[Report]建築情報学会「AIS大阪・関西万博ツアー」 - TECTURE MAG(テクチャーマガジン) | 空間デザイン・建築メディア
FEATURE
ARCHITECTURAL INFORMATICS SOCIETY
EXPO2025 TOUR
FEATURE

建築情報学会(AIS)主催「AIS大阪・関西万博ツアー」

[Report]パビリオン・施設の担当者による解説と対話

建築情報学会(AIS / 会長:池田靖史・東京大学特任教授)が、7月3~5日の3日間、建築情報学的目線で万博会場内の建築を視察し、議論を行うイベントとして「大阪・関西万博ツアー」を開催しました。

AIS 交流活動委員会による今回のツアーでは、ピックアップされた13のパビリオン、施設、休憩所・トイレなどを設計した若手建築家や、コンピュテーショナルデザイン・BIMなどを活用したパビリオンの設計・施工の技術支援を行ったエンジニアから、直接解説を聞くことができる貴重な機会となりました。

企画主旨 ~プロセスや意図に関わるストーリーを聞き、学術的に対話する~

万博における建築は単なる容れ物ではなく、技術・思想・社会性が交差する実験場です。限られた工期や予算、国際調整や環境配慮といった制約の中で、建築家・エンジニア・施工者の知恵が凝縮され「建築の今」が現れます。

今回のツアーでは、建築情報学的に注目すべき技術や実践をもつ建築を厳選し、設計者や技術者の声を現地で直接聞きながら体験します。図面や論文では伝わらない素材感やスケール感、さらにはプロセスのストーリーを参加者同士で議論することができます。

3DプリンタやCNCによる施工、コンピュテーショナルデザインやBIM活用、環境・文化への応答など、多様な挑戦が背景にあります。本ツアーは、建築が未来に向けてどこへ進むのか、情報がどう関与するのかをリアルに感じ取る意義深い機会となりました。(大阪・関西万博ツアー運営:竹内一生)


各パビリオン・施設において、担当者によって解説された内容を要約して紹介します。

〈大屋根リング〉

万博会場の中心に位置する大規模構造物。敷地の高低差やユニット配置に応じた複雑形状を、BIMで設計から製作・施工・マネジメントまで一元管理。全国の製作工場と現場を3Dモデルでオンライン連携し、施工シミュレーションや進捗管理を実施。複雑な部材形状はデジタルファブリケーションで加工し、高い精度と生産性とを両立させた。

全体設計・監修:藤本壮介建築設計事務所
実施設計・施工・監理(西工区):竹中工務店・南海辰村建設・竹中土木共同企業体・昭和設計
解説:林 瑞樹、池本祥子(竹中工務店)
大屋根リング

[大阪・関西万博Reoort]世界最大の木造建築、全周約2kmの大屋根リングからレポートするExpo 2025の見どころ


シグネチャーパビリオン〈null²〉(ヌルヌル)

外装はボクセル構造を基盤に鏡面素材で覆い、周囲の景観を映し込む。内部にはアクチュエーターを組み込み、膜面を動かすことで建築が環境や人の動きに呼応する仕組みを実装。Grasshopperで形状シミュレーションと制御システムを連動させ、静的な構造物をデータ駆動の動的存在へと転換した先進的事例である。

基本設計:NOIZ
プロデューサー:落合陽一
解説:豊田啓介(NOIZ)
null2

[大阪・関西万博]シグネチャーパビリオン紹介_落合陽一氏


〈飯田グループ×大阪公立大学共同出展館〉

西陣織の膜と鉄骨構造によるねじれ形状をBIMで設計。曲面に伝統模様を正確に反映させるため、プロジェクションマッピングで柄を投影し裁断データを生成。意匠と構造をデジタルで往復し、伝統工芸と最新技術を融合。曲面と平面を横断する複雑な設計・製作プロセスを実現した。

設計:高松伸建築設計事務所
解説:平郡竜志(太陽工業)
飯田グループ×大阪公立大学共同出展館

[大阪・関西万博]海外パビリオン紹介_飯田グループ×大阪公立大学共同出展館


〈パナソニックグループパビリオン「ノモの国」〉

2,800本・133種類の異形パイプを3次元ベンダーで加工し、パラメトリックモデリングにより設計と製造を直結。部材の加工データの精度調整を行うプログラムと連携することで製作精度±10mmを達成。高度な加工精度とデジタル設計連携により、大規模かつ高密度なファサード構造を効率的に構築した。

