大阪・関西万博は、一時的な催しであるからこそ、資源を循環させて環境への負荷を減らす持続可能な経済モデル「サーキュラーエコノミー(循環型経済)」の考え方を取り入れたプロジェクトが数多く存在します。
本記事では、「万博で深めるサーキュラーエコノミー特集」の第2弾として、サーキュラーエコノミー3原則の1つである「製品と素材を循環させる」という点に着目し、どのように建築やパビリオンに活かされているのかを見て行きます。
万博で深めるサーキュラーエコノミー特集 第1弾はこちら
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「製品と素材の循環」を促進する建築とは?
第1弾で紹介した、エレン・マッカーサー財団が提唱する「サーキュラーエコノミー3原則」のうち、今回取り上げる「Circulate products and materials(製品と素材を循環させる)」は、とりわけ建築分野に取り入れやすい要素です。これを理解するために、まず「アーバンマイニング」という言葉を紹介します。
アーバンマイニングとは直訳すれば「都市鉱山」を意味するものであり、都市に廃棄された電子機器などに含まれるレアメタルなどの有用な資源を鉱山に見立てて積極的に回収し、有効活用するリサイクルの概念を指します。
この考え方を建築に当てはめると、「建築は建材の鉱山」とも捉えることができます。だからこそ、資源の集積体とも言える建築でありながら会期後には解体される「パビリオン」という存在に、解体後のあり方を考える「製品と素材を循環させる」という視点を取り入れることは自然な流れと言えるのではないでしょうか?

再利用を前提とした工法で構築する茅葺き屋根〈EARTH MART〉(Photo: TEAM TECTURE MAG)
「製品と素材を循環させる」万博プロジェクト
ここからは、「製品と素材を循環させる」視点を取り入れて大阪・関西万博に建てられた建築やパビリオンを、下記の3つの特徴に分類して紹介します。
- 素材の再利用:様々な素材の後利用を前提に設計された建築
- 仮設材の採用:建築資材のうちで、もともとリース使用が前提である仮設材の活用
- 資材の流通プロセス:万博の会期という期間を、木材の乾燥といったプロセスに置き換える試み
◾️素材の再利用
モルディブのリゾート施設として生き続ける〈ブルーオーシャン・ドーム〉
設計:坂茂建築設計
竹を用いた入口となるドームA、カーボンファイバーを用いたパビリオンのメインとなるドームB、紙管を用いた最後のドームCで構成されたパビリオンです。
すべてパーツは輸送コンテナに入る大きさまで分解でき、会期後にはモルディブのリゾート施設として移設予定となっています。

photo by Taiki Fukao
小さな木材を組み合わせたクラゲのような空間〈いのちの遊び場 クラゲ館〉
プロデューサー:中島さち子(音楽家、数学研究者、STEAM 教育家)
建築デザイン:小堀哲夫(小堀哲夫建築設計事務所)
4600本以上もの吉野杉の角材(木片)を粘菌のように組み合わせた「創造の木」が特徴的なパビリオン。
小さな部材が集まり構成されたパビリオンは会期後に移築・リユースされ、新たないのちとして生まれ変わる予定です。

Photo: TEAM TECTURE MAG
再利用を前提とした特徴的な茅葺き屋根〈EARTH MART〉
プロデューサー:小山薫堂(放送作家、京都芸術大学副学長)
建築意匠監修:隈 研吾(隈研吾建築都市設計事務所)
隈研吾建築都市設計事務所の若手建築デザイナーから募った50近いアイデアの中から幾つかの要素を組み合わせてデザインを決定したパビリオン。
再利用を前提とし、茅束をそのまま葺く「段葺工法」を採用した茅葺き屋根となっており、屋根の勾配は雨が滞留しにくい45度なっています。

