2023年10月30日初掲、2024年9月15日 山田紗子建築設計事務所による〈AWT BAR〉動画をシェア
世界最⾼峰の近現代美術のアートフェア、アートバーゼル(Art Basel)と提携し、⽇本の現代アートの創造性と多様性を国内外に紹介する国際アートイベント「アートウィーク東京(Art Week Tokyo: AWT)」が、都内各所にて11⽉2⽇から5⽇まで、4⽇間にわたって開催されます(以下、作家名など一部で敬称略)。
今年の「アートウィーク東京」は、都内50の美術館、インスティテューション、ギャラリーが参加する、アートの一大イベントです。
会期中は各会場をつなぐ無料のシャトルバス「AWT BUS」も特別に運行され、誰もが気軽に東京のダイナミックなアートシーンやカルチャーを体験することができる多彩なプログラムを通じて、東京のアートのエコシステムの成⻑を促進することを⽬指しています。
すべての展示作品を「買える」展覧会「AWT FOCUS」をはじめ、アートと建築と⾷のコラボレーションを五感で味わうコミュニティスペース「AWT BAR」もオープン。この2会場の空間デザインを、建築家の山田紗子氏が率いる事務所が担当しているのも注目です。
参加ギャラリーからのコメント
アートウィーク東京は昨年、美術館などの公共機関とコマーシャルギャラリーの連動や、VIPから⼀般向けのさまざまなプログラムによって、国内はもとより海外からも多くの美術関係者やコレクターを呼び込み、コロナ禍でガラパゴス化しつつあった⽇本のアートシーンが再び開港するひとつの重要なターニングポイントになりました。
⽇本のアートワールドが益々に有機的に機能し、国内外のオーディエンスにとって魅⼒的なプラットフォームとなるために⾮常に効果的なイベントだと思うので、今年も期待して参加します。(KOTARO NUKAGA / 額賀古太郎)
「アートウィーク東京」は従来のアートフェアとは違った枠組みで、街全体を舞台に東京に点在するアートのプログラムをつないでいくという、⼤変興味深い試みとして当初から注⽬していました。本来、アートフェアの⼩さな仮設空間の中でのプレゼンテーションよりも、拠点のギャラリー空間を使ったプレゼンテーションを⾒ていただくことが、ギャラリストとアーティストにとってどれだけ重要なことか、アートウィーク東京を通して再確認できました。
今年は展覧会プログラムも加わってさらにパワーアップする「アートウィーク東京」に⼤いに期待しつつ、私たち⾃⾝のプログラムにも全⼒で取り組んでいく考えです。(WAITINGROOM / 芦川朋⼦)
今年の「アートウィーク東京」の目玉ともいえるのが、虎ノ門2丁目の大倉集古館を会場とする展覧会「AWT FOCUS」です。
「平衡世界 日本のアート、戦後から今日まで」と題して、美術史的観点から選定された作品が一堂に会します。戦後に具体美術協会(具体)を結成するなど、抽象画家として活躍した吉原治良(よしはら じろう|1905-1972)といった日本美術史上の重要な作家から、今後の活躍が期待される新進の若手作家の作品まで、合計105点の作品を12のセクションに分けて展示。同展のアーティスティックディレクターを、滋賀県立美術館ディレクターで館長の保坂健二朗氏が務めています。
展覧会タイトルにある「平衡」とは、物質と非物質、デザインと絵画など、2つあるいはそれ以上の項の間に緊張感をもったバランスを求める姿勢を表しています。一見して相反する概念の間に「バランス(平衡)」を求めてきたからこそ、戦後から現代に至るまで日本では数多くのユニークな表現が誕生してきたとする保坂氏の監修のもと、ジャンルレス・非時系列の展示構成で多彩な作品が展開します。
注目したいのは、磯崎 新作品。群馬県渋川市にある原美術館 ARCのハラ・ミュージアム・アーク 觀海庵にて2019年に開催された企画展「磯崎新 觀海庵 縁起」に出展された作品が登場します。
12のセクションタイトル / 出展作家一覧(64作家)
01.物質と非物質 / 黒田辰秋、倉俣史朗、小林正人
02.アーツ・オア・クラフツ / 山口長男、植松永次、大庭大介、桑田卓郎、高畠依子、石塚源太、上田勇児、浜名一憲
03.書の場 / 井上有一、比田井南谷、大西 茂、吉増剛造
04.線の抽象化 / 八田 豊、前川 強、堀 浩哉
05.色の解放 / 大竹伸朗、杉本博司、0JUN、小林正人、石川順惠
06.空間の生成 / 堀内正和、今井祝雄、八木一夫、磯崎 新
07.自然と人工 / 大辻清司、鳥海青児、斎藤義重、菅木志雄、小川待子、元永定正、李禹煥、金 光男
08.木と金属 / 勅使河原蒼風、長谷川寛示、戸谷成雄、高橋 銑
