前年の建築からベスト1を選ぶ「みんなの建築大賞」。その1年間に竣工・オープンした建築作品がノミネート対象となりますが、次回2026年のノミネート作品には、大阪・関西万博のパビリオン、共用施設、トイレ、休憩所、広場なども対象となります!
そこでTECTURE MAGでは、万博会場を訪れた「みんなの建築大賞」推薦委員が選んだ「大阪・関西万博のベスト3」を紹介します。
推薦委員が選ぶ!「私の大阪・関西万博ベスト3」
有岡三恵(編集者、Studio SETO)
大屋根リング/Dialogue Theater/null²五十嵐太郎(委員長・建築史家、東北大学教授)
大屋根リング/Better Co-Being/トイレ5(米澤 隆)磯 達雄(建築ジャーナリスト)
null²/ウズベキスタンパビリオン/アラブ首長国連邦館加藤 純(編集者、TECTURE MAG)
null²/バーレーンパビリオン/サウジアラビアパビリオン倉方俊輔(建築史家、大阪公立大学教授)
ポルトガルパビリオン/EXPOホール/ランドスケープ櫻井ちるど(編集者、建築画報)
大屋根リング/静けさの森/ポップアップステージ(西)介川亜紀(編集者)
トイレ8(斎藤信吾+Mumu Tashiro)/トイレ5(米澤 隆)/休憩所4(MIDW+Niimori Jamison)平塚 桂(編集者、ぽむ企画)
null²/休憩所1(o+h)/休憩所4(MIDW+Niimori Jamison)宮沢 洋(画文家、BUNGA NET編集長)
住友館/Better Co-Being/大屋根リング森 清(編集者、BUNGA NETプロデューサー)
ウズベキスタンパビリオン/Dialogue Theater/大屋根リングロンロ・ボナペティ(建築ライター、編集者)
大屋根リング/いのちパークミスト/トイレ5(米澤 隆)和田菜穂子(建築史家、東京家政大学准教授)
ブルーオーシャン・ドーム/休憩所1(o+h)/スイスパビリオン
推薦委員の推しパビリオン・施設を、写真とコメントとともに紹介!
〈大屋根リング〉
基本設計・実施設計・工事監理:藤本壮介
基本設計: 東畑・梓設計共同企業体
【推薦委員のコメント】
▶万博という人類の諸行をゆったりと俯瞰しているかのような佇まいが圧巻。屋上の植物が公園のような空気感を助長している。国内ゼネコンの技術を結集した貫構造も壮大だ。(有岡三恵)
▶圧倒的な存在感と象徴性。これまでにない視点場を提供する。開幕時は体感しなかったが、7月に訪れたら、海からの風が抜け、日陰をつくることで、リングの下が本当に涼しい。夏になって本領を発揮した。(五十嵐太郎)
▶世界最大級の木造建築としてギネスにも登録された話題のリング。その上を草花の景色を楽しみながら風にあたって流れる音楽とともにゆったり歩く気持ちよさに心を奪われた。全長2kmを歩きながら夜景に変わる夕暮れ時の散歩がおすすめ。(櫻井ちるど)
▶会場を訪れた7月半ばの午前、降雨のうえ、雷雲も近づき、屋上に出るのは禁止。そんな中で本領を発揮したのは大屋根下の回廊。象徴性もさることながら、約2kmのこの空間の機能性と歩く楽しさを実感した。(森 清)
▶開幕前のメディアデーで見たときには「本当に人がここを歩くの?」と思った。が、予想は外れ、みな歩く歩く(暑いのに…)。西洋型の広場が苦手な日本人の特性を見抜いた“長く続く広場”。(宮沢 洋)
▶建築を学び始めて15年、やっと誰とでも話が共有できる国民的建築が生まれた。やったぁ!本来何の取っ掛かりもない更地全体に展開されたシンプルな架構が、既存風景として効いている。(ロンロ・ボナペティ)
