FEATURE
"Entô" that offers an experience that is nothing but unique here
FEATURE2022.07.26

ないものはない、此処だけの体験がある、ジオホテル〈Entô〉

建築設計とデザインの見どころを、MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIOと日本デザインセンター三澤デザイン研究室の寄稿から紐解く

ジオホテル〈Entô(エントウ)〉TOPICS

CULTURE2020.12.15

「ないものはない」という新しい贅沢を提案するジオパーク×ホテル〈Entô〉

MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO+日本デザインセンターが参画して2021年夏開業
COMPETITION & EVENT2021.06.14

”ないものはない”ジオホテル〈Entô〉関係者トークイベント

隠岐ジオパークに今夏開業、設計者の原田真宏氏、デザイナーの三澤遥氏らが登壇

ユネスコに認証されたジオパークの"泊まれる拠点"

「ユネスコ世界ジオパーク」とは、自然と人間との共生および持続可能な開発を実現することを目的とした、ユネスコ(United Nations Educational, Scientific and Cultural Organization U.N.E.S.C.O. / 国際連合教育科学文化機関)の認証制度の1つで、日本国内では北海道洞爺湖有珠山、伊豆、阿蘇など9カ所が認定されています。

隠岐諸島 海士町 計画地広域マップ

広域エリアマップ S=1/35,000(左側:西ノ島、右側:中ノ島 / 中央付近が計画地)
画像提供:MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO

このうちの1つ、島根県・隠岐諸島にある「隠岐ユネスコ世界ジオパーク」は、島前カルデラという特異な地形を有する、独自の地質と生態系に恵まれたジオパークです。
諸島の1つである海士町(あまちょう)に、昨年の2021年7月に、離島観光の拠点となる施設〈Entô(エントウ)〉がグランドオープンしています。

島根県隠岐諸島ジオパーク×ホテル「Entô(エントウ)」

島根県隠岐諸島海士町が掲げるスローガン(プロデュース・デザイン:梅原真デザイン事務所)

日本語にはない記号(サーカムフレックス)を正式名称として使っている「Entô」。カナをふるなら「エントウ」、漢字をあてると「遠島」からのネーミングです。かつての隠岐の島が、後鳥羽上皇や後醍醐天皇といった貴人の配流地だった歴史性からとられています。

〈Entô〉サイン(デザイン:三澤デザイン研究室) Photo by Kentauros Yasunaga

宿泊施設としての歴史は、1971年に国民宿舎として開業した「緑水園」まで遡ります。1994年に本館を増築して「マリンポートホテル海士」に改称。本館と別館(旧緑水園)の2館で営業してきましたが、本館の一部を改修(リノベーション)、老朽化した別館も取り壊し、最新の建築技術で新館を増築。隠岐の豊かな自然をより深く学びとり、体感できる、国内初のホテル・ジオ一体型の施設〈Entô〉として、昨夏にグランドオープンしました。計36室の客室のほか、ジオパークのビジターセンターが置かれています。

“泊まれる拠点”の施設概要と、プロジェクトメンバーは以下の通りです。

名称:Entô(エントウ)
所在地:島根県隠岐郡海士町福井1375-1(Google Map
敷地面積:5666.21m²
建築面積:781.38m²
延床面積:1,639.67m²
別館 構造:木造(CLT造)と一部RC造
規模:既存本館(BASE)5階建、別館(Annex NEST)地上2階建て+地下1階
客室数:本館 18室、別館 18室
開業日:2021年7月1日

隠岐ジオパーク ホテル〈Entô(エントウ)〉開業プレイベント
2021年6月に都内にて開催された開業プレイベントに参加した関係者
左から、野邉一寛(一般社団法人隠岐ユネスコ世界ジオパーク推進協議会 事務局長)、阪井祐介(ソニーグループ R&Dセンター)、阪井氏が手にしたモニター内の人物:中田光俊(NTTドコモ島根支店)、青山敦士(Entô CEO)、十枝裕美子、三澤 遥、原田真宏の6氏)
Photo by Kentauros Yasunaga

事業主:株式会社 海士(あま)
プロパティマネジメント(PM):レンドリースジャパン
アドバイザー 十枝裕美子(ANGO)
建築設計:原田真宏+原田麻魚(マウントフジアーキテクツスタジオ一級建築士事務所 共同代表)
デザイン:三澤 遥、本山真帆、鈴木正樹(日本デザインセンター 三澤デザイン研究室)
ネーミング:是方法光(日本デザインセンター)
写真:安永ケンタウロス

