「NOT A HOTEL(ノット ア ホテル)。という、住宅でも、ホテルでもない、その中間を狙った、新しい滞在体験を具現化するプロジェクトを立ち上げた、NOT A HOTEL代表の濵渦伸次と、栃木県・那須で進行中のフラッグシップモデル〈NOT A HOTEL NASU〉の設計を担当する、建築家の谷尻 誠と吉田 愛氏(SUPPOSE DESIGN OFFICE、以下、サポーズと略)に話を聞く、鼎談形式で進行したロングインタビューの4回目。
最終となる本稿では、「NOT A HOTELが拡張する建築のDXと未来」と題して、TECTUREとも深い関わりがある、デジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation)と建築が絡み合うことで可能となる業界の未来について、3氏が展望する。
新しいものは、セオリーがないところから生まれる
2020年4月にNOT A HOTEL株式会社を起業した濵渦氏。上記の経歴が示す通り、ホテル業界の出身ではない。にも関わらず、約16万坪という広大な牧場を取得してから約1年で、家・時々ホテルで賃貸収益も可能な住まいを欲しい人に直接、販売するD2Cを開始した。
セオリーどおりでなかったからこそ、従前にはない、〈NOT A HOTEL〉という新しいものが生まれたと言える。
〈NOT A HOTEL NASU〉の設計で濵渦氏とタッグを組んだサポーズの2人が思い描く未来のビジョンには、共通点がいくつも見受けられた。私たちTECTUREも含めて。
不可能と思われていたことを可能に
高額物件をオンラインストアの買い物かごで、パースだけで販売するNOT A HOTEL。これまでなかった商品の売り方だ。
だが、誰かが設定し、そこに向かう人が出てくれば、それまでありえなかったものがありうるものになっていくと、谷尻氏は指摘する。
そして何より重要なのは、その準備を誰がするか、それに尽きるという。
「スケールは違うけれど、僕の知り合いが、広島の居酒屋で1万円のレモンサワーを売っているんですね。ふつうの店じゃまず置いてない。でも、商品として存在することで、買うお客さんが現れて、商品としても育っていく。NOT A HOTELでは、濵渦さんが、これまでなかった領域をつくってくれて、かつ、オーナーと建築家をつなぐプラットフォームとしても機能させ、熟成しようとしてくれている。」(谷尻氏談)
TECTUREとNOT A HOTELの共通点
「つくりたいものから先に考えた方が、絶対におもしろい」と、インタビューの冒頭から最後まで、濵渦氏の考え方は一貫していた。サポーズの2人も同様である。
「みんながつくりたいものからつくる。これって、谷尻さんたちが立ち上げたTECTUREの初動と同じですよね。通じる部分もあると思います。例えば、TECTUREもNOT A HOTELも、新しい余暇時間を創出することであるとか」と濵渦氏。この言に、谷尻氏も我が意を得たりと大きく頷いた。
「濵渦さんはTEC側から、僕らは建築側からコミットしているけれども、建築業界は、DXの観点が全く抜け落ちている。3D-CADとかデジタルとか言いながら、仕事の進め方はずっとアナログで、どうしていつまでも同じやり方なのか、他の建築家はどうやって事務所を運営しているんだろうかと、昔から僕は不思議でしょうがなかった。」(谷尻氏談)
そうして生まれたのが、空間写真から建材や家具が検索できる、建築業界向けプラットフォーム「TECTURE」であり、その考え方を世に広める役割をも担って創刊した、次世代型空間メディアの『TECTURE MAG』である。
TECTUREは、それまで雑誌のページを繰ったり、一日中、インターネット検索に費やしていた、設計段階で必要な、プロダクトや空間事例のリサーチを、掲載写真に打たれた黄色いピンをクリックするだけでほぼ完了することができる。メーカーへの問合せも、ワンストップだ。
TECTUREやNOT A HOTELの事業やビジネスに限らないが、昨今は、手元のスマートフォンでほとんどのことが可能な時代なのだ。
新しい体験が、ものごとを変えていく
「NOT A HOTELの場合、こういう建築が自在にできることとか、世のみなさんはおそらく想像できていない。でも、パースが1枚あることで、リアルになっていく。」
実践が可能性の1つを生み、新しい体験がものごとを変えていく。そのことを、濵渦氏は建築家とタッグを組んで実際に示している。
「建築とテクノロジーって、実はむちゃくちゃ相性がいいと思っていて。建築の最強のDXとは、絶景不動産とか、TECTUREとか、谷尻さんたちがやってるような垂直展開ではないか。つくりたいものを自由に試せるはずだと僕は想像しています。」(濵渦氏談)
濵渦氏のこの見解は、私たちTECTUREにはなによりのエールとなった。
テクノロジー×建築の未来
サポーズの2人は「建築をアートのように買う、建築のオークションのようなことができれば、おもしろい」と、建築の未来を展望する。
昨今、デジタルアートであっても、作家の著作権を守ったうえで、正当な対価が支払われるシステムが流通し、市場として機能していることを前提として。
「建築って、スローに売れていくコンテンツだと思っている。最終的には図面を売るまでやりたいね。」(谷尻氏談)
設計図とパースだけで建築を売る、それは決して不可能ではないと、濵渦氏も予想する。
ここではまだ披露できないが、3氏の口からはいろんなアイデアが飛び出した。
その準備をするのは誰なのか?
旧態依然と言われる建築業界だが、まだまだ新しいビジネスが芽吹こうとしている。
(2021年9月28日 社食堂にて収録)[了]
関連リンク
濵渦伸次氏公式『note』
「あたらしい暮らしづくり、はじめます。」(2021年2月10日更新)
https://note.com/hamauzzu/n/n5d079e8822a8
NOT A HOTEL 公式ウェブサイト
https://notahotel.com/