[大阪・関西万博Reoort]世界最大の木造建築、全周約2kmの大屋根リングからレポートするExpo 2025の見どころ
〈null²(ヌルヌル)〉
テーマ事業プロデューサー:落合陽一
建築デザイン:NOIZ
【推薦委員のコメント】
▶建築の表面がヌルヌルと動くというのにとにかく驚いた。どのような機構で動き、どのような素材なのか、と想像する楽しさがある。(有岡三恵)
▶膜材の鏡面を歪ませたり振動させたりすることで、見る者の現実感を揺るがす。これまでにない建築の質感を実現。中に入らなくても、ある程度は楽しめるという点で、来場者に対する貢献度も高い。(磯 達雄)
▶鏡面の大小のボクセル集合体は風や重低音に応じて絶えずヌルヌルと動き、周囲の景色や円形のLEDパネル映像を歪ませる。人間とAI、自然とデジタルの融合する世界を体現した、新たな生命体。(加藤 純)
▶「建築に対する情報技術の実装」を圧倒的説得力で実現。ロボットアーム16台と大量のウーファーで音と風に連動しミラー膜が振動。建物が常に「唸って」いて通りすがりの人を驚かすのも万博的。(平塚 桂)
〈トイレ5〉
設計:米澤隆建築設計事務所(米澤 隆)
【推薦委員のコメント】
▶2億円トイレと呼ばれ、激しく炎上。本来は万博の広報が対応すべき案件なのに、設計者が自ら誤った情報に対し、説明を継続する姿勢に一票。結果的に、SNSの時代における万博で知名度を獲得した建築である。(五十嵐太郎)
▶積み木のような形状とカラフルな色調は万博の多様性、楽しさを端的に感じさせる。個室がリズミカルにレイアウトされる一方、利用者が顔をあわせないようにドア方向を調整するなどの細やかな配慮も。閉会後はユニット単位に解体・再利用予定とのこと。会場で筆者が来場者数名に「印象に残ったトイレはどれか」聞いたところ、全員が〈トイレ5〉との回答。(介川亜紀)
▶過熱したSNSでの批判コメントに真摯に応え続ける設計者の姿勢が多くの人の心を打ち、ファンを盛り立てるムーブメントを起こしている。「挑戦」する人たちへの愚直なエール。(ロンロ・ボナペティ)
〈Better Co-Being〉
テーマ事業プロデューサー:宮田裕章
設計:SANAA
【推薦委員のコメント】
▶樹木越しに外から眺めるとわかりにくいが、エリアに入ると、想像以上に大きいことに気づく。空中に浮かぶ、軽やかな立体格子の下に植栽がある風景から、万博の起源であるクリスタル・パレスを思いだした。(五十嵐太郎)
▶パビリオンなのに屋外、しかも繊細さで勝負するデザイン。丘の上に立って振り返ったときの光景に息をのんだ(ただし天気次第かも)。世界のSANAAの面目躍如。大御所なのに一番攻めている。(宮沢 洋)
〈Dialogue Theater – いのちのあかし – 〉
テーマ事業プロデューサー:河瀨直美
建築設計:SUO(周防貴之)
【推薦委員のコメント】
▶奈良県と京都で廃校になった木造校舎を移築。ピカピカの新築パビリオンに囲まれて一際目立つ世界観を放っている。シアターの演目も必見。(有岡三恵)
▶廃校となった木造校舎3棟を移築して丁寧に組み上げた。鉄骨などを挿入して新旧を融合させた設計は巧み。SUOが高松市屋島で手掛けた「れいがん茶屋」を思い起こさせる。見学日、映画作家の河瀨直美氏が、対話シアター棟で自ら対話に臨んだのには感動。(森 清)
〈ウズベキスタンパビリオン〉
コンセプト・デザイン:アトリエ ブルックナー(ATELIER BRÜCKNER)
設計・監理:徳岡設計
【推薦委員のコメント】
▶イスラムの幾何学パターンのように組まれた木材で、ナショナリティを表現。地下世界をイメージした内部展示室から、屋上の森へと至る展示の流れが、来場者にドラマチックな体験をもたらす。(磯 達雄)