09.デザインと絵画 / 吉原治良、伊藤久三郎、菅井 汲、岡本信治郎、杉全直、OJUN、三輪美津子、宮林妃奈子、南川史門
10.次元の加減 / 伊藤義彦、中西夏之、会田 誠、篠田太郎、沖 潤子
11.男のいない抽象 / 桂 ゆき、芥川(間所)紗織、福島秀子、山崎つる子、田中敦子、宮本和子
12.ポストヒューマンの時代に / 青木陵子、モリマサト、松下真理子、川内理香子、楊 博、鵜飼結一朗、大竹利絵子
「AWT FOCUS」では、美術館の常設展示以外では目にする機会が少なくなっている故人の作家の作品や、本展が初公開となる新作まで、64作家による105の作品がお目見え。作品販売価格の総額は7億円を越えます。日本の美術史についても総覧できる充実の内容となっています。
「これだけの数のミュージアムピース級の作品がアベイラブル(available、購入可能)として出てきたのは驚くべきこと」と保坂氏が語っているようなアート作品を「自分でも購入できる」という目で眺めることで、アートコレクター以外の来場者にも美術品を身近なものとして感じてほしいというのが主催者の狙いの1つです。
「AWT FOCUS」アーティスティックディレクター
保坂健二朗(ほさか けんじろう)氏プロフィール
1976年生まれ。慶應義塾大学大学院修士課程修了後、2000年から2020年まで東京国立近代美術館(MOMAT)に学芸員として勤務、2021年に滋賀県立美術館ディレクター(館長)に就任、現職。MOMATで企画・担当した主な展覧会に「建築がうまれるとき ペーター・メルクリと青木淳」「エモーショナル・ドローイング」(以上、2008年)、「建築はどこにあるの? 7つのインスタレーション」(2010年)、「イケムラレイコ うつりゆくもの」(2011年)、「フランシス・ベーコン展」(2013年)、「現代美術のハードコアはじつは世界の宝である ヤゲオ財団コレクションより」(2014年)、「声ノマ全身詩人、吉増剛造展」(2016年)、「日本の家 1945年以降の建築と暮らし」 (2017年)、「隈研吾展 新しい公共性をつくるためのネコの5原則」(2021年)などがある。
「DoubleVision: Contemporary Art from Japan」(2012年、モスクワ市近代美術館ほか)、「Logical Emotion: Contemporary Art from J apan」(2014年、ハウス・コンストルクティヴほか)、「The Japanese House: Ar chitecture and Life after 1945」イタリア国立21世紀美術館(2016年、ローマ)など、海外の美術館での企画にも携わる。
公益財団法人大林財団「都市のヴィジョン」推薦選考委員、文化庁文化審議会文化経済部会アート振興ワーキンググループ専門委員なども務める。
「AWT FOCUS」の会場となる大倉集古館は、日本近代を代表する建築家で建築史家でもあった伊東忠太(1867-1964)が設計し、日本初の私立美術館として1927年(昭和2)に開館。1998年には国の登録有形文化財に指定され、さらに2019年に建築家の谷口吉生(1937-)が率いる谷口建築設計事務所により約5年半におよぶ大規模改修工事が行われ、リニューアルオープンしています。
柱に龍や獅子があしらわれるなど独創的な中国古典様式の空間に着想を得て、1984年生まれの建築家・山田紗⼦が会場をデザインするのも見どころの1つとなります。
会期:11月2日(木)〜5日(日)
開場時間:10:00‒18:00(最終入場17:30)
会場:大倉集古館
所在地:東京都港区虎ノ門2-10-3(Google Map)
※「AWT BUS」停留番号:C1、D7、G3
主催:アートウィーク東京、一般社団法人コンテンポラリーアートプラットフォーム
特別協力:公益財団法人大倉文化財団・大倉集古館
入場料:下記ウェブサイト参照
※学生(生徒手帳などの提示要)・子どもは入場無料
※障がい者手帳の提示で本人と介助者1名まで無料
※大倉集古館ミュージアムパスポート、オークラ東京のレストランセット鑑賞券、ぐるっとパスの提示で入場無料
※同日に限り、チケットの提示で再入場可
※会期中、⼤倉集古館の地下1階にて有料の託児サービスを提供(定員あり・要予約、1回最大3時間まで利用可能、サービス提供時間:10:00‒17:45)
詳細:
https://www.artweektokyo.com/focus/
昨年に引き続き、「アートウィーク東京」の会期中は南青山の住宅街に「AWT BAR」がオープン。こちらの空間デザインも山田紗子建築設計事務所が担当しています。
