ヘザウィック・スタジオの日本初の大規模展
英国を代表する建築家でデザイナーの1人、トーマス・ヘザウィック(Thomas Heatherwick)が率いるヘザウィック・スタジオ(Heatherwick Studio)の展覧会「Heatherwick Studio: Building Soulfulness」が、東京・六本木の六本木ヒルズ森タワー52階にある東京シティビューにて、6月4日まで開催されています。
28の主要プロジェクトを紹介する「へザウィック・スタジオ展:共感する建築」六本木ヒルズ森タワー52F 東京シティビューにて
ヘザウィック・スタジオの大規模展が日本国内で開催されるのはこれが初となります。
『TECTURE MAG』では、2023年3月16日に行われたプレス内覧会を取材。会場写真を中心にレポートを掲載します。
トーマス・ヘザウィック氏プロフィール
1970年生まれのイギリス人デザイナー。彼が手掛ける斬新かつ独創的で人間味あふれるデザインは、世界的に高い注目を集めている。建築、都市計画、プロダクトデザイン、インテリアデザインといった従来の枠組みにとらわれないクリエイティブ・スペースとして、1994年にヘザウィック・スタジオを設立。現在、ロンドンを拠点とし、東京都心にある6ヘクタールの複合施設「麻布台ヒルズ」に建設中の低層部をはじめ、ロンドンのグーグル(Google)新社屋(ビャルケ・インゲルス・グループ/BIGとのコラボレーション)や、走行中に空気を浄化する電気自動車〈エアロ〉など、世界10カ国で30以上のプロジェクトを手掛けている。新著『Humanise』(ペンギン社)を2023年内に出版予定。
Heatherwick Studio Website
https://www.heatherwick.com/
ヘザウィックのエモーションが伝わってくる展覧会
トーマス・ヘザウィックは1970年英国生まれ。母親は宝石職人で、ものづくりの現場に接しながら育ちました。
本展のプレスリリースやプレスカンファレンスでの説明によれば、トーマス・ヘザウィックは、職人たちがつくりだす小さなもの、そこに宿る魂に幼少期から関心が高く、さまざまな小さな要素の集合体である大きな建築物や空間にそれらの魂を込めることはできるのか?という問いが、彼と彼が設立したスタジオが手がけるデザインの原点になっているとのこと。
本展では、ヘザウィック・スタジオがこれまでに手掛けた、あるいは進行中の、主だった28のプロジェクトが一堂に会します。それらのもとになっている、さまざまな素材サンプルも惜しげもなく開示。精密な模型も多数展示され、あわせて映像資料も用意されるなど、見どころ満載の会場構成となっています。
会場構成
イントロダクション
セクション1「ひとつになる」
セクション2「みんなとつながる」
セクション3「彫刻的空間を体感する」
セクション4「都市空間で自然を感じる」
セクション5「記憶を未来へつなげる」
セクション6「遊ぶ、使う」
本展では、小さなモノが持つ魂のようなものをスケールアップさせるというトーマスのアイデアと、彼のスタジオのデザインアプローチにおけるクラフトマンシップの中心にあるものを視覚的に浮かび上がらせることを試みています。
6つのセクションに分けられた会場では、28のプロジェクト(以下に列記)それぞれにおいて、ヘザウィック・スタジオによる創造的なアプローチとプロセスを掘り下げながら、それぞれのデザインがヒューマンスケールを有し、隣り合う自然を受け入れることで、規模や予算に関係なく周囲の環境とつながることができるという、スタジオのデザインポリシーを伝えます。
28のプロジェクト
・エクストリューション(押し出し)(2006年 製造開始)
・上海万博英国館(中国・上海 2010年)
・ロンドン・オリンピック聖火台(英国・ロンドン 2012年)
・新ルートマスター(市バス)(英国・ロンドン 2012年)
・ツリー・オブ・ツリーズ(英国・ロンドン 2022年)
・グーグル・ベイ・ビュー(米国・カリフォルニア州マウンテン・ビュー 2022年)
・シンガポール南洋理工大学 ラーニング・ハブ(シンガポール 2015年)
・マギーズ・ヨークシャー(英国・リーズ 2020年)
・エアロ(2021年)