▶大屋根リングと呼応するかのように、屋上テラスで細やかなリズムを刻む独自の木造架構。コンパクトながら素材にこだわりのあるパビリオンだ。建材は日本産の自然材だが、解体後は自国で再構築する予定だというのも注目される。(森 清)
〈休憩所1〉
設計:大西麻貴+百田有希/o+h
【推薦委員のコメント】
▶遊び場を内包したインクルーシブな休憩所。約40種のデッドストック生地をグラデーションになるよう手作業で取り付けたという膜屋根は、仮設だからこそ。風で揺れ光が透けとてもきれい。(平塚 桂)
▶風にたなびくパオのような大屋根が特徴。赤、オレンジ、黄色など太陽を思わせる色合いが目を惹き、めくれ上がっている部分から内部に入ると、子どもたちが元気に中央の広場で走り回っている。その周りをトイレが取り囲んでおり、数も多く、それほど混雑していない。(和田菜穂子)
〈休憩所4〉
設計:MIDW+Niimori Jamison
【推薦委員のコメント】
▶「静けさの森」に隣接、祈祷室も併設。敷地を掘削してつくられた緩やかな丘陵・ランドスケープとトイレ建物、周囲の木々が一体化している。丘陵付近でゆっくりと仲間を待つ姿も様になる。(介川亜紀)
▶敷地条件から形と工法を開発し、前衛的かつ子どもが遊びたくなる空間を生み出している。地盤が弱く建物重量分の土を廃棄すべしという条件を逆算し敷地を造成し、地形を型枠として鉄筋の屋根を成形。(平塚 桂)
〈UAEパビリオン〉
設計:Earth to Ether Design Collective
【推薦委員のコメント】
▶UAEの伝統住居で材料に用いられるナツメヤシの木。その葉軸を束ねて、90本の柱を内部に林立させている。ファサードの飾りではなく、構造体の材料で地域性を表現しようとしたところを評価したい。(磯 達雄)
〈サウジアラビアパビリオン〉
設計:フォスター アンド パートナーズ(Foster+Partners)
【推薦委員のコメント】
▶背の高い建物が並ぶ、集落のような館。曲がりくねった路地を通り、庭から入る室内では国のリッチなPRが展開する。吹き抜ける風、差し込む光と影とともに、内外を行き来する体験は唯一無二のもの。(加藤 純)
〈スイスパビリオン〉
設計:マヌエル・ヘルツ建築事務所
【推薦委員のコメント】
▶空気圧構造の4つの球体が重なる特徴的な外観。軽量な素材でできており、万博終了後の再利用も検討している。内部空間はシャボン玉が飛び交う幻想的な展示からスタートし、AIを使ったコンテンツやインタラクティブな体験型の展示が楽しい。アルプスの少女ハイジにちなんだカフェが人気となっている。(和田菜穂子)
〈バーレーンパビリオン〉
設計:リナ・ゴットメ(Lina Ghotmeh – Architecture)
【推薦委員のコメント】
▶バーレーン王国の造船技術と日本の木工技術を再解釈し、長さ4mの無垢の木材を組んで船をイメージした建物を構築。柔らかな光に包まれるアトリウムや風が抜けていく館内の空間体験も心地よい。(加藤 純)
〈ポルトガルパビリオン〉
設計:隈研吾建築都市設計事務所
【推薦委員のコメント】
▶今回最多の4パビリオンを手がけた力量がありありと。安い素材で、写真映え、大衆つかんで、施主笑顔。みんな登るので、だらりと垂れ下がっていたロープが、会期前半に切り揃えられちゃったのが残念。(倉方俊輔)
〈住友館〉
基本設計:電通ライブ+日建設計、実施設計:電通ライブ+三井住友建設
【推薦委員のコメント】
