「BeCAT」とは?
いま最も注目される、九州大学大学院における、建築と都市に関わる研究・教育センター、九州大学大学院の「BeCAT」の取り組みを特集します。
BeCATは、建築と都市の専門家が、これからの都市・建築のあり方を研究し、リサーチに基づく成果やそれぞれの経験を、いろいろなかたちで社会に還元していくことを目的に、2021年4月にオープンしました。
これに先立つ2020年度の冬季に、ウィンタースクールをキックオフとして実施しています。
同大学の3つの建築系研究院(人間環境学研究院、総合理工学研究院、芸術工学研究院)が共同で設立したもので、「環境」をテーマに、デザインとエンジニアリングの両面を掛けあわせ、社会実装を目指した実践的な教育を行っているのが最大の特色です。
センター長は建築家・重松象平氏
BeCATは、九州大学で長らく建築教育に携わってきた建築家の末廣香織氏が、設立に大きく関与しています。
末廣氏は「当時から目立った学生だったし、海外留学は進めたけれども、こんなに国際的に活躍するようになるとは思ってもみなかった」と当時を振り返る、同大学での教え子の一人で、建築家の重松象平氏に参画を呼びかけます。リサーチやデータを元に論理を組み立て、建築作品に具現化する手法で知られる、オランダの建築家、レム・コールハースの事務所・OMAのパートナーで、OMAニューヨーク事務所代表を務める重松氏は、自身の体験を日本で還元したいという思いなどから、センター長就任を受諾。
さらに末廣氏は、環境問題が今ほど注目されていない時代から、環境を重視した建築に取り組み、実績を重ねてきた末光をデザインラボ長として招聘し、この3氏を中心メンバーとして、これまでさまざまな活動を行なってきました。
重松象平プロフィール
建築家、OMAパートナー・OMAニューヨーク事務所代表。
1973年福岡県生まれ。九州大学工学部建築学科卒業後、1998年よりOMA に所属、2008年にパートナー就任。ハーバート大学GSD, コロンビア大学GSAPP などで客員教授を歴任。2021年より九州大学大学院特任教授。末廣香織プロフィール
建築家、NKS2アーキテクツ共同主宰。
1961年大分県生まれ。1986年九州大学大学院修士課程修了。1994年ベルラーヘ・インスティテュート建築学大学院修了。1993年ヘルマン・ヘルツベルハー建築設計事務所。1994-98年九州大学工学部建築学科助手。1998年に末廣宣子とNKS アーキテクツを設立、共同主宰 2005年より九州大学大学院准教授。末光弘和プロフィール
建築家、SUEP.共同主宰。
1976年愛媛県生まれ。1999年東京大学卒業。2001年東京大学大学院修了後、2001-06年伊東豊雄建築設計事務所。2007年より末光陽子とSUEP.を共同主宰。
2009-11年横浜国立大学大学院Y-GSA設計助手。2020年より九州大学大学院准教授。
BeCATメンバー
センター長:重松象平
副センター長:末廣香織
デザインラボ長:末光弘和
設計助手:中原拓海(中原拓海建築設計事務所)
協力教員:岩元真明(九州大学大学院准教授 芸術工学研究院)
ゲスト教員:平瀬有人(yHa architects)、百枝 優(百枝優建築設計事務所)、遠藤幹子、大庭早子(大庭早子建築設計事務所)
環境エンジニア:小原克哉(九州大学大学院准教授 / BAUES共同主宰)
ブランドマネージャー:サーズ恵美子(Fukuoka Now ゼネラルマネージャー / 福岡建築ファウンデーション理事)
インキュベーションアドバイザー:山根脩平(tecture 代表取締役CEO)
BeCAT設立の背景
地球温暖化や大規模な自然災害が頻発する現在、持続可能な世界を実現するために、都市・建築においても、地球環境への配慮が欠かせなくなってきています。
古来より大陸との結びつきが深い福岡を拠点とするBeCATでは、気候的にもアジアに近い九州を、「環境」から建築を考えた場合のアジアにおけるプロトタイプになりうると考えています。
重松、末廣、末光の各氏が担当するスタジオ教育では、エネルギー、災害、素材、観光、生態系など、九州地域における環境のテーマを複数設定。テーマごとに1年にわたってリサーチし、データを抽出して、環境問題を解決する建築のマスタープランを学生とゲストとともに考察します。
