「Prada Mode Tokyo(プラダモード トーキョー)」が日本初上陸
イタリアを代表する高級ファッションブランドの1つ、プラダ(PRADA)の主催により、東京都庭園美術館の敷地内にて、アートイベント「Prada Mode Tokyo(プラダモード トーキョー)」が2023年5月12日と13日に開催された。
「Prada Mode」は、2019年秋にロンドンで開催されたのを皮切りに、パリ、モスクワ、ドバイなどの世界各都市で開催されれてきたプラダの特別な顧客へ向けたセミクローズイベントで、今回で9回目を数える。日本国内での開催はこれが初となる。
『TECTURE MAG』では、インビテーションを有した顧客とメディアのみが入場を許された「Prada Mode Tokyo」を取材、2日間にわたり開催されたスペシャルなイベントの様子をレポートする。
公共の美術館を舞台に開催されたユニークベニュー(Unique Venue)
今回のイベントは、東京都および東京都庭園美術館(運営:公益財団法人東京都歴史文化財団)の理解と協力のもと、実現している。背景には、文化財を「真に人を引きつけ,一定の時間滞在する価値のある観光資源」として活用していくことを目指し、文化庁が2016年3月に策定した「文化財活用・理解促進戦略プログラム2020」の存在がある。この提言の中で、博物館・美術館や文化財指定の建物をイベントや会議の場として特別に使用できる「ユニークベニュー(Unique Venue:特別な場所の意)」が謳われており、今回のプラダとのコラボレーションが可能となった。東京都庭園美術館の館長に2022年7月に就任した、建築家の妹島和世氏とプラダとの長年の信頼関係に基づく開催でもある。
同美術館が有する西洋庭園には、全天候型の木製パビリオンが2日間限定で設置され、妹島氏が登壇を要請した建築家、美術作家、茶人らによるトークイベントのほか、ミュージックパフォーマンスや最新テクノロジーを駆使したパフォーミングアーツなどが行われた。
#Prada YouTube「#Prada Mode Tokyo」(2023/05/11 1分25秒) ※再生直後に音楽が流れます
妹島和世氏プロフィール
建築家。1981年日本女子大学卒業。伊東豊雄建築設計事務所を経て、1987年に妹島建築設計事務所を開設。1995年に西沢立衛と共同でSANAA(サナア)を設立。
主な作品に、金沢21世紀美術館 *(2004)、梅林の家(2003)、ROLEX ラーニング センター *(2009)、犬島「家プロジェクト」(2010)、ルーヴル・ランス *(2012)、グレイスファームズ *(2015)、ボッコーニ大学 新キャンパス *(2019)、ラ・サマリテーヌ *(2021)、日本女子大学目白キャンパスグランドデザイン(2021)、シドニー・モダン・プロジェクト *(2022)などがある。2010年には第12回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展のアーティスティックディレクターを務める。
主な受賞に、日本建築学会賞 *(1998年、2006年)、ヴェネチア・ビエンナーレ金獅子賞 *(2004)、プリツカー賞 *(2010)、フランス芸術文化勲章(2010)、紫綬褒章(2016)、高松宮殿下記念世界文化賞 *(建築部門、2022)などがある。
2022年7月より東京都庭園美術館館長。ミラノ工科大学教授、横浜国立大学名誉教授、日本女子大学客員教授、大阪芸術大学客員教授。 *SANAAとして
妹島和世氏コメント
「庭園美術館で『PRADAMODE東京』を開催することができ、大変嬉しく思っております。このイベントは、建築と庭園、アート、音楽がひとつになる新しいかたちのコミュニケーションの場所です。これは美術館を新しい公共の場とする試みです。」(来場者に配布されたリーフレットより)
実施されたプログラム(開始時間順)
5月12日(金)
レクチャー「東京都庭園美術館の歴史」牟田行幸
ワークショップ 「わたしをあらわす すてきなぼうし」式地香織
ミュージック パフォーマンス
ワークショップ
対談「ランドスケープアーキテクチャ」西沢立衛、石上純也
対談「趣味と芸術」杉本博司、 千 宗屋
5月13日(土)
ワークショップ 「わたしをあらわす すてきなぼうし」式地香織
対談「犬島シンビオシス:生きられた島」妹島和世、長谷川祐子
パフォーマンス 「ガーデン・オブ・アンド ロイド」渋谷慶一郎(ピアノ)、オルタ4(ボーカル)
ワークショップ
ミュージックパフォーマンス
対談「都市と音楽」渋谷慶一郎、 朝吹真理子
西沢立衛建築設計事務所がパビリオンを設計
訪れた人々がさまざまなアートに触れ、ともに考える場となった全天候型のドーム型パビリオンは、対談イベントにも登壇した建築家の西沢立衛が率いる西沢立衛建築設計事務所が設計を担当した。
全景画像の下に、同事務所より寄稿された設計コンセプトを掲載する。
