東京・乃木坂のTOTOギャラリー・間にて、「能作文徳+常山未央展:都市菌(としきのこ)――複数種の網目としての建築(英語表記:Fuminori Nousaku + Mio Tsuneyama: URBAN FUNGUS ――Architecture is a Complex Mesh)」が1月18日より開催されています。
『TECTURE MAG』では、1月17日に開催されたプレスカンファレンスを取材しました。
会場の様子や展示のポイントを伝える前に、先ずは両氏のプロフィールから紹介します。
能作文徳(のうさく ふみのり)氏 プロフィール:写真左
1982年富山県生まれ。2005年東京工業大学卒業。2007年同大学院修士課程修了。2008年Njiric+ Arhitecti(クロアチア)研修。2010年より能作文徳建築設計事務所主宰。2012年博士(工学)取得。2012~2018年東京工業大学助教。2018~2021年東京電機大学准教授。2023年コロンビア大学特任准教授、ミュンヘン工科大学客員教授。現在、東京都立大学准教授。常山未央(つねやま みお)氏 プロフィール
1983年神奈川県生まれ。2005年東京理科大学卒業。2005~2006年Bonhôte Zapata Architectes(スイス)研修。2006~2008年スイス連邦政府給費生。2008年スイス連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)修了。2008~2012年HHF Architects(スイス)。2012年mnm設立。2015〜2020年東京理科大学助教。2020〜2021年同校特別講師。2022~2023年EPFL客員教授。2023年コロンビア大学特任准教授。主な作品:〈西大井のあな〉(東京都)、〈不動前ハウス〉*1(東京都)、〈明野の高床〉*2(山梨県)、〈杭とトンガリ〉(東京都)、〈高岡のゲストハウス〉*3(富山県)、〈氷見移住ヴィレッジ〉(富山県)、〈秋谷の木組(秋谷スマートハウスE棟)〉(神奈川県)など。
主な受賞:2016年ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展日本館展示 特別表彰、第33回JIA新人賞*2、日本建築学会作品選集新人賞*3など。*1:常山未央、*2:能作文徳、*3:能作文徳+能作淳平、ほか:能作文徳+常山未央
能作文徳氏と常山未央氏は東京を拠点に活動する建築家です。私生活ではパートナーであり、都内のリノベーション事例〈西大井のあな〉は自邸で、現在も進行中のプロジェクトです。これまで、単独もしくはお互いを含む第三者との共同で設計活動を行ってきたほか[*註1]、論考の執筆や、国内外の大学でも教鞭をとり、現代の建築と都市と生態系の関係性についてさまざまな角度からリサーチしつつ、実践的なアプローチを続けてきました。
*註1:現時点で両者が共同主宰する設計事務所は設立されていない(検討中とのこと)
能作、常山の両氏を出展者として起用した背景とその狙いについて、TOTOギャラリー・間の代表を務める筏 久美子氏は次のように語っています(1月17日プレスカンファレンスでの冒頭挨拶ほか発言内容より要約)。
2020年以降のCOVID-19(新型コロナウイルス)の世界的な流行を受けて、「TOTOギャラリー・間では、これからの建築が社会に対してどのように貢献できるのかを、建築家の皆さんと一緒になって考察し、それを展覧会というかたちで提示していきたいと考えています。
その第一弾として、いわゆるアフター・コロナの2022年に開催した「How is Life?—— 地球と生きるためのデザイン」展では、地球と共存していく社会の形成を建築が支えることができるのかをテーマに、塚本由晴、千葉 学、セン・クアン、田根 剛の4氏をキュレーターに招き、彼らが行っている、あるいは注目している世界各地のローカルレベルでのさまざまな活動を紹介しました。昨年の「ドットアーキテクツ展 POLITICS OF LIVING ⽣きるための⼒学」でも、大阪を活動の基盤とする彼らのさまざまな取り組みを紹介して、これからの建築のありようの1つを提示しました。本展もその流れの中で企画されたものです。昨今の展覧会では、設営・撤収時にゴミを出さないということが当たり前になってきています。本展でも、能作・常山さんはそのことを第一に考えて会場をデザインしてくれました。原寸展示の材料や展示台は、学生たちと一緒に集めた木材などの端材が使われています。かつ、本展終了後にもう一度、これらを再利用できるよう、釘などを使わずに組み立てるなど、彼らが常日頃から関心を寄せる日本の伝統構法も要所で採用されています。展示品の多くは、展覧会終了後にアップサイクルされ、一部は〈西大井のあな〉などで使用される予定です。