〈Entô〉公式ウェブサイト
https://ento-oki.jp/

『TECTURE MAG』ではこれまで、ホテルの開業予定を伝える速報と、開業に先立ち都内で開催されたプレイベントの様子をレポートしてきました。

本稿では、〈Entô〉の設計者であるMOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO(マウントフジアーキテクツスタジオ)と、館内サインや公式ウェブサイトのVI(Visual Identity / ビジュアルアイデンティティ)などを手がけた、日本デザインセンターの三澤 遥氏からもテキストの提供を受け、国内外から注目されるジオ・ホテルの全貌をお伝えします。

本館の改修と別館の増築という、今回のプロジェクトでは、Honest(正直さ、素直さ)とSeamless(隔たりや境目のないこと)が施設全体のコンセプトとして掲げられました。

建物は、海を挟んで北西側に西ノ島を臨み、北西・南東の方位を軸に、新旧2棟の建物が海岸線に沿って建ち、幅広く展開しています。

隠岐諸島 海士町 計画地広域マップ

広域エリアマップ(計画地にズーム)提供:MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO

この立地条件を最大限に活かすため、客室は間口を広くとり、目の前に広がる、隠岐ジオパークの最大の特徴である「島カルデラ」の風景を最も純粋に、最も多く感じられるよう、ワイドスクリーンのような窓開口となっています。これにより、新館(Annex NEST)のすべての客室に共通したデザインで、隠岐のジオ・スケープの真っ只中でくつろぎ、眠るという、得難い宿泊体験を提供しています。

ジオホテル〈Entô(エントウ)〉1F平面図

〈Entô〉新館 1F平面図(左下側が既存の本館)

室内は、なるべくシンプルに。要素をそぎ落とし、モノは必要最低限に。本当に必要なものだけが用意されています。
アメニティグッズも、低刺激シャンプーや、島根県産の竹の歯ブラシ、地域の人々に長年愛されてきたお茶うけ(和菓子)、島の土でつくられた陶器など、目の前の自然の中に宿泊者が溶け込む感覚の邪魔にならないものが厳選されています。

人も自然の一部であり、自然の恵みを享受しながら生きているということを、このホテルの部屋で過ごすうちに実感できることでしょう。

以下のテキストは、設計を手がけたマウントフジアーキテクツスタジオの原田真宏氏からの寄稿です。プロジェクト立ち上げの経緯に始まり、離島という条件下が、「別館」の設計コンセプトに与えた影響や、導き出されたコンセプトを読み解くことができます。

なお、別館の建設にあたり、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)拡大時期と重なったことを先に補足しておきます。

日本海に浮かぶ隠岐島。
太古からの地形や生態系が保存された独特な景観で知られており、2015年には、ユネスコ世界ジオパークに登録されている。
ここを訪れる方々のホテルとして、海士町が主体となって〈Entô〉は計画された。海士町では、島全体をホテルと見なす「“島を繁盛させる”海士町観光基本計画」を策定しており、その実行という位置付けである。
この構想は、島全域が観光資源であることはもちろん、ホテル運営全般に町民皆が直接・間接に関わることで、島の産業の復興や、関係人口の増加を図る地方活性化計画である。〈Entô〉はその象徴であり、実現を担う存在となる。

島を訪れ、まず見るべきものは、その独特な自然の景観である。
都市部のホテルであれば、土地利用効率から「間口 / 奥行き」は「狭く / 深く」なるものだが、この計画では逆に、それを徹底的に「広く / 浅く」反転させ、長い間口側は全て開口部としている。
その結果、室内環境に占める自然景観の割合は、極限まで高まり、宿泊者はジオパークそのものに抱かれているかのような宿泊経験を得ることになる。

また、この客室空間の「浅さ」は、海士町という離島ならではの「人間味のある島民の日常」との距離の近さを生み出してもいる。
外廊下形式で、レセプションを介さずに外部と直接行き来できる部屋と町との関係は、ホテルというよりも、コテージや民泊に近いのかもしれない。島全体をホテルと見なすコンセプト通り、維持やアクティビティなど、各種のサービスの多くは、ホテルの枠組みを越えて、島の方々によって直に行われているが、ここでの交流を含めた「ホテル暮らし」ではない「数日の島暮らし」は、他所(よそ)では得難い印象を残すことだろう。」(原田真宏氏テキスト / ホテル客室画像を挟み、下の段落に続く)

