CULTURE

遠藤克彦著『黒い直方体と交錯するパッサージュ 大阪中之島美術館 建築ドキュメント 学芸員・行政担当・コンペ審査員・構造家・建築家の証言』

公共建築と建築家の新しい在り方を示唆する1冊

CULTURE2023.09.24

上の外観写真 撮影:上田 宏

本書は、2022年2月2日に大阪・中之島に開館した〈大阪中之島美術館〉の設計者が選出され、オープンするまでを追ったドキュメントです。
同美術館は、2022年度JIA日本建築大賞を受賞(公益財団法人日本建築家協会主催)したほか、開館初年に開催した3つの企画展の来場者数10万人を超えなど、高い人気を誇ります(2022年には日経BP『日経トレンディ』が選ぶヒット商品ランキングの29位に美術館としてランクイン / 詳細はこちら)。

美術館構想から約40年という期間を経て、関西最大級の美術館として開館した大阪中之島美術館。この間、昭和、平成、令和と時代が年号が、日本の社会もさまざまな移り変わりがありました。大阪中之島美術館は、その多様な変化の波を乗り越えて開館を果たした公共建築の1つとみることができます。

例えば、建物のデザインを決める公募の要項が発表される前年には、建て替えが決まり、2012年実施の国際デザイン・コンクールで選出されていた新国立競技場の最優秀案(サハ・ハディド・アーキテクツ案)への人々の関心がにわかに高まり、社会問題となっていました(2015年7月にザハ案は白紙撤回される)。

これらの情勢を背景に、行政側(大阪市)は、徹底した公平性と透明性を貫くため、プロポーザルではなく、コンペティション方式で設計案を選定することを2016年8月に公告。その結果、大手ゼネコンや建築事務所をおさえ、選ばれたのが、当時スタッフ5名という規模だった遠藤克彦建築研究所(代表;遠藤克彦氏)でした。

参考リンク
大阪市「(仮称)大阪新美術館」の公募型設計競技について」
https://www.city.osaka.lg.jp/toshiseibi/page/0000453729.html

公共建築は、誰のものなのか。
すぐれた公共建築は、どういうものか。
コンペで勝つために設計者は「募集要項」をどのように読めばいいのか。
そして「建築家の表現」と「公共の要望」を共生させるにはどうすればいいのか?

本書は、当時の建築業界で話題となった”異例の選出”により、”異彩を放つ黒い箱”が誕生するまでの軌跡を、発注側・選ぶ側・使う側・つくる側という違う立場からの証言でたどっていきます。
コンペ(公募型設計競技)の実施要項や、さまざまな立場で美術館建設に携わった関係者9名のインタビューも併載。公共建築と建築家の新しい在り方を示唆する1冊です。

大阪中之島美術館(建設中)

本書中面より、建設中の〈大阪中之島美術館〉 撮影:上田 宏

目次

※印:大阪中之島美術館建築プロジェクト当時のもの

はじめに
遠藤克彦(建築家・遠藤克彦建築研究所代表取締役)

黒いシンプルな直方体の中に複雑な立体パッサージュを計画すること、そこに現代性を表現したのです ——遠藤克彦

遠藤克彦著『黒い直方体と交錯するパッサージュ』

本書 中面

徹底した公平性と透明性を貫いて完成した美術館 ——菅谷富夫(大阪中之島美術館館長・大阪中之島美術館建設準備室室長※)

プロポーザルではなくコンペにした理由、過去の実績よりも未来の可能性に賭けたかった ——洞 正寛(大阪市行政担当者・大阪市経済戦略局文化部新美術館整備担当課長※)

つかいにくい美術館にはさせない。デザインと機能の拮抗、審査委員長として ——山梨俊夫(美術史家・国立国際美術館館長※・大阪中之島美術館審査評価会議委員長※)

遠藤克彦著『黒い直方体と交錯するパッサージュ』

本書 中面

大阪のことをよく知らないことがいい方向に作用した遠藤案 ——嘉名光市(都市計画家・大阪公立大学大学院工学研究科都市系専攻教授・大阪中之島美術館審査評価会議委員※)

きびしい参加条件を外すことが、ぼくが審査員を受ける条件でした ——竹山 聖(建築家・設計組織アモルフ代表取締役・大阪中之島美術館審査評価会議委員※)

遠藤克彦著『黒い直方体と交錯するパッサージュ』

本書 中面

建築家のコンセプトをかたちにする慎重かつ必死な構造家の仕事 ——佐藤 淳(構造家・佐藤淳構造設計事務所技術顧問・東京大学大学院新領域創成科学研究科准教授)

要項が求めていることを、いかにかたちにするか、という戦略 ——大井鉄也(建築家・遠藤克彦建築研究所元スタッフ・大井鉄也建築設計事務所主宰・国土館大学理工学部理工学科准教授)

建物で街が変わることを実感できた貴重な体験 ——外﨑晃洋(遠藤克彦建築研究所設計室主幹・大阪中之島美術館意匠担当主任)

建築が発揮できるであろう性質は、アリストテレスの時代から変わっていない
こういう基本的な建築のもっている性質をうまく活かすことが重要なのです ——原 広司(建築家・東京大学名誉教授・原広司+アトリエ・ファイ建築研究所主宰)

遠藤克彦著『黒い直方体と交錯するパッサージュ』

本書 中面

大阪中之島美術館

撮影:上田 宏

著者プロフィール

遠藤克彦(えんどう・かつひこ)
建築家。遠藤克彦建築研究所代表取締役。
国立大学法人茨城大学大学院 理工学研究科都市システム工学専攻 教授。
1970年横浜市生まれ。武蔵工業大学(現東京都市大学)を経て、1995年東京大学大学院 工学系研究科建築学専攻修士課程 修了(原広司研究室)、1997年同大学院博士課程在学中に東京事務所を開設。
2016年に公示された「(仮称)大阪新美術館(現・大阪中之島美術館)公募型設計競技」にて最優秀案選定(2017年)。2017年に大阪事務所を開設。

大阪中之島美術館

撮影:上田 宏

大阪中之島美術館

撮影:上田 宏

書名
黒い直方体と交錯するパッサージュ
大阪中之島美術館 建築ドキュメント
学芸員・行政担当・コンペ審査員・構造家・建築家の証言
著者:遠藤克彦
アートディレクション:シルシ
判型:A5
製本:並製
総頁数:224頁
ISBN:978-4-86152-887-3 C0052
定価:3,080円(本体2,800円)
発売:2023年8月
版元:青幻舎

遠藤克彦著『黒い直方体と交錯するパッサージュ』

遠藤克彦著『黒い直方体と交錯するパッサージュ』表紙

書籍詳細
https://www.seigensha.com/books/978-4-86152-887-3/

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