GALLERY 1の主たる展示である〈西大井のあな〉は、都市の中でもエコロジカルな暮らしは可能であるという、おふたりが日頃から考えている建築家としての哲学が、住みながらにして実践されている場です。また、4階に模型が展示されている住宅〈明野の高床〉は、つい先日、第1回SDGs住宅賞(旧サステナブル建築賞)の国土交通大臣賞に選出されました。そういったこれまでのさまざまな建築実践や、国内外での教育活動によって、おふたりの考え方が若い世代にも受け継がれ、世代としての連環が行われているという点にも注目していただければと思います。
この展覧会は、さまざまな連関の1つであり、物質循環の1つのハブでもあり、能作さんと常山さんが取り組んでいる建築的実践の最新例となります。ぜひ会場を足を運んでいただき、多くの人々と共有し、これからの建築、社会について考えるきっかけになればと願っています。(TOTOギャラリー・間 代表 筏 久美子氏・談)
前述のとおり、3階(GALLEY 1)の展示は、能作・常山の両氏が設計し、2017年以降、住みながらアップデートを続けている自邸〈西大井のあな〉を中心に構成されています。
「我々が〈西大井のあな〉でやりたかった1つが断熱改修です。そしてそれを住みながらやる。竣工後、玄関を開けた瞬間からその家の価値は下がり続ける、現代の不動産市場、建設産業構造へのカウンターでもあります。私が就労していたスイスでは、断熱性能が義務化されています。日本のプロジェクトでは低予算のために断熱を諦めないといけない場面によく直面します。消費エネルギーを削減するのは絶対だと施主に押し付けても誰も幸せになりません。大切なのは、人間の生活。〈西大井のあな〉では、住み手である我々の快適性能を徐々に上げていくのと同時に、環境負荷も減らしていく。この両面からのアプローチを実践するために始めたプロジェクトでした。敷地内のコンクリートを自分たちで剥がし、土に戻して、改良もしたら、ミミズやダンゴムシが棲むようになって、土がもつ循環の力に驚かされています。」(常山氏談)
本展タイトルにある「菌(きのこ)」とは、東京工業大学のプロフェッサーアーキテクト・篠原一男(1925-2006年)による記述「民家はきのこである」からとられているとともに、民家を建築家の設計対象物としてみなしていなかったという篠原への逆説でもあります。
そして、都市において増加している空き家や、新築およびリノベーションの現場で使われないまま竣工後に廃棄される建材の存在(建築資材ロス問題)といった都市の状況そのものを、建築家が引き受けて、設計・デザインの力や活動によってそれらを再構築できるとするならば、建築家は森の生態系を保持しているきのこのような”分解者”と言えるのではないか? この能作・常山両氏による仮説が本展のタイトルにある「都市菌(きのこ)」に集約されています。
「”複数種の網目”とは、人間中心主義の社会ではなく、人間と、人間以外の存在との共存を指します。本展の英語タイトルのアーバンファンガス(urban fungus)の背景として、昨今は”人新世”といった新しいワードが出てきています。土の中の微生物を含めたさまざまな生き物と人間が共存することで、自分たちの健康や生存が担保されているという考え方です。我々は建築家であると同時に都市の居住者です。できるだけゴミを出さずに、複数種の生命と一緒になって都市をつくりあげていくためにはどうすればいいのか? その手段の1つとなるであろう、伝統構法での建築や、土中(どちゅう)環境に配慮して開発した工法などを、本展では展示しています。」(能作氏談)
「循環を前提とした連関で都市をとらえたとき、電力エネルギーや食べ物といった生活に必要なものは、田舎であったり途上国を含めた諸外国からの流入に頼りきりで、生産性に乏しい。これからの時代は、自分たちの野生というものを取り戻し、やれる範囲の生産は自分たちでやり、身近なエネルギーや資源に接続しなおしていくことが必要になると考えています。そのためのトライアンドエラーを、自邸である〈西大井のあな〉で実践していて、他のプロジェクトでも展開することもあれば、他のプロジェクトでの学びを西大井で試したりもする。プロジェクト同士の連環がわかる展示構成となっていて、小さなプロジェクトや暮らしのアップデートといった網目の中に建築はあるのだと考えています。」(常山氏談)