(原田真宏氏テキスト / 上の段落からの続き)

ここまでは空間フェイズの話だ。前述の設計プランを現実のものとするためには、「離島」という特殊な状況への「構築」面でのストーリーも考える必要がああった。

隠岐諸島の中でも海士町が位置する島前エリアは、人口1万人を割り込むほどで、当然ながら、ホテルを実現できるほどの建設産業は存在しない。現地での作業を最小化し、本土でほとんどの作業が終わってしまうような、そしてジオパークに相応しい親・自然的な新しいプレファブのシステムが求められた。

提案したのは、大版(おおばん)のCLT[*1]を用意し、予め本土において仕口・継手に留まらず、サッシや設備スリットまで、コンピュータ連動の加工機によって、3Dモデル通りに細密にプレカットしておくシステムである[*2]。大版のCLTは、構造・界壁・断熱・仕上げまでを兼ねてしまう複合材なので、島ではこれをプラモデルのように組み立てるだけで、ほとんど完成してしまうことになり、島での建設力は短期・少量の投入で済む。
福井のCLT加工場〜海士町の現場〜東京の意匠・構造事務所の3地点を、モノとヒトはほとんど移動せず、ネットを介しての加工データのやり取りで工程は管理されたが、この実質的な「リモート構法」であることは、「離島」という地理的制約をキャンセルするにも有効であり、COVID-19拡大によって、ヒトの移動制限下となっても、工事進行への影響を最小限に抑えることにも貢献した。
これらの省工程・省移動によるLCCO2(ライフサイクルCO2)削減や、マスティンバーによるカーボンストレージ効果も、ジオパークの思想に共鳴するものであることは、改めて言うまでもない。

「Entô」という名称は、日本海にポツンと浮かぶ情景を思い浮かべて決められた。
360°の自然にぐるりと囲まれて、そこにあるということは、社会力の保護の中にある都市生活とは異なり、飾りのない自然との応答がある。それは厳しくもあるが、充足した存在の喜びともなるだろう。
そんな、自然世界と自身の応答に耳を澄まし、存在を確かめられるような直截(ちょくせつ)なホテルになれば、と考えている。(原田真宏)

*1.CLT: Cross-Laminated Timberの略、直交集成板を指す
*2.この新しいプレファブシステムは、かつての化学建材系のそれとは異なり、地元大工や木工系職種の参画も可能であり、少ないながらも存続してきた地元の生業の保全にも貢献し、将来のメンテナンスをも可能にしている

ジオホテル〈Entô(エントウ)〉海側からの外観 Photo by Kentauros Yasunaga

新棟・別館で採用されたCLTは、林業において必然的に発生する間伐材をもとにつくられる、近年注目の新建材です。
原田氏のテキストにもあるように、意匠と構造を兼ねることができ、また、製造原版も大判での製造が可能。かつ、工場加工度が高いため、任意のサイズのカットやディテールの加工を済ませてから、現場に搬入することができます。

隠岐ジオパーク ホテル〈Entô(エントウ)〉

〈Entô〉館内 構造と意匠を兼ねた新建材CLT Photo by Kentauros Yasunaga

原田氏による設計コンセプトの寄稿に続いて、〈Entô〉のデザイン領域を担当した三澤 遥氏(日本デザインセンター / NDC)にも、各所の見どころについてテキストを寄せてもらいました。

VI・サイン・ウェブのアートディレクションは、三澤氏が率いる三澤デザイン研究室が担当。核となる「Entô(エントウ)」のネーミングは、日本デザインセンターのコピーライター、是方法光氏が担当しています。

デザインコンセプトは、地球にぽつん。

「Entôは「遠島」と書く。そして遠島は「島流し」の意味もある。かつて天皇をはじめとする高貴な人々が流された「遠流の島」であった隠岐。Entôは「地球にぽつん」と浮かぶ情景、「遠さ」「なにもない」がもたらす価値に光を当てたネーミングである。」(三澤 遥)

Entô ロゴタイプ
ロゴタイプはコンセプトである「地球にぽつん」を表現したデザイン。「O」は地球、その上の「^(サーカムフレックス)」がEntôの位置する島前。水平線上に浮かぶ島。その「遥か感」がロゴに込められている。

VIのコンセプトは"小粒だがピリリ"