▶東ゲートの目の前にあり、万博全体の施工品質の高さを印象づける。複雑な曲面に見えるが、合板を現場で曲げた双曲放物面。箱になりそうにプログラムに優美さを与える技ありデザイン。(宮沢 洋)
〈ブルーオーシャン・ドーム〉
設計:坂茂建築設計
【推薦委員のコメント】
▶2000年ドイツハノーバー万博で紙管を使ってサステナビリティを提示した坂茂は、今回の万博でも紙管、竹、CFRPを躯体にして、3つのドーム型パビリオンを設計。最初のドームAでは水滴が転がり、水の循環を示したインスタレーションが見もの。リサイクルに配慮したドーム設計は「海の蘇生」のテーマと合致している。(和田菜穂子)
〈EXPOホール〉
基本設計・監修:伊東豊雄建築設計事務所
【推薦委員のコメント】
▶上部の円盤に白い胴体が映り込み、まるで基幹施設プロデューサーを打破した「太陽の塔」のよう。一発芸のような作風で、われわれを抑圧する「建築」に常に抗ってきた伊東豊雄の健在ぶりを明示。(倉方俊輔)
〈静けさの森〉
企画・監修・共同キュレーション:宮田裕章
会場デザインプロデューサー・企画・監修:藤本壮介
【推薦委員のコメント】
▶大阪府内の公園から移植された約1,500本の多様な樹木で構成された万博会場中央に位置する森。揺れる木漏れ日の中、虫の音色と共にまるで万博会場にいることを忘れるほどの静かな時間を過ごすことができる。(櫻井ちるど)
〈ポップアップステージ(西)〉
設計:三井嶺建築設計事務所
【推薦委員のコメント】
▶1.7kgの松の丸太をボランティア参加者で建て起こす。万博という「祭り」を一緒につくり「参加すること」を重要視した三井氏の想いにより屋根の松葉の葺替えもワークショップで行われた。万博会場を一緒に施工できる他に類を見ない建築である。(櫻井ちるど)
〈トイレ8〉
設計:斎藤信吾建築設計事務所+Ateliers Mumu Tashiro
【推薦委員のコメント】
▶男子、女子、オールジェンダー3種のトイレが、矩形と多角形を混在させた一群の適所にレイアウトされている。群の形状のユニークさを保ちつつ3種のトイレをうまくゾーニングし、プライバシーを担保している点が見事。(介川亜紀)
〈いのちパーク ミスト〉
【推薦委員のコメント】
▶単純に「わが街にもはよ!」と思ったデザイン1位。災害級の暑さの中、それでも避けられない屋外活動をいかにして継続するのか、もっといろんな都市インフラへの提案を万博では見たかった。(ロンロ・ボナペティ)
〈ランドスケープ〉
ランドスケープデザインディレクター:忽那裕樹
【推薦委員のコメント】
▶〈静けさの森〉にアートやプロダクトを配置。それが会場全体が散らばったようにして、歩いて楽しい万博に変えた。豊かであるとはこういうこと。〈大屋根リング〉と並ぶ、今回の万博の個性の立役者と見た。(倉方俊輔)
一般参加型の新たなアワード「みんなの建築大賞」とは?
建築文化を人々に伝える役割を果たしている建築雑誌やメディアの編集者やライター、建築史家らによる「みんなの建築大賞」推薦委員(委員長:五十嵐太郎氏)で構成される会議での討議を経て、過去1年間に竣工・オープンした建築作品の中から、10作品を「この建築がすごいベスト10」としてノミネート。
大賞はノミネートされた10作品のなかから、「X」「Instagram」「Googleフォーム」の3つの一般投票で、最も多くの票(3メディアの合計)を獲得した建築に与えられる。
2025年の大賞は、伊東豊雄建築設計事務所・竹中工務店JVによる〈茨木市文化・子育て複合施設 おにクル〉。
トップ写真撮影:TEAM TECTURE MAG
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