建築家のザハ・ハディド(1950-2016)およびザハ・ハディド・デザイン(ZAHA HADID DESIGN: ZHD)が手がけてきたプロダクトを紹介する「ZAHA HADID DESIGN 展」が、カリモク家具(本社:愛知県知多郡)の東京における拠点、西麻布の〈Karimoku Commons Tokyo〉にて、10月13日より開催されています。
〈Karimoku Commons Tokyo〉施設概要
家具のショースペースだけでなく、ギャラリーやオフィスといった機能を兼ね備えたハイブリッドなスペースとして、2021年2月にオープン。築37年の既存建物のリノベーションは、建築家の芦沢啓治(芦沢啓治建築設計事務所代表)が手がけた
https://mag.tecture.jp/business/20210129-21298/
ザハの名を冠する展覧会が日本国内で開催されるのは、東京オペラシティ アートギャラリーでの2014年の企画展「ザハ・ハディド(Zaha Hadid)」以来、7年ぶり。当時は、2012年に実施されたコンペティション「新国立競技場基本構想国際デザイン競技」でザハ・ハディド・アーキテクツ(ZAHA HADID ARCHITECTS: ZHA)の案が最優秀賞を獲得した後で、2015年7月に白紙撤回される約半年前。時にアンビルトの女王とも呼ばれたこともあったザハの実作品が、いよいよ日本国内に建てられるという期待が高まる中で、ザハの建築プロジェクトや都市計画、そして彼女がデザインしたプロダクトまで総覧する大規模展でした。
時を経て、期待されたザハ建築は実現せず、彼女自身も2016年3月にこの世を去りました。
本展は、ザハが遺したアイデアの1つをプロダクトとして実現することを目指した、ZHDとカリモク家具とのプロジェクト「SEYUN(セイユン)」の国内初披露の場です。あわせて、ZHDが10年以上にわたって手がけてきたさまざまなプロダクトの一部も展示されます。
『TECTURE MAG』編集部 / TEAM TECTURE MAGでは、10月12日に開催されたプレス内覧会を取材。会場の様子を約30点の写真でお伝えします(クレジット併記の広報画像を除き、会場風景の撮影はTEAM TECTURE MAG)。
ザハのDNAを受け継ぎ、世界観を表現した会場デザイン
ZHDは、彼女がZHAとは別に、2つめの事務所として構えたデザインスタジオです。本展の会場に展示されている、世界的ハイエンドブランドとコラボレーションしたプロダクトや家具、ザハのプロダクトレーベルのほか、インスタレーションや展覧会の会場構成などの空間デザインも手がけています。ザハ亡き後も、実験的かつ独創的なそのデザイン・建築作品で知られた、ザハのDNAを色濃く受け継いでいます。
本展において、プロダクトを展示する巨大なジオラマのような木製テーブルなど、什器は全てZHDによるデザインで(製作はカリモク家具)、ザハの世界観を伝える会場構成となっています。
上の画像、左側の壁に掛けられた作品は、本展のために製作された、ZHDとカリモク家具の新プロジェクト「SEYUN(セイユン)」のイメージとコンセプトを伝える木製レリーフです。マツ材を4層重ねたパネルに、NC(Numerical Control)を駆使して、部分的に斜めの角度で刃を入れて加工するなど、カリモク家具の木工技術の高さを示す造作です。
ZHDによる展示デザインも見どころ
展示会場は大きく2つに分かれ、手前がZHDのプロダクト、奥の空間に、ZHDとカリモク家具のコラボレーションで生み出された、本邦初となる〈SEYUN〉のプロトタイプが展示されています。
その間にある、BVLGARI(ブルガリ)の〈B.zero1 リング〉や、The Ownerのためにデザインしたアイウェア〈X Eyewear〉を展示するアクリル製什器の造形などもお見逃しなく。小さな指輪の展示のために、こんなにも凝った造形が必要なのかと、ZHDのこだわりにただ驚かされます。
見る者に謎をかけるビジュアル
〈SEYUN〉のプロトタイプについて記述する前に、本展のフライヤーのグラフィックについて触れておきます。
ザハが手がけたプロダクトをそれぞれズームで撮影した、計9枚の画を配置したその真ん中を、3本の黒い曲線が交わり、かつ黒く塗りつぶされているというビジュアルで、プロダクトの全容がわかる画は1つもありません。「これはなんだろう?」という疑問からのファーストインパクトを、見る者に否応なしに与えるフライヤーでした。