「ものの外側やその間には空気の流れや滞りがある」と考える⼭⽥氏は、バー空間にみられるもののアウトラインを抽出し、グラデーション塗装を施した直径13ミリのスチールパイプを⽤いてそれらを可視化しました。宙に浮かぶラインの内と外を、⼈々は⾃由に⾏き交うことができます。「AWT BAR」は、バーとしての役割を超えた社交場として機能します。
「アートウィーク東京」の開催に先立ち開催された「AWT BAR」のメディア内覧会を『TECTURE MAG』では取材。今回の会場デザインについて、山田氏は次のように語りました。
「たとえば住宅には床と屋根があり、その間に家具を配置するというふうに、空間を面(めん)で捉えているのですが、今回は建築を線(せん)で捉えて、最小限のアウトラインだけで空間をつくることはできないかと考えました。
通常のバー空間には、カウンターやテーブル、棚といったモノが配置され、それらのインテリアが攻めぎあっている空間を含めて、訪れた人はバーでのひとときを楽しんでいると思います。それらの輪郭だけを取り出して、「AWT BAR」の空間をつくっています。
具体的には、実際のバー空間のインテリアや、人が楽しむ空間を構成しているモノの輪郭を、モノの密度のようなものを意識しながら、立体的に”お絵描き”するようにしてトレースしていきました。くるくるとした形状など、遊びの要素も混ぜ込みながら。色のグラデーションは、このへんは緑のかたまり、こちらは青のかたまりといった区切りはなんとなくつけていますが、それらも色として固まってるようで、そうでないような流動性をもたせています。スチールパイプに施した色は、ごくシンプルに市販の塗装剤で、スプレーで吹き付けています。パイプの元の素材感が残っているので、メタリックな色に見えています。」(下に続く)
「鉄を3次元的に、しかもきれいに曲げるには、実は高度な技術が必要です。今回は、別の仕事でパビリオンをつくったことがある、九州・小倉にある鉄専門の製造業者さんに『線で空間をつくりたい』と相談して、取り組んでもらいました。小倉の工場で一度、すべてを組み立てています。抜け感などを私たちと一緒に確認し、調整を加えた完成形を、いったんバラして、部分的にカットして、南青山の会場に搬入しました。再び組み立てるのには3日ほどかかっています。
できあがってみると、抜け感の強弱があったり、でも別の角度から見るとまた違う場所に見えたりします。内部を進んでいくと、違うかたちの場所が次々と立ち上がってくるという、線だけなんだけれども、とても流動的な空間になっています。」(2023年10月25日 会場にて、山田氏談を要約)
山田紗子(やまだ すずこ)氏プロフィール
1984年東京都生まれ。大学在学時にランドスケープデザインを学び、藤本壮介建築設計事務所で設計スタッフとして勤務の後、東京芸術大学大学院に進学。在学時に東京都美術館主催「Arts&Life:生きるための家」展で最優秀賞を受賞し、原寸大の住宅作品を展示する。2013年に独立、山田紗子建築設計事務所を主宰。
これまでの主なプロジェクトとして、屋内外を横断する無数の構造材によって一体の住環境とした〈daita2019〉、かたちや色彩の散らばりから枠(わく)にとらわれない生活を提案した〈miyazaki〉などの住宅作品がある。2025年日本国際博覧会(2025年大阪・関西万博)では、プロポーザルで設計者を公募した会場内のトイレ、休憩所、ギャラリーなど20施設のうち、休憩施設の1つ(休憩所3)を設計する。suzuko yamada architects Website
https://suzukoyamada.com/
#suzuko yamada architects「AWT BAR」(2024/04/15)
今年の「AWT BAR」では、初めてフードメニューが提供されます。ミシュラン1つ星のフレンチレストラン・Sincere(シンシア)のオーナーシェフを務める⽯井真介氏が担当。さらには「アートウィーク東京」に参加しているギャラリーなどで展覧会を開催するアーティスト、⼤巻伸嗣、⼩林正⼈、三宅砂織の3氏とコラボレーションしたオリジナルカクテルも用意されています(3種とも1杯1,000円)。
「AWT BAR」開催概要
会期:2023年11⽉2⽇(⽊)〜5⽇(⽇)
開場時間:10:00‒24:00(最終⼊場23:30)
会場:emergence aoyama complex
所在地:東京都港区南⻘⼭5丁目4-30(Google Map)
※「AWT BUS」停留番号:E5、F5、G1
⼊場料:無料(ただし、フードおよびドリンクは各種有料)
国際的に活躍するキュレーターをゲストに迎え、AWTに参加したギャラリーに所属する作家の映像作品で構成されたプログラムを上映する、「AWT VIDEO」も昨年に引き続き開催されます。
