セイコーウオッチの新たな情報発信拠点となる〈Seiko Seed〉が、JR原宿駅前の〈WITH HARAJUKU(ウィズ原宿)〉1階に10月20日にオープンしました。
19日にプレス内覧会が開催され、セイコーウオッチの関係者と社外クリエイターが出席して、社内プロジェクトから発しているという本展の経緯と、作品の概要などが説明されました。『TECTURE MAG』編集部ではこれを取材しています(本稿の主な会場写真はセイコーウオッチ提供、動画は編集部にて撮影)。
施設名称にある「Seed」とは、「Seiko Experience Engineering and Design」の略で、エンジニアリングとデザインによって腕時計の知られざるさまざまな楽しさを体験する場となることを目指したもの。それらの情報発信を行い、未来へ向けてさまざまな”種”を撒く場でもあります。
〈Seiko Seed〉のこけら落としは、企画展「からくりの森」。10月20日に始まり、11月20日まで開催されます。
「からくりの森」とは、サステナブルな未来のために時計ができることとはなにかを訴求するために、セイコーウオッチの社内で約1年前に発足したプロジェクト名からとられたものです。
本展に展示する作品制作にあたり、セイコーウオッチでは社外から2組のクリエイターを招聘。アーティストのクワクボリョウタ氏と、武井祥平氏が創設したエンジニア集団のnomena(ノメナ)です。武井氏が率いるnomenaがインスタレーション「時計の捨象」#01、#02、#03の企画制作を、クワクボ氏は暗室で鑑賞するインスタレーション「時計仕掛けの森」のアドバイザーを担当しました。
合わせて4つのインスタレーション作品は、ふだんは人々の目に触れることのない腕時計の内部機構(ムーブメント)や、聴覚ハンディキャップがある人のためにセイコーウオッチが開発し、長年にわたり生産してきた音声デジタルウオッチのしられざる高性能を活かしたもの。いずれの作品も、”時を刻む”という本来の機能を超えた作品となって披露されました。
インスタレーション「時計の捨象」
企画制作:nomena
共同制作:セイコーウオッチ
作品概要:自在で滑らかな針の動きを実現した、SEIKOの腕時計・メトロノームウオッチの内部機構(ムーブメント)と、音で時間を知らせる音声デジタルウオッチを活用し、3つの作品が制作された。
作品タイトルにある”捨象”とは、ある物事の特徴のうち一部を残して他を捨てることにより、その物事の本質を探ろうとする思考方法を指している。
インスタレーション「時計仕掛けの森」
企画制作:セイコーウオッチ
外部アドバイザー:クワクボリョウタ
作品概要:小さな時計に秘められた、ユニークな内部機構が生み出す動きを、光と影で大きく映し出す「影絵」の作品。楽しみながら時の存在と腕時計の可能性を提示した。鑑賞は暗室にて。
腕時計は人々にとって最も身近な「機械」の1つですが、2つの針が動く仕組みや音が鳴るといった裏側の構造は、文字盤の下に格納されています。SEIKOの高度な技術が凝縮されているこの小さな機械仕掛けが、本展では”主役”を務めます。
例えば、インスタレーション「時計の捨象 #02」は、メトロノームウオッチのムーブメントがそのままむき出しとなった状態で、60個が横一列に展示されています。
針を動かすパーツの先には偏光フィルムを貼った2枚の羽根が取り付けられ、nomenaのプログラミング(振り付け)によって整然とした動きをみせ、まるでダンスを踊っているかのよう。
「時計の捨象 #02」Movie(注. 本作品は無音 / 動画内の再生音は、暗室内でのインスタレーション「時計仕掛けの森」と、本画面右奥にあるインスタレーション「時計の捨象 #03」から発せられている)
フロアの中央に展示された「時計の捨象 #01」では、水盤に浮かんだ小さな時計たちが優雅な泳ぎを見せてくれます。動力源は前述の「時計の捨象 #02」と同じく、メトロノームウオッチのムーブメントです。2本の針の先に取り付けられた小さなフィンが左右に水をかいて、水面を静かに移動します。
nomenaを率いる武井氏は記者発表会の席上、今回のプロジェクトについて次のように語っています。
「ふだんは大きなスケールでモノをつくることが多いので、今回のような小さなスケール感はとても新鮮だった。腕時計のムーブメントという、こんなに小さなモノが、ブルブルと力強い動きをすることに驚いた。#01と#02は、この特性を活かした作品となっています」
「時計の捨象 #01」Movie
「からくりの森」には、できれば静寂の中で鑑賞したい作品があります。「時計の捨象 #03」は、視覚のハンディキャップをもつ人のために、セイコーウオッチが長年にわたり製造してきた、音で時を知らせる音声デジタルウオッチの機能を活かした作品です。
インクルーシブな腕時計によって会場全体に降り注ぐ雨を表現しており、横一列に7つ並んだ音声デジタルウオッチの内蔵スピーカーからそれぞれの雨音を発し、雨音にあわせて上から光の粒が落ちてきます。
「時計の捨象」Movie
nomenaによるこれらの作品は「”時間を刻む”という時計の本分とも言える特徴をあえて捨てた」もので、時計であることを忘れて、あえて時を刻まないことを選択しました。そうして「それでもそこに残るもの。その佇まいやふるまいから、セイコーの”ものづくり”の姿勢と哲学を感じとれる作品」を、セイコーウオッチと共につくりあげています。
音声デジタルウオッチの高い再現性能は、本展の動線として最初に鑑賞する作品、クワクボリョウタ氏がアドバイザーを務めた影絵のインスタレーション「時計仕掛けの森」でも活躍しています。
展示空間は暗幕で覆われた”からくりの森”。マンガのコマ割りのようなカットで、棲んでいる動物たちが1シーンず——ニワトリ、キツツキ、鹿、リス、フクロウなどが1匹・1羽ずつ投影されて登場します。
暗室の外に展示された「時計の捨象」に比べて、こちらの作品は「時計仕掛けの森」というタイトルの通り、ムーブメントにあえてアナログな動きをつけた映像表現となっています。
朝、昼、晩と時間帯が推移し、コケッコッコーの鬨の声、キツツキが樹を嘴で叩く音、ひぐらし、フクロウの鳴き声があわせて”森”の中にこだまします。これらの音声は、天井から吊るされた音声デジタルウオッチの内蔵スピーカーから流れているというから驚きです。
配置も、ランダムにブラ下げているようにみえて、鑑賞用に置かれた椅子に人が座ったときに耳に入る音を想定して、立体的な強弱をつけたレイアウトになっているとのこと。
〈Seiko Seed〉を開設したセイコーウオッチが属するセイコーグループは、1881年(明治14)に服部時計店として創業。時計の修繕と販売に始まり、やがて掛時計、置時計、腕時計と製造にも着手。約140年という長い歴史の中で数々のプロダクトを生み出してきました。今後は、技術とデザインを切り口とした本展のような企画展の開催や、各種イベントを開催し、セイコーグループ全体で掲げるスローガン「時代とハートを動かすセイコー」を人々に提示し、体験できるような場となることを目指しています。
会場:Seiko Seed(セイコー シード)
所在地:東京都渋谷区神宮前1-14-30 WITH HARAJUKU 1階(Google Map)
会期:2022年10月20日(木)〜11月20日(日)※当初の予定では6日までのところ、好評につき会期延長
開場時間:11:00-20:00(入場受付は19:45まで)
主催:セイコーウオッチ
※「DESIGNART TOKYO 2022」公式参加プログラム
「からくりの森」特設サイト
https://www.seiko-seed.com/karakurinomori2022/