設計:永山祐子建築設計、大林組
解説:美村祥臣(三和ファサード・ラボ)
パナソニックパビリオンノモの国

[大阪・関西万博]国内パビリオン紹介_パナソニックグループパビリオン ノモの国


〈ウーマンズ パビリオン in collaboration with Cartier〉

ドバイ万博で使用されたファサードを再利用。敷地条件の変更に対応するため、RhinocerosとGrasshopperで部材配置を再設計。施工時にはiPadで部材情報を即時参照できるシステムを導入し、再利用材を正確かつ効率的に設置。循環型建築におけるデジタル技術の有効性を示した。

設計:永山祐子建築設計
解説:天野 裕、新美敦也(Arup)
ウーマンズパビリオン

[大阪・関西万博]主要・共用施設紹介_ウーマンズ パビリオン


〈森になる建築〉

素材選定から解体後の再利用までを含むライフサイクル設計を実施。3Dプリント技術を活用し、造形精度だけでなく資源循環やエネルギー削減を重視。建築と人、環境との関係を再構築するため、デジタルツールを環境配慮型デザインの中核として位置づけた。

設計・施工:竹中工務店
解説:山崎篤史、濱田明俊、大石幸奈(竹中工務店)
森になる建築


〈トイレ2〉

400年前の石材を3Dスキャンで高精度データ化し、重心計算による安定配置を決定。石の凹凸に合わせ、5軸加工機で木材を削り出すことで伝統工法「石場建て」を現代技術で再構築。自然素材とデジタル加工の融合が精度と表現力を高めた。

設計:Studio mikke 一級建築士事務所 + Studio on_site + Yurica Design and Architecture
解説:竹村優里佳(Yurica Design and Architecture)、大野 宏(Studio on_site)、小林広美(Studio m!kke)
トイレ2

[大阪・関西万博]トイレや休憩所などを紹介_トイレ2


〈トイレ4〉

土素材を用いた3Dプリント建築を実験的に導入。部材特性に応じて現地造形・工場製作・ブロック組立を選択。藁を混ぜた独自材料をクレーン型プリンターで積層し、伝統素材を現代的造形に適用する新たな製法を提示した。

設計:浜田晶則建築設計事務所/AHA 一級建築士事務所
解説:浜田晶則、栗脇 剛、井上悟郎(浜田晶則建築設計事務所)
トイレ4

[大阪・関西万博]トイレや休憩所などを紹介_トイレ4


〈トイレ7〉

鉄骨構造に3Dプリントパネルを組み合わせ、積層痕を意匠として活用。製造時の歪みは長尺出力後に端部を切断する方法で精度を確保。製造プロセスそのものをデザインに組み込み、制約を表現へと転換した。

設計:PONDEDGE+farm+NOD
解説:鈴木淳平(ポンデッジ)
トイレ7

[大阪・関西万博]トイレや休憩所などを紹介_トイレ7


〈ポップアップステージ(北)〉

会期を通じて丸太を自然乾燥させ、閉幕後に建材として再利用する計画。乾燥データは計測・公開し、BIMでテンセグリティ構造を解析。手刻みとデジタル加工を組み合わせ、素材循環を前提とした建築プロセスを構築した。

設計:axonometric
解説:佐々木 慧(axonometric)
ポップアップステージ(北)

[大阪・関西万博]トイレや休憩所などを紹介_ポップアップステージ 北


〈サテライトスタジオ(東)〉

全国から「困った木」を募集し、Webフォームとスプレッドシートで情報管理。柱にQRコードを付与し、来場者が個別の木の由来を閲覧可能に。物理的素材にデジタル情報を付加し、ストーリー性をもつ建築体験を提供した。

設計:ナノメートルアーキテクチャー
解説:三谷裕樹、野中あつみ(ナノメートルアーキテクチャー)
サテライト東

[大阪・関西万博]トイレや休憩所などを紹介_サテライトスタジオ 東


〈シンガポールパビリオン〉

球体の外装はFRP(繊維強化プラスチック)で構成され、約17,000枚のリサイクルアルミディスクをランダムに配置。球体内部に沿って螺旋状のスロープを設計した。

建築デザイン設計:DP Architects
実施設計・監理:HUNE Architects++U architects+中倉徹紀建築都市設計
全体プロデュース:Kingsmen Exhibits Pte Ltd
解説:林 盛、Julia Li(HUNE Architects)、中倉徹紀(中倉徹紀建築都市設計)
シンガポールパビリオン