今年は、哲学と歴史をバックグラウンドに持つチュス・マルティネスがキュレーションを担当。「ジェンダー」と「⾃然」をテーマにセレクトされた
AWT VIDEO「元始、⼥性は太陽であった」
上映日時:2023年11⽉2⽇(⽊)〜5⽇(⽇)10:00‒18:00
会場:三井住友銀⾏東館 1階 アース・ガーデン
所在地:東京都千代⽥区丸の内1丁目3-2(Google Map)
※「AWT BUS」停留番号:B4、G4
「アートウィーク東京」の観覧で利用したいのが、会期中に限り、7ルートで運行される無料のシャトルバスです。10時から18時まで、約15分おきにバスが巡回。誰でも無料で乗車できます(ルートおよびバス停・最寄り施設の⼀覧は、参加会場で配布される「アートウィーク東京」の2つ折りチラシ、または AWT公式ウェブサイトを参照)。
Aルート:東京の北側エリア
Bルート:皇居から東側のエリア
Cルート:銀座エリアから天王洲まで
Dルート:六本⽊・⿇布エリア中⼼
Eルート:恵⽐寿・⽬⿊エリアから表参道まで
Fルート:表参道・原宿エリアから新宿⽅⾯へ
Gルート:3つのAWT特設会場と六本⽊エリアをつなぐ今年の新ルート
会期中の関連プログラムとして、シンポジウム、キュレーターによるラウンドテーブル(定員に達したため受付終了)、オンライントークシリーズからなる「AWT TALKS」も併催。国内外のアートを巡る⾔説の流れをさまざまな切り⼝で描き出し、人々の理解と学びを促進します。
登壇者:アダム・シムジック(「AWT VIDEO」2022年ゲストキュレーター、アムステルダム市⽴美術館キュレーター・アット・ラージ「ドクメンタ14」(2017年、アテネ・カッセル)芸術監督)、チュス・マルティネス(「AWT VIDEO」2023年ゲストキュレーター、北⻄スイス応⽤科学芸術⼤学附属バーゼル美術インスティテュート ディレクター)、キャロル・インホワ・ルー(盧迎華 / 美術史家、キュレーター、北京インサイドアウト美術館ディレクター、「第8回横浜トリエンナーレ」アーティスティック・ディレクター)、保坂健⼆朗(AWT FOCUS 2023年 アーティスティックディレクター)
モデレーター:アンドリュー・マークル(AWT エディトリアルディレクター)
⽇時:2013年11⽉2⽇(⽊)10:00‒12:30
会場:慶應義塾⼤学 三⽥キャンパス ⻄校舎ホール
所在地:東京都港区三田2丁目15(Google Map)
⾔語:英⽇同時通訳
定員:800名
参加料:無料
参加方法:下記・Peatix案内ページから要申込制
https://www.artweektokyo.com/awt-talks/symposium/
欧文表記:Art Week Tokyo(略称:AWT)
会期(4日間):2023年11月2日(木)〜5日(日)10:00-18:00 ※会場やプログラムにより異なる
会場:都内50の美術館、インスティテューション、ギャラリー、大倉集古館(AWT FOCUS)、「AWT BAR」ほか各プログラム会場
主催:一般社団法人コンテンポラリーアートプラットフォーム
提携:アートバーゼル(Art Basel)
特別協力:文化庁
協賛:SMBCグループ、オークラ東京、ルイナール、Artsy
アートウィーク東京(AWT)公式ウェブサイト
https://www.artweektokyo.com/
※本稿の画像:特記なきものはすべて「アートウィーク東京」PR事務局提供
「アートウィーク東京」概要と開催の経緯
東京における現代アートの創造性と多様性を国内外に発信する年に一度のイベント。文化庁の協力のもと、世界有数のアートフェアである「アートバーゼル」と提携し、一般社団法人コンテンポラリーアートプラットフォームが主催している。
都内の主要アートスペースをつなぐ交通手段を提供し、アートアクティビティの体験機会を創出する「アートウィーク東京モビールプロジェクト」(主催:東京都、アートウィーク東京モビールプロジェクト実行委員会)などを通じて、東京の現代アートを支える環境基盤の形成に努めている。
パンデミック下における2021年に初開催となった「アートウィーク東京」は、訪日外国人観光客の受け入れが始まった2022年に規模を拡大するかたちで開催し、美術館やギャラリーなど51のアートスペースが参加。4日間にわたる会期中、のべ3万2,000人強の来場者を記録した。南青山にオープンした「AWT BAR」は萬代基介建築設計事務所が設計。4名のアーティストとのコラボレーションによるオリジナルカクテルを提供するナイトアウトプログラムを実施。日中、アート鑑賞を楽しんだ人々が、夜に集う憩いの場を提供した。