活動の様子を写した写真からもうかがい知れるように、「環境」の視点から、新しい都市・建築のあり方を問う建築・デザイン教育をさまざまに実践し、公式サイト上で世界に向けて発信しているのが、BeCATです。
広く門戸を開いた教育
「BeCAT」では、外部からも教育スタッフを招くこともしばしば。
2020年春季に開催したスプリングスクールと、今夏のサマースクールでは、東京に活動拠点を構える、建築家の長坂 常氏(スキーマ建築計画代表)、永山祐子氏(永山祐子建築設計代表)を招いて、それぞれレクチャーを開催。参加資格を自校の学生に限定せず、トークの模様はオンラインでも公開されました。
地元企業とも連携
BeCATでは、地元の企業や自治体とも連携したプロジェクトに取り組んでいるのも特徴です。
2021年前期デザインスタジオでは、JR九州住宅との産学連携で、「糸島の環境住宅」をテーマに実際に建てることを前提とした課題が出されました。学生たちは環境シミュレーションを用いて、日射や室内の空気の流れなどを解析。リサーチに基づいた実践的な提案を行っています。
今夏の「BeCAT Summer School 2021」では、デザインワークショップを開催。食や資源の循環、食を通したサステナブルな地域づくりをテーマに掲げ、明治2年創業の糸島の造り酒屋の酒蔵を地域の施設へと改修するコンバージョン案を、参加学生から募りました。
こちらも、サイトを提供した濱地酒造と、杉能舎との連携プロジェクトです。
どちらの課題も、クライアントや投資家たちの前で、学生たちはプレゼンテーション行い、提案内容に投資価値があるかどうかという厳しいジャッジも受けています。
両プロジェクトとも、最優秀案は2022年春に完成する予定です。
最終目標は社会実装
学生たちは自分たちの手を動かし、現地にも赴いたリサーチを行い、データに基づいて、課題をこなします。この間、エンジニア系の教員を含めた指導を受けつつ、設計・デザインをブラッシュアップしていきます。
それらのデータの蓄積が、アジア・オセアニア地域の環境建築のプロトタイプとなること、さらには、机上の理論や模型で終わることなく、社会に実装され、人々に利用されるまでを最終目標としています。
上記の実践教育と今後の展望について、BeCATを率いる3人の建築家、重松象平、末廣香織、末光弘和の3氏が鼎談を行い、その内容がテキストに要約され、BeCATの公式Webサイトで公開されています。
鼎談の要約(BeCAT Webサイト)
https://becat.kyushu-u.ac.jp/archives/2108
話題のビルでの鼎談動画をTECTUREチャンネルで公開!
『TECTURE MAG』では、約45分におよんだ鼎談を収録した動画データを、BeCATからの提供を受けて編集、TECTUREのYouTube公式チャンネルで公開します。
鼎談会場は、OMA NYの代表を務める重松氏が建築をデザインして、2021年9月末に竣工した、話題の大型施設〈天神ビジネスセンター〉。
重松氏曰く、「建物をヒューマンスケールに分解する3次元のピクセル」が、最も特徴的にデザインされている、同ビルのコーナーに設けられた、オフィスフロアのミーティングコーナーにて。天神のまちを背景に、3氏がBeCATについて語り尽くします。
鼎談インタビュー動画
# TECTURE YouTubeチャンネル【鼎談インタビュー】「九州大学大学院 建築×エンジニア スタジオ型設計教育・BeCATが目指すもの」
出演:重松象平、末廣香織、末光弘和
今、最も注目される、福岡発・アジアへ向けた新しい建築教育の現場の熱をお届け!
鼎談動画INDEX:
冒頭 BeCATとは
01:55 自分の体験を日本で還元したい
03:55 BeCATがフィーチャーしていく「環境」とは
09:05 ビッグデータとリンクすることで拡がる可能性
11:49 九州という視点とポテンシャル
12:43 九州発の新しい都市像を提示する
16:15 社会実装について
22:32 BeCAT今後の展望
収録日:2021年10月(天神ビジネスセンターにて)
撮影・データ提供:BeCAT
編集:TECTURE MAG+toha