謎解きは本展の会場にて
本展の開催概要と〈SEYUN〉の国内初披露を伝える、カリモク家具のプレスリリースが発表されたときも、新しく誕生したプロダクトらしきビジュアルは、下の画のようにトリミングされていました。
〈SEYUN〉の国内初展示
ZHDとカリモク家具が初めてタッグを組み、誕生した〈SEYUN〉は、3つの部材で構成された、ザハの独創性が際立つチェアです。
世界初披露は、今夏に中国・上海市で開催されたザハの大回顧展「ZHA Close Up – Work & Research」にて、アームレスタイプのデザインが発表されており、本展ではアーム付きのチェアとダイニングテーブルのプロトタイプも加わって、計3アイテムでのお目見えとなりました。
会場で〈SEYUN〉のプロトタイプを目にしてようやく、フライヤーの「黒い曲線」の謎が解け、フライヤーに使われた9つのプロダクトも、ディテールとマテリアル、実際のサイズも確認することができます。
不思議だらけのファーストインプレッション
〈SEYUN〉の特徴は、3つのパーツが絡み合うようにして1脚の椅子を構成するという、構造と造形の妙に尽きます。驚くべきは、プロトタイプの2タイプともに、背および座面の裏側に留め具がみあたりません。
「いったいどうやって固定され、椅子として成り立っているのか?」
種明かしをすると、見えないところに留め具やダボなどが入っているとのこと。人が座る椅子として、カリモク家具の耐荷重基準もクリアしています。
この「なんだろう?」と思わせるファーストインプレッションは、本展における大事なエッセンスです。写真家の岩本幸一郎氏が制作した、プロダクトよりも鳥の存在が大きい、展覧会のキービジュアルにも反映されています。
キービジュアルに写っている鳥(大型のインコ)は、最初のデザインイメージにつながる、シルバー色で塗装された〈SEYUN〉の背の角につかまって、羽を休めています。
このメタリック塗装仕上げの〈SEYUN〉は、プロジェクト立ち上げ時、ZHDから最初に提示されたデザインに近いといいます。3つのパーツで構成されるプロダクトのデザインコンセプトは変わらぬものの、脚はもっと細く、金属のようなビジュアルだったとのこと。
本展で見られるプロトタイプは、1940年に木工所としてスタートしたカリモク家具が培ってきた木工技術と、ZHDのデザインが融合した造形となっています。
ZHDxKarimoku〈SEYUN〉イメージムービー
開発段階でのシルバー塗装は、カリモク家具としても初の試みで、新たに開発中の塗料を使ってプロトタイプに塗装している様子を撮影した動画を、会場で見ることができます。
発売は来春を予定
本展に展示されているチェア〈SEYUN〉は、ナラ材でつくられました。今回は、ザハおよびZHDならではの造形美と、カリモク家具の技術が融合したかたちとしての訴求から、実物展示では塗装なしのプロトタイプが披露されました。
今後はさらに検討を重ね、DHDのデザイン監修のもとブラッシュアップして、2022年春の発売を目指しています。
「ZAHA HADID DESIGN 展」
会期:2021年10月13日(水)〜12月3日(金)
休業日:不定休(下記URL・予約ページにて案内)
会場:Karimoku Commons Tokyo
所在地:東京都港区西麻布2丁目22-5(Google Map)
営業時間:12:00-18:00
入場料:無料(予約制・施設内と1Fギャラリーの展示内容の説明を希望する場合は要予約 / 開催中の展示は予約なしでも観覧可)
予約ページ:https://commons.karimoku.com/
協力:BVLGARI、Digfuture Pte. Ltd.、LALIQUE ART、ROSENTHAL GMBH、Royal Thai HK (2017) Ltd.、Slamp S.p.A.、TATEOSSIAN LIMITED、United Nude
共催:ZAHA HADID DESIGN、カリモク家具
カリモク家具ウェブサイト・SNS
www.karimoku.com
Instagram @karimoku_official
https://www.instagram.com/karimoku_official/