建築家インタビュー 藤本壮介 Architects Interview: Sou FUJIMOTO(2021/09/14)
④WINDOW ON THE FUTURE 建築家インタビュー 秋吉浩気(VUILD)Architects Interview: Hiroki AKIYOSHI / VUILD(2021/09/14)
建築を構成する要素の1つである「窓」は、空間の雰囲気をガラリと変える力も持っています。3D技術が今後、さらに進歩していくことで、いずれ可能となるかもしれない「未来の窓」について、隈 研吾、藤本壮介、大西麻貴(o+h)、秋吉浩気(VUILD代表)、クライン ダイサム アーキテクツ(Klein Dytham architecture)のアストリッド・クライン(Astrid Klein)の5氏が語っています(全編をYouTubeにて公開中、会場ではダイジェストを上映)。彼らがフリーハンドで自由に描く「未来の窓」と、建築家ならではの展望も必見です。
#YKK AP YouTube公式チャンネル「WINDOW ON THE FUTURE―Gaudí Meets 3D Printing (Process Movie) 未来をひらく窓 プロセス映像」(2021/10/15)
鈴木啓太氏からのメッセージ:
僕にとってガウディの窓とは、音、風、そして光。初めてバルセロナで彼の建築を見た時、あの自由な造形がいかに現地の自然環境や人々の生活に馴染んでいるか、とても驚きワクワクしたのを覚えています。本プロジェクトの話をいただき、いちばんに考えたのも、ただおもしろいかたちの窓をつくるのではなく、いかに窓が私たちの豊かな生活に貢献できるかという視点でした。
暮らしに結びついてこそ、窓の可能性は開かれると思ったのです。3Dプリンタという技術を手にした今、プロダクトの歴史は大きく変わっていくでしょう。近代化の名のもとに失われてしまった、ガウディ建築に代表される職人たちの手仕事や、人や空間にあわせたカスタマイゼーション。最新技術によりそれらが再び脚光を浴び、さらに持続可能性などの問題を解消しながら、これからの暮らしに貢献できると確信しています。
最先端の研究を行う、ほかの業種の企業やイノベーターとの対話を通してつくられる、私たちの生活を支え、彩り、豊かにする窓の未来にご期待ください。
本展クリエイター・プロフィール
村上雅士(emuni)
アートディレクター・グラフィックデザイナー。本展ではグラフィックデザインを担当。
1982年生まれ。東京藝術大学大学院修了。2012年に村上高士とデザインスタジオ・emuni(エムニ)を設立、同代表を務める。
グラフィックを基軸にブランディングなどのデザインを手掛ける。タイポグラフィを主体としたアートワークによる展覧会なども精力的に行う。
主な仕事にキリンレモンリブランディング、東京芸術祭アートディレクション。主な受賞歴に、東京TDC賞、JAGDA新人賞、NY ADC 賞、ONE SHOW、D&AD賞など、国内外で多数。東京藝術大学非常勤講師。
https://www.emuni.co.jp/about山村 健+ナタリア・サンツ・ラヴィーニャ(YSLA YamamuraSanzLaviña Architects)
事務所名称は、Yamamura Sanz Laviña Architectsの略。住宅、別荘、ホテルなどの設計や、空間体験を重視した展覧会の空間設計を手がける。
「DESIGNART TOKYO 2019」に、YSLA architectsと早稲田大学建築学科山村健研究室が共同で会場をデザインした〈エデンの園 / Garden of Eden〉で、Big Emotions Award受賞。
https://www.yamamurasanzlavina.com/biography山村 健
建築家、博士(建築学)。
1984年生まれ。早稲田大学創造理工学研究科建築学専攻博士後期課程修了。ミニク・ペロー・アルシテクチュール(Dominiqe Perrault Architecture)勤務を経て、2016年にナタリア・サンツ・ラヴィーニャとYSLA Architectsを設立、共同主宰。東京工芸大学准教授。ナタリア・サンツ・ラヴィーニャ(Natalia Sanz Laviña)
建築家。
1982年バレンシア生まれ。バルセロナ建築大学修了。隈研吾建築都市設計事務所勤務を経て、2016年に山村 健とYSLA Architectsを設立、共同主宰。中央大学理工学部非常勤講師(環境デザイン担当)。
空間デザインについて
YSLA Architcts(山村健+ナタリア・サンツ・ラヴィーニャ)からのメッセージ
ガウディの背景に潜む様々な要素を、床材や植栽ならびにテキスタイルで表現しています。
ガウディの原点を表す銅色カーペット
「自分に空間把握能力があるのは、2次元の板を3次元の物へと変化させる銅板器具職人としての力により、それは代々培われてきたものだ」とガウディ自身が述べていることから、オマージュとして床材に銅色カーペットを用いました。空間を見下ろした時、自由な形状に広がった一枚の銅板として楽しんでもらおうと考えました。地中海都市バルセロナに生息する植栽
3つの窓のランドスケープにはオリーブやローズマリー、ラベンターといった地中海都市バルセロナで生息する植栽たちで彩りました。
風が巡る窓では、ススキが軽やかな風の動きを表し、窓の特徴を引き立てる役割を担っています。重力のカタチみせるテキスタイル
本展では、目に見えない自然の要素に形態を与えるデザインに長けていたガウディの眼差しに着目しています。
ガウディが晩年にコロニア・グエル教会ではじめた逆さ吊り実験は、目に見えない自然の力=重力をカタチにしたものです。
展示空間では、重力を可視化した懸垂曲線のかたちをテキスタイルによって表現しました。
<!--会場の空間デザインについて-->
「未来をひらく窓―Gaudí Meets 3D Printing」開催概要
会期:2021年10月15日(金)~11月3日(水・祝)
時間:11:00-21:00(会場の休業・営業時間短縮は東京ミッドタウンに準じる)
会場:東京ミッドタウン ガレリア B1 アトリウム
所在地:東京都港区赤坂9丁目7-1(Google Map)
入場料:無料(予約不要)
クリエイティブディレクション:鈴木啓太(PRODUCT DESIGN CENTER)
学術監修:山村 健(東京工芸大学准教授)
学術協力:東京工芸大学山村健研究室、早稲田大学石田航星研究室、田中浩也(慶應義義塾大学教授)
プロダクトデザイン:PRODUCT DESIGN CENTER
グラフィックデザイン:村上雅士(emuni)
空間デザイン:山村 健+ナタリア・サンツ・ラヴィーニャ(Natalia Sanz Laviña / YSLA Architects)
「風が巡る窓」構造設計:Nature Architects
企画アドバイス:ダニエル・ギラルト・ミラクル(Daniel Giralt-Miracle)
特別協力:カサ・バトリョ、カサ・ミラ、カサ・ビセンス、グエル邸、グエル公園―バルセロナ市・バルセロナ市歴史博物館
後援:スペイン大使館
協賛:前田建設工業ICI総合センター、MOLp® by 三井化学、AGCセラミックス
主催・企画:YKK AP
YKK APプレスリリース(2021年9月14日)
https://www.ykkap.co.jp/company/info/news/20210914
「未来をひらく窓―Gaudí Meets 3D Printing」特設サイト
https://www.ykkap.co.jp/consumer/satellite/sp/window-future/
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