[大阪・関西万博]海外パビリオン紹介_シンガポール


シグネチャーパビリオン〈いのちの遊び場 クラゲ館〉

天井部の造形は自然界のアルゴリズムを応用したパラメトリックモデリングで設計。曖昧な「ゆらぎ」を数値化し、デジタル制御で安定的に再現。従来の工法では困難な複雑曲線や自由形状も、高精度かつ効率的に造形可能にした。データ駆動の設計と造形美を融合し、計算と感性が共存する空間を実現した事例である。

デザイン:小堀哲夫建築設計事務所
プロデューサー:中島さち子
解説:石川陽一郎(Tom Architects)、藤井新也(フジタ)
いのちの遊び場くらげ館

[大阪・関西万博]シグネチャーパビリオン紹介_中島さち子氏


一般社団法人建築情報学会 大阪・関西万博ツアー総括

2025年大阪・関西万博において建築情報学会が企画した建築ツアーでは、単に意匠的に優れた建築を巡るのではなく、建築情報の視点から設計・構造・施工・素材・環境といった多層的な要素が高度に統合された建築群を選定しました。今回ピックアップした建築はいずれも、建築情報学が対象とする「人・技術・データ・環境」の関係性を考察するうえで極めて示唆に富むものばかりです。

具体的には、複雑な形状や構造の最適化におけるコンピュテーショナルデザインの実践例や、点群やBIM、CNC、3Dプリンタといった先進的な設計・施工支援技術の導入、さらには不整形な自然素材や再利用建材を取り入れた環境配慮型の建築手法など、建築の生成と実装を高度に情報化されたプロセスとして捉える試みが随所に見られます。

また、大規模施設から仮設的なステージやトイレに至るまで、スケールや用途にとらわれず、多様な建築形式における情報的アプローチが展開されている点も特徴的です。こうした選定は、現代建築における情報技術の果たす役割と、その可能性を可視化することを目的としています。設計の思考過程から、素材の選定、施工管理、そして空間体験に至るまで、建築のあらゆるフェーズが情報と密接に関係し始めている現在、これらの建築は「情報が建築に与える影響」と「建築が情報技術に求める応答」の実例と言えるでしょう。

建築情報学会としては、本ツアーを通じて、来場者が建築を単なる完成物として見るのではなく、その背後にある情報的プロセスや技術的挑戦を読み解く視点をもつことを期待しています。これにより、建築における未来の可能性と、それを支える情報技術の重要性を体感する機会となることを目指しました。(大阪・関西万博ツアー運営:竹内一生)

建築情報学会ツアー

多くの参加者が集まり、有意義なツアーが行われた

開催概要(終了しています)
日時:2025年7月3日(木)・7月4日(金)・7月5日(土) 13~17時
応募参加条件:建築情報学会 有料会員の方(学生会員・一般会員・賛助会員)
参加費:一般 6,000円、学生 3,000円(税込)※ 万博会場への入場チケットは、別途必要
運営:竹内一生(ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン)、池本祥子(竹中工務店)
アドバイザー:豊田啓介(NOIZ)、丹野貴一郎(SUDARE TECHNOLOGIES)、渡辺健児(ヴィック)
参加費:一般 6,000円、学生 3,000円(税込)※ 万博会場への入場チケットは、別途必要

 

写真提供:建築情報学会


万博特設サイト『SPECIAL FEATURE EXPO2025 』はこちら▼

expo2025サムネイル

『建築からみた万博』

 

【購読無料】空間デザインの今がわかるメールマガジン TECTURE NEWS LETTER

今すぐ登録!▶

COMPETITION & EVENT

AIS主催「EXPO 2025大阪・関西万博ツアー」開催!

応募締切:6月13日(金)17:00 ※抽選あり
COMPETITION & EVENT

トークセッション「大阪・関西万博における建築家集団の先進的な挑戦と未来への展望」

3/23 20:30より建築情報学会YouTubeにてライブ配信、「AIS WEEK2025」ラウンド・テーブル・セッションの採択セッションの1として開催
  • TOP
  • FEATURE
  • REPORT
  • [Report]建築情報学会「AIS大阪・関西万博ツアー」
【購読無料】空間デザインの今がわかるメールマガジン
お問い合わせ