・ヴェッセル(米国・ニューヨーク 2019年)
・バンド金融センター(中国・上海 2017年)
・イースト・ビーチ・カフェ(英国・リトルハンプトン 2007年)
・パーテルノステル通気口(英国・ロンドン 2002年)
・寺院(日本・鹿児島 ※未着工)
・海南舞台芸術センター(中国 2020年 契約)
・UCBウィンドルシャム(英国・ウィンドルシャム 2021年 契約)
・麻布台ヒルズ / 低層部(日本・東京 2023年秋オープン予定)
・リトル・アイランド(米国・ニューヨーク 2021年)
・サウザンド・ツリーズ(中国・上海 2021年)
・コール・ドロップス・ヤード(ロンドン 2018年)
・ツァイツ・アフリカ現代美術館(南アフリカ・ケープタウン 2017年)
・ボンベイ・サファイア蒸留所(英国・ハンプシャー 2014年)
・パシフィック・プレイス(香港 2015年 改装)
・パーナム・ハウス(英国・ドーセット 2020年 契約)
・ブロード・マーシュ(英国・ノッティンガム 2020年 契約)
・スパン(2007年 製造開始、マジス)
・拡張する家具 シリーズ(2014年 製造開始)
・クリスマスカード(1994-2010年)
セクション1「ひとつになる」
小さなパーツが組み合わさって全体像を創出しているプロジェクトを紹介。
・上海万博英国館(中国・上海 2010年)
・ロンドン・オリンピック聖火台(英国・ロンドン 2012年)
・新ルートマスター(市バス)(英国・ロンドン 2012年)
・ツリー・オブ・ツリーズ(英国・ロンドン 2022年)
参考:「種の聖殿」の建築についてトーマス・ヘザウィック氏がプレゼンテーションしている2011年の動画
#トーマス・ヘザウィック:「種の聖殿」の建築 / TEDに登壇した際のプレゼンテーション動画(2011/05/18)
2012年 ロンドンオリンピック・パラリンピック 聖火台をデザイン
11年前にロンドンで開催されたオリンピック・パラリンピックの聖火台を、ヘザウィック・スタジオがデザインしています。
聖火台は、参加した国と地域の名が刻まれた204枚の花びら型のブロンズ製パーツからなり、そのひとつひとつに火が灯されました。「小さなものが集まり大きなものをつくりあげる」というスタジオの理念があらわれているデザインです。
大会終了後は、聖火の炎に耐えた「花びら」が参加国・地域ごとに贈られたとのこと。
セクション2「みんなとつながる」
ここでは、一体感や自然な光や空気とのつながりを生み出すプロジェクトを紹介しています。
・グーグル・ベイ・ビュー(米国・カリフォルニア州マウンテン・ビュー 2022年)
・シンガポール南洋理工大学 ラーニング・ハブ(シンガポール 2015年)
・マギーズ・ヨークシャー(英国・リーズ 2020年)
・エアロ(2021年)
セクション3「彫刻的空間を体感する」
空間のためにデザインされた、彫刻のようなプロダクトにスポットをあて、まとめられています。
・ヴェッセル(米国・ニューヨーク 2019年)
・バンド金融センター(中国・上海 2017年)
・イースト・ビーチ・カフェ(英国・リトルハンプトン 2007年)
・パーテルノステル通気口(英国・ロンドン 2002年)
・寺院(日本・鹿児島 ※未着工)
・海南舞台芸術センター(中国 2020年 契約)
・UCBウィンドルシャム(英国・ウィンドルシャム 2021年 契約)
※上海の〈The Bund Finance Center / 外灘金融センター〉は、フォスター アンド パートナーズ(Foster + Partners)とヘザウィック・スタジオの共同で設計
用途に合わせ眺望を変化させる可動式ファサード、フォスター アンド パートナーズとヘザウィック・スタジオが設計した〈外灘金融センター〉中国
セクション4「都市空間で自然を感じる」
都市環境に緑や自然を取り入れたデザインを紹介。
・麻布台ヒルズ / 低層部(日本・東京 2023年秋オープン予定)
・リトル・アイランド(米国・ニューヨーク 2021年)
・サウザンド・ツリーズ(中国・上海 2021年)
セクション5「記憶を未来へつなげる」
元の建物や土地の記憶を継承しつつ、新たな機能と役割をもたせて再生したコンバージョン・リノベーション、6つの事例です。