「VIのコンセプトは”小粒だがピリリ”。ネーミング同様、水平線にぽつんと浮かぶ島の情景を思い浮かべながら、余白の中にぽつんと配置するように設計。過度な主張はせず、紙の上や建築空間に静かにすっと馴染むようなロゴタイプを目指した。」(三澤 遥)

ジオホテル〈Entô(エントウ)〉サイン計画

エントランスサイン(デザイン:三澤デザイン研究室) Photo by Kentauros Yasunaga

普段はひっそりと存在するサイン

「サインについても、水平線にぽつんと浮かぶ島の情景を頭に浮かべ、1枚の台(ボード)の上に、立体文字がちょこんと置いてあるような佇まいに。素材は周りの自然や建築と融合しつつ、小さくても存在感を示すことを念頭に、CLT、モルテックス、塗装など、建築の壁面が場所ごとに異なるマテリアルであったため、使用する素材の質感や色を可能な限りあわせて、サインを周辺環境に”擬態”させた。
ただし、サインとして建築の中を案内する機能は欠かせない。普段はひっそりと存在するが、動線上、情報が欲しいときにはすぐに目に止まる。そんな機能性を犠牲にしないサインの在り方を模索した。」(三澤 遥)

館内サイン(デザイン:三澤デザイン研究室)Photo by Kentauros Yasunaga
館内サイン(デザイン:三澤 遥) Photo by Kentauros Yasunaga

島について学び・発見するコーナーも併設

新館(Annex NEST)のオープンにあたり、ジオパークをより深く知り、学ぶためのスペース「Geo Room “Discover”」が併設されました。展示のアートディレクションは、菅家悠斗氏が手掛けています。

公式Webサイトのデザインについて

「いわゆる、ホテルのWebサイトは、Topページに外観や客室の写真を使用することが多いように思う。Entôは、言うまでもなく客室からの景色も素晴らしい。しかしWebサイトでは、そういった写真を敢えてトップページから外し、むきだしの地球の風景そのものを映した写真や映像に集約。壮大なスケール感が伝わるよう、横スクロールで編集した。」(三澤 遥)

〈Entô〉公式ウェブサイト
https://ento-oki.jp/

「わたしたちも何度も視察に訪れたが、そのたびに心揺さぶられ、新しい気づきがある隠岐諸島。自然の質感、ダイナミズム。自然への畏怖、信仰。わたしたち人間も地球の一部であるという感覚・・・・・・。日本初の本格的なジオ・ホテルとして、単なるホテル滞在を超えて、むきだしの地球と生きる時間、まっさらな自分へと還る時間を多くの方に体感してもらえる場になってほしい、そう思いを馳せながら、Webを構築していった。」(三澤 遥)

「隠岐諸島は、都市から遠く離れているがゆえに、太古からの地形や生態系がそのまま保存された特異な場所である。島で遭遇するモノすべてから聞こえてくる、地球の息づかい。その壮大なスケールを前にすると、『ここは一体どこだろう?』としばらく立ちすくんでしまうくらいだ。
眼前にそびえる赤々とした岸壁や深い青緑色をした岩肌、形容しがたいほどさまざまな色が混じり合った植物の群生。自然の質感をしっかりとらえた写真や映像を通し、その場の臨場感が少しでも伝わるように。自然の”美しさ”だけでなく、ここに”行ってみたい”という感情をどうしたら生み出せるか、そのテーマに挑戦したWebのデザインである。」(三澤 遥)

デザイン制作チーム
ディレクター:日本デザインセンター 三澤デザイン研究室 三澤 遥
デザイナー:本山真帆、鈴木正樹、菅家悠斗(展示エリアディレクション)
コピーライター・ネーミング:是方法光
ウェブディベロッパー:清水和豊、岸本麻子


#Entô 公式YouTubeチャンネル「Entô _ Geopark Hotel」

動画制作ディレクター:深尾大樹
動画撮影監督:志村賢一
サウンドエンジニア:堀 修生
音楽:Heima
プロデューサー:松本 敦

隠岐ユネスコ世界ジオパーク Photo by Kentauros Yasunaga

隠岐ユネスコ世界ジオパークの泊まれる拠点・Entô(エントウ)は、今月の7月1日でグランドオープンから1周年を迎えました。
予約専用専用ページから確認できますが、7〜9月の稼働率は好調で、満室の日もあります。「地球に、ぽつん」を実感しに、隠岐へと旅立ちたくなる夏の到来です。

Entô(エントウ)公式Webサイト
https://ento-oki.jp/

ジオホテル〈Entô(エントウ)〉TOPICS

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