Photo: TEAM TECTURE MAG
建材の透明性を確保する〈オランダパビリオン〉
設計:RAU Architects
中央に浮かぶ巨大な球体と流れる水の動きを連想させる波打つスラットが特徴的なパビリオン。スラットは合計425mに及ぶ長さとなっており、オランダと日本の425年に及ぶ貿易関係を象徴しています。
素材の透明性を確保し再利用を容易にする「マテリアル・パスポート」に使用されるすべての建材を登録されています。

© Zhu Yumen
材料への加工を抑えて構築した〈One water(トイレ6)〉
設計:KUMA & ELSA
屋根の勾配や素材、動線に至るまで、自然の摂理に寄り添う設計が徹底された、静けさの森ゾーンに位置するトイレです。
材料の再利用を容易にし、会期後のセカンドライフを与えるため、内外仕上げの木材は穴を開けず、木のブロックで押さえて固定されており、基礎に使われた覆工板と山留材はレンタルで、会期終了後に返却されます。

Photo: KUMA & ELSA
その他の「素材の再利用」が特徴的なプロジェクト
〈UAEパビリオン〉
設計:Earth to Ether Design Collective
概要:ナツメヤシの農業廃棄物と日本の木工技術を融合させた、パビリオンの象徴的な構造
〈ポルトガルパビリオン〉
設計:隈研吾建築都市設計事務所
概要:万博終了後には再利用を予定している、約1万本のロープが吊り下げられた外装
〈イタリアパビリオン also hosting the Holy See〉
設計:マリオ・クチネッラ・アーキテクツ(Studio MCA-Mario Cucinella Architects)
AoR(アーキテクト・オブ・レコード):松田仁樹建築設計事務所
概要:再生可能資源である集成材を使用し、乾式工法とモジュール工法を採用した「リバーシブル建築」
〈ウズベキスタンパビリオン〉
コンセプト・デザイン:アトリエ ブルックナー(ATELIER BRÜCKNER)
概要:解体が容易な接合方法を採用し、会期後にはパビリオン全体をウズベキスタンへ移設する予定
〈スペイン館〉
設計:ネストル・モンテネグロ、エノルメ・スタジオ、スマート・アンド・グリーン・デザイン
概要:CLTを乾式ジョイントで組み上げた、会期後には再利用可能な大階段
〈ポップアップステージ 東外〉
設計:萬代基介建築設計事務所
概要:会期後の移築を前提に、別の場所で用途を変えて再利用できるよう設計された、鉄骨と膜による構造体
◾️仮設材の採用
仮設足場やCLTモジュールで構築する〈フィリピンパビリオン〉
設計:Carlo Calma Consultancy Inc. / cat
仮設建築物の構造には建設用の足場を採用し、本体の構造にはモジュール式CLTパネルを用いた、リユースを前提とした構成となっています。
ベンチにもなっている手編みのラタンや手織りのファブリックパネルがファサードを覆う、ウーブン(織物)をテーマに、自然、文化、人々の営みを織り交ぜたパビリオンです。

Photo: Masaki Komatsu
「小さな資源循環」を実現する〈三菱未来館〉
設計:三菱地所設計
仮設資材である鋼製足場板やポリカーボネート折板などを仕上げ材として活用した「再利用できる」建築であり、基礎の接地面積を減らし、解体時の廃棄物量を削減した「浮遊する」構造で構成された、「小さな資源循環」をキーワードに設計されたパビリオンです。

Photo: 中道 淳/ナカサアンドパートナーズ
◾️資材の流通プロセス
万博期間で木資源を乾燥させる〈ポップアップステージ 北〉
設計:axonometric
未乾燥の丸太を乾かしながら使い会期後に流通させるという、木材の流通の途中に万博の開催期間を挿入するという試みがなされた建築です。
構造には、丸太ごとの個体差と収縮を受け止めるテンセグリティ構造を採用し、丸太は浮遊し乾燥しながら居場所をつくります。

Photo: Yasu Kojima

Image: axonometric
世界的な一大イベントでありながら一時的な催しである万博だからこそ、建築界でなかなか導入が進まないサーキュラーエコノミーの実践の場として大阪・関西万博を捉えてみるのはいかがでしょうか?
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