・コール・ドロップス・ヤード(ロンドン 2018年)
・ツァイツ・アフリカ現代美術館(南アフリカ・ケープタウン 2017年)
・ボンベイ・サファイア蒸留所(英国・ハンプシャー 2014年)
・パシフィック・プレイス(香港 2015年 改装)
・パーナム・ハウス(英国・ドーセット 2020年 契約)
・ブロード・マーシュ(英国・ノッティンガム 2020年 契約)
セクション6「遊ぶ、使う」
最後のセクションでは、”遊び心”のあるプロジェクト / プロダクトなどを紹介。商品化されている家具〈スパン〉に腰を下ろし、”座り心地”を楽しみながら映像資料を視聴できるスペースも最後に用意されています。
・スパン(2007年 製造開始)
・拡張する家具 シリーズ(2014年 製造開始)
・クリスマスカード(1994-2010年)
トーマス・ヘザウィック氏の原点を知る、プライベートな展示
セクション6の〈スパン〉や〈拡張する家具〉シリーズと共に、クリアケースに収められた「クリスマスカード」の展示は、それが何であるかを知らずに見ると、違和感を覚える人も多いことでしょう。ハンドメイドのそれは、ヘザウィック・スタジオから商品化されたものではなく、トーマス・ヘザウィック氏が手ずからつくり、母親に贈っていたカードです。
上の画の左下に写っている木製の小さな木箱もクリスマスカードで、金属とワイヤーが仕込まれた2003年の作「持ち上がる切手」です。
1994年から2010年にかけて郵便で送られ、大事に保管されていたプライベートなカードが、トーマス・ヘザウィック氏のものづくりの原点を示すものとして今回、特別に展示され、本展の最後を飾ります。
Photo & Reported by Naoko Endo & Jun Kato
本展開催にあたってのトーマス・ヘザウィック氏のコメント
「この30年間、私と私のチームは、私たちの生活をより有意義で楽しいものにするために、インパクトがあり、親しみやすいプロジェクトを情熱的につくろうとしてきました。デザイン思考とクラフツマンシップに対する尊敬の念が人一倍強い日本で、このような膨大な作品を展示することができるのは、とてもエキサイティングなことです。来場してくれた皆さんには、自分の感情が尊重されただけでなく、私たちの思考や魅力に欠かせない要素であったと感じて帰っていただければと思います。」(ヘザウィック・スタジオ 公式プレスリリースより)
片岡真実(森美術館館長)コメント:
「”建築の真のスケールを美術館で体験することは容易ではありません。今回の展覧会”Building Soulfulness”では、6つの異なる視点(セクション)を提供することで、ヘザウィック・スタジオのデザインの本質的な哲学と精神を紹介する方法を探しました。ヘザウィック・スタジオがデザインしたセットと、東京シティビューの展望台から見える壮大な東京の街並みは、見る人の鑑賞体験を大いに盛り上げてくれることでしょう。本展が、訪れた人々の心に響くことを心から願っています。」
「へザウィック・スタジオ展:共感する建築」開催概要
会期:2023年3月17日(金)~6月4日(日) ※会期中無休
開館時間:10:00-22:00(最終入館 21:00)
会場:東京シティビュー
所在地:東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー52階(Google Map)
平日料金:
一般 2,000円(1,800円)
学生(高校・大学生)1,400円(1,300円)
子供(4歳~中学生)800円(700円)
シニア(65歳以上)1,700円(1,500円)
土・日曜・休日料金:
一般 2,200円(2,000円)
学生(高校・大学生)1,500円(1,400円)
子供(4歳~中学生)900円(800円)
シニア(65歳以上)1,900円(1,700円)
※専用オンラインサイトでのチケット購入で( )料金が適用される
※セット券など各種割引については森美術館ウェブサイトを参照
専用オンラインサイト
https://visit.mam-tcv-macg-hills.com/
森美術館ウェブサイト
https://www.mori.art.museum/jp/