〈藍染の便所〉など本展の展示品の一部には、2017年に東京国立近代美術館で開催された「日本の家 1945年以降の建築と暮らし」展[*註2]で展示された〈齋藤助教授の家〉の原寸大模型の廃材が再利用されています[*註3]。
[*註2] 東京国立近代美術館「日本の家 1945年以降の建築と暮らし」展 開催概要
https://www.momat.go.jp/exhibitions/523
[*註3] 能作氏は東京工業大学助教時代に「日本の家 1945年以降の建築と暮らし」展の展示の1つ、清家 清(1918-2005)が設計した住宅〈齋藤助教授の家〉の原寸大模型の製作に関わっており、会期終了後に大量の木材が廃棄物として処分されることを惜しんだ能作氏が材の一部を保管していた
本展のパネル展示が額装されているのも注目すべき点です。展示終了後の再利用、譲渡などが容易なように検討されています。中庭に展示されている、木造のタイニーハウス〈書庵〉も、本展終了後に千葉・釜沼で進行中の「小さな地球プロジェクト」に移築して使用される予定です。
4階 GALLERY 2の展示は、能作氏と常山氏が共同設計を含めてこれまで手がけてきた全ての作品・プロジェクトの模型を網羅した展示で、3階の〈西大井のあな〉との連環・関連性も浮かび上がります。
また、架空のプロジェクトとして、エネルギーを自給自足し、かつDIYの手法で建てられる小屋についてスタディした模型も複数展示されています。
住宅作品などのほか、能作氏が手がけた展覧会の会場デザインの模型も本展では見ることができます。
「今回の展覧会では、端材をあまり切らずにそのままのサイズで使い、かつ取り外しもできるという、いわゆるリバーシブルデザインの手法を採用しました。いったん壊しても再構築できるようにつくるという手法は今、ヨーロッパでも増えてきています。我々はこれまで、自分たちで断熱を変えてみるとか、材料の成分の改正、材の寿命を延ばすといったことはやってきたのですが、部材の再構築に対しては、興味はあったものの着手できていませんでした。やってみて、さらなるデザインの可能性があるなと感じています」(『TECTURE MAG』チーフエディターの加藤からの質疑「本展での新たな気づきについて」に対する能作氏の応答より、要約)
展覧会コンセプト
都市菌(としきのこ)――複数種の網目としての建築
都市は朽ち始めている
生活はインフラとサービスに依存し、自分の力で修復できない
地表は建物とアスファルトに覆われ、呼吸ができない
乾いた土では食べ物は育たず、水は浄化されない
毎日大量のゴミが捨てられる
建物やインフラを新品に保つ力は衰えている
それでも、賞味期限切れの都市の生命活動は続いていくいま私たちは野生を取り戻さなくてはいけない
土を嗅ぎ
雨を聴き
風を読み
陽を感じ
心地よい居場所をつくれるように
伝統を知り
技術を学び
小さな負荷でここに暮らせるように私たちは、建築を大きな網目の中で捉えている
建物は、資源から廃棄までの一時的な結節点だ都市ではゴミも材料になる
アスファルトを剥がせば、土壌が小さな生産地と分解地になる
太陽熱を使えば、調理が台所から飛び出す
建物を持ち上げれば、そこが生き物の棲家となる
そうやって身の回りの資源、太陽、土、ゴミと生活が絡み合い
複数種の居住域が築かれる菌(きのこ)が腐敗と再生産の網目に生きるように
能作文徳+常山未央
会期中は、TOTOギャラリー・間の橋田館長によるギャラリーツアーや、ディレクター、スタッフによるツアーも開催されます(詳細はTOTOギャラリー・間ウェブサイトを参照)。
TOTOギャラリー・間 YouTube公式チャンネル:展覧会ガイド「能作文徳+常山未央:都市菌—複数種の網目としての建築」(2024/01/29)
会期:2024年1月18日(木)~2024年3月24日(日)
開館時間:11:00-18:00(会期中3回予定されているナイトツアー開催日は20:00まで開館)
会場:TOTOギャラリー・間
所在地:東京都港区南青山1-24-3 TOTO乃木坂ビル3F(Google Map)
休館日:月曜・祝日 ※2月11日(月・祝)は開館
入場料:無料
主催:TOTOギャラリー・間
TOTOギャラリー・間 ウェブサイト
https://jp.toto.com/gallerma/