パビリオン 設計コンセプト
東京都庭園美術館で開催された、巡回型アートイベント「プラダモード」のための仮設パビリオンである。
敷地は、美術館敷地内の西洋式庭園の一角に位置している。要望された条件は、庭を楽しみながらの催しができ、庭園での人々の憩いの場所にもなる日除け空間だ。また、設計・施工期間合わせて、2ヶ月半という短期間での建設を求められた。それらのことから、経済的かつ迅速に建設できる、軽量で合理的な構築物を目指すこととなった。
形状的には、1辺約13mの正三角形平面を曲面化したシェル型ドームとした。3点のみで着地して、中央で4.2mの高さまで上がって、大きな無柱空間をつくり出す。さらなるシェル効果を考えれば、懸垂曲線によるドーム形状もありえたが、つくりやすさ・早さを考慮して、全ての梁と母屋を同一形状で構築できる球体面とした。
屋根下の空間は、ドームの求心性によって周りとは異なる一体的な空間となり、他方で3辺すべてが開かれて、庭園と全方位的につながる開放感を持つ。緑豊かな自然と連続しながら、人々の親密な集まりにも応えられるような、閉じてかつ開く建築を目指した。(西沢立衛)
妹島氏のキュレーションによるサイトスペシフィックなインスタレーション
西洋庭園では、妹島氏のキュレーションによるサイトスペシフィックなインスタレーションが各種展開された。西沢立衛氏との建築家ユニット・SANAAがデザインしたチェアやベンチがレイアウトされ、場内で提供されたスペシャルなフードとドリンクを楽しむ人々の憩いの空間となった。
東京都庭園美術館全面協力によりアートインスタレーションが展開
5月12日と13日は、東京都庭園美術館が、”アール・デコの館”として知られる旧朝香宮邸・本館の建物の魅力を伝えるため、年に一度開催している展覧会「建物公開2023 邸宅の記憶」の会期と重なった。「Prada Mode Tokyo」の来場者は同展会場への出入りも特別に許可され、アートに触れる機会となった。
「建物公開2023 邸宅の記憶」詳細
https://www.teien-art-museum.ne.jp/exhibition/230401-0604_ReminiscenceOfAHouse.html
さまざまなアートに触れる体験型ユニークベニュー
さらに今回の「Prada Mode Tokyo」では、美術館の本館および付帯施設の一部が関連イベントの会場としても使用されている。
美術館本館では、「Prada Mode Tokyo」主催のワークショップ、妹島氏によるプライベートなディナーを開催。
正門脇にあるゲートハウスギャラリーでは現代アート作品が展示され、さらに、日本庭園にある茶室では予約制の茶会も催された。茶室〈光華〉は1936年の上棟、本館とともに重要文化財に指定されており、広間の床(とこ)の間には、12日の対談イベントに登壇した杉本博司氏の作品が掛けられた。
ゲートハウスギャラリー展示作家:名和晃平、磯谷博史、三嶋りつ惠、市川靖史、ナイル・ケティング(Nile Koetting)、ホンマタカシ
公共建築の新たな可能性を提示した「Prada Mode Tokyo」
2日限りの開催となった「Prada Mode Tokyo」では、上記のとおりさまざまなアクティビティが展開された。
初日は晴天に恵まれ、2日目は雨まじりの天気となったが、通常の開館時とは異なる活用により、スペシャルな建築と文化への旅を体験できた人は幸いである。創立110周年を迎えたプラダ(PRADA)という世界に冠たるメゾンによる、日本の伝統文化とその流れを受け継ぐ現代のアーティストたちへのリスペクトや、建築を含めたさまざまなアートへの深い共感と理解を感じ取ったに違いない。
日本では、公共の建築空間を開館当初の目的から外れて利用することは、その実例の少なさからみて、かなり難しいのではないだろうか。やりかた次第では建物に新たな機能と魅力を付加できる「ユニークベニュー」も、人々の間にはまだまだ知られていない。
今回の東京都庭園美術館での「Prada Mode Tokyo」の開催は、これまでの日本の公共建築のありかたに一石を投じ、これからの可能性を示した成功例となるだろう。
「Prada Mode Tokyo(プラダモード トーキョー)」開催概要
会場:東京都庭園美術館
所在地:東京都港区白金台5-21-9
日程:2023年5月12日(金)、13日(土)10:00-21:00
※入場はインビテーション(招待客およびメディアのみ)
主催:プラダ ジャパン
共催:東京都庭園美術館
キュレーター:妹島和世(東京都庭園美術館館長)
「Prada Mode Tokyo(プラダモード トーキョー)」Website
https://www.prada.com/jp/ja/pradasphere/events/2023/prada-mode-tokyo.html
Text by Naoko Endo
Photograph: Jun